異世界でいっちょ噛みするだけ。   作:ゴリラプリン

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第70話 奴は七冠で最弱

半魔族の少女、メルトとエリンは、ゴブリンの王【蟲龍(とうりゅう)公】ザバダカを討ち、己の因縁に決着を付けた。

この事実は、あらゆる因縁から逃げ続けているキルエでも無関係ではいられぬ事だった。

彼の属する【薔薇の七冠】、その一角が崩れた事で真魔皇ネネルから招集が掛かったのだ。

この一連は、勇者突入から2日後の出来事であった…

 

「なぁ…オイ。随分と気軽に集めてくれるよな?

俺らの事を下僕か何かと勘違いしてるんじゃねぇのか、あぁ?」

 

【竜将】ボルドが舌打ちして、虚空に呼びかける。返答は無い。

 

「俺らは自由にやれるって条件で下についたんだがなァ!」

 

やはりネネルの声は響かず、代わりに側近にして幹部の1人ツルードが手で制した。

 

「あ?ンだよテメェ…」

 

『ザバダカがやられたようだな』

 

ネネルの声。

意図を図りかねた幹部たちが一瞬黙ると、間を継ぐようにツルードが答える。

 

「しかしヤツは七冠でも最弱。心配には及びません」

 

「…………」

 

静寂が議場を支配する。

 

「…ずいぶん偉そうに言うじゃねぇの、密偵ごときがよ」

 

始めに静寂を破ったのはボルド。

挑発的な口調だが、声色はむしろ困惑気味だ。

 

「最弱どころか、ヤツは単純な戦闘力では最強クラスだったと思うが」

 

銀髪の女傭兵【鎚葬者】リュリは、戦士として率直な感想を述べた。

 

「はぁ、俺に言われても」

 

ツルードがいつもの軽薄な調子に戻って肩を竦める。

 

「言われても…ってお前が言い始めたんだろうが!?」

 

「いやボスが俺にそう言えって命令してきたんですもん」

 

『そうそう!ガスマくんが死んだ時やり忘れちゃってたからさ!

やっぱ幹部が死んだらこのくだりをやっとかないと!』

 

楽しげに言うネネルの声で、幹部たちは(またか)とため息をついて納得した。

 

「相変わらずテメェの言う事は分からねぇな!

で?わざわざ俺らを集めた理由は何だ?今のがやりたかっただけじゃあるまいな」

 

『…まっさかぁ!いやちょっとホラ、今後の方針とかね。

皆でまとまって話した方がやりやすいじゃん?』

 

「方針、か。それは各自に一任するという条件だったはずだがな」

 

『それはまぁそうなんだけどさ!

なんか意見感想などございましたら…ね、言ってくれて結構ですので』

 

明らかに尻すぼみな言葉に、幹部たちが再び顔を見合う。

 

「…もう俺ら帰るわ。用無いんだったら」

 

「ああ。私はもっと多くの敵を殺す必要があるのだ」

 

『待ってってば!

それにほら、次にやられるのは誰か分からないんだよ?』

 

ボルドが、虚空に浮かぶネネルの幻像へと乾いた目を向ける。

 

「俺は部屋に籠るから関係ねぇな。

幹部の部屋は、扉を閉じている限り外界から隔絶される。じゃなかったか?」

 

『…ま、その方がいいね。

ボルドくんの能力は、うちの兵力増強によく役立ってくれてるし。

キミに死なれるのはちょっとマズいもんね』

 

「私も当面動くつもりはありません。

貴方がお望みになったその時、行動すると致しましょう」

 

【血溜まり司教】メルディゲは、悪びれもせず同調した。

 

『ふ~ん?じゃあ僕が命令したら死にに行ってくれるのかな?』

 

「…無論ですとも。その命令に意味があるのならばね」

 

『え~?そこは何も言わず従うのが忠義でしょ~?』

 

「いいえ。主の間違いを正せる者こそ真の忠臣でしょう。

そもそも、今我ら【七冠】が出ていく理由が無い。

兵力はいくらでも用意できる以上、このままこうしてジワジワと圧し潰してしまえばよい。

そうでございましょう?我らが聡慧なる主よ」

 

メルディゲの言葉は嫌味な慇懃さに満ちていたが、内容は至極真っ当だった。

 

『うん…まぁ…はい。

それが一番簡単なんだけどさぁ…つまんないじゃん…。

……じゃあ他の人は?どうすんの?』

 

「いつもと同じ!いっぱいぶっ殺すよ!」

 

リュリが突然底抜けに明るい声で叫ぶ。

 

「!?」

 

驚いたのは、この光景を初めて見た【忌み屋】キルエだけ。

他の幹部は反応すらせず、帰り支度を始めている。

 

「…?…!?あ、え…?」

 

「テメェは見るのが初めてだったか?」

 

ボルドがキルエの困惑に気付く。

 

「アレはな、頭のネジが外れて…というかぶっ壊れてんのよ。

性格から喋り方までコロコロ変わりやがる。

まぁ、やる事は変わらねぇんだがな」

 

「やる事?」

 

「アイツが自分で言ってたろ。『いっぱいぶっ殺す』ってな。

四六時中飽きもせずうろついて敵を殺し回ってんのよ」

 

「聞こえてんぞコラァ!俺様に文句あんのかァ!?」

 

突然男口調になったリュリが詰め寄る。

 

「ほらな。壊れてやがる」

 

「あァ~?テメェ…この僕が壊れていると?

いい加減な事を言わないでくださいよ、全く!」

 

「ま、まぁ一旦落ち着きましょう、ね」

 

キルエはリュリを哀れむような目つきで見ながら、2人を仲裁する。

 

「あの、ほら、もう…とりあえず他の人の方針も聞いてからにしませんか?

ほら、そこの人は!どうします!?」

 

「わ、私でしょうか」

 

小さなぼろ布に包まれた謎多き魔族、【傀儡王】モースが遠慮がちに切り出す。

 

「ええと…ご存じの通りですが、私は人形使いですので。

部屋に籠って生き人形を操らせてもらいます」

 

『ま、キミはその方がいいね。

部屋の中にさえいれば、本体を叩かれる心配も無いし』

 

「ええ。私のような貧弱な者にはありがたい限りです。

空間もろとも外界から切り離された安全地帯から、一方的に人形を動かせる訳ですから」

 

『とはいえ、そんな隔離空間にいながらあれだけ大量の人形を操れるのはキミくらいのものだろう。

いくらほぼ全て自動操縦とはいえ…』

 

(ふぅん、なるほどな)

 

キルエは少し考えた。

 

(生き人形には俺も襲われた事があるが、あれも自動操縦だったな。

結局あの時は、制御装置らしき肉塊を破壊した事で機能停止させられた訳だが)

 

彼には幹部たちの情報が必要だった。

 

(今の俺は、あの神様に付けられた呪いのせいで、神に由来する術を使えない。

そして人の身で大それた術を使うには、リソースが足りなさすぎる。

派手な術は使えるとして1・2回分だろう)

 

左目を覆う眼帯に触れ、魔眼に溜め込んだ魔力を確かめる。

 

(無駄な事で使えない以上、コイツらの事をよく知っておく必要がある。

まだ敵対しないとも限らないからな…)

 

『で?キミは?』

 

「え…」

 

ネネルはキルエに語り掛けていた。

 

「あ~…俺はいつもの通り、お宝を集めさせていただきますよ」

 

「ケッ、大層いい羽振りだって聞くぜ?

上手ぇ稼ぎ方を見つけたもんだよなァ?」

 

「えへへ、こういうのは早い者勝ちですからね」

 

「…フン!」

 

リュリが立ち上がり、背を向けた。

 

「兵が命を懸けて戦う脇で、ちまちまと小銭を拾い集める訳か。

卑しいな」

 

(あ、いつもの感じに戻った)

 

『あれ、ちょっとどこ行くのよリュリちゃん?』

 

涼しい目つきをネネルの幻像に向け、吐き捨てる。

 

「殺す。いつものようにな。

もう会議は終わったのだろう。なら好きにさせてもらう」

 

「あ、そ、それでは私も帰らせていただきます、はい。

あの、臆病なもので、部屋にいないと落ち着かないのです…」

 

モースも後に続く。

 

「おい。貴様の生き人形、こちらにいくつか回せ」

 

「は、はい!よ、喜んで手配させていただきます…」

 

(…へぇ)

 

キルエを目を細めて2人の背を見送りつつ、ボルドに声を掛ける。

 

「あの、リュリさんって魔族嫌いそうな感じなのに、結構平気なんですね」

 

「あ?…そういやよくつるんでるな、アイツら。

全く皮肉なもんだよなァ?」

 

「皮肉?」

 

「クククッ…だってよ、あの女がイカれちまったのはあのモースとの戦い…【傀儡戦役】なんだぜ?」

 

(聞いた事がない。俺のいない時に起きた戦いか…?)

 

傀儡戦役。モースの居城を陥落させるための大規模な作戦だった。

多くの手練れが犠牲となり、生き残った者も発狂したという凄惨極まる戦い。

 

「あの人はその事に気付いてないんでしょうか…」

 

「さぁな。アイツそもそも俺らの見分けついてんのか?

一番落ち着いてるノリの時は会話できるんだがな…」

 

「そ、そのレベルなんです!?」

 

「あぁ…ていうか、俺ももう帰っていいか?」

 

ボルドがそう呼び掛けたのはキルエに対してでなく、ネネルに対してだ。

 

『あ、ちょっと待って。

また何頭かワイバーンを量産してほしいんで、錬成工房に来てくれ』

 

「しゃあねぇな…分かった、後で行くから俺の部屋の扉と繋げとけ」

 

「あ、あの?ワイバーンって?」

 

「面倒くせぇな、質問ばっかしやがって…そこのハゲにでも聞け」

 

いきなり指差されたメルディゲは、面倒そうに立ち上がった。

 

「あ!ちょ、ちょっと待って!

教えてくださいよ!」

 

「なぜ私に聞く…」

 

「いやこれから一緒にやっていく仲間な訳ですしほら!」

 

「ついて来るな!」

 

「まぁまぁそう言わずに」

 

2人も退室し、その場に残るのは真魔皇ネネルとその腹心ツルードのみ。

 

「…まぁ、アレっスね。

したい事できてよかったっスね」

 

『なんか皆ノリ悪すぎなんですけど~!』

 

「俺も命令じゃなきゃやらなかったスよ!

なんなんスかあのセリフ!」

 

『う~ん定番のヤツなんだけどなぁ…』

 

「俺ももう帰っていいスか?

働きづめでもう疲れちゃって…」

 

『それはあまりにも冷たいじゃない!

僕部屋から出られないんだよ?もっと話し相手とかしてくれてよくない?』

 

「…だったら封印を解いたらどうです?」

 

今のネネルはキルエからの呪詛に備え、自身の肉体に封印術を掛けていた。

自分の能力を封じる代わり、外からの干渉も受けなくなる。

 

だが封印による制限は重く、ほとんどの力は封じられ、身動きすらまともに取る事はできない。

もっとも、動けぬ理由はもう1つあるのだが…

 

『ダメだよ。まだ警戒は解けない』

 

「自分の子供だからって、贔屓目で見すぎっスよ~」

 

『何度も言うけど、アルキュオードは絶対に盤上から消えない駒と思ってたんだ。

彼を殺せる敵なんで絶対に居ないってね。

だけど実際には彼が殺した。そりゃ警戒もするさ』

 

「…ガスマさんはどうなのその辺。あの人も強かったっしょ?」

 

怪人ガスマ。ネネルにとっては、アルキュオードと並んで無敵の戦力と考えていた駒。

幻術師として最高峰の能力を持つ彼も、今は居ない。

 

『そうそう、ガスマくんも【幻魔大公】に横からやられちゃったでしょ?

恐らくキルエくんを殺そうとして追い掛けて、領地に入っちゃったんだね。

そのせいで幻魔大公カーミラちゃんの機嫌を損ね、殺された。

…なのにキルエくんだけ無傷で帰ってこられたなんて…スゴくない!?』

 

「買い被りすぎ。あの子そんなに強くないスよ。弱くもないけど。

後はまぁ…悪運は強い方かもしれませんねぇ。

でも運の話はやめましょうよ~…不毛ですって」

 

『可能性がある、ってのは怖い事だよ。

どんなに低い可能性でも、実際に起きてしまった以上は考慮しない訳にはいかない。

運か実力か分からないけど、彼は生きてここまで来た。

その過程で、こちらの最大戦力2つが潰された。

それが事実だよ』

 

「そうすか?一芸は隠し持っているとしても、こっちじゃよく居る傭兵の1人程度でしかない。

彼がよく使うっていう爆弾も、魔法で守りを固めれば防げないほどじゃない。

ましてや今のボスの肉体なら、屁でもないっしょ」

 

『そうだね。しかも伸びしろも大して無さそうだ。

いくら戦いに特化したジェト族と言っても、僕の子供だからね…混血じゃあんなもんさ』

 

「……じゃあ一体何を恐れてるんスか?」

 

『呪いだよ』

 

「呪術か…いくら得体の知れない技だからって、ちょっとビビりすぎでは?

念じただけで人を殺せるとか、天候すら操るとか、噂ばっか先行してるけど。

そんな都合の良い術があってたまるかって話っスよ」

 

呪術は魔法以上に正体不明の分野である。

世間の目から隠れて継承され、体系化されないまま異形の発展を遂げてきた。

その習得には過酷かつ複雑な工程が必要とされる。

 

しかも何より厄介なのは、ほとんどの呪術は術者にも害を及ぼすというリスクがあること。

…文字通り、”人を呪わば穴二つ”という訳だ。

 

「もし直接会いもせずにボスを殺せるような呪いがあったとしましょう。

そん時はキルエくんも死ぬでしょ!」

 

『逆だよ。自分が死んだ時、殺した人間を道連れにする術があるとしたら?

いかにも呪術っぽくない?死んだ後、その怨みで憑り殺すなんてさ』

 

「いや、確かにそれは…でもそこまで気にしてたらやってらんねぇっスよ!

だいたい、それでボスを殺せても自分が死んだら意味ないじゃん!」

 

『でもさ、キルエくんは傭兵として呪術を使ってきたはずでしょ。

何しろ【忌み屋】なんて異名を付けられるくらいだ。

教会で治療を受けているのを見るに、多少の反動はあったらしいけどね』

 

しかし、死んではいない。

それどころか、五体満足でここに居るのだ。

 

『…各地の伝承を調べた所によると、呪いに強い体質ってのがあるらしいよ?

あるいは他者の魂を取り込む事で、呪術の代償を打ち消せるなんて話もある。

いずれにせよ警戒は解けない』

 

ネネルは不理解から生まれる恐怖を許さない。

気になる事は徹底的に調べ、それでも分からぬなら仮説を立てて対策する。

 

「…ホント、いっつも大胆なくせに変なとこで警戒心が強いんだから…」

 

『だったらさっさと安心させてよ。

キルエくんの跡を付けて、メルディゲくんと何を話してるか盗み聞きしてくれる?』

 

「はぁ。まぁいいっスけど…そう簡単にボロを出すかなぁ」

 

『僕がいくら城内全てを監視できるとはいっても、キルエくんばっか見てる訳にゃいかないからね』

 

「へいへい。その代わり、キルエくんが怪しいとなったらさっさと殺しましょうね?」

 

『うん、そうしよう。

僕が世界中で作った子供もあれで最後だからね。全滅させたくはないけれど』

 

〈つづく〉

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