異世界でいっちょ噛みするだけ。   作:ゴリラプリン

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第66話 ツルードの城ぶら探索記

敵が来た。

勇者くんたちに続き、連合軍も最後の力を振り絞って攻略しに来たらしい。

いやホント、よく頑張るよな。

俺には到底理解できない感情だよ。

 

…俺はツルード。ボスに従ってここまで来た。

特に目的は無い。ガキの頃からそうして来たし、これからもそうだ。

 

今も、命令されてあちこち回り、ボスが監視しきれない部分を見てる。

まずは幹部たちの様子から見させてもらうとしよう。

 

魔皇城の中は空間がグチャグチャに繋がっているので、今まですり抜け能力を使っての移動は危険だった。

ほら、空間と空間の隙間に放り出されて、一生帰ってこられなくなる…なんて可能性もある訳だ。

だが今はボスがそれを掌握したので、安全なルートが確保された。

壁をすり抜けられる俺専用の抜け道は、戦況の確認や味方の監視など、俺にしかできない業務に必須だ。

 

今日は安全ルートの確認ついでに、幹部の監視をしとくか。

まずは【竜将】ボルドの部屋だ。

 

…………うわ酒くっさ!

ここに落ちてんの全部酒瓶か?

 

「ぅお~…虹が笑ってんぞぉ~…」

 

これ酒じゃなくて別のもんキメてない?

 

「何の用だぁ…コラ」

 

背後の壁から顔だけ出して観察してたんだが、さすがは幹部。すぐ気付いたか。

 

「定期的な監視。お前さんらがちゃんと仕事してるかどうか確認するためのな」

 

「あぁん?誰に口利いてやがんだぁ~?

俺ほどの働きモンはいねぇだろぉがよ、えぇ?」

 

ま、それは実際そうだ。

 

コイツは特殊な力を持っていて、人間をドラゴン化させて使役できる。

その力で無貌兵をワイバーンに変え、兵力や移動手段として使いまくっている。

何より飛べるのが良い。外から食糧や医療品などの物資を簡単に運んで来られる。

コイツがいなけりゃ俺たちはとうの昔に餓死してた。

 

「アンタ、酒飲んでて能力制御できんの?」

 

「当たり前だぁ、下らねぇ心配してんじゃねぇよ!

それに忘れたか?俺が何のためにお前らに協力してるか」

 

この男は、絵に描いたようなアウトローだ。

望むのは酒と女と金。そのためだけに人類を裏切った。

正直扱いやすくてありがたいし、向こうもそう思わせるように振る舞ってる。

互いに利用し合う関係ってのも、上辺の付き合いならむしろ悪くない。

 

「ところで酒と金は貰ったが女がまだだよなァ?」

 

「じゃ、俺もう行くわ」

 

「おい待て!なんなら最悪女みてぇな男でも…」

 

はい。俺は何も聞きませんでした!

という訳で壁を抜け、次の幹部の部屋に行こう。

 

お次は【血溜まり司教】メルディゲ…元は司教にまで登り詰めた男だったが、どういう訳か傭兵になった。

ボスの前じゃ慇懃に振る舞っていても、寝首を掻こうってハラは丸見えだ。

じゃあそんなヤツ最初っから部下にすんなって?

今までは、ボスの持ってる【統制の宝玉】という魔道具が反抗心を削いでくれていたのさ。

絶対服従に洗脳できる訳じゃないが、一度部下になったらもう二度と逆らう気が起きなくなるという代物だ。

だがそれも勇者たちとの戦いで失われた。

ボスは『部下に命を狙われるのもラスボスっぽくてカッコいい』とか何とか言ってるが、意味が全く分からねぇ。

 

とにかく、要注意人物の1人だ。

 

「…何してんだ、コイツ」

 

ボルドの時と違って警戒しながら見に行ってみれば、メルディゲは何やらボーっと突っ立っていた。

 

「いつもの監視か」

 

「アンタもサラッと気配察知しないでくれます?

…ええ、まぁその通りなんだが」

 

「帰れ。私は今取り込んでいる」

 

「取り込んで、って…ただ突っ立ってるだけだろ」

 

「だったら何だ?私が突っ立っていたら邪魔してもいいのか?」

 

何をキレてんだと思いつつメルディゲの視線を追うと、そこには何かの図面が貼ってあった。

1つの建物の図面というより、部屋の図面をいくつも並べた類のものだ。

 

「こりゃ…魔皇城の図面か?」

 

「ほう、さすが城中を駆けずり回っているだけあって鋭いな。

そうだ。部屋同士の繋がりや位置関係がいくらでも変わるので、各空間の図面をバラバラに描いている」

 

「よくこんなややこしい城の図面を描いたもんだ。

…いずれ自分のモノにする城だからかな?」

 

「…何が言いたい」

 

「アンタがボスの首を狙ってんのは周知の事実だよ。

どうやって実行する気なのかは知らんけど」

 

「証拠でもあるのか?無ければただの戯言だが」

 

メルディゲの顔つきは険しいが、まあこれはいつもの事だ。

この部屋はいつ来ても物が無い。怪しまれないように、何も置かないようにしているのだろう。

それにしては、城の図面なんて貼るのはちょっと不用心な気もするが。

 

「証拠?んなもん無い無い。冗談だよ、悪かったな。

反逆なんてできる訳ないもんな?…この俺が居るのに」

 

「…そうだな。ボスの監視とお前がいる限り、反逆など誰も出来んだろうな」

 

「うわ~、その顔コワ~!

せいぜいお前に殺されないよう気を付けないと!」

 

「私とは限るまい」

 

そりゃそうだ。ボスは人望無さそうだしな。

まぁいいや、今すぐ反逆する訳でもないし、さっさと次いこ。

 

次は…お待ちかねの美女。【鎚葬者】リュリ。

このむさくるしい城の中じゃ良い目の保養だ。

 

「リュリちゃ~ん!元気してる~?」

 

驚くほど荒らされた部屋に、人影は無い。

 

「なんだ、出撃中かよ…」

 

どうしてもあの顔を拝みた…いや幹部の居場所は常に把握しておきたいので、探す事にした。

まぁどうせ、また戦いに飛び込んでいるのだろう。

彼女が休んでいるのを、俺は見た事が無い。

 

自室にも帰らずひたすらに敵を殺し続け、力尽きると気絶しその場に倒れる。

そして回復すると起き上がり、また戦いを始める。

明らかにマトモな生き方じゃない。

まぁ、英雄とまで言われた傭兵が裏切ったのだから、何かあったのだろう。

 

「見っけた!」

 

血の匂いを嗅ぎつけて壁の中を泳いでみれば、やはり居た。

わずか幅5m程度の通路に敷き詰められた肉塊をベッドにして、女は寝ていた。

己が得物たる大金槌は枕代わりだ。

 

「よくこんな固ぇ枕で寝れるな…おい!

こんなとこで寝てたら危ねーし汚ぇよ?」

 

「こ、これはツルード様…」

 

知らない声だと思って見てみれば、連合軍の兵士が立っていた。

本来俺たちにとっては敵のはずだが、この喋り方はもしや…

 

「お前モースか?」

 

「は、はい!その通りにございます!」

 

【傀儡王】モース。

かつて魔界七王と呼ばれた大魔族だが、今は俺と同じ幹部の1人。

大層な経歴の割に、卑屈で陰気な奴だった。

 

「今はこの生き人形を操り、会話させて頂いております」

 

生き人形。【傀儡王】の真骨頂たる外法だ。

人間を生きたまま人形に変え、その人格すらも再現する。

 

戦争の時はそいつで随分暴れたらしい。

何せ丁寧に作れば生前と何も変わらない姿だし、認識票や生体情報でも判別できない。

敵の増援が駆け付けた今のような戦況では最も有効な武器だ。

 

「敵さんは?同士討ちし始めたか?」

 

「はい。ですが…混乱は起きず、むしろ粛々と対応しているようで…」

 

「さすがに向こうも学んだか。

仲間だろうが攻撃してきたら即処分。徹底してるな」

 

むしろそこまで覚悟を決めても、確実に先手を取られるのが生き人形の恐ろしいところだ。

 

「も、申し訳ございません!

…それに何やら、自動人形(オートマタ)らしき兵器が大量にばら撒かれているようで」

 

自動人形。一般には知られていないが、現在兵器開発の分野で研究が進められている技術だ。

俺もよくは知らないが、魔力無しで動くゴーレムのようなもの…らしい。

研究者であるボスならもっと詳しく知っているのだろう。

 

「奴らに情は通じません。

ハッキリ言って生き人形は時代遅れの戦法になりつつあるのやも…」

 

大して悔しそうでもなく、モースは呟いた。

ここがコイツの不思議なところだ。

絶技とも呼ばれる人形作成と操作の能力を持ちながら、そこにプライドが一切無い。

 

「まぁいい、とりあえずボスに報告しとく。多分知ってるだろうけど」

 

「お、お願いいたします。では私はこれにて!」

 

糸が切れたように兵士の身体が脱力し、地面に倒れた。

 

(行ったか…)

 

入れ替わるように女が立ちあがった。

 

「…よく寝た。話はもう終わったか」

 

「あッ、リュリちゃ~ん!目ぇ覚めた?」

 

「途中から起きていた。

何か用でもあるのか?無いならもう行く」

 

「いや、幹部は定期的に監視しないといけないからね。

部屋に居ないからわざわざここまで探しにきたんだよ」

 

「なら、もう良かろう。問題は無いはずだ」

 

女は美しい横顔をピクリとも動かさず、死体の下に入り込んだ帽子を拾って被った。

染み込んだ血が、白い肌を滑って顎から滴る。

 

「おいおい、また戦いに行くのかい?

少しは休んだ方がいいんじゃねぇか…」

 

「あはっ!心配してくれてるの?ひょっとして、アタシの事好きとか~?」

 

リュリは突然快活な笑みを浮かべ、手をバタバタさせた。

 

「…もちろん心配してるさ!」

 

「そっか!下らねぇ心配してんじゃねェよ。俺をナメてんのか、あァ?」

 

今度は荒くれ者のように眉をつり上げ、凄んでみせる。

 

「…監視など時間の無駄だ。私は行く」

 

かと思えばいつも通りの冷淡な様子に回帰し、大金槌を背負って走り去った。

 

リュリちゃんはいつもこうだ。頭が完全に壊れている。

ボス曰く多重人格ではなく、1つの人格が振る舞いを切り替えているだけらしい。

明らかに戦争での経験でネジが飛んだタイプだろう。

でもそんなところも可愛い。

 

…後はもう消化試合なのでさっさと済ませよう。

次はゴブリンのオッサン。なんかすごい強いらしい。

殺し合いが好きでたまらないって奴なので、自室にはいない場合の方が多い。

 

「ヒャハハハッ、もう来たのかテメェら!

おいエリン!俺に従う事しか出来なかったテメェに出来るのか?

恩人の俺様を殺す事がよォ!!」

 

「主の不始末を片付けるのも従者の…ひいては恩を受けた者としての役目。

今更相手が何者であろうと退く理由はありません」

 

「エリンを甘く見るな。

この子はもう貴様の手を離れ、1人の人間として己を確立している。

…そうやって試さなくてもいい」

 

ゴブリンのオッサンが、やけに満足そうに笑っている。

 

「……そうかい。そりゃあいい!過去最高の殺し合いが出来そうだァ!!」

 

「【蟲龍(とうりゅう)公】ザバダカ!ここで!私たちが!貴方を殺す!!」

 

「行くぞォオオオオオッ!!」

 

…うわぁ、なんか盛り上がってるよ。もういいや。次行こ、次!

ああいう因縁の決着が~みたいな話、見てると笑っちゃうんだよね。

ホント良くないのは分かってるんだけど。

 

「…【死終七相(しじゅうしちそう)】!!」

 

えっ。

…うわなんかでっかい虫がいっぱい出てきた!

だいぶキモイ!虫の見たくない部位がハッキリ見えるのがスゴイ嫌!

 

「その技は知っています…対処法も!

既にこの盾に炎の魔力を吸収してある!」

 

女の子は盾から剣を抜き、えげつない火力で虫を焼き始めた。

…あッちぃ!!

 

「ほォ…生意気に対応してくるか。なら小手調べは要らねぇなァ!!」

 

ザバダカの奴が、両手に凄まじい魔力を集め始めた。

これは……かなりヤバい。

いやもちろん攻撃自体はすり抜けられるけどね?

下手したら、空間崩壊が発生してもおかしくない…何しろただでさえ魔皇城内の空間は不安定だからね。

不測の事態が怖いので、早々に逃げるとしよう!

 

さて、最後は新人。ボスの息子こと【忌み屋】キルエ。

いかにも生意気そうなガキって感じの面だが、その割に誰に対してもほとんど敬語を崩さず、ヘラヘラして掴みどころのない奴だ。

 

「よ!やってるか?…あれ?」

 

戦いには一切参加せず閉じこもってるから、絶対部屋にいると思ったんだが…

ああ、そうだ。あっちの部屋にいるのか!

 

「やっぱここか!探したよ、坊ちゃん」

 

「あらら?ツルードさん…でしたよね」

 

予想通り、キルエは空き倉庫に居た。

彼は幹部になってからというもの、部下を使って財宝を探索させては、この倉庫に集めさせている。

倉庫の中央には、既に小さな黄金の山が出来始めていた。

 

「おお?早くもがっぽり儲けてるみたいじゃん?」

 

「まだまだこれからですよ…彼らのカネを嗅ぎつける勘は侮れません。

俺はここから一歩も動かず、この城中の金品を手中に収められるという訳です」

 

こいつ、ホント読めないな。

いきなり父親が名乗り出てきたのに、悩みもせず勇者一行を裏切ってここに居る。

かといって、敵意も忠誠も感じないどころか、目的すら無さそうだ。

 

「お前、こんなに儲けてどうしたいんだ?」

 

「どうって…カネはあるだけ嬉しいもんでしょ」

 

「そりゃそうだけど。お前ホントに金儲けだけし続けるのか?」

 

「…まさか俺が父上の命を狙ってるって、まだ疑ってるんです?

しませんって!もう命の安全は保証してもらったし、恨みなんか無いです!

だいたい今は大した呪いも使えないし…」

 

キルエはそう呟きながら、肩にのったメンダコのような生き物をつついた。

 

「それ何だよ」

 

「召喚獣です。俺の術を補助してくれるんですよ。

…っつっても気休め程度ですけどね」

 

「術、ねぇ…」

 

「だから、父上を狙う意図はございませんって言ってるでしょーが!

勇者だか真魔皇だか知りませんけど、勝手にやっててほしいんですよ。

どうせ俺にゃ関係ない大層な物語なんですから」

 

おっ、こいつ俺と似てるなぁ。

全部他人事でしかない、そういうノリだ。

 

俺も、あらゆるモノをすり抜けるという能力を生まれ持ったからか、全てが自分と無関係の出来事にしか思えない。

誰が死のうと、誰が勝利しようと、所詮は夢の中の出来事と同じ。

俺には何の関わりもない。

 

「その気持ちは分かるよ?

全部すり抜けられる俺にとっちゃ、何もかも他人事だ。

俺、呼吸すら要らないんだぜ?」

 

「え!?すり抜けてる間は息吸えないのかな、とか思ってましたけど…」

 

体質ゆえか、俺には人間離れしたところがあった。

空気中のマナを取り込めばそれだけで充分生きていけるし、痛覚もどうやら他人より薄いらしい。

 

「とはいえ、仕事だからな。

今後も抜き打ちで様子見に来るから、油断すんなよ?」

 

「えぇ~…?だいたい、父上って呪い対策してるんでしょ?

どうやってるのか知りませんけど…警戒しすぎですって」

 

「ボスはな、自分を半ば封印することで外部からの呪いを防いでいる。

当然、肉体への負担も大きい。分かるか、この意味?

それだけお前を油断ならない相手と考えてんだよ」

 

「小心者って訳でもないでしょうに。

…ま、別に父上と仲良し家族になるつもりもないですし、せいぜい気を付けておくとしましょう」

 

そう言って会話を終わらせたキルエの顔は、何の感情も伺いしれない獣のようだった。

 

こいつやっぱ読めねぇな。野生動物と相対した時みたいな緊張感がある。

何をしてくるか、考えているか分からないという怖さ。

 

…ただ、読めない=敵って訳じゃない。むしろボスへの殺意の無さはより裏付けられた。

『敵対する可能性は薄い』と報告しておこう。

 

しかし裏切るつもりは無いにしても、警戒を常に強いられるのは苦痛だ。

ボスだって、いつまでも自分を封印している訳にはいかない。

 

うん。タイミング見つけて、サクッと殺しとくか。

 

こうして今後の方針を決定できた俺は、ちょっと胸のつかえが下りたような清々しい気分で、ボスの下に戻ったのだった。

 

〈つづく〉

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