異世界でいっちょ噛みするだけ。   作:ゴリラプリン

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第67話 幹部の立場

魔皇城内の敵がほとんど片付いた頃、俺は動き出した。

敵と味方の目を掻い潜り、死体から金目のモノを剥ぎ取る。

 

…ったく、このところ全然稼げねぇ。

やっと戦いがこっちの勝ちで落ち着きだしたと思ったら、勇者襲来と来たもんだ。

死体漁りどころか、戦いから逃げ回るだけで一苦労ってんだ。

 

俺はどうやら人類の裏切り者になったらしい。

稼げそうな方に付いたと思ったのに、兵隊どもから目の仇にされて追い回される毎日。

どいつもこいつも人の事を大罪人みたいに言いやがって、そもそも悪いのはギルドの連中だ。

アイツらはズルい。何とか言う傭兵が騙されて捨て石にされたと聞いた。

絶対汚い稼ぎ方をしてるに違いない。

 

「よう。励んでるようだな」

 

「チッ、テメェか…」

 

コイツは俺と同じく裏切り仲間の傭兵だ。名前は知らん。

城の財宝だの死体だのを漁ってる時に、たまに会う事がある程度の仲だ。

 

「呼ばれてんぞ、俺ら。名指しで!」

 

「あ?誰に」

 

「俺らのボスに!」

 

なんで?会った事もねぇ奴に名前を把握されてんのも怖いが、呼び出されるとなると更に怖い。

 

「…バレたんじゃねぇのか。俺らが戦わずに金漁ってるの」

 

「やっぱそうなるか?クソッ…どうやってズラかるよ?」

 

「無駄だ、ボスはこの城の全ての部屋を操れるらしい。

逃げたなんて気づかれたら、どんな目に遭わされるか…!」

 

確かに、翻意があると思われたら敵扱いになるかもしれない。

しかも魔皇城をこの数週間…いや半月?時間感覚が曖昧だが、とにかくこの短時間で支配するような化け物だ。

 

「い、行くしかねぇ、のか…」

 

「大丈夫だろ。今までだって何とかなってきたんだからよ…」

 

まぁ、そうだ。俺らは傭兵、気の向くままに戦って儲けるだけ。

それでも生きてこられたんだから、多分今度も大丈夫だろう。

 

俺は案内されるままに、呼ばれてる部屋に行った。

 

「お、おぉ…」

 

思ったより多くの傭兵が集められていた。

その中には、お宝探しの現場で会ったような顔もちらほら見えた。

 

「やっぱこの面子…そういう事か?」

 

「だろうな。でもまぁ、死刑って訳でもねぇだろ…」

 

『全員、揃ったっぽいかな?』

 

反乱起こした時ぶりに聞いたボスの声は、相変わらず軽薄でヘラヘラしていた。

 

『ここに集められたのは、普段どの幹部の下にも付かず戦いもしない人たちです。

…なんで集められたか分かるかな?』

 

胃袋がキュッと締まるような緊張。

やはりか。

 

『……ごめん、冗談だって!別に罰したいって訳じゃないよ!』

 

異様に明るい声で緊張が解けかけた途中、逆に強まった。

じゃあなぜ俺らは呼ばれたんだ?

 

『今回集まってもらったのはね、僕の息子…新しい幹部のためなんだ。

ほら、出ておいで!』

 

「ど、どうも~…」

 

急な展開に動転する暇も無く、新たな驚きが次々襲ってくる。

まず幹部が増えたこと。

そいつが見たとこ12・3歳のガキだったこと。

しかもなんとなく咄嗟にイメージしてたのと全然違う、野蛮人みてぇな見た目をしてたことだ。

 

肌が黒いのもたまにしか見ねぇが、何より半裸で顔に模様みたいなのを塗ってやがる。

いかにも槍持って獣追い掛けてそうなガキだ。

 

「ええと、ご紹介に預かりました。傭兵をしていたキルエという者です。

これから、皆さんには俺の部下として働いてもらいたいと思っています!」

 

…あ?ガキが俺らの上司だって?

何だよそりゃあ…そういやコイツ、ボスの息子だって言ってたな。

要は親バカに付き合わされてんのか、俺ら。

 

一気に脱力し、座り込みたい気分になった。

他の連中もそうだろう。

 

ただ、次の台詞で俺らの意識は一気に引き込まれた。

 

「わざわざ皆さんに集まってもらったのは、皆さんが俺の目的に適していると考えているからです。

つまり…お宝を嗅ぎつける嗅覚と手際です」

 

「!!」

 

ガキは続ける。

 

「いいですか。この城は元々父上のものではありません。

その気になれば全部屋を掌握できるとはいえ、とても負担のかかる行為です。

今この状況でそれをするのは適切じゃない。

そこで!この城にかなりの数ある大小の宝物庫を、全て見つけ出して報告してほしいのです!」

 

ここまで聞いた俺は、なんだ雑用かよ、と思った。

もちろん罰を受けるよりはマシだけど。

しかし…

 

「宝物庫だけじゃない。死体の持つお宝も!

見つけ次第持てるだけ持って、この部屋に運んでください!

そして…その途中、宝のいくつかが皆さんの懐に入ったとしても、俺は気付かないでしょうね」

 

「っ!?」

 

コイツ今、堂々と『ちょろまかしていい』って言ったぞ。

いいのか?ボスこれ聞いてるよな?

 

「もちろん、持ってくる数があまりにも少ないようでは困ります。

だからこちらの判断で、お仕置きする事もあります。

だけどまぁ…あなた方なら上手くやれますよね?」

 

このガキ、俺らを掌で転がそうってのか。

 

「ただし!」

 

やっぱり条件付きってか?舐めやがってガキが…!

 

「魔道具…特に全身が写るサイズの鏡なんかを見つけたら、持ってきてくれると助かります。

やっと腰を落ち着けられるようになったので、身だしなみを整えたいんですよ~」

 

鏡?妙なものを要求しやがる。

だがまぁ、魔法の鏡なんてありふれてる。探せばあるかもな。

 

「よぉ、坊ちゃん!見つけたら何かあんのか?」

 

「ええ!特別に報酬を出しますよ!」

 

…正直悪くねぇな。

ボスからの命令として、堂々と宝を漁っていいなんて夢みてぇだ。

 

「俺の部下になってくださった人は、戦いから逃げても構いません。

お宝さがしを優先してください!…ですよね、父上?」

 

『うん。今この子が言った事、全部ホントだからね』

 

言質は取った。つまりこのガキの命令=ボスの命令って事だ。

 

「部下になりたい方は、ここに並んでください。

僕の部下である証を贈呈します。これを持っていれば、堂々と戦いを避けても咎められる事はありません!」

 

…ほとんど満場一致で、俺らはガキの部下になった。

 

「ボスのガキのお守りなんてどうなる事かと思ったがよ、運が向いてきやがったぜ?」

 

ああ、全くその通りだ。

このガキは俺ら欲深い大人を操って稼ぐつもりだろうが、まだまだ青い。

お宝の目利きはこっちが上だ。のらりくらりと誤魔化しつつ、こっちはこっちでボロ儲けしてやるよ。

 

 

 

 

 

(あの連中…どいつもこいつもふてぶてしい面してやがったな。

まさに俺が狙った通りのメンバーだ)

 

キルエはネネルに頼み、部下にする傭兵を集めさせた。

 

(裏切ったのに積極的に戦わず、小狡く立ち回り、金稼ぎに腐心するような連中。

そういう奴らこそプライドは一丁前に高い…駒には最適だ。

ちょっと付け込む隙を見せてやれば、簡単に乗ってくる。

これで自動金稼ぎマシーンの完成って寸法よ)

 

そして部下が財宝を集めている間、キルエにはやる事があった。

 

「父上。ここは部下が集めた財宝を管理する部屋。

つまり仕事部屋な訳ですが…もちろんこの部屋とは別に、自室くらい用意されてますよね?」

 

『うん?あ、そうだった。もちろんあるとも、幹部だからね。

部下に案内させよう』

 

壁をすり抜けて、仮面の男ツルードが現れた。

 

『ツルードくん。今となっては、直属の部下は彼だけだ。信用できる男だよ』

 

「そりゃあ光栄ですね。

…で、坊ちゃん。さっそく部屋に案内します。

といってもここの扉を開ければすぐに…」

 

魔界七王が魔皇城に停泊する時に貸し与えられたという部屋が7つある。

それが今は【薔薇の七冠】たちの自室となっていた。

 

「おっほ、結構広いじゃないですかぁ!」

 

『安心していい。僕はこの部屋の扉に仕掛けをしていてね。

部屋に入って扉を閉めている間、他の空間から隔絶される。

つまり誰もこの部屋に入ってこられない、究極のプライバシーが保護されるんだよ』

 

「魔皇の力ってそんな事もできるんですか?」

 

『元々、この魔皇城内の全ての扉はランダムに別空間へと繋がるようになっていてね。

それを制御できるのは、城とリンクした魔皇だけだ。

僕は魔皇の力を取り込み、その神性と接続する事で権能を奪うに至ったのさ。

城内全ての空間を、僕は支配下に置いて監視まで出来るんだ』

 

「よく分かりませんが…ひょっとして、この部屋も覗けます?」

 

『…………』

 

「黙るなよ!何が究極のプライバシーだよ、息子の事情が親父にダダ洩れじゃねーか!!」

 

『いやホラ、パパとしては息子が何してるか気になるし…』

 

「だからって部屋まで監視するこたぁないでしょうよ!」

 

「そうっすよ~この歳の子は特に敏感なんすから」

 

ツルードが気の抜けた口調で援護する。

 

「1人でシたい事もあるでしょ、ホラ…ね?」

 

「…いや1人遊びの話はしてないよ!」

 

『分かった分かったって!

そもそも機能として出来るってだけで、実際にしてる訳じゃないよ。

映像に加えて音声まで入ってくるし、2・3部屋を同時に監視するだけでも精いっぱいなんだよね』

 

肉体が変質したとはいえ、ベースが人間である以上は認識能力もその範疇を出ない。

人の身に、神の力は到底担えるものではない。

それゆえネネルも、魔皇と一体化せずに力だけを取り込み、必要な時に魔皇の力へとアクセスして権能を使用する形を取っている。

 

「実際、普段から城内を監視してるんですか?」

 

『一応、ちょいちょい視点変えてあちこち見張ってるよ。

隠れた敵を見つけるのにも役立つし』

 

「そんなずっと監視に集中してたら、父上自身が無防備になっちゃいませんか」

 

『だからこそ、魔法も呪いも防ぐ鎧を身に着けてた…んだけどなぁ~っ!

見事にぶっ壊れましたよ、ええ!』

 

「あ、結局壊れたんですねアレ。勇者たちに思いっきり刺されてましたよね」

 

キルエは内心ほくそ笑んだ。

 

(その情報が聞きたかった!

俺の仕込みも多少は役に立ったか!)

 

魔法と呪いを反射する【赤き月鏡】の鎧は、勇者たちによって穴を開けられた。

その穴が致命傷となって鎧は砕けたのだが、もちろん偶然ではない。

 

(俺はその穴を気遣うふりして、そこに毒を塗りつけておいた。

あわよくば毒で死んでくれれば手間が省けたが、本来の目的はそこじゃない。

あの毒は、金属を急速に腐食させる性質がある)

 

穴に腐食毒が染み込んでヒビを広げれば、あるいは鎧を破壊できるかも…というのは望みの薄い希望だったが、驚くほど上手くいったのだった。

 

『あ!でも呪いを防ぐ方法は他にも用意してるからね』

 

(チッ、容易周到な!次の手を考えるか…)

 

その策謀はおくびにも出さず、一定の距離感を保って会話を続ける。

 

「ずいぶん慎重ですね。彼らは魔法も使えない状態の父上に負けたのですよ。

魔皇の力があれば楽に勝てそうですが」

 

『キミだよ』

 

「はい?」

 

『勇者への対策じゃなくて、キミへの対策だよ』

 

空気が凍る。

 

「…あの、俺わざわざ勇者を目の前で裏切ってまで、こっちに来たんすけど。

これからは人類の敵扱いになるんですよ。

そこまでやってまだ疑われたんじゃ、たまりませんよ」

 

『アルキュオードくんは強い。いくらなんでもキミには殺せない。

でも実際にやってのけた。…ジェトの秘術だね?』

 

キルエは無表情で頭を掻いた。そのつもりだった。

 

『その反応、ビンゴかな?

…眉唾な話だと思っていたんだよ、ジェト族には代々受け継がれる秘術秘法があるなんて。

だってそんなものがあるなら、村を襲った時に使ってくるはずだからね。

それに倉庫を探してもその手の書物は無かったし。

まさかキミが持ち出していたとはねぇ』

 

「秘術?そんなものがあったとして、父上に何の関係が?

俺には貴方を殺す理由が無い!」

 

『アルキュオードくんを殺せるほどの秘術があるなら、警戒して然るべきだろう?

…ま、今すぐに秘伝書を見せろとは言わないよ。全力で抵抗するだろうし。

少しずつパパと信頼を深めていこうじゃないか』

 

「…もちろんですよ、父上。

ここにも居られなくなったら、俺はおしまいですから」

 

『ふふふ…さすが僕の子供だよ。

幹部である我が子に命を狙われるボスって、ちょっとカッコいいよね』

 

「だから狙ってませんって!」

 

『おっとっと、そうだよね。親は子供を信じるものだ。

…じゃあツルードくん、戻ってきてくれる?』

 

「へいへ~い。じゃあ、坊ちゃん…またよろしく」

 

「は、はい」

 

ツルードが壁をすり抜けて戻っていったのを確認したキルエは、召喚術を内包した短剣【神臣の刃】を取り出す。

 

(疑われてんなぁ。ホントに殺すつもりなんてないんだけど。

大体自意識過剰だよなぁ~、そっちから襲ってきたくせに…)

 

そして召喚の詠唱を開始した。

 

(…戦えるような神獣は召喚できねぇが、充分だ。

こっちはこっちで、せいぜい暗躍させてもらうさ)

 

 

 

 

 

 

「ただいま戻りました~」

 

「お疲れ様。悪いねどうも。

何しろ側近はもうキミしか居ないしさ、頼りにしてるよ?」

 

「その側近に、キルエくんが息子だって事すら伝えてくれないんだもんな~」

 

「まだ言ってるのか、意外と根に持つねぇ。

いやさ、もっと落ち着いてから教えようと思ってたの!

まさかアルキュオードくんとガスマくんがこんなすぐに退場するとは思ってなかったよ」

 

ツルードも、そこには同意するしかなかった。

 

「俺自身はほら、能力が能力だから死にはしないだろと思ってましたけど。

それでも円卓の騎士とやり合った時は結構怖かったし。

最後に生き残るのはあの2人だと思ってました」

 

「ま、過ぎた事は考えても仕方ない。

あぁそうだ…封印が解けそうだから直しといて」

 

「へ~い」

 

玉座に座るネネルの青灰色の肌は、丸ごと包帯のようなものに覆われていた。

包帯には無数の読解不明の言語が書き連ねてある。

 

「しかしこの【天牢封却】を使うほどですか?

こんなの本来ありえないんですよ、封印術を自分自身に使うなんて!」

 

【天牢封却】は高度な封印術の一種である。

対象の魔力を強固に封じ、外界からも干渉できなくなる。

ネネルはこの『外からの干渉を受けない』性質を利用して、キルエの呪いを防ぐ手段にしていた。

 

「これめっちゃ身体に悪いんですよ?」

 

「本来なら視覚や聴覚といった五感すら封じて外界と断絶する。

今はそうしていない分、まだ耐えられる」

 

「…そうまでして、キルエくんを警戒する必要が?」

 

「うん。めっちゃ怖いね」

 

「だったらサクッと殺して秘伝書奪っちゃいましょうよ」

 

「甘いよツルードくん。彼がその真価を発揮してきたのは、襲われた時だ。

絶対に覆らないはずの力の差を、いつの間にかひっくり返しちゃう。

確実に殺せるタイミングまで、まだ味方として手元に置いておこうよ」

 

その言葉は、己の息子について語っているとは思えないほど、無造作な殺意に満ちていた。

 

〈つづく〉

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