ついに魔皇城へと突入した勇者一行とキルエ。
そこになんと敵の大将ドゥロワ・ネネルが直接現れる。
明らかになったキルエの母殺しの過去と、ネネルとの親子関係に絶句する一行。
それでもなおキルエの心を繋ぎ止めるため、一行は魔皇の力を取り込み真魔皇となったネネルへと挑む。
だがあえなく破れ、キルエはネネルに服従する事を選んだ…
「さ、入って入って」
魔皇城の正面扉は、そのまま会議場に繋がっていた。
長机と7つの椅子が並んでいる。
「僕は城内の扉を好きに繋ぎ変えられるからね。
ちょっとここで待ってて」
そう言うと、ネネルは来た扉を開けて出て行った。
議場に1人残されたキルエは、一言も発さない。
「…………」
実の父親の正体を知り、味方を裏切った彼の心境はいかなるものか。
(…なんか上手くいったぁぁぁーっ!
よく分かんないけど、なんか助かってる!セーフ!)
身の安全が確保できた事に、心からの安堵を覚えていた。
(まさか俺とアイツが親子だったとはな。
しかしこれは好都合だったな…たまにはこういうラッキーがあってもいいよな!)
そしてひとしきり己の幸運に酔った後、ふと勇者たちの事を思い出す。
(グレンたちには悪い事をしちゃったね。
でもまぁ、俺も必死だからね。しゃーないしゃーない)
良心の呵責は、ほんの少しだけある。だがどうでもいい事だった。
頭の中で今後の立ち回りを考えていると、扉を開けてゾロゾロと入ってくる者たちがいた。
「…あ?なんだこのガキ」
いかにも傭兵らしい厳つい男。
「なるほど、そういう事ですか」
スキンヘッドに入れ墨を入れた法衣の男。
「正気か?こんな子供を…」
バイカケット帽から覗く麗しい銀髪が特徴的な女。
「ちょうどアイツらと同じくらいか…ちょい下ってとこか?」
凶悪な棘鎧を身につけた長身のゴブリン。
「……ヒィ」
布に包まれた正体不明の生き物。
「ボス、その子ですか?」
仮面に全身タイツの男。
『や、よく皆集まってくれた』
そして空中に投影される、キルエにとっては見覚えのある影。
『【薔薇の七冠】、集結完了したようだね』
「七冠!ケッ!今は六冠だろうが、ああ?
ガスマの野郎はあっさり死んじまったからなァ!
そんで?拾ってきたそのガキを入れて七冠復活ってか?
最高幹部が聞いて呆れるなァ!」
初めに入ってきた男が嘲弄する。
『よく分かったねボルドくん。その通り!
紹介しよう、彼が新たな【薔薇の七冠】の一角!
我が息子キルエくんだ!』
「…はい?」
キルエはキョトンとしたまま、自分の立場を理解できず聞き返すしかなかった。
『さぁ、承認する者は幹部の証たる水晶をテーブルに置くのだ!』
その言葉に反応したのは3人。ぼろ布を纏った者とゴブリン、そして美女。
仮面の男は最初から水晶を置いていた。
「し、従います、はい!」
「まぁ、どうでもいいわな」
「…魔族どもと意見が被るのは不愉快だが、どうでもいいのは事実だな」
1人としてキルエ自身の実力を認めた上での判断をしたわけではない。
(困ったな…この人たち幹部か。
どう見ても、親父のコネでいきなり重役スタートの馬鹿息子だもんなぁ。
そりゃ嫌だろ…ていうか俺も幹部なんて嫌だし)
キルエは無言でネネルに目線を送る。父にこの想いが伝わる事を願って。
(幹部は辞退します!勘弁してください!)
ネネルのホログラムは頷いた。
『…なんだよ、キミたち厳しすぎないか?
これでもキルエくんは傭兵だよ?』
(いやフォローしろって言ってんじゃないの!)
当然と言えば当然。親子であっても今初めて会話したような2人に、通じ合いなどありえない。
『…異名は、【忌み屋】と言ってね』
「あ?」「何だと?」「…ッ」「ほォ」「ヒィィ」
七冠の反応は多種多様だったが、一律で驚きを含んでいた。
「…ソレ、マジか?」
『ここで嘘はつかないよさすがに。無駄じゃん?』
「なら気が変わった。承認する」
最初の傭兵風の男が、水晶を置く。
「そうですな…まぁ、その小僧が本当にあの【忌み屋】だと言うのなら…」
スキンヘッドの男がそれに続いた。
「私も、承認するのはやぶさかでない」
テーブルの上に6つの水晶。
『さ、キミの分だ。受け取りたまえ』
「え?…ふぎゃっ!?」
キルエの顔面に何かが落下する。
『その水晶、大事なものだから無くさないでね。
ほらテーブル置いて』
「あ、こ、これすか」
こうして7つの水晶が再び揃った。
『これで、文句無しに七冠だろ?ボルドくん』
「うるせぇな、悪かったよ!根に持つなって!」
「して、いかがなさるおつもりか」
『ああ、メルディゲくん。
勇者くん以外にも敵が入ってきてるようだし、忠誠心の見せどころだね?』
「…全員、迎撃せよという事でよろしいか」
『もちろん。じゃあ皆、解散!
あ、キルエくんはしばらく研修期間って事で、業務について説明するから残ってね』
短い会議は終わり、幹部たちが退席していく。
(あぁ~面倒くせぇなぁ。幹部って何させられるんだよ…!)
『キミは一応、幹部だからね。
パパが部下をあげよう!どんなのが欲しい?言ってごらん?』
「ぶ、部下ですか?いやそんなのいらな……いや」
反射で断りかけて、思い直す。
「今から条件を提示するので、それに合う人たちを集めてもらっていいですか?」
『ほほう、ノリノリだねぇ!
いいよ。とりあえず聞いておこう』
「我が名はモードレッド!円卓の騎士にしてキャメロットの王子!
兵士諸君!今こそ悪しき魔性に加担する外道共を討ち、今も城内で奮闘する同胞を救い出そうではないか!
それこそが勇敢にも魔族の大軍と戦い散ったトリスタン卿を始めとする、英雄たちへの弔いともなろう!」
華麗なる甲冑と剣を身につけた美少年が兵士を鼓舞する光景は、一種の英雄物語めいていた。
「アレが王子か…」
「お前見るの初めてか?」
「ええ。父親よりマトモそうじゃないすか」
「ん…まぁ、どうだろうな。
それより、教会は何やってんだ全く…」
「聖騎士の一部を派遣してくれるって話、アレどうなったんすかね」
噂するのは、キャメロット王国の兵士たちだけではない。
そう、今この場…魔皇城の下には、生き残っているほぼ全ての五王国連合軍兵士が揃っていた。
奇しくも勇者突入から3時間後の事であった。
「許しがたき大罪人、ドゥロワ・ネネル!
我が国の恥は我が国の手で雪がねばならんッッ!!」
「うわ~、あれ、おたくんとこの大将?気合い入ってんねぇ」
「そりゃあ、反逆者をウチの国から出してしまったもんでねぇ…。
いやもうホント…申し訳ない。あの…肉壁とかにしてくれていいんで、俺ら」
「いやいや、しねぇよ!
バロネリア軍は貴重な戦力だ、数も多いしよ」
バロネリアの兵士が、隣り合う軍勢を見てこぼす。
「数で言ったら…グランスタールは随分と兵士が少ないな。
国の規模では一番のはずだが」
「デカすぎて動きが遅いんだろ。
援軍がまだ着いてないらしい…着いてからじゃ遅すぎるしな」
そのグランスタール大王国の代表はというと、これも新規の援軍ではないらしく、傷ついた身体を押して演説していた。
「自由こそが、我らが国是。それを阻む連中の蛮行は決して許されるものではない。
大国グランスタールの意地を見せろ!ここが最後の正念場だ!」
「…お疲れ様です。じゃあ、私が演説しますので」
グランスタール指揮官の厳めしい顔つきとは対照的に、下がり眉の男が引き継ぐ。
「え~、まぁ、あの。
我々カディナ国もですね、兵士こそ…アレですけど。少ないですけど。
増援として、少ないですけど僕らみたいな
あの全然…頼りにしてもらっていいんでね。他の国の皆さんもね。
じゃあ…まぁ…そういう事で」
「オオオオオオッ!」
グダグダの演説は尻切れトンボで終わったが、兵士たちは意外にも士気が高い。
「ついに竜狩りが来てくれたか…!」
「シグロド機関が動いたなら、この戦いも目が出てきたな」
その盛り上がりを見ていた他国の兵士たちが噂する。
「シグロド機関ってのは…アレか。竜を狩る専門の組織だっけか?」
「っすね。カディナは竜の被害も大きいんで。
それこそ野生の竜だけじゃなくて、
「ドラゴンの肉食ってドラゴンになっちゃった奴だろ?
迷惑な話だよなぁ…大変な仕事だなマジで」
「中には、変身を制御できる奴もいる。あの演説してた奴とかな」
「…え?マジ?」
「俺カディナで見たぜ。街中であいつらが竜に変身してさ、デカい竜と戦うとこ」
そんな噂を交わす間にも、演説は最後の1人。
巨大戦艦そのものを国土とする、詳細不明の超技術国家。ゲルゼン王船団である。
彼らは五王国連合を結成して以来1人の兵士も出さず、しかし技術の提供によって多大なる貢献をしてきた。
だが今回ついに代表者として1人の将校が送られてきたのだ。
この代表がまた奇妙な出で立ち。
他国の兵士たちとまるで違う軍帽とコートを纏った下は、金属で形成された複雑な機構のボディ。
顔はショベルカーめいた下顎と、闇も照らしそうなほどギラギラ発光する目が特徴的だ。
「各国の兵士諸君。コノ戦争において我々は武器や技術の供与という形デ貢献してきた。
ダガ事ここに至ッテ、この許しがたい蛮行ヲ誅すべく、我々もまた参戦スル事ヲ決意した!」
奇妙なエフェクトが掛かった声は聞き取りずらく、不気味な印象を抱かせる。
「アレ、人間かよ…」
「いや、分かんねぇぞ。ゲルセンの兵士は皆ゴーレムだって噂だ」
「しかし船の上で生活してて錆びないのかね、あの身体」
この時はまだ雑談していられたが、演説が終わると兵士たちの雑談も途切れた。
緊張をごまかすための雑談とはいえ、いつまでも緊張している訳にもいかない。
まさにこれから魔皇城に突入しようと言うのだ。
「突入手段については、打ち合わせ通りでいいか?」
グランスタールの指揮官が、他の代表者たちに問う。
「マーリンの作った術がある。もう準備は出来てるぜ。
大勢転送するから雑になる?とか言ってたけど…まぁ、俺よく分からんし頑張れ」
モードレッドは演説時の凛々しさはどこへやら、眠たげに言った。
指揮官はため息をついて、脇にいる騎士に問うた。
「…との事ですが、本当ですか?ケイ卿。
確か、魔皇城内のどこへ飛ぶかがブレる可能性があるとか…」
「あ?いやどうだろう。そうなの?」
指揮官は、ひときわ大きくため息をついた。
「…もう兵士たちは魔法陣の上に移動させた。
我々も行くとしよう。よろしいか?」
「バロネリア軍は問題ない」
「なんかよく分からんが、良いと思うぞ」
「こちらも準備完了してます。いつでもどうぞ」
「我々ハ事前にお伝えした通リ、独自の作戦行動ヲ取る。
認識票の無い者は全員攻撃対象になるが、良いナ?」
連合軍の全ての兵士は認識票を渡されており、傭兵にとってはギルドの会員証が同様の役割を果たす。
そしてギルドによって裏切った傭兵たちの会員証は無効にされている。
「…あぁ。酷い乱戦になる。
認識票の無い者は、例え誰であろうと殺してかまわない」
「心得タ。では、そのように」
魔族は心を読み、記憶を覗き、人に化ける。
そこで認識票が必要になる。これは持ち主が死んだ瞬間に無効になるので、奪っても意味がないものだ。
「…ああ、それから例え認識票を持っていても、意図的に攻撃されたなら殺していい。
これは全軍に周知してある」
「ナルホドな。生き人形か」
「……そうだ。あの【傀儡王】が、魔皇城に居るという情報が入った」
かつて、【傀儡王】モースという魔族を攻める大規模な作戦があった。
結果から言えば、それはそれは惨憺たる有様だった。
人間を生きたまま人形に作り変えて操るモースの手によって認識票は無意味になり、疑心暗鬼から同士討ちが始まった。
参加者のほとんどが死亡し、生き延びた者も廃人になるか、生き人形化を疑われて排斥された。
結果的にはモースの軍勢は壊滅し本人も姿を消したとはいえ、その戦果も【狂気の憲兵】と呼ばれる老傭兵がいなければ実現しなかっただろう。
そしてその傭兵自身は、その戦で死んだ。
「故に、味方であろうと認識票無くば即座に殺す」
「しかし、いいのか?ソレでは、あの凄惨な同士討ちの再現になるダケでは?」
「数はこちらが上だ。そして全員、仲間を殺す覚悟も殺される覚悟も済ませている。
あの時とは違う…命に代えても、敵を絶滅させる」
「…コレ以上は野暮ダナ。分かった、ソノ通りにさせてもらおう」
2人の間には、覚悟を決めた者同士の敬意があった。
それとは対照的に、特に何の覚悟も無い者もいた。
「ね~早く魔皇城行こうぜ~?せ~んそうっ♪戦争しようぜっ!」
「あ~もうほら、そっち危ないから…」
モードレッドがはしゃぎながら走り出し、ケイがのそのそ後を追う。
キャメロットの王宮騎士にとって、殺し殺される事など日常でしかない。
今更覚悟など不要なのだ。
「では、我々も行きましょうか」
「ああ、そうしよう。…では、また後ほど魔皇城で」
「イヤ…どうせ会うナラ、戦が終わった後に生きて会おウ」
ゲルゼンの将校は、その真紅に輝く眼球を流すように送った。
「…そうだな」
そして、最後の五王国連合軍が魔皇城へと突入した。
〈つづく〉