異世界でいっちょ噛みするだけ。   作:ゴリラプリン

65 / 82
第63話 ウキウキ身の上トーク

「ひとつ聞きたいんだけど…キミ、転生者…だよね?」

 

「…………へ?」

 

カーミラが口にしたのは、キルエの脳内には全く無かった言葉。

 

「転生者…?」

 

「あっ!ごめん、勝手な造語で喋ってしまって。

ええと…前世の記憶を覚えてたりしない?しかもここじゃない別の世界の!

だってキミ、白雪姫がどうとか言ってたでしょ!?

この世界には白雪姫なんて無いのに!」

 

その台詞で、ようやくキルエの脳が追いつく。

 

「…っ!」

 

「分かるよね、日本!私たちの生きてた国!

…あ、外人さんだった?ジャパン!ジャポネ!ハポン!ヤーパン!」

 

「いや分かりますし、俺は日本人ですよ」

 

疲れ切った声色で返す。

 

「……やっっっぱりそうだ!

やっと会えだぁあああああっ!!」

 

妖艶な身体で奔放に泣き、キルエの小さな身体にしがみつく。

柔らかなものが、キルエの顔を埋め尽くす。

 

「おほ~っこれはなかなかの豊満ちゃん……じゃなくて!

いいから離れてください。そして事情を教えてください」

 

「あ、ご、ごめんなさい。

改めて、私の名は…こっちではカーミラ。

自分で付けたの。吸血鬼と言えばカーミラでしょ?」

 

「あ、やっぱそこ出典ですか。

で、この現象についてどこまで知ってます?」

 

「現象?」

 

「俺たちみたいな別の世界の人間が、こうしてここに来た事ですよ」

 

カーミラは肩を竦めた。

 

「さっぱり。私はこっちで20年ほど生きてるけど…」

 

「は?20年?…吸血鬼でしょ、あなた!?

その風格ある見た目からして、てっきり100年以上は余裕で生きているものと」

 

「見た目?…ああ、コレは嘘のやつだから」

 

「嘘…って」

 

目の眩むようなブロンドの貴婦人が、突如目の前から消える。

 

「…え」

 

同じ場所に現れたのは、縮れた黒髪を放埓に伸ばした少女。

病的なまでに白い肌と、痩せこけた肢体が印象的だった。

 

「こっちがホント。へへへ…ごめんね。

さっきのエッチなお姉さんの方がいいでしょ?」

 

「いや、それぞれ興奮するので別に構いませんが…それより。

どうして包帯巻いてるんですか?吸血鬼ならすぐ直るでしょうに」

 

「だって私…ホントは弱い吸血鬼だから」

 

キルエが顔を顰める。

ガスマとの壮絶な幻術戦を見た者にとって、その言葉は容易には信じられないものだった。

 

「傷を負ってもすぐには治らないし、そもそも身体も大して丈夫じゃないし。

霧にも蝙蝠にもなれないし…魅了(チャーム)すら出来ない最低レベルの吸血鬼だよ」

 

「でも、あの幻術は…!」

 

「吸血鬼には、それぞれ固有の能力が目覚める事があるの。

私のソレは幻術だった。そのおかげで、なんとか生き延びられたんだけどね」

 

そう言うカーミラの姿は、小動物のように弱弱しい。

 

「元々はちっちゃい農村の子供として生まれて、12歳の時吸血鬼に襲われたの。

それで吸血鬼になったんだけど…素質があまりに低すぎて、ザコになっちゃった。

つまらないからって殺されそうになった時、力に目覚めて…」

 

「殺っちゃった訳だ」

 

「いや?とりあえず眷属契約を解消させて、そのまま逃げちゃった。

そうすれば追って来れないし…」

 

吸血鬼は、自分が吸血鬼化させた眷属へ絶対の命令権を持つ。

どこへ逃げても権利は失効しない。本人に契約解消させる以外は。

 

「ちょうどいい廃城も見つけたし、のらりくらりやってこうかな、と。

そうしてたら、いつの間にか【幻魔大公】なんて大層な名前まで頂いちゃって。

そしたらさ、ふさわしい名前付けたいじゃん?」

 

「それで、カーミラと。

あんなキャラ付けまでして大変ですねぇ」

 

「アハハ、キャラ付け…のつもりだったんだけどね、最初は」

 

痩せた少女の姿が消え、あの妖艶な美女が帰ってくる。

 

「幻術使いには、並列した思考が必要でな。

そういう意味で、ただの私とカーミラとしての私を分けるのは有効だった訳だ。

どちらも嘘ではない。出力の仕方が違うというだけの事だ。

あと元々の年齢的には、こっちの格好の方が近いしな」

 

「元々はおいくつなんですか」

 

「女の歳を聞くにはいささか不躾な問い方だな。

まぁ21の大学生だったんだが。キミは?」

 

「30…なんとかだった気がするけど覚えてないっすね」

 

「うげ、年上じゃないすか」

 

「前世の年齢なんて享年と同じでしょ。考えるだけ無駄ですよ」

 

「そっか…あ、だったらさ!」

 

カーミラはまだまだ話し足りないらしく、勢いが落ちない。

 

「名前!前世の名前って何?」

 

「え?いや…どうでもいいし覚えてないですね」

 

転生した当初は覚えていた気もするが、1人きりの森で誰が呼ぶ訳でもなし、数日で忘れ去ったのだった。

 

「何それ、どうでもよくはないでしょ!?

あ、私はね、理乃(りの)って言うの!」

 

「まさか苗字って…かたせ…?」

 

「かたせ梨乃な訳ねぇだろ!極道の妻やってねぇよ!普通に苗字は藤原だよ!

ていうか自分の名前忘れといて、なんでかたせ梨乃は覚えてんだよ!」

 

「いやホラ、そういう何気ない事の方が印象的に残ってる事あるでしょ?」

 

「あぁ…まぁ確かにそれはあるかも。

私、親の顔すら朧気なのにCMソングは20曲くらい歌えるもんね~…ハハ」

 

カーミラの目には、涙が溜まっていた。

キルエは心底面倒そうに顔を背ける。

 

「…な、泣くなら静かにお願いしますね」

 

「ホントにデリカシー無いねキミ!

嬉しいんだよ、前世の話が通じて!こんな話、他の人には出来ないし。

ずっとこの世界で、ひとりきりで…それが当たり前なんだと思って生きてきたんだから」

 

「人はいつでも1人でしょ、大袈裟な。

そんな事を言うなら…」

 

キルエの目が、静かに光る。

 

「ここに住ませてくれません?」

 

「…えっ?」

 

カーミラの幻術は、キルエが身を守る上で有用だ。

彼としては、是が非でも欲しい力だった。

 

「そんなに変ですか?やっと見つけた同胞ですよ、俺たち。

俺は命を狙われてるし、その力があれば大変助かるんですが…どうでしょう?」

 

涙もろいカーミラの情を煽り、庇護欲を誘う立ち振る舞いを心掛ける。

 

「ああ、まずは自己紹介ですよね。俺の名はキルエといいます」

 

幼い外見を利用し、あざとくならない程度に擦り寄る。

 

「俺、ある小さな部族の村で育ったんですが…そこでは忌み子扱いでした。

キルエって名前も、部族の古い言葉で悪魔を意味するものです。

生まれてすぐ殺されかけるし、1人で危ない森に住まわされるし…」

 

「…そっちも大変だったみたいだね」

 

わざとらしさを消し、普通の苦労話のようなあっさりとした口調で訥々と語る。

 

「そりゃもう!…でも、ある日その村は焼き払われました。

村の奴らは好きじゃなかったけど、死ねとも思ってませんでしたから、ビックリしましたよ」

 

「……っ」

 

カーミラは今や絶句し、キルエの語りに聞き入っていた。

 

「俺も命を狙われて…なんとか逃げて。

だけどお金を稼ぐ手段なんて子供には限られてるから…傭兵になりました。

危険なぶん実入りも良いし、何より…褒めてもらえるから」

 

余計な嘘は入れず、簡潔な事実と素直な感情を吐露する。

キルエの場合、それで充分に同情を引ける経歴だからだ。

 

(あれ、なんだろうな。改めて言葉にすると、俺ろくでもねぇ人生送ってんな!?

なんか、泣けてきやがったなチクショウ!)

 

カーミラの袖を掴み、千切らんばかりに引っ張る。

言葉にならない焦燥感が、取り繕いの台詞を押しのけて口を衝く。

 

「あの…もう…マジ頼む!助けてください!!

なんとか生き延びてきたけど、今回ばかりはマジヤバいんだって!!」

 

マントを外し、服の胸を開いて呪印を見せつける。

 

「見てよホラ、神様に呪いまでかけられてんの!

これがある限り、俺は神の力を借りた術は発動できない!

ほとんどの術が使えねぇの!!」

 

「い、いや、そんな事言われても…呪いを解く術とか、探したらありそうだけど…」

 

「確かに、ただの呪いなら無効化する術が色々とある。

…最悪の場合、『1回死んでリセットする』って手段もあるしな」

 

「そ、そんな事できるの!?

それくらいの無茶が出来るなら、どうとでもなるんじゃ…?」

 

「そこが神様の怖い所です。

この呪いは魂に刻まれて、死んだとしても解けないんです!

分かる!?『死ぬ覚悟でやればなんとかなる』なんてレベルじゃない。

文字通り『死んでも無理』なんだよ!!」

 

「それは…余計に私じゃどうにもならなそうというか…。

だって私より呪いに詳しいじゃん、キミ。

私何にも分からないし、助けてあげられないって…」

 

心から申し訳なさそうに、カーミラは呟いた。

…それはキルエの想定内だった。

 

(そもそも、呪いを解く方法なんて他人に頼るつもり無いし。

俺の真の目的は、『彼女の罪悪感を刺激する』こと。

そうすれば次のお願いが通りやすくなるからな…)

 

満を持して、言葉を続ける。

 

「わ、分かった。確かに貴女に頼るのはお門違いだったかもしれません。

だったら、さっきも言ったように、貴女の城に住まわせてくれませんか?

今の俺がどれだけ困ってるか、分かったでしょう?」

 

「う、うぅ~ん…」

 

しかし情深いように見えたカーミラは、意外にもひどく渋っていた。

 

(あ、コレダメだ。助けるかどうかじゃなくて、どうやって断るかで悩んでる顔だ!)

 

「いや、助けてあげたいのは山々なんだけどね…」

 

「なんだよ薄情者ぉ!こんなかわいそうな俺だぞぉ!

ちっとは助けてくれても良くないっすか、どうすか!?」

 

もはや策略はどこへやら、なりふり構わず懇願するキルエ。

 

「でもね…私の力は、他人を巻き込んでしまう。

人を守るのには向いてないんだ」

 

「んな事ないっすよ、めちゃくちゃ助けられて…!」

 

興奮が最高潮に達した時、キルエの視界がフッと暗くなり、よろめいた。

 

「う…!?」

 

「おっとと。大丈夫?

…これが、私の力なんだよ」

 

「え…?」

 

「私の幻術は強力すぎて…耐性が無いと、見てるだけでも脳に負担が掛かるの。

ほら鼻血出てるよ」

 

キルエの右鼻から、赤い筋が引かれた。

 

「うわっ…」

 

「それに、私の幻術には仕組みがあってね。

自分の血を魔法粒子として散布し、その領域内を幻術空間にする。

この粒子を吸い込むと…」

 

「ど、毒なんですか!?」

 

「……ただちに人体に影響が出るレベルではありません」

 

「逆に不安になるやつ!」

 

ため息をつき、話を仕切り直す。

 

「それにね、正直私も自分が生きるので精いっぱい。

言ったでしょ、力を使うたび血を散布するって…」

 

「貧血、ですか?」

 

「それもそうだけど、ほら…吸血鬼だからさ。

特に野生動物の血だけで賄ってる私としては、今も割と限界なの。

普段はこの城を丸ごと森に変えて隠してるけど、キミたちみたいに入ってきちゃう人もいるし、体力消費が激しいんだよね」

 

「じゃ、じゃあ!住ませてもらう代わりに俺の血を…!」

 

「私、結構吸うよ?献血とかイメージしてるんだったら甘いよ?

キミ程度の体格なら、ちょっとずつ吸ったとしても3日でミイラになっちゃうからね?」

 

「む、むむむ…!」

 

反論は色々と思いついたが、キルエがそれを口にする事は無かった。

 

(これ以上無理に頼み込んでも、無理か。

関係を悪化させたら元も子もないし…うう…)

 

強い繋がりによる親近感こそあるが、結局は他人なのだ。

せめて良好な関係を維持せねば、今後の立ち回りにも関わるだろう…そう結論付けた。

 

「…ふん。じゃあもういいですよ!

ちゃっちゃと血ぃ吸っちゃってください」

 

「え?あ、あの、住むのはダメだよ?」

 

「それは諦めます。今回の分のお礼ですよ。ほら、早く!」

 

褐色のうなじを突き出す。

 

「…いいの?」

 

キルエが頷くのを見て、カーミラはおずおずと肩に噛みついた。

 

「っ…う」

 

「ん…ん。ぅ…」

 

しばらくの沈黙。

 

「……はい。もう大丈夫」

 

「もういいんですか。早いですね」

 

「疲れてるだろうしね、手加減しといた。…血、ありがとう」

 

「いえいえ。…ところで見返りなんですけど」

 

「えっ」

 

キルエの目が再び光り始めた。

 

「何か手助けになるものを頂けます?

お金とか、お宝とか、呪いのアイテムでもいいですよ?」

 

「えぇーっ!?お礼じゃないの!?

…さ、先に吸わせてから言うなんてズルいぞ!」

 

「あんなに吸っておいて、はいサヨナラなんて酷いっすよ!

俺の身体だけが目的だったのね!?ひどいわ!」

 

「人聞き悪いなぁ!いいよ、何かあげるよ!

でも、お土産なんて…あげられるものなんてあったかな?」

 

カーミラはキョロキョロと周りを見回して、ふとキルエの左目を見る。

眼帯は激しい戦闘で外れていた。

 

「……?」

 

「…綺麗な、青い目。不思議な色」

 

「あ、ああ~!魔眼の事ですか?」

 

「へぇ、魔眼!…そうだ、アレをあげようか」

 

 

 

 

 

 

魔皇城、【七冠の議場】に6人の男女が集っていた。

テーブルの上には6つの水晶。つい先ほどまで7つだった。

 

「ハハハ!こりゃウケるぜ、7人揃ってすぐこのザマか!」

 

髭面に筋肉質といかにも傭兵らしい男、【竜将】ボルドが爆笑する。

 

『う~ん、返す言葉も無いよ。

しかもさ…ガスマくんの水晶は消えたんだ。割れたんじゃなくて。

皆も見たよね?』

 

「見た見た、どうなってんだありゃ?」

 

ゴブリンの王【蟲龍(とうりゅう)公】ザバダカが同意する。

 

『…ガスマくんの動きは、常に追えるようになってた。

だけどさ、急に消滅しちゃったんだ。場所は…【幻界城パンタスマ】』

 

その名を聞いて、騒めきが止んだ。

 

「…下らん。粗忽者が禁足地に踏み込んで消されただけか」

 

バイカケット帽の女、【鎚葬者】リュリが吐き捨てた。

 

「【幻魔大公】カーミラか。…どうします。報復を?」

 

スキンヘッドの聖職者【血溜まり司教】メルディゲの問いに、ネネルは唸る。

 

『どうしよっか…まぁ今はいいや』

 

「も、元はと言えば私の落ち度!

その尻ぬぐいにお手を煩わせただけでなく、死なせてしまうとは…も、申し訳ございません!」

 

謎に包まれた【傀儡王】モースが、震える声で謝罪した。

 

『仕方ない仕方ない。…いやーしかし困ったなぁ。

勇者が来る前に幹部が1人減ったんじゃ、どうも収まりが悪い』

 

「ホントに来ますかね、勇者くんたち」

 

今となっては最古参幹部のツルードが、溜息混じりに呟く。

 

『来るでしょ。勇者なんだからさ。

ていうか来てもらわないと困るよ!せっかく完全に魔皇ティアマトの力を取り込んだっていうのに!』

 

「俺は諦めてほしいっすよ。

だって城内はほぼ鎮圧完了だし、勇者さえ来なけりゃスムーズに目的達成できるでしょ?」

 

『そりゃそうなんだけど!もちろんそのつもりで動くけど!

それはそれとして、勇者って言うからにはこっちの予想を超えてほしいじゃん!?』

 

答える者は居ない。

 

『まぁいいよ。もうこの城は完全に支配下に置いた。

後は浮いてるこの城を、もう一度深く()()()()だけだ』

 

〈つづく〉

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。