キルエは森の中を走る、走る、走る。
後を追うは、悪意に満ちた悍ましい幻影。追いつかれれば絡め取られ、瞬く間に無残な死を遂げる。
彼の脚力は獣の勢いで森を駆け抜けるが…追手に速度は関係なかった。
幻影の使い手ガスマは、その全能のごとき幻術を以て、抵抗も許さずキルエを地獄へと送り込もうとする。
だが、その異変は突然起きた。
森が跡形もなく消え去り、言葉を失うほど壮麗な玉座の間が出現したのだ。
そこに座するは、城の主。【幻魔大公】カーミラであった。
「何ゆえ我が城に踏み入るか、下郎ども。
…この、【幻魔大公】カーミラの居城に」
強大なる女公は、その風格に見合う壮絶な覇気を漂わせていた。
「まぁ…城を隠していたのは私だがな」
いたずらっぽく笑うカーミラ。
どうやら幻術使いという噂は本当のようだ、とキルエが考えていると、
「申し訳ございません、偉大なる大公よ。
気付かず、貴女様の領域に侵入してしまうとは!」
先手を制すようにガスマが深く頭を垂れた。
キルエも慌てて跪くが、明らかに出遅れていた。
「ハハハ、良い良い。私の仕掛けたイタズラだ」
「そう言っていただけるなら幸いです」
会話は和やかに進んでいる。キルエにとってはマズい状況だ。
その空気を破壊してでも、自己主張する必要があった。
「あっあっあのぉ!!」
己の上ずった声に、思わず顔をしかめつつも必死に言葉を継ぐ。
「この人、悪い人です!襲われました!」
このまま何事も無く和やかに解散すれば、キルエはガスマに殺される。
賭ける可能性は、『カーミラが魔皇と敵対するほどの正義感を持っている』場合の一点。
一方的に襲われた被害者であるという事を、全身で表現する。
「俺、この人に殺されかけて!全身切り刻まれて…」
「その割に、傷一つ負っておらんようだが」
「へ…」
事実、幻術によって負わされた傷は跡形も無く消えていた。
キルエは頭の中が真っ白になったまま、とにかく言葉を繋ぐ。
「いや…あの…幻術使いなんです、ソイツ!
それで、悪夢みたいな幻を見せられて…ホントなんです!
木々が化け物に変わり、枝が身体に纏わりついて…あの、アレ、アニメの白雪姫みたいになってました!
いや通じねーかコレは…ええと…!」
「……………!!」
キルエを見る大公の瞳が見開かれた。
絶叫よりも強烈な静寂が、城内を支配する。
「……面白い奴だな、お前は」
そう言ったカーミラの様子は、静寂など無かったかのように平常に戻っていた。
「ま、どうでもよいわ。
で、そっちの…何と言ったか」
「ガスマと申します」
「うむ、城に入ったのは気にせずともよい。
不問に付す故、もう帰ってよいぞ」
「おお、それはありがたき幸せ!
二度と貴女様の目を汚す事はございません!では…」
ステッキの柄で、キルエを持ち上げた。
「うわっ!」
「これにて失礼」
「待て」
「……はい?」
カーミラの目は細められ、その奥の感情を推し量る事はできない。
「帰ってよいと言ったのはお前だけだ。
この小僧は面白い故、ちょっと話を聞く。置いて行け」
「しかし…」
「帰れ。と言った。二度も言わせるな。
許可ではなく命令のつもりだったが…理解できなかったか?」
「いえ、貴女様がそうおっしゃるなら、従わせていただきます。
ところで…私も彼には用事がございます。解放するまで近くの街で待たせていただきますが、よろしいですか?」
「好きにするがいい。もっとも、いつ小僧を解放するかは決めておらん。
数分で帰すかもしれんが、永劫にこの城に閉じ込める事もあるかもしれんぞ」
キルエは無言で震える。
(ええええ永劫!?『ちょっと話を聞く』のスケール感じゃねぇぞ!?
…でも、あんな無残な死に方するよかマシだぁ!!やっちまえ!!)
そして震える手を挙げる。
「はいっ!ずっとお側にいます!よろしくお願いいたします!!」
「ククク…愛い奴よ。まぁそういう事だ、帰れ。
4度目は言わぬと知れよ」
カーミラがキルエを抱え上げ、肩に担ぐ。
「永劫…永劫は、困りますなぁ……それでは命令を果たせません……」
「…………おい」
大公の圧力を秘めた目が、ガスマを睨み据える。
「…これは失礼いたしました、4度目は無いのでしたね。
そういう事であれば私も帰らせていただきます」
クルリと背を向け、半歩前に出る。同時にステッキで地面を突く。
「その少年と共に、ですが」
部屋を囲む水路から、木が生えて急速に育っていく。
そして大樹と化してカーミラを完全に拘束し、同時にキルエを縛り上げた。
もちろん、幻だ。
「い、いででででっ!」
「…これはどういうつもりだ?ガスマとやら」
「心からお詫び申し上げます、カーミラ大公殿下。
しかしこちらも、どうしても彼が必要なのです!
そこで、大変失礼ながら…」
幹が無数に絡み合って脱出不可能の牢獄に変わりながら、カーミラを強烈に圧迫していく。
「殿下には死んでいただく運びとなりました」
「ぐ、ぐぐ…貴様…!」
木は生き物のようにカーミラの全身に巻き付き、変色していく。
より白く、金属質の光沢を帯びて。
「…おやおや」
「ぐぐぐ…キツいな…しかしドレスは我慢して着る物だからな…」
いつしか拘束具だったはずの木は、カーミラを覆う服に変わっていた。
純白のドレスアーマーに。
「ふむ、こんなところで良いか。
どうだ?お前の仕立ててくれたドレス、なかなかに愛らしいではないか」
「ほほう…我が幻術を取り込み…自分のモノになさるとは!
なるほど【幻魔】とはそういう…」
「そうだ。我は幻を統べる者。
貴様の幻術など掌の上の玩具にすぎん!」
キルエを捕らえている枝に触れると、枝は蛇に変わってキルエを降ろした。
蛇はそのままカーミラに擦り寄る。
「よしよし、良い子だ」
「あ…」
「少し危ない。この部屋から出る事は許さんが、離れた所で目をつぶっていろ」
「は、はいっ!」
キルエはすっかり無辜の民のような態度で遠ざかり、部屋の隅の物陰に隠れる。
「逃がしませんよ!」
ガスマがステッキを振ると、光の棘がキルエの背に向かって飛ぶ。
彼には珍しく、直接攻撃の幻術であった。
「たわけ。逃がすんだよ、この私が」
蛇が滑り出て、棘を弾き返す。
「……」
「……」
至高の幻術師2人が向かい立つ。
「我が全力の幻術に拮抗する使い手は初めて見ました…見事なものです。
ところでその蛇、本当に蛇ですかな?」
「っ!」
カーミラが使役していた蛇が彼女自身に巻き付き、鎖に変わる。
「…だがお前がくれたこのドレスも、ただのドレスではないぞ」
纏っていたドレスの装甲が弾け飛び、鎖を砕く。
「…フフフ。これは愉快な戦いになりそうですな!」
「ククク…暇つぶし程度には耐えろよ、人間」
ガスマは頷き、ステッキで床を叩く。
「ええ、お望みのままに!退屈などさせませんよ!」
部屋中の金の装飾がポロポロと剥がれ、雨のように落下する。
それは光の矢に変わり、一帯に降り注いだ。
「雨か。悪くない発想だ」
カーミラは無から傘を取り出し、矢の雨を弾く。
「だが甘いな。雨なら傘で防げるのが道理。
幻術使いに幻を掛けるなら、隙を見せるのは悪手だぞ?」
「ほう、傘。その手に持っているのは、本当に傘ですかな?」
傘はぐんぐん広がってカーミラの全身をすっぽりと覆い、鳥籠に変形した。
「む!私の幻を利用するとは、不敬な…!」
「ちょっとした意趣返しにございます。
我が夢幻の劇場はここからなれば!」
部屋を取り巻く水路から水が溢れ、一帯を呑み込んだ。
宙に浮く鳥籠も浸水し、次第に沈み込んでいく。
ものの数秒もすれば呼吸も出来なくなるが、逃れる場所は無い。
「そうだな…私もここからだ」
だがカーミラはナイフを取り出し、鳥籠の鍵穴に差し込むと、瞬く間に開錠させた。
そのまま鳥籠の上に飛び乗って、水から逃れる。
「これでも水は大の苦手でな」
「そうですか!では、お気を付けあれ!
洪水から逃れるのに、その程度の高さで安心してはいけませんぞ!」
水は大波となり、カーミラを水底に攫うべく襲い掛かる。
…しかし。彼女は手に持っていたナイフを巨大化させてサーフボードに変えると、波を乗りこなした!
(幻術返しの速度が卓越している…!)
ガスマは思わず目を瞠った。
幻術使い同士の戦いともなれば、相手の幻を取り込んで自分のものにするのは当然である。
だがこれほどまでに素早く、かつ鮮やかに幻術を返されたのは初めての経験であった。
「どうした?お前の劇場はもう終わりか?」
「…いえいえ。水の中には危険な生き物が棲んでいますよ、ご注意ください?」
波の壁を突き破り、サメが現れる。
「サメか、好物だぞ」
包丁を取り出し、サメを切り身に変えた。
「お前にも振る舞ってやろう!幻魔の饗宴を楽しめ!」
カーミラが指を鳴らす。
輝かしい玉座の間だったその空間は、レストランのカウンター席に変わっていた。
シェフに扮したカーミラが、サメの刺身を差し出す。
「さぁ、おあがりよっ!」
(む…役割を強制するタイプの幻術ですか。
どうやら彼女が料理人で、私が客のようですな)
これはシチュエーション型の幻術。
その状況にそぐわぬ行動をすればペナルティが発生するが、従っている限り脱出も出来ない、理不尽極まる幻である。
(出された料理…食べなければ死ぬが、食べれば更なる幻に呑み込まれる。
…と、諦めるのは幻術の道理を知らぬ者のみ!この私には通用しませんよ)
トン、とステッキでカウンター席を叩くと、その内側と外側が入れ替わった。
今度はガスマが料理人、カーミラが客だ。
「むっ…!」
「大公殿下のお手を煩わせるなど恐れ多い!
さ、お座りください。私が料理をお出しいたしますよ!」
シェフ姿のガスマが皿を差し出すと、カーミラは座席に縛り付けられた。
鎖が肉にまで食い込み、幻術で変化させる事も出来ない。
「これは…私の力をそのまま利用しているのか…!」
カーミラの幻術を上書きせずに乗っ取るという絶技。
「…素晴らしい技量だ。高度な幻術は、精緻な絵画に似ている。
『相手の絵を塗り潰し、その上から自分の絵を描く』のが幻術の上書きだとするなら、今お前がやっているのは『相手の絵を消さず、ほんの少し描き足すだけで自分の絵にしてしまう』ようなものだ!」
「お褒めに預かり光栄至極!」
カーミラが幻術で脱出しようとすればするほど、自縄自縛に陥っていく仕組みになっている。
「さぁ!さぁ、さぁ、さぁ!!どうぞお召し上がりを!!」
「……良かろう。毒を食らわば皿までだッ!
ガァオオオオオッ!!」
カーミラはカエルに似た鮮やかな色の怪物に姿を変え、料理を皿ごと噛み砕いて腹に収めた。
「で?どうやって私を殺す?
怪物である私に毒なぞ効かぬぞ?」
「実はその料理に使ったサメはまだ生きておりましてな。
腹の中で暴れ出すのですよ」
ガスマがそう口にした途端、カーミラの腹がボコボコと動き出す。
「ぐがっ!?」
胃を食い破られたのか、大きな口から血を吐いた。
…だが邪悪な笑みは、依然として消える事がなかった。
「き、ひひ!その程度の幻術、対策しておらぬと思うか?
この姿を見よ…今の私は毒ガエルの怪物だ。
毒ガエルの中には、全身の体組織に毒を持つ種類があってな─」
そこまで言ったカーミラは、げぇっとサメを吐き出した。
サメたちは、毒の肉を食べた事で即死している。
「…という理屈を付ければ、腹の中のサメなど恐ろしくもない。
で、どうする?次の手は?あるのだろう!?」
「なるほど…怪物を殺すには、ふさわしい武器が必要ですな」
ガスマは聖剣を取り出し、突き付ける。
「ではこちらも怪物らしく暴れるとしよう…きひひひひひッ!!」
カーミラの姿は巨大化し、5つの首を持つ怪獣へと変貌した。
いきなり怪物と英雄の殺し合いへと変わる。
その一部始終を見ていたキルエは、凄まじい状況変化に発狂しかけていた。
(ヤバい…気持ち悪い。吐きそうだ。もう吐いてるのか?
何が本物で何が幻か分からねぇ…俺は本物か?
それとも、あいつらが作った幻だったのか…?)
目まぐるしく変わる状況、耐性無き者は自我が崩壊してもおかしくはない。
2人の幻術は、現実と見紛う高度なリアリティを持ちながら、荒唐無稽な場面転換に追いつく手数をも併せ持つ。
今やこの場は、史上最強の幻術師を決める戦場に変わっていた。
「ほんの遊びだが…いつになく昂る。
お前ならば我が力の一端、見せてやってもよい…喰らえッ!!」
5つの頭から、5つの属性を帯びた息が放たれる。
破壊という概念を具現化させたような、壮絶な威力。
「だが所詮は幻。ならば…相性がモノを言う。違いますか?」
ガスマの振るう聖剣が、吐息を切り裂いて首の1つを切り落とす。
「聖なる剣が怪物を討つ!自然の道理でしょう。
正義の光よ…悪を滅ぼしたまえ!」
剣が神々しく輝きを放つと、残り4つの首が次々と切断されていく。
断面から滝のように血が溢れ出た。
「やるではないか、ええ?正義の剣士様よ。
だが次の手はどうだ?」
カーミラ本人は、いつの間にか怪物の肩に乗っていた。
怪物から噴き出す血は、勢いよく降り注いで足元に溜まっていく。
「なるほど、溢れる血の海で溺れさせる…といったところですかな?
しかし、ええ。この私、血の幻術なら一家言ございますぞ」
「…これは血ではない、油だ。
そこに火をポイっとな」
「なんと、これは…ッ!?」
マッチの火が投げ込まれた瞬間、赤い油の海が燃え上がる。
既に腰まで浸かっていたガスマは、猛火に呑み込まれて悶える。
「ぐぅおおおおおおおっ!!」
ガスマは覆面の内側で歯噛みする。
(発想の転換から実行までが速い。それがこの手数の秘密ですか!
まるで子供のように瑞々しい感性…フフ、ですが残念)
ガスマは自分を包む炎を掴んで、一気に引き剥がす。
炎はまるでシールのようにあっさりと取れた。
そしてそれらを丸く捏ねて、炎の球体を作り上げる。
「これが何だか分かりますか?…太陽ですよ」
「何だと?…まさか!」
「そう!貴女のような
炎の球体を宙に放ると、巨大化して部屋中を照らし出す。
カーミラの身体が、煙を上げ始めた。
「ぐぁああああああっ!?
貴様、なぜ私が吸血鬼だと知っている…ッ!?」
「我がボスが教えてくださった情報です。
ボス曰く、『カーミラといえば吸血鬼』だそうですよ?」
いくら吸血鬼とはいえ、ただの幻ならこれほどのダメージを負うはずも無いが、ガスマの幻術は現実を侵食するのだ。
「ぐ、ううううっ…!」
「いかがいたしましょうか?
その少年さえ引き渡してくだされば、もう二度とここへは来ないとお約束しますが?」
キルエが舌打ちする。
(マズい。さすがに命のピンチとなると、俺は見捨てられる可能性が高い!)
カーミラが、キルエをチラリと見て笑う。
奇妙なほど優しい笑みだった。
(んっ?…今のは、どういう意味のスマイルだ?)
そしてガスマに向き直り、今度は【幻魔大公】らしい残虐な笑みを向けた。
「…4度目は無いと言ったはずだ、戯けが!きひひひひはははははッ!!」
心胆寒からしめる哄笑と共に、黒いモヤを吐き出す。
それは上空で寄り集まり、黒雲と化して太陽を覆い隠した。
「今日の天気は曇り。太陽は休暇中だ!」
「馬鹿、な……ッ!陽の光に苛まれながら、このレベルの幻術を…!?」
「ところでそのステッキは金属で出来ているのか?
なら気を付けろよ」
「…しまッ」
ステッキを放り捨てた直後、黒雲から迸った雷がソレを撃った。
「ついに捨てたな」
「…やれやれ」
拾い直そうとしたステッキは、蛇のようにうねってカーミラの手に逃げた。
「ぬぅ…ッ」
「幻術師は、『確かに現実だと断言できる物』を身に着けている。
でないと術師自身も、何が現実か幻かの区別が付かなくなるからだ。
何しろ片方の目で現実、もう片方の目で自分の作った幻を見ているのだからな」
高度な幻は、マトモな人間では扱えない。
現実と幻で思考を分割し、なおかつ並列して動かす必要があるのだ。
「もっとも、この私にはそんなもの必要無いがな。
だがお前は困るだろう?返してほしいか?このステッキを?」
「…貴女を殺してから、返していただくとしましょう」
「ククク、立派ではないか!
命綱を失った幻術師は、どいつもこいつも命乞いを始めるものなのだがな!」
奪ったステッキをガスマに向ける。
「それ、避けてみろ!」
ステッキに指し示された場所めがけ、雷が落ちる。
ガスマは鳥に変化し、それを素早くかわしていく。
「鳥を墜とすにはやはりコレか!」
「ぐわッ!?」
弓に持ち替え、たった一矢で撃ち落とした。
ガスマが元の姿に戻る。その呼吸は荒い。
「ハァ…ハァ、っ見事、ですな…」
「そんなに自分の姿を変えて大丈夫か?
元がどんな姿だったか思い出せるのか、芋虫め」
「いやはや…これは…マズい…」
ガスマは今、芋虫としてカーミラの靴裏を見上げていた。
「そ~れプチッと……む?」
芋虫は硬いサナギに変身し、踏みつぶしに耐えきる。
そして美しい蝶に姿を変え、飛び立った。
「まだ足掻くか…ククク。
…じゃあチョウチョ捕まえちゃおっと!」
カーミラは幼い女児に変身し、虫取り網で蝶を捕らえる。
「えへへ、つっかま~えた~♪…どうだ、気分は?」
指先に摘まみ上げられたガスマは、小人になっていた。
「次は何に姿を変える?いつまで正気でいられるかな?
さぁ、この私を興じさせろ!」
「次…つ、ぎ…は…!」
ガスマは背中から翼を生やし…いや、片翼だけだ。
右腕は虫、左足は鳥。くちばしが付いているのに、目は複眼。
もはや名状しがたい生き物に成り果てていた。
「ア…ア…」
「おお、おお…かわいそうに。もう本当の自分の姿が分からぬか。
お前はよく頑張った。もう眠れ」
カーミラはガスマを両手で包み込む。
そして再び開くと、その姿は消滅していた。
「さて、終わったぞ」
戦いは決着した。
強者同士の死闘とは思えぬほど、まるで夢のようにあっさりと。
「え?あ、あの…アイツどこに…?」
「夢と現実の狭間に溶けて、消えた。
…そんな事より、キミに用事があるんだ」
キルエの脳は朦朧としていたが、カーミラに手を握られたので何とか答える。
まだ、自分の命が助かったのだという実感すら薄い。
それどころか、次の瞬間にはまた別の場面に切り替わっているのではないか、という錯覚があった。
「大丈夫?目をつぶってって言ったのに…」
「ご、ごめんなさい…?」
カーミラの言葉に違和感を覚えつつ、ボーっとその手を握り返す。
「ひとつ聞きたいんだけど」
「は、はい」
「キミ、転生者…だよね?」
「…………へ?」
〈つづく〉