異世界でいっちょ噛みするだけ。   作:ゴリラプリン

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第69話 勇者の覚悟

長き因縁に決着を付け、【蟲龍(とうりゅう)公】ザバダカを倒したエリンとメルト。

そこに【傀儡王】モースの操る生き人形が現れ、意識を失った2人を攫おうとする。

敗者のケジメとして2人を守らんとするため、死に瀕した肉体を押してザバダカは立ち上がる。

…だがザバダカは、もはや身動きすら困難なほど追い詰められていた。

 

「残念です。ザバダカ公」

 

剣が、瀕死のゴブリンの王へと振り下ろされ…

 

「なぁ~!そこの人たちちょっといいか~?」

 

「「ッ!?」」

 

更なる新手の声が、突然割って入った。

兵士と同じく破壊された外壁を乗り越えてきたのは、長身の騎士。

 

「あのさぁ、モードレッドって言って、長い金髪の子供見てない?

あ、ちょうどそこに倒れてる子たちより若干年上ぐらいの男の子なんだけど」

 

「おお!貴方はキャメロット王国に名高き円卓の騎士、ケイ様!」

 

先手を打って、モースが喋りかける。

 

「コイツはあの【蟲龍(とうりゅう)公】ザバダカです!

今やっと追い詰めたところなのです、どうかご助力を!」

 

モースの生き人形は、連合軍の兵士そのもの。

外見はおろか、生体情報を採取しても見分けはつかない。

 

「あっホントだ。ゴブリンじゃん。

…そんな事より人を探してるんだけどさ~」

 

「それは後でお答えします!今は手を貸していただきたい!」

 

「えぇ~?仕方ないなぁ…」

 

ザバダカは死に瀕して、己の因果を顧みた。

 

(クソッ…よりによってこのタイミングで人間が来るかよ。

しかもキャメロットの円卓の騎士と言やぁ、最強の騎士じゃねぇか。

神様は信じちゃいなかったが…こりゃ好き放題してきた報いかねぇ)

 

だがそれは、諦める理由にはならなかった。

 

「そっちの騎士様よ!聞け!

信じやしねぇだろうが、その兵士は生き人形だ。

そこで寝てるガキどもを攫って、人形にしようとしてる」

 

「へ~?」

 

「まぁいいさ…どっちでもいいぜ。掛かってこいよ。

何なら同時でも…」

 

「マジかよ、悪い奴だな!」

 

騎士は剣を抜き、兵士を斬った。

兵士は勢いよく壁に叩きつけられ、めり込む。

 

「…ご、御乱心なさいましたか…ッ!?」

 

「え?お前悪い奴なんだろ?」

 

「そ、そ、その魔物の言う事を信じるのですか?」

 

「え~でもなんかお前気持ち悪いぞ?

全然会話してる感じしねぇし。

つーか人間じゃねえよな?」

 

ケイの眼差しは全てを見通しているようにも、あるいはただ呆けているようにも見えた。

 

「…やれやれ。何なんですか貴方たちは。

そういう訳の分からない理屈で動かれると困るんですよ。

仕方ない、お2人とも死んでいただきますよ」

 

ゴキゴキという音と共に兵士の背丈が2倍近く伸び、剣を持った2本の副腕が現れる。

 

「あらら…凄い事になってんなぁ」

 

「一応、この生き人形には改造を施しておりまして。

そう容易く片付けられるとは思わない事ですね」

 

今にも息絶えそうな喘ぎと共に、ザバダカが闘志を叫ぶ。

 

「…上等だァ。死にぞこないの悪あがきを見せてやるよ…ッ!!」

 

「わ、悪あがき?

手足も動かせぬ死体の仰る言葉じゃありませんね」

 

「だったら…なんだ…!

遠慮でもして手ぇ抜いてくれるか、あぁ?」

 

「いえ。か、確実に仕留めさせていただきましょう」

 

生き人形の4つの腕が、4本の剣を一斉に向ける。

 

「…1人ずつね!」

 

人形が距離を詰めた瞬間、ザバダカが血反吐と共に、呪詛の吐息を放つ。

息に触れた剣と皮膚がグズグズに腐り始める。

 

「生きてる人形って事はよ…腐りもするだろうが…ゲホッ!」

 

「そ、それはその通りですが…このまま腐るに任せるつもりはありませんよ」

 

人形兵士の身体がビクンと震え、突如として上半身のみが高速回転する。

激しい旋風が生じ、吐息を退けていく。

 

「残念ですが、空気を用いた攻撃はこの人形には届きませんよ!

このまま切り刻んであげ」

 

「コラコラ、俺も居るんだってば」

 

ケイが素手で人形の腕を掴み、回転を止めた。

 

「…ッ!?貴方本当に人間ですか?この腕力…!」

 

「なんだお前、ホント失礼な奴だなぁ」

 

そのまま無造作に腕を引きちぎって捨てる。

力を込めるような素振りすらなく。

 

「まぁいいや、このまま壊すからな?」

 

「く…さすがは円卓の騎士。ですが!」

 

2本の腕をケイの身体に巻き付けて拘束し、更に肩に齧りつく。

甲冑に歯形が残るほどの咬合力で、がっしりと噛んで離さない。

 

「うわっ、なにこれすっごいキツいんだけど!

さっきと全然違うじゃん!」

 

「当然です。内蔵した術式で、肉体の限界を超えて強化しておりますので!

それからザバダカ様、貴方もですよ!」

 

残る1本の腕をザバダカに向け、伸長させて喉輪を掴む。

 

「ぐがッ…!」

 

「死体がいつまでも動いていてはいけませんよ。

貴方には致死毒を注入してあげましょう」

 

展開した手首から注射針が現れ、喉に刺さる。

 

「…ご、がぁあああッ!」

 

目や鼻から血を撒き散らしながら悶える。毒の効果は早かった。

動けなくなったザバダカを放り捨てる。

 

「さて、ようやく1対1で戦えますね」

 

「お、やるか~?」

 

ケイは遊びに誘われたように気軽な調子で応えるが、纏う闘気は格段に跳ね上がる。

 

「…ッなるほど、これは怖い…。

さすがにこの素体では力不足でしょうか」

 

人形は巻き付く力を強め、身体をケイに押し付けた。

 

「しかし、人形の魔力を暴走させればいかがです?」

 

その目から、青白い光を放ち始める。

 

「うっそ、自爆!?」

 

「左様でございます!ヒ、ヒヒヒ!

ひょっとすると、それでも貴方は死なないかもしれませんが…痛手にはなりましょう?」

 

「いやいや、普通に死んじゃうって」

 

「それは重畳!是非ともお死にください!」

 

そこまで言って、ふと煙に気付く。

 

「お、おや…?」

 

「ああこれ。俺さ、体温高いんだよね」

 

ケイの全身から、凄まじい熱が立ち上っている。

熱は人形の腕を焼き、炭化させていく。

 

「なんと、この熱は…ッ!?」

 

「自爆は1人でしといてくれ」

 

焼け崩れた腕を振りほどいて人形を蹴とばすと、大きな音を立てて爆ぜた。

 

「うわっ!…ビックリしたぁ~!」

 

衝撃で天井の一部が崩落し、砂埃が巻き上がる。

 

「おおっと、危ねぇなもう!

これだから人形使いは嫌なんだよもー!

どんだけ殴っても本体は無傷だし、平気で自爆するし…」

 

人形の破片を拾い、手の中で弄ぶ。

慣れ親しんだ血肉の手触りが、ケイの手のひらに広がった。

 

「うぇッ!生き人形って…マジで人間で出来てるんだ。

しっかし分からんな~、人形を爆発させたらあの子たち攫えないんじゃ…」

 

その言葉を口にしながら違和感に気付き、慌てて振り向く。

意識の無い2人の少女を、仮面を着けた兵士2名が運んでいた。

 

「あっ、コラコラ!何してんの!」

 

両手に瓦礫を持ち、2名の頭部目がけて投げた。

2つの瓦礫は砲弾のような勢いで飛び、1つは完璧に命中して頭を粉砕させる。

だがもう1つはギリギリで回避された。

 

「コレ躱すかね普通!」

 

生き延びた兵は青肌の女を抱え、遠ざかっていく。

 

「脚速くなぁい!?待てっての、この野郎…」

 

瓦礫を拾い上げようとした時、兵士が突然転倒した。

兵士は何やら苦悶していたが、ビクビクと痙攣した後、動かなくなった。

 

「はえ?なんだなんだぁ!?」

 

急いで死体に駆け寄ると、兵士は全身を毒虫に集られていた。

 

「虫…?」

 

「間に、合ったか…」

 

今にも消え入りそうなかすれ声で、誰かが呟く。

 

「あら。ゴブリンの人、生きてたの」

 

「毒は、俺様の領分よ…この程度の毒を注射されたくらいで、死ぬか…!」

 

ザバダカは死にかけながらも、自らの血から生み出した毒虫を差し向けていたのだ。

 

「しぶといよね~魔族って」

 

「ああ…だが、もう死ぬ。

アンタ、悪いがそのガキども頼むわ…」

 

「まぁいいけど」

 

ケイは決して軽くは無い2人の少女を、軽々と両肩に負った。

 

「ねぇ、そういえばさ。マジでモードレッドって子知らない?

はぐれちゃってさぁ…お~い?」

 

返事は無い。

 

「ま、いいか。他の人探すべ~」

 

死体への関心を失ったケイは、部屋を出てのそのそと城内を徘徊し始めた。

 

 

 

 

 

(マジで…?ザバダカ死んだの…?

ヤバい、俺が思ってるより状況は早く動いてんのか?)

 

金貨を両手で抱えて不安を抑えていたキルエは、ふと思い出して懐を探る。

 

(…あったあった。凶星堂から貰ったチケット!)

 

凶星堂と別れたのは数週間前だが、ずいぶん昔のような気がしていた。

このチケットは、凶星堂と接触したい時に使えと渡されたものだ。

 

(この魔法のチケット、たしか燃やすと効果を発揮するんだったか。

使うタイミングを早めるか…いや、ここに呼ぶ訳にもいかないしな…)

 

『聞こえる?今ちょっといい?』

 

「はいっ?何でしょうか?」

 

突然ネネルの声が頭に響く。

キルエの肩に乗っている小さなタコめいた召喚獣が、ピクリと震えた。

 

『…七冠が1人殺られてね』

 

「なるほど~…」

 

『今までは君たち幹部の行動はそれぞれの判断に任せていたけど、方針を変更しようと思うんだ。

一旦あの会議場に集まってくれるかな?』

 

「あの…このテレパシーみたいなやつで伝えるんじゃダメなんですか?」

 

『おいおい、萎える事言わないでくれよ~!

幹部はいちいち集まって会議してこそだろぉ!?』

 

「…あ~、そうっすね。すぐ行きます」

 

『うん、あの水晶持ってきてね。幹部の証でもあるから』

 

「分かりました…あ、えっと。

倒されたのってどなたですかね」

 

『うん?ああ、ザバダカくんだよ。あのホラ、ゴブリンの!』

 

「そうなりますか、やっぱり…」

 

一瞬だが旅路を共にした、あの半魔の少女2人を思い出す。

 

(あの人たちもついに、自分たちの宿命とやらに決着をつけたか…)

 

宿命や因縁といったものを厭嫌する彼にとって心底興味のない事ではあったが、その感想を抱く程度には思い入れがあったようだ。

 

「そう言えば、勇者。あの人たちどうしてます?」

 

『あ~…うん、実はね。

城全体を見てるんだけど、全然見つからないんだ。

逃げた訳でもなさそうだし…多分、女神の加護で見えにくいのかも。ふふふ』

 

「…機嫌が良さそうですね」

 

『そりゃあそうさ。万能の力を手に入れても及ばぬ領域がある。

そういう未知や未踏のものって、ワクワクしないかい?』

 

「前職が研究者とか聞きましたよ…探究心はそれ故ですか」

 

『この世界には、気になる事が多すぎるよ。

例えば世界各地に居る希少な民族とか、ね?』

 

「…なるほど、それでジェト族との間に子供を?」

 

キルエの父がネネルという事は、ネネルはジェト族の女と関係を持った事になる。

だがジェト族の女を知るキルエは、外部の男の子を孕む事が想像できずにいた。

 

『うん?え~っと…理由は色々あるんだけど、大体はそういう認識でいいよ。

ジェト族だけじゃないよ?とりあえず希少そうな民族の血を残すために、あちこちで子供を作ったんだ。

不慮の事故に備えた、遺伝子のバックアップとでも言うべきかな?』

 

(うわ~いかにもマッドサイエンティストって感じ!逆に安心するわ~)

 

そのあまりの倫理観の歪みに内心げんなりするキルエだったが、会話を続ける。

 

「じゃあ、俺の兄弟が全世界に?」

 

『今はキミ1人さ。データ収集が終わって、バックアップが不要になったからね。

面倒を避けるために一斉処分したよ』

 

「で、俺も殺そうとしたんですか」

 

『それもあるね。

あぁ安心して!今のキミを殺そうとは思ってないから!

今興味があるのは、勇者くんたちだから!』

 

「でも、見つけられないんでしょ?」

 

『…ま、大丈夫だよ。

いずれにせよ結局は僕の居る玉座の間を目指しているんだろうし。

ある地点まで来たら、絶対に探知できるようになってるからね』

 

「ふ~ん。ならアレコレ手を回さずとも、待ち構えていれば簡単に殺せそうですね」

 

『キミはそれでいいのかい?』

 

「…ええと」

 

言葉の意図を図りかね、口ごもる。

 

『いやほら、一応仲間だった訳だけど。

始末しちゃっていいのかい?』

 

「ああ、そういう。いやー別に…」

 

キルエの脳裏に、グレンたちとの共闘の記憶が蘇る。

決して友だった訳ではないが、何度も助け合った覚えはある。

 

「ま~いいんじゃないすか。俺が決める事でもないでしょ」

 

『…そうか。なら良かった』

 

多少良心が咎めるが、元から情の薄いキルエにとっては無視できる程度のものだった。

それより今の自分の生活を守る事の方がずっと重要だからだ。

 

”何よりも己を優先すべし”、キルエがあの地獄のような森で得た唯一の学びだ。

 

(ま、アイツらならちっとやそっとじゃ死なんだろ。

…死んだらご愁傷様って事で)

 

『ああそうだ、聞き忘れてた。

村人からキミが母親を殺したとは聞いていたけどね、理由は誰も知らなかったんだ。

生まれたばかりのキミが、どうして母親を殺したのか…』

 

「生まれたばかり、ですよ?覚えてる訳ないじゃないすか。

おおかた事故だったんじゃないです?

とはいえ俺が殺した事には違いないんでしょうけど」

 

『……ふぅん。ま、そんなとこだろうと思ったよ。

気にしないで、僕もキミの母親の顔覚えてないからさ!』

 

「そうですか。悲しむ人が居なくてほっとしました」

 

当然、転生者であるキルエは、生まれた瞬間の事も覚えている。

 

(元から別に気にしてないけどな。

あんなんただの正当防衛だし…)

 

 

 

 

一方、話題の勇者たち本人は、魔皇本人であるナンムの導きによって、玉座の間目指して突き進んでいた。

 

『部屋同士の繋がりが組み替えられている…』

 

「らしいな。で、辿り着けそうか?」

 

『アイツは今、私の肉体を取り込んでいる。

これならどの位置からでも探知できるっての』

 

「なら早いとこあの野郎のとこまで行こうぜ。

…とっととあのゴミ殺して、全部解決だ」

 

グレンの顔には深く鋭い皺が刻まれ、その怒りの凄まじさが見て取れた。

 

「ナンムちゃんは何て?」

 

「探知するのは簡単だとよ。行こうぜ」

 

「待て、少し気になるんだが…それは向こうからしても同じじゃないのか。

魔皇の力を奪ったネネルなら、魔皇の魂であるナンムを探すのは簡単そうに思えるが」

 

チラリと右手を見て、アイコンタクトで問う。

 

『無理かな、魔皇としての探知能力はほとんど私が持ってるし。

しかも女神の加護があるとなれば、見つけ出すのはかなり大変なはず。

さすがに目の前に突っ立ってたら見つかるけどね?』

 

「女神様のおかげで実際に会うまではバレねーってさ」

 

「そうか。少し安心した。

ひたすら重点的に刺客を送り込まれたらマズいからな」

 

『そんな心配より、彼の事はどうするの?』

 

「彼?誰だよ」

 

『あの、キルエ…とかいったかしら?

ネネルの息子だとかいう…』

 

その名を聞いた瞬間、グレンの心に昏い霧がかかった。

じっとりとした不快感を伴う霧だ。

 

「…アイツは」

 

語り出そうとして、言葉が止まる。

未だ結論の出ぬ考えだった。

 

「…む」「っ!」

 

グレンは仲間に触れ、ナンムの声を伝達させる。

 

『不思議。ネネルには皆怒ってたのに、あの子にはそうでもなさそう』

 

「そりゃ、アイツは元々味方じゃなかったしな。

依頼を裏切ったと言っても、元々正規の傭兵でも無ぇし」

 

「それに何より、彼の心境は僕たちには計り知れないものがある。

母親を殺したとか言われていたな」

 

「ギルドに居られなくなったのも、悪い職員の人と揉めたかららしいし。

ちょっとかわいそうというか…いや、勝手に憐れむのはよくないけど」

 

それぞれの言葉は歯切れが悪い。

 

「アイツがどんな気持ちで戦ってんのか、俺には分からん。

そもそも大した付き合いでもねぇし…アイツは手の内を見せたがらねぇからな。

ただ、出てきたら殺すだけだ。同情は侮辱になる」

 

「ああ。彼には彼の…想像を絶する思いがあるだろう。

そしてこちらにも、相応の覚悟がある。後はぶつかり合うだけだ」

 

「思い、か…どうなんだろうね。

あまりに平然とし過ぎてて…そんなはずないんだけど、何も感じていないように見えて。

あの人が何を考えてるか、分かんないよ」

 

そう、彼らには分からない。

キルエがその場の勢いで裏切った事も、別に己の生き様に苦悩してはいない事も。

 

『…まぁ、いいわ。アンタたちの事だもの、下手に手を抜いたりはしないでしょ。

それにあの子、アンタたちが考えてるような人間にも見えないし』

 

「?」

 

『何でもない。さ、行こ』

 

それを薄々見抜いているのは、かつて神であり魔皇であったナンム1人しかいなかった。

 

〈つづく〉

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