異世界でいっちょ噛みするだけ。   作:ゴリラプリン

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第71話 裏切りと結託

安全な個室でぬくぬくしつつ、部下に財宝を集めさせて悦に入っていたキルエだったが、幹部の1人ザバダカが敗北した事で招集を受ける。

キルエはこれを機に幹部たちと親交を深め、情報を探ろうと画策する。

そして会議終了後、その場を去ろうとする幹部の1人を空き部屋に連れ込む。

 

「ちょっと待ってくださいって、メルディゲさん!」

 

「…しつこい小僧だ。私に聞かずともよかろうに」

 

禿頭に刻まれた入れ墨が特徴的な【血溜まり司教】メルディゲ。

ネネルには恭しい態度で従っているが、その内なる野心は透けていた。

 

「ボルドさん、父上に呼び出されてましたけど…あれ何なんですか?」

 

「だからなぜ私に聞く…!

奴には、あらゆる生き物を竜に変える力がある。

それで無貌兵どもをワイバーンにするというだけだ」

 

「それ、魔法ですか?そんな術まであるんですか!?」

 

「魔法ではない。竜の力の1つだ。

ヤツは竜憑き(ドラゴンシフター)…竜の肉を喰らい、竜となった者。

かつては竜を狩る組織に居たようだが…味方を殺して脱走したという」

 

自分の情報でないからか、メルディゲの口は軽い。

 

「高位の竜は人智を超えた力を持つというが、ヤツの力はその中でも特異。

まるで吸血鬼のように、噛みついた相手を竜に変えてしまうのだからな」

 

「はぁ~そりゃスゴイ。

じゃあ定期的に無貌兵を作る部屋に呼ばれてるんですね」

 

「…なぜそんな事を聞く?」

 

「えっと…実はですね」

 

キルエが、肩に乗せたメンダコのような生き物をチラリと見る。

 

「…ここだけの話ですよ。

俺と一緒に父上裏切りませんか?」

 

「……何?」

 

「あ、心配しなくていいですよ。

今は父上の監視網もこちらを見ていません。分かるんです」

 

「…その肩に乗った魔物か」

 

「その通りです。

コイツはミランミ。…『何人に見られているか数える』だけの召喚獣です。

額の模様、見えます?」

 

ミランミの額には、2本の線が入っている。

 

「今は俺とあなたが見ているので、数字は2です。

逆に言えば、俺とあなた以外の目線はどこにもないって事ですよ」

 

メルディゲの猜疑に満ちた目が、キルエを睨めつける。

 

「なぜ私に言う。ボスへの忠誠を試すつもりか?」

 

「警戒心強いなぁ。ホントですって信用してくださいよ」

 

「貴様はボスの息子だろう。警戒せぬ方がおかしい」

 

「そんなややこしい事しなくたって、あなたが野心家なのは見てたら分かりますよ!

…じゃあ、どうしたら信じてくれます?」

 

「……」

 

メルディゲの高い感知能力は、キルエの魔力の微弱な動きを感じ取っていた。

魔力は心臓から生まれる。心拍の乱れは、小さな揺らぎとなって表れるのだ。

 

(どうも嘘をついているようには見えん。

そこまで当てに出来るほどの精度ではないが、少なくとも動揺は感じ取れんな…。

さて…どうするか)

 

彼が感知した魔力は、それだけではなかった。

 

「では質問に答えろ。その眼帯の裏に何を隠している?

左目の部分に、大量の魔力を貯め込んでおるようだが…」

 

「え?そういうの分かっちゃうんです?」

 

「私ほどの感知能力があればな。

で?説明してくれぬのか?」

 

「……答えたら信じてくれます?」

 

「答え次第だ」

 

「…これは魔眼ですよ」

 

メルディゲの目が細まる。

 

「それ自体は嘘では無さそうだ。

だが、魔眼を使うのにそこまでの魔力を貯める必要はあるまい。

何を隠している?」

 

「むっ…よくお分かりで……」

 

キルエは饒舌さを失い、押し黙る。

 

「…………」

 

「まぁ別に言わんでもいいぞ。なら帰るまでだ」

 

「い、言いますよ!でも絶対ナイショですからね!?」

 

「そこは確約しよう。この交渉が決裂したとしても、誰にも言わぬ」

 

「……【魔瞳法】」

 

普段ほとんど明かさぬ術の詳細について、語り始める。

 

「まど…聞いた事が無いな」

 

「ジェト族に伝わる、魔眼を媒介とした秘術です。

魔眼の中に魔力を貯め込み、これを消費して発動します」

 

「どういう術だ」

 

「…色々ですよ。神様の視界を借りたり、動体視力をめちゃくちゃ上げたり。

大きな代償と引き換えなら、夢と(うつつ)…生と死すら操る事ができるとか。

ま、そこまで大それた事は期待されても困りますけど」

 

キルエは渋々ながらも、素直に事実を明かしていく。

メルディゲも、そこに嘘が無い事はおおよそ分かってきた。

しかしそうなると、別の疑問が首をもたげてくる。

 

「…貴様、本気で父親に反旗を翻す気か?」

 

「だからっ…さっきから言ってんじゃないすか!」

 

「なぜ私を選んだ」

 

「あなた、いかにも裏切りそうでしょ。

それが分かった上で泳がされているって事は、多少怪しい動きをしても見逃してもらえそうじゃないすか」

 

「貴様ッ……まぁいい。本気なのだな?」

 

「マジマジ大マジよ!

いつ父上がこっちに目線を向けるか分かんないし、今の内に話し合いしておきましょう」

 

「…いいだろう」

 

いくつかの会話を経て、2人は今後の方針を取り決めた。

 

まず、互いに聞かれた事に嘘をついてはいけない。ただし黙秘は可とする。

互いの行動は集まるたびに報告し合い、互いにその行動の妨害はしない。

上記の決まりに反さぬ限り、それぞれ独自に組織壊滅のために行動してよい、など。

 

「だが、相も変わらず有利なのは貴様ばかりだな」

 

「そ、そうでしょうか?」

 

「ヤツはこの城全てを監視できる。

それを掻い潜れるのは、貴様の珍妙な召喚獣だけだからな」

 

「そ、それは仕方ない事でしょう。

なんですかもう、話が纏まりそうなタイミングでイチャモンつけて!」

 

「安全装置だ。貴様に付けさせてもらうぞ」

 

メルディゲが手に持つ杖で地面を小突くと、魔法陣が出現した。

 

「これを踏め」

 

「な、な、なんですかコレは!」

 

「設置式の魔法。踏めばお前の足裏に刻印が刻まれる。

その刻印がある限り、貴様の命は我が手の中よ」

 

「そ、そりゃ無法が過ぎますよ!

なんで一方的に命握られなきゃならないんですか!」

 

「貴様が裏切れば、私はたちまち窮地に落とされる。

そもそもこれは貴様が持ち掛けた作戦だろう」

 

「しかし、それはいくらなんでも…!」

 

「いいのか?いつまでも話していては怪しまれるぞ?」

 

「…~っ足元見やがって!いいでしょう、踏んでやりますよ!

ただし…契約を結びましょう!」

 

「やっとその発想に至ったか。私は最初からそうするつもりだったぞ。

術師どうしで契約もせずにルールを決めるなど、愚の骨頂だ」

 

多くの流派において、魔術師あるいは呪術師どうしの契約を確かなものにする手段がある。

旧い盟約の魔術、あるいは神の力を借りた契約だ。

 

「し、知ってましたよ!

そうだな……契約が破棄されるまで、お互いに害は加えないこと。

契約の破棄は、相手の目の前で宣言しなければならない。

というのはどうです」

 

「…いいだろう。それだけか?」

 

「それから、さっき決めたルールも合わせて契約にします」

 

「書類にするか?」

 

「ええ。紙に書いておきましょう。もちろん契約書はこちらで用意し…あっ!」

 

今のキルエは神の呪いを受けており、神と繋がることが出来ない。

契約の神の力を借りるジェト族の術は使えないのだ。

 

「そ、そっちが用意してください…」

 

「フン、不用心だな。こちらには有利だが」

 

メルディゲはサラサラと慣れた様子で契約書をしたためる。

キルエは目を皿にして文面を読み込むが、異常は無い。

隠し文字の気配も無い。

 

「せこい真似はせん、本物の契約だ。

はやく血判を押せ」

 

メルディゲの血判の横に、キルエもまた血判を押す。

 

「これで文句はあるまい。さ、踏め」

 

「…わ、わかりましたよ」

 

魔法陣を踏むと、チクリと痛みが走った。

 

「でっ!?」

 

足の裏に、魔法陣が転写されていた。

 

「それが刻印だ。死ぬまで消えんぞ。

私を裏切れば、確実な死が待っていると思え」

 

「そ、そっちこそ。俺を裏切らないでくださいね」

 

「そのために契約したのだろう?」

 

「ええ。それから1つハッキリさせておきたいんですが…」

 

 

 

 

 

 

(ボスの考えは分かるけど、ど~もビビり過ぎてる気がすんだよなぁ。

さっさと殺しちゃえばいいのに)

 

ネネルの側近ツルードは壁をすり抜けながら、キルエとメルディゲが去った方向を追う。

ネネルの命により、2人の会話を盗み聞くためだ。

 

(サクッと殺しとけば理由なんて後でどうにでもなるんだし)

 

ネネルはキルエの隠し玉を恐れ、手を下すのをためらっていた。

 

(ボスを安心させるには、まずキルエくんの出来る事を探るしかないねぇ。

呪術も万能じゃない。要するに今殺しても呪われないという確信さえあれば…)

 

「おい」

 

「うわっ!?」

 

ツルードの眼前に、探していたメルディゲが現れた。

 

「私を追ってきたか」

 

「あちゃ~、会話終わっちゃった?」

 

「ああ。あの小僧にあれこれと聞かれてな」

 

「へぇ!で、何を話したのかな?

隠すのは無しだよ?反逆者扱いされたくなきゃね」

 

メルディゲは、その問いを愉快そうに聞いていた。

普段の仏頂面と反する、狡猾な笑みだ。

 

「隠す?…バカな事を。むしろ打ち明けるつもりだったのだよ。

あの小僧の翻意をな」

 

「…!!」

 

「キルエといったか。

アレはな、自分の父親に反旗を翻すつもりでいるぞ」

 

「なになになに、ちょ、待ってまって!

いきなりなんだよ!?」

 

ツルードは混乱を隠せない。

 

「まず、なんでアンタがそれを俺に教えてくれるわけ!?」

 

「最初からこのつもりだった。

あえて野心を見せる事で裏切り者を誘引し、それを密告する。

これが私の忠誠の在り方だ」

 

「そ、それがまず信じらんないんだけど…なにより!

キルエくんが裏切る理由は!?」

 

ツルードはキルエと話して、その殺意の無さを確かめていた。

それゆえに信じがたい。

 

「それは知らん。貴様が直接確かめればいい」

 

「…いや、やっぱいいや。

あの子アンタの事信用してるんでしょ、ある程度。

だったらさ、殺っちゃえよ」

 

「それは出来ん。信用を勝ち取るため、ヤツと契約を交わした。

契約破棄を宣言しない限り、互いに攻撃は出来んのだ。

…だが私以外なら、ヤツに危害を加えられる。分かるな?」

 

メルディゲは暗に、ツルードをけしかけていた。

 

「お生憎さま。功を逸るほどの出世欲は無いの、アンタと違ってね。

まずは真偽のチェックと情報収集、次にボスへの報告。

殺すかどうかはボスが決めればいい。誰に殺させるのかもね」

 

だがツルードの心は揺るぐ事がない。

全ては他人事だからだ。

それはある意味、忠誠心より強固な行動原理だった。

 

「チッ…明日、私の部屋で会う事になっている。

聞きたい事を教えろ。私からヤツに話題を振ってやる」

 

「いいね。じゃ、そういう事で」

(…こりゃビックリだ。この裏切り野心ハゲが役に立ってくれるとはね。

どうせボスに取り入るためだろうけど…コイツの始末はまた後で決めればいいや。

とにかく今は、キルエくんだ)

 

 

 

 

 

 

「この少女たちは…!」

 

「やっと見つけたよもぉ~!」

 

半魔のエリン・メルトを両肩に負った騎士は、グランスタールの代表指揮官を前にしても畏まる事が無かった。

 

「あちこち歩き回ってもさぁ、全然味方に会えないんだもんさぁ!」

 

「え、ええと…貴方はキャメロット王国のケイ卿だったか」

 

「ん?あそうそう。

…じゃ、この子たち置いてくから。面倒見たげてね」

 

ケイは無造作に少女たちを放り捨てると、つかつかと歩き去っていく。

 

「あ、ああ、分かった…おい!

彼女らを医療班の所までお連れしろ!」

 

「了解」

 

兵士が2人を連れていくのを見届けようとしたが、ふと我に返ってケイの方を振り向く。

 

「ま、待ってもらいたい!ケイ卿!」

 

「え~?やだよ、俺モードレッド探してんだもん。

あ、知ってる?女顔のイケメン小僧なんだけどさ」

 

「い、いや、彼の行方は分からないが…頼みがある!」

 

「だるいなぁ…何よ」

 

「…これを見てくれ」

 

指揮官が示したのは、無貌兵の死体だ。

兵士たちが取り囲み、調べている。

 

「今、コイツらの仕組みについて調べている」

 

「仕組み?仕組みって何の」

 

「コイツらは、恐らく人間ではない」

 

「え?マジで?」

 

「今まさに調べているところだが…くっ、やはりダメか」

 

無貌兵の死体はドロドロに溶け、黒い粘液となって石壁や床の隙間に吸い込まれ、消えていく。

 

「コイツらはどうやって生まれているのか。

どうやってこれだけの隠密や戦闘の技術を身に着けているのか。

それさえ分かれば…!」

 

「で、結局俺にどうしてほしいのよ」

 

「…コイツらを生け捕りにする。

そして彼ら医療・魔術の知識がある兵たちに分析させたい。

だがコイツらは強い…生かして捕らえるのは難しいのだ。

しかも捕まりそうになると全力で自殺しようとする…機密保持のためだろう」

 

「ふぅん…虫捕まえるのは得意だけどね。

ていうかさ、捕まえたとこで分析できるの?」

 

「それは何とも言えん。知識があるとはいえ、専門家ではないからな。

しかし全力を尽くして…」

 

「呼ぼっか?」

 

「は?…だ、誰を?」

 

「詳しそうな人。うん、そうしよう」

 

そう言うとケイは、懐から何か高級そうな宝石を取り出した。

…それは円卓の騎士にのみ与えられた、『極限の窮地にのみ使用を許される』アイテム。

円卓の騎士たちがそのプライド故に絶対に使う事が無いアイテムを、ケイは思いつきで使った。

 

「じいちゃんカモン!」

 

宝石が輝く。

 

「な、なにを…!?」

 

輝きは光の帯になって解け、人型の像を結ぶ。

 

「なぁ、なんなんだコレは!?」

 

「だから。詳しそうなじいちゃんを呼ぶんだってば。

…あ~、でもこれ他国の人の前で使っちゃダメなんだっけ。

まぁいいよね?」

 

『うん?まぁたケイくんか』

 

光の像はザラザラとした声で話し始める。

半透明の老人の姿を取ったそれは、声の老いには似合わぬ若々しい口調だった。

 

『また寂しくなったから連絡してきたとか?

別にいいよ、話し相手になろうか?』

 

「わーっ!それ言うなよ人が居る前でぇ!

あれガキの頃だし!」

 

『いや、恥ずかしがらなくてもいいよ。

騎士たちは誰も使ってくれないじゃない、せっかく渡したのに!』

 

「いやその話はいいんだって、それよりほら!」

 

突然現れた立体映像の老人に驚きを隠せない指揮官だが、驚きはもう1つあった。

 

「あ、あの…」

 

『ん?ああ、こんにちは!キミは…』

 

「もしや貴方様は、キャメロットの大魔導師…!?」

 

『おっと、ゴメンね。聞く前に名乗らないとね。

僕、魔法使いのマーリン。よろしくね』

 

「ま…」

 

キャメロット王国建国の父にして、永遠を生きる賢者。

キャメロットが魔法技術で他国の1000年先を行くと言われている理由。

偉大なるマーリン。

 

『で…キミの名前は?』

 

〈つづく〉

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