異世界でいっちょ噛みするだけ。   作:ゴリラプリン

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第72話 迫る死の予兆

無限に湧いて出る無貌兵たちの仕組みを調べるグランスタールの兵士たちだったが、死体はすぐに溶けてしまい、調査は難航していた。

そこにキャメロットのケイが現れ、傷ついた勇者の仲間を預けに来た。

指揮官は無貌兵を生け捕りにすべくケイに協力を願うが、ケイは魔道具を用いてある男を呼びだした…

 

『僕、マーリン。よろしくね。

で…キミの名前は?』

 

「…あ、グ、グランスタール陸軍大将、バワード・リキタスです。

貴方はキャメロットの国父と名高き魔術師の…?」

 

『うん、キャメロットのマーリンだよ。

ええと、何か用かな?』

 

「あ、え、ええと…」

 

指揮官がチラリとケイの方を見ると、ケイは手でどうぞどうぞと促した。

 

「敵が無貌兵と呼称している、人ならざる兵士が居るのです。

いくら倒しても気づくとまた現れる…!明らかに異常な物量なのです!」

 

『それってさ、模様の無い仮面付けてる子たち?』

 

「えぇまさに!…あの、ご存じなのですか?」

 

『いやそこに居るし』

 

「…ッ!?」

 

指揮官が前を向く。先には暗闇が広がるのみだ。

 

「…あの、どこにも居ませんが?」

 

「いや、爺ちゃんの言う事は当たる。来るよ」

 

暗闇から突然、仮面の兵士たちが飛び出してくる。

 

「なんとっ…見えておられたのですか!?」

 

『まぁさすがにね。その場にいなくても、それくらいはさ』

 

「ちょうどいいから捕まえようか!」

 

ケイは真っ先に駆け出す。

 

「要はさ、抵抗できなきゃいいんでしょ?」

 

刃が閃き、2人の無貌兵が同時に四肢を奪われる。

 

「ダメだ!そんなに傷を負わせたら…!」

 

「血がいっぱい出ちゃうよね。だから止めるの」

 

ケイの手のひらが熱を帯びる。

 

「他の敵はそっちで対処しといて。

ちょっと取り込み中なんで」

 

「…ッ!!」

 

傷口を焼き塞がれて、無貌兵たちが苦悶する。

 

「ほら暴れないでよ…よし。

これで抵抗できな…あっ!」

 

突然、無貌兵たちの頭部が爆散し、仮面の破片と血肉が散乱する。

 

『ひどい事をするなぁ…頭の中に術式を埋め込んである。

捕まったら自爆するように言われているんだ』

 

「わ、分からないのでお聞きしたいのですが!

この兵士たちに…くッ、恐怖というものは存在しないんですか!?

捕まったら死を選ぶなど…言葉では簡単に言えても、実行するのは容易でないはず!」

 

『洗脳、なのかなぁ?

少なくとも誰かが操ってる様子は無いね』

 

「ちょっとじいちゃん、捕まえるの手伝ってくれない?

こっち来てよ!どうせ暇じゃん?」

 

『あ~…ごめんねぇ、そうしたいんだけどねぇ』

 

老人の幻像が、申し訳なさそうに眉尻を下げる。

 

『今自分がどこに居るか分からなくてねぇ』

 

「あちゃ~、また転移魔法おもらししちゃったの?」

 

『うん。自分の場所が分からないと、そっちまで飛べないんだぁ、ごめん』

 

マーリンはたびたび、望まず世界各地に転移する。

そのたびに自分の位置を確認せねば、帰ることすらままならないのだ。

 

「仕方ないなーもう!

自爆をやめさせる方法とかないの?」

 

『う~ん、自爆術式って魔法使いの最後の手段みたいな感じでさ。

強い魔力を通さないと起爆できないはずなんだけど…。

この兵隊さんたちから、そんなに強い魔力を感じ取れないんだ』

 

「つまり起爆スイッチは外付けという事ですか!」

 

指揮官が無貌兵の1体を押し倒し、剣の柄で顔面を殴打する。

 

「このっ…大人しくしろ!!」

 

仮面が叩き割られると、褐色の男の虚ろな目が露わになった。

動きが止まる。

 

「…?」

 

兵は躊躇なく舌を噛もうとしたが、指揮官が口に指を突っ込んで阻止する。

 

「よ、よし、手足を奪ってくれ!」

 

「うん。…なんか抵抗してこないね?」

 

「ああ……その、マーリン様」

 

『マーリンでいいよ。なぁに?』

 

指揮官は指を噛みちぎられそうになりながら、一つの仮説を頭に浮かべていた。

 

「この仮面が、奴らを動かす装置になっている…とは考えられませんか?」

 

『うん?……うん。ありえるね、ちょっと見せて』

 

マーリンは屈み込んで、砕けた仮面を見つめる。

 

『直接見てる訳じゃないから、確かな事は言えないよ?』

 

「構いません。大魔導師の所見をお聞かせ願いたい」

 

『…この仮面には、呪いが掛けられている。これは事実だ。

それが、被った人を操る呪いだとしても不思議じゃない。

そうすると、この仮面に溜め込まれた魔力にも納得がいくねぇ』

 

「と、おっしゃいますと…?」

 

『仮面によって、この兵隊さんの脳みそに戦闘技術を植え付けているのさ。

仮面に教えられた通りに動き、戦い、自害するようになってる。

そして捕まりそうになると、仮面に宿った魔力が脳内に流れ込んで自爆する仕組みだ』

 

「で、ですが仮面を外してもコイツは自害しようとして…」

 

『洗脳って怖いよ、解除しても残る場合があるからね。

単純な命令なら実行させられるんだ、例えば…【舌を噛む】とかね』

 

「…そうか!我が国でもそのような事件があった…!」

 

あるカルト教団が洗脳魔術で信者を集めていたとして逮捕されたが、洗脳を解除された信徒が一部自殺を試みたという【ヤハブ教団事件】は、彼らグランスタール国民の記憶にも新しい。

信徒から情報が漏れる事を恐れた教祖は、洗脳を解かれたら自殺するように暗示を掛けていたのだ。

 

「これほど単純な事に気付かなかったとは…!

しかし…2段構えの自害とは。それほどまでに分析されたくなかったのか」

 

この仕組みを作った者…おそらくはドゥロワ・ネネルの悪辣さと用心深さに、指揮官は舌を巻いた。

 

「マーリン様、分析をお願いしてもよろしいでしょうか」

 

『うん。…うん?なにこれ』

 

「マーリン様?あの、早く分析を…」

 

『いやもう分析は終わったんだけどさ。

これ、ホムンクルスだね。造られしヒトってやつ』

 

錬金術は大国グランスタールでも研究が始まった分野だが、手近な火薬や燃料の研究が主で、貴金属の生成や生命の創造は絵空事という扱いであった。

 

「まさか…兵器利用が可能なレベルまで進歩していたとは。

いくらネネルがかつて神秘研究者だったとはいえ…」

 

『そうだよね。ちょっと進み過ぎてるよ。

だってさ、身体を作るのも難しいのに、魂なんて作れるのかな?』

 

「魂の創造…まるで神気取りか。

この城を奪った数週間で、ここまでの準備を整えられるとは思えん。

…それ以外に気になった事は?」

 

『後は…ふぁ…眠いな』

 

「マーリン様!?」

 

「じいちゃんすぐ寝るんだよ。歳だからな」

 

「も、もう少しだけ頑張っていただけませんか…!」

 

老人は頭を振って合間に頷く。

 

『ごめんね…ええと、気になるのは…そう、錬金術を使ってるようには見えないって事だ。

なんか術式とか原理とか、そういうのをすっ飛ばしてる気がする。

分かりにくくてごめん…』

 

「いえ、ご協力感謝いたします。…総員集合!」

 

「「「はッ!」」」

 

2・30名の兵士たちが、狭い廊下の一点に集まる。

 

「あらら、こんなに居たの」

 

「お前たちはこの情報を他の部隊に伝えろ!

1人でも多く情報をばら撒けば、それだけ対応策も多く用意できるハズだ!」

 

「「「了解!!」」」

 

兵士たちは2方向に別れ、廊下の先の闇へと飛び込んでいく。

 

「あらら。全員行かせていいの?1人になっちゃうよ?」

 

「今は仕方ない。それに貴方も居る」

 

「いや~頼りにされてもなぁ~!困っちゃうなぁ~?」

 

まんざらでもなさそうにニヤつくケイの顔の真横を、何かが高速で横切った。

 

「…?」

 

それは金属と肉が潰れて混ざり合った、奇妙な塊だった。

 

「……!!」

 

ぐちゃ、ぐちゃ、ぐちゃっ。

血と鉄の練り物が、何個も闇の奥から投げつけられる。

 

そして最後に闇から現れたのは、バイカケット帽にアルスターコートを身につけた、銀髪の美女。

美貌以上に目を引くのは、身体の何倍もあろうかという大金槌。

血に塗れ、すでに多くの何かを叩き潰した跡が見える。

 

「どこへ行く。貴様らはここで行き止まりだろう?

”死”という行き止まりだ」

 

「貴様…ッ」

 

満面を怒りに染めた指揮官だったが、逃走を選ぶのは早かった。

太刀打ち出来ぬと知っているからだ。

 

「あれ、逃げちゃうの?」

 

「ああ。貴方が戦うのなら止めはしないが、私は逃げる。

アイツは…【鎚葬者】リュリはケタが違う!

まさかあの女まで裏切っているとは…!」

 

「に、逃げられませんよ、フフフ」

 

逃げた先からも声。

闇より現れたのは、6本の腕を持つ牛頭の魔族。

兵士たちの死体を引きずり、歩いて来る。

 

「誰だ…!」

 

「あ。この感じ…会った事ある。

あの人形操ってた人?」

 

「ええ、お久しぶりですねケイ卿。

人形を新調してきましたよ、ウフフッ!」

 

ケイは本能的に、ザバダカを襲撃したあの人形使いであると理解した。

 

「人形…そうか、【傀儡王】モースか!!」

 

「そ、そ、そちらは…初めましてですかね?

申し訳ありませんが、あなた方を逃がす訳には行けません」

 

「会ってしまったからには…な」

 

リュリとモースが、左右からジリジリと迫る。

 

「それに、無貌兵の情報も手に入れたようですね…生きて帰す訳にはいきません」

 

「…下がれ、お前たち」

 

ほとんどの兵士が、今の一瞬でたった2人の敵に葬り去られた。

兵士は精鋭揃いだが、それでも超えられぬ壁はある。

そしてその壁は自分も超えられぬものであると、指揮官は理解していた。

 

「ケイ卿。どちらか1人任せてもよろしいか」

 

「え?戦う気?死ぬよ?」

 

「ハッキリ言うな…仕方あるまい。

それとも、この2人をまとめて倒せるというのならお任せするが」

 

「2人かぁ…俺ランスロットじゃねぇし無理かな。

片方ずつなら倒せそうだけど」

 

「頼もしいな。では片方を倒すまで…もう片方は私が足止めしよう」

 

 

 

 

 

キルエは何を思ったか、メルディゲと組んで父ネネルへの反逆を企てる。

そのためにメルディゲの部屋へと行き、打ち合わせる事になった。

しかしその裏で、メルディゲはツルードとも通じていた…

 

「来たか」

 

「ど~もど~も!」

 

メルディゲの部屋、城の内部図をあちこちに張った光景を見回してキルエが言う。

 

「これ、どうやって調べたんですか?」

 

「…互いに嘘は無し。だが黙秘は許されるんだったな?」

 

「まぁいいですけど…なんでもかんでもダンマリはやめましょうね。

で、今後の方針どうします?」

 

「その前に。…誰にも見られてはおるまいな」

 

「大丈夫ですって、そのためのコイツでしょう」

 

キルエが肩に乗った小さな生き物を指でつつく。

視線を感じ取って表示するだけの召喚獣、ミランミ。

額のような部分に、2本の縦線が入っている。

 

「視線の数は2、つまり俺とあなただけ」

 

「そうだったな。ボスは見ていないらしい」

 

そう、キルエとメルディゲ以外誰もこの光景を見ていない。

”見て”はいない。

 

(話し始めたか…)

 

壁の中から仮面を被った顔だけを突き出し、2人の会話を盗み聞く者がいた。

ネネルの側近、万物をすり抜ける能力を持つツルード。

今は壁に貼られた図面の裏にいる。

 

『いいか。キルエの肩には召喚獣が乗っている。

これは視線を感知できる…つまり、自分の視界を塞げ。

目を閉じるなり、何かの裏に隠れるなりすれば簡単だろう』

 

(なかなか用心深いようだけど、詰めが甘いね。

ボスならもっと執拗に隠蔽する)

 

「で、これからどうします?

それぞれ父上を脅かすために動く訳ですが」

 

「無貌兵を潰す。そのために立ち回るとしよう」

 

「出来るんですか?どこで兵を作ってるか知ってるんです?」

 

メルディゲは肩を竦め、首を横に振る。

 

「だが手がかりはある。その情報を秘密裡に敵勢へと流す。

奴らに探してもらうとしよう。

無貌兵が無ければ、あの男とて城内の鎮圧には苦労するだろう。

貴様はどうする?」

 

(そうそう、キルエくんに話題を振ってくれ。

呪術に関する情報…彼の能力の全貌が分かれば言うこと無しだ)

 

「既に色々動いてますよ。

チンピラが余計な事しでかさないように、財宝探しに集中させたり」

 

「あれはそういう意図か。…もっとも、それだけが目的とも思えぬが」

 

「そりゃまぁ…ねぇ?貰えるもんは貰っちゃいますよ」

 

「フン、下らん…で、これからは何をする?

今後の動き、という話だったはずだ」

 

「う~ん、それなんですよねぇ。

正直俺なんてクソザコですし~…」

 

「それは見れば分かる。…そもそも何が出来るのだ、貴様は?

異名の【忌み屋】ばかりが轟いて、実体は何も見えん!」

 

「え?轟いてるんです?そりゃ光栄だなぁ」

 

「ごまかすなよ。聞かれたら嘘偽りなく答えるのだろう?

それとも黙秘するか?ダンマリは良くないと言ったその口で」

 

キルエのため息。

 

「嫌味な言い方しますねホント…何も出来ませんって!

身軽だし足の速さにはそこそこ自信ありますけど、それこそ上はいくらでも居るし。

ガキなんで力も無いし、背が低くて相手の急所を狙うのも一苦労だし!」

 

「拗ねるな、主題はそこではない。

…呪術が使えるのだろう?それこそ、その左目の魔眼を使った術も」

 

(…魔眼か。そういやハゲが教えてくれたっけな。

まぁボスなら先手さえ取れれば問題ないな)

 

「呪いだって万能じゃないんです!

事前準備だの発動条件だのがクソ面倒くさいし、タイミングだって正確に計らなきゃいけない!

今はちょっとアレですし!」

 

(アレ?…頼むぞハゲ、上手く掘り下げろよ)

 

その思念が通じた訳ではないだろうが、メルディゲが聞き咎める。

 

「おい、アレでは分からんぞ」

 

「う~ん…ま、ちょっとした体調不良ってとこです。

呪いも大したものは使えない状態でして」

 

「ではまるで役に立たんと?」

 

「少なくとも今は期待しないでください。

なんとか1つの術の準備を進めてるとこですから」

 

「…術、だと?」

 

「ええ。これが発動すれば…エライことになりますよ」

 

(っ!?)

 

ツルードの集中力が、急激に高まる。

 

「…どうなると言うんだ」

 

「それはちょっと言えませんね。

ですがこの術を完遂するまでは、死ぬ訳にはいきません」

 

「準備にはどれくらい時間が掛かる?」

 

「早ければ明後日にも」

 

(…マズい。時間が無い。

早い内に対処したいところだが…まだ情報が足りないなぁ…!

アレを聞いてくれよ…)

 

そこでメルディゲが、またしてもツルードの欲しい質問を差し込む。

 

「身を守る対策はしておらんのか?呪術やらで」

 

「あ~…そうしたかったんですけどね。

呪いってのは守るより傷つける方が得意なんですよ」

 

「だが、呪いというなら報復は得意だろう?

自分を殺した相手を殺す術、とかな」

 

(そこだ。ボスが一番恐れてるのは。

下手に刺激すると何が起こるか分からない…それが呪術師の怖いとこだ)

 

キルエのかすかな息遣いが聞こえる。

それが笑いだとツルードが気付いたのは、次の言葉を聞いてからだ。

 

「それ、意味無くないですか?

相手を殺せても自分が死んでちゃ世話ないでしょ!

ていうかそんな術使えないし!」

 

「使えんのか?使わんのではなく?」

 

「ええ。一応ジェト族にはそのような術が伝わっていますが、なんか俺には適性が無いみたいで。

怨みとか…執着が薄いからですかね?」

 

その言葉には、信じるに値する真実味があった。

 

(…確信した。今キルエくんを殺しても問題は発生しない!

報告するには充分な情報だ。彼には死んでもらおう)

 

〈つづく〉

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