異世界でいっちょ噛みするだけ。   作:ゴリラプリン

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第62話 夢幻頂上決戦

キルエは森の中を走る、走る、走る。

後を追うは、悪意に満ちた悍ましい幻影。追いつかれれば絡め取られ、瞬く間に無残な死を遂げる。

彼の脚力は獣の勢いで森を駆け抜けるが…追手に速度は関係なかった。

幻影の使い手ガスマは、その全能のごとき幻術を以て、抵抗も許さずキルエを地獄へと送り込もうとする。

 

だが、その異変は突然起きた。

森が跡形もなく消え去り、言葉を失うほど壮麗な玉座の間が出現したのだ。

そこに座するは、城の主。【幻魔大公】カーミラであった。

 

「何ゆえ我が城に踏み入るか、下郎ども。

…この、【幻魔大公】カーミラの居城に」

 

強大なる女公は、その風格に見合う壮絶な覇気を漂わせていた。

 

「まぁ…城を隠していたのは私だがな」

 

いたずらっぽく笑うカーミラ。

どうやら幻術使いという噂は本当のようだ、とキルエが考えていると、

 

「申し訳ございません、偉大なる大公よ。

気付かず、貴女様の領域に侵入してしまうとは!」

 

先手を制すようにガスマが深く頭を垂れた。

キルエも慌てて跪くが、明らかに出遅れていた。

 

「ハハハ、良い良い。私の仕掛けたイタズラだ」

 

「そう言っていただけるなら幸いです」

 

会話は和やかに進んでいる。キルエにとってはマズい状況だ。

その空気を破壊してでも、自己主張する必要があった。

 

「あっあっあのぉ!!」

 

己の上ずった声に、思わず顔をしかめつつも必死に言葉を継ぐ。

 

「この人、悪い人です!襲われました!」

 

このまま何事も無く和やかに解散すれば、キルエはガスマに殺される。

賭ける可能性は、『カーミラが魔皇と敵対するほどの正義感を持っている』場合の一点。

一方的に襲われた被害者であるという事を、全身で表現する。

 

「俺、この人に殺されかけて!全身切り刻まれて…」

 

「その割に、傷一つ負っておらんようだが」

 

「へ…」

 

事実、幻術によって負わされた傷は跡形も無く消えていた。

キルエは頭の中が真っ白になったまま、とにかく言葉を繋ぐ。

 

「いや…あの…幻術使いなんです、ソイツ!

それで、悪夢みたいな幻を見せられて…ホントなんです!

木々が化け物に変わり、枝が身体に纏わりついて…あの、アレ、アニメの白雪姫みたいになってました!

いや通じねーかコレは…ええと…!」

 

「……………!!」

 

キルエを見る大公の瞳が見開かれた。

絶叫よりも強烈な静寂が、城内を支配する。

 

「……面白い奴だな、お前は」

 

そう言ったカーミラの様子は、静寂など無かったかのように平常に戻っていた。

 

「ま、どうでもよいわ。

で、そっちの…何と言ったか」

 

「ガスマと申します」

 

「うむ、城に入ったのは気にせずともよい。

不問に付す故、もう帰ってよいぞ」

 

「おお、それはありがたき幸せ!

二度と貴女様の目を汚す事はございません!では…」

 

ステッキの柄で、キルエを持ち上げた。

 

「うわっ!」

 

「これにて失礼」

 

「待て」

 

「……はい?」

 

カーミラの目は細められ、その奥の感情を推し量る事はできない。

 

「帰ってよいと言ったのはお前だけだ。

この小僧は面白い故、ちょっと話を聞く。置いて行け」

 

「しかし…」

 

「帰れ。と言った。二度も言わせるな。

許可ではなく命令のつもりだったが…理解できなかったか?」

 

「いえ、貴女様がそうおっしゃるなら、従わせていただきます。

ところで…私も彼には用事がございます。解放するまで近くの街で待たせていただきますが、よろしいですか?」

 

「好きにするがいい。もっとも、いつ小僧を解放するかは決めておらん。

数分で帰すかもしれんが、永劫にこの城に閉じ込める事もあるかもしれんぞ」

 

キルエは無言で震える。

 

(ええええ永劫!?『ちょっと話を聞く』のスケール感じゃねぇぞ!?

…でも、あんな無残な死に方するよかマシだぁ!!やっちまえ!!)

 

そして震える手を挙げる。

 

「はいっ!ずっとお側にいます!よろしくお願いいたします!!」

 

「ククク…愛い奴よ。まぁそういう事だ、帰れ。

4度目は言わぬと知れよ」

 

カーミラがキルエを抱え上げ、肩に担ぐ。

 

「永劫…永劫は、困りますなぁ……それでは命令を果たせません……」

 

「…………おい」

 

大公の圧力を秘めた目が、ガスマを睨み据える。

 

「…これは失礼いたしました、4度目は無いのでしたね。

そういう事であれば私も帰らせていただきます」

 

クルリと背を向け、半歩前に出る。同時にステッキで地面を突く。

 

「その少年と共に、ですが」

 

部屋を囲む水路から、木が生えて急速に育っていく。

そして大樹と化してカーミラを完全に拘束し、同時にキルエを縛り上げた。

もちろん、幻だ。

 

「い、いででででっ!」

 

「…これはどういうつもりだ?ガスマとやら」

 

「心からお詫び申し上げます、カーミラ大公殿下。

しかしこちらも、どうしても彼が必要なのです!

そこで、大変失礼ながら…」

 

幹が無数に絡み合って脱出不可能の牢獄に変わりながら、カーミラを強烈に圧迫していく。

 

「殿下には死んでいただく運びとなりました」

 

「ぐ、ぐぐ…貴様…!」

 

木は生き物のようにカーミラの全身に巻き付き、変色していく。

より白く、金属質の光沢を帯びて。

 

「…おやおや」

 

「ぐぐぐ…キツいな…しかしドレスは我慢して着る物だからな…」

 

いつしか拘束具だったはずの木は、カーミラを覆う服に変わっていた。

純白のドレスアーマーに。

 

「ふむ、こんなところで良いか。

どうだ?お前の仕立ててくれたドレス、なかなかに愛らしいではないか」

 

「ほほう…我が幻術を取り込み…自分のモノになさるとは!

なるほど【幻魔】とはそういう…」

 

「そうだ。我は幻を統べる者。

貴様の幻術など掌の上の玩具にすぎん!」

 

キルエを捕らえている枝に触れると、枝は蛇に変わってキルエを降ろした。

蛇はそのままカーミラに擦り寄る。

 

「よしよし、良い子だ」

 

「あ…」

 

「少し危ない。この部屋から出る事は許さんが、離れた所で目をつぶっていろ」

 

「は、はいっ!」

 

キルエはすっかり無辜の民のような態度で遠ざかり、部屋の隅の物陰に隠れる。

 

「逃がしませんよ!」

 

ガスマがステッキを振ると、光の棘がキルエの背に向かって飛ぶ。

彼には珍しく、直接攻撃の幻術であった。

 

「たわけ。逃がすんだよ、この私が」

 

蛇が滑り出て、棘を弾き返す。

 

「……」

 

「……」

 

至高の幻術師2人が向かい立つ。

 

「我が全力の幻術に拮抗する使い手は初めて見ました…見事なものです。

ところでその蛇、本当に蛇ですかな?」

 

「っ!」

 

カーミラが使役していた蛇が彼女自身に巻き付き、鎖に変わる。

 

「…だがお前がくれたこのドレスも、ただのドレスではないぞ」

 

纏っていたドレスの装甲が弾け飛び、鎖を砕く。

 

「…フフフ。これは愉快な戦いになりそうですな!」

 

「ククク…暇つぶし程度には耐えろよ、人間」

 

ガスマは頷き、ステッキで床を叩く。

 

「ええ、お望みのままに!退屈などさせませんよ!」

 

部屋中の金の装飾がポロポロと剥がれ、雨のように落下する。

それは光の矢に変わり、一帯に降り注いだ。

 

「雨か。悪くない発想だ」

 

カーミラは無から傘を取り出し、矢の雨を弾く。

 

「だが甘いな。雨なら傘で防げるのが道理。

幻術使いに幻を掛けるなら、隙を見せるのは悪手だぞ?」

 

「ほう、傘。その手に持っているのは、本当に傘ですかな?」

 

傘はぐんぐん広がってカーミラの全身をすっぽりと覆い、鳥籠に変形した。

 

「む!私の幻を利用するとは、不敬な…!」

 

「ちょっとした意趣返しにございます。

我が夢幻の劇場はここからなれば!」

 

部屋を取り巻く水路から水が溢れ、一帯を呑み込んだ。

宙に浮く鳥籠も浸水し、次第に沈み込んでいく。

ものの数秒もすれば呼吸も出来なくなるが、逃れる場所は無い。

 

「そうだな…私もここからだ」

 

だがカーミラはナイフを取り出し、鳥籠の鍵穴に差し込むと、瞬く間に開錠させた。

そのまま鳥籠の上に飛び乗って、水から逃れる。

 

「これでも水は大の苦手でな」

 

「そうですか!では、お気を付けあれ!

洪水から逃れるのに、その程度の高さで安心してはいけませんぞ!」

 

水は大波となり、カーミラを水底に攫うべく襲い掛かる。

…しかし。彼女は手に持っていたナイフを巨大化させてサーフボードに変えると、波を乗りこなした!

 

(幻術返しの速度が卓越している…!)

 

ガスマは思わず目を瞠った。

幻術使い同士の戦いともなれば、相手の幻を取り込んで自分のものにするのは当然である。

だがこれほどまでに素早く、かつ鮮やかに幻術を返されたのは初めての経験であった。

 

「どうした?お前の劇場はもう終わりか?」

 

「…いえいえ。水の中には危険な生き物が棲んでいますよ、ご注意ください?」

 

波の壁を突き破り、サメが現れる。

 

「サメか、好物だぞ」

 

包丁を取り出し、サメを切り身に変えた。

 

「お前にも振る舞ってやろう!幻魔の饗宴を楽しめ!」

 

カーミラが指を鳴らす。

輝かしい玉座の間だったその空間は、レストランのカウンター席に変わっていた。

シェフに扮したカーミラが、サメの刺身を差し出す。

 

「さぁ、おあがりよっ!」

 

(む…役割を強制するタイプの幻術ですか。

どうやら彼女が料理人で、私が客のようですな)

 

これはシチュエーション型の幻術。

その状況にそぐわぬ行動をすればペナルティが発生するが、従っている限り脱出も出来ない、理不尽極まる幻である。

 

(出された料理…食べなければ死ぬが、食べれば更なる幻に呑み込まれる。

…と、諦めるのは幻術の道理を知らぬ者のみ!この私には通用しませんよ)

 

トン、とステッキでカウンター席を叩くと、その内側と外側が入れ替わった。

今度はガスマが料理人、カーミラが客だ。

 

「むっ…!」

 

「大公殿下のお手を煩わせるなど恐れ多い!

さ、お座りください。私が料理をお出しいたしますよ!」

 

シェフ姿のガスマが皿を差し出すと、カーミラは座席に縛り付けられた。

鎖が肉にまで食い込み、幻術で変化させる事も出来ない。

 

「これは…私の力をそのまま利用しているのか…!」

 

カーミラの幻術を上書きせずに乗っ取るという絶技。

 

「…素晴らしい技量だ。高度な幻術は、精緻な絵画に似ている。

『相手の絵を塗り潰し、その上から自分の絵を描く』のが幻術の上書きだとするなら、今お前がやっているのは『相手の絵を消さず、ほんの少し描き足すだけで自分の絵にしてしまう』ようなものだ!」

 

「お褒めに預かり光栄至極!」

 

カーミラが幻術で脱出しようとすればするほど、自縄自縛に陥っていく仕組みになっている。

 

「さぁ!さぁ、さぁ、さぁ!!どうぞお召し上がりを!!」

 

「……良かろう。毒を食らわば皿までだッ!

ガァオオオオオッ!!」

 

カーミラはカエルに似た鮮やかな色の怪物に姿を変え、料理を皿ごと噛み砕いて腹に収めた。

 

「で?どうやって私を殺す?

怪物である私に毒なぞ効かぬぞ?」

 

「実はその料理に使ったサメはまだ生きておりましてな。

腹の中で暴れ出すのですよ」

 

ガスマがそう口にした途端、カーミラの腹がボコボコと動き出す。

 

「ぐがっ!?」

 

胃を食い破られたのか、大きな口から血を吐いた。

…だが邪悪な笑みは、依然として消える事がなかった。

 

「き、ひひ!その程度の幻術、対策しておらぬと思うか?

この姿を見よ…今の私は毒ガエルの怪物だ。

毒ガエルの中には、全身の体組織に毒を持つ種類があってな─」

 

そこまで言ったカーミラは、げぇっとサメを吐き出した。

サメたちは、毒の肉を食べた事で即死している。

 

「…という理屈を付ければ、腹の中のサメなど恐ろしくもない。

で、どうする?次の手は?あるのだろう!?」

 

「なるほど…怪物を殺すには、ふさわしい武器が必要ですな」

 

ガスマは聖剣を取り出し、突き付ける。

 

「ではこちらも怪物らしく暴れるとしよう…きひひひひひッ!!」

 

カーミラの姿は巨大化し、5つの首を持つ怪獣へと変貌した。

いきなり怪物と英雄の殺し合いへと変わる。

 

その一部始終を見ていたキルエは、凄まじい状況変化に発狂しかけていた。

 

(ヤバい…気持ち悪い。吐きそうだ。もう吐いてるのか?

何が本物で何が幻か分からねぇ…俺は本物か?

それとも、あいつらが作った幻だったのか…?)

 

目まぐるしく変わる状況、耐性無き者は自我が崩壊してもおかしくはない。

2人の幻術は、現実と見紛う高度なリアリティを持ちながら、荒唐無稽な場面転換に追いつく手数をも併せ持つ。

今やこの場は、史上最強の幻術師を決める戦場に変わっていた。

 

「ほんの遊びだが…いつになく昂る。

お前ならば我が力の一端、見せてやってもよい…喰らえッ!!」

 

5つの頭から、5つの属性を帯びた息が放たれる。

破壊という概念を具現化させたような、壮絶な威力。

 

「だが所詮は幻。ならば…相性がモノを言う。違いますか?」

 

ガスマの振るう聖剣が、吐息を切り裂いて首の1つを切り落とす。

 

「聖なる剣が怪物を討つ!自然の道理でしょう。

正義の光よ…悪を滅ぼしたまえ!」

 

剣が神々しく輝きを放つと、残り4つの首が次々と切断されていく。

断面から滝のように血が溢れ出た。

 

「やるではないか、ええ?正義の剣士様よ。

だが次の手はどうだ?」

 

カーミラ本人は、いつの間にか怪物の肩に乗っていた。

怪物から噴き出す血は、勢いよく降り注いで足元に溜まっていく。

 

「なるほど、溢れる血の海で溺れさせる…といったところですかな?

しかし、ええ。この私、血の幻術なら一家言ございますぞ」

 

「…これは血ではない、油だ。

そこに火をポイっとな」

 

「なんと、これは…ッ!?」

 

マッチの火が投げ込まれた瞬間、赤い油の海が燃え上がる。

既に腰まで浸かっていたガスマは、猛火に呑み込まれて悶える。

 

「ぐぅおおおおおおおっ!!」

 

ガスマは覆面の内側で歯噛みする。

 

(発想の転換から実行までが速い。それがこの手数の秘密ですか!

まるで子供のように瑞々しい感性…フフ、ですが残念)

 

ガスマは自分を包む炎を掴んで、一気に引き剥がす。

炎はまるでシールのようにあっさりと取れた。

そしてそれらを丸く捏ねて、炎の球体を作り上げる。

 

「これが何だか分かりますか?…太陽ですよ」

 

「何だと?…まさか!」

 

「そう!貴女のような()()()にとっての弱点ですッ!」

 

炎の球体を宙に放ると、巨大化して部屋中を照らし出す。

カーミラの身体が、煙を上げ始めた。

 

「ぐぁああああああっ!?

貴様、なぜ私が吸血鬼だと知っている…ッ!?」

 

「我がボスが教えてくださった情報です。

ボス曰く、『カーミラといえば吸血鬼』だそうですよ?」

 

いくら吸血鬼とはいえ、ただの幻ならこれほどのダメージを負うはずも無いが、ガスマの幻術は現実を侵食するのだ。

 

「ぐ、ううううっ…!」

 

「いかがいたしましょうか?

その少年さえ引き渡してくだされば、もう二度とここへは来ないとお約束しますが?」

 

キルエが舌打ちする。

 

(マズい。さすがに命のピンチとなると、俺は見捨てられる可能性が高い!)

 

カーミラが、キルエをチラリと見て笑う。

奇妙なほど優しい笑みだった。

 

(んっ?…今のは、どういう意味のスマイルだ?)

 

そしてガスマに向き直り、今度は【幻魔大公】らしい残虐な笑みを向けた。

 

「…4度目は無いと言ったはずだ、戯けが!きひひひひはははははッ!!」

 

心胆寒からしめる哄笑と共に、黒いモヤを吐き出す。

それは上空で寄り集まり、黒雲と化して太陽を覆い隠した。

 

「今日の天気は曇り。太陽は休暇中だ!」

 

「馬鹿、な……ッ!陽の光に苛まれながら、このレベルの幻術を…!?」

 

「ところでそのステッキは金属で出来ているのか?

なら気を付けろよ」

 

「…しまッ」

 

ステッキを放り捨てた直後、黒雲から迸った雷がソレを撃った。

 

「ついに捨てたな」

 

「…やれやれ」

 

拾い直そうとしたステッキは、蛇のようにうねってカーミラの手に逃げた。

 

「ぬぅ…ッ」

 

「幻術師は、『確かに現実だと断言できる物』を身に着けている。

でないと術師自身も、何が現実か幻かの区別が付かなくなるからだ。

何しろ片方の目で現実、もう片方の目で自分の作った幻を見ているのだからな」

 

高度な幻は、マトモな人間では扱えない。

現実と幻で思考を分割し、なおかつ並列して動かす必要があるのだ。

 

「もっとも、この私にはそんなもの必要無いがな。

だがお前は困るだろう?返してほしいか?このステッキを?」

 

「…貴女を殺してから、返していただくとしましょう」

 

「ククク、立派ではないか!

命綱を失った幻術師は、どいつもこいつも命乞いを始めるものなのだがな!」

 

奪ったステッキをガスマに向ける。

 

「それ、避けてみろ!」

 

ステッキに指し示された場所めがけ、雷が落ちる。

ガスマは鳥に変化し、それを素早くかわしていく。

 

「鳥を墜とすにはやはりコレか!」

 

「ぐわッ!?」

 

弓に持ち替え、たった一矢で撃ち落とした。

ガスマが元の姿に戻る。その呼吸は荒い。

 

「ハァ…ハァ、っ見事、ですな…」

 

「そんなに自分の姿を変えて大丈夫か?

元がどんな姿だったか思い出せるのか、芋虫め」

 

「いやはや…これは…マズい…」

 

ガスマは今、芋虫としてカーミラの靴裏を見上げていた。

 

「そ~れプチッと……む?」

 

芋虫は硬いサナギに変身し、踏みつぶしに耐えきる。

そして美しい蝶に姿を変え、飛び立った。

 

「まだ足掻くか…ククク。

…じゃあチョウチョ捕まえちゃおっと!」

 

カーミラは幼い女児に変身し、虫取り網で蝶を捕らえる。

 

「えへへ、つっかま~えた~♪…どうだ、気分は?」

 

指先に摘まみ上げられたガスマは、小人になっていた。

 

「次は何に姿を変える?いつまで正気でいられるかな?

さぁ、この私を興じさせろ!」

 

「次…つ、ぎ…は…!」

 

ガスマは背中から翼を生やし…いや、片翼だけだ。

右腕は虫、左足は鳥。くちばしが付いているのに、目は複眼。

もはや名状しがたい生き物に成り果てていた。

 

「ア…ア…」

 

「おお、おお…かわいそうに。もう本当の自分の姿が分からぬか。

お前はよく頑張った。もう眠れ」

 

カーミラはガスマを両手で包み込む。

そして再び開くと、その姿は消滅していた。

 

「さて、終わったぞ」

 

戦いは決着した。

強者同士の死闘とは思えぬほど、まるで夢のようにあっさりと。

 

「え?あ、あの…アイツどこに…?」

 

「夢と現実の狭間に溶けて、消えた。

…そんな事より、キミに用事があるんだ」

 

キルエの脳は朦朧としていたが、カーミラに手を握られたので何とか答える。

まだ、自分の命が助かったのだという実感すら薄い。

それどころか、次の瞬間にはまた別の場面に切り替わっているのではないか、という錯覚があった。

 

「大丈夫?目をつぶってって言ったのに…」

 

「ご、ごめんなさい…?」

 

カーミラの言葉に違和感を覚えつつ、ボーっとその手を握り返す。

 

「ひとつ聞きたいんだけど」

 

「は、はい」

 

「キミ、転生者…だよね?」

 

「…………へ?」

 

〈つづく〉

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