異世界でいっちょ噛みするだけ。   作:ゴリラプリン

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第73話 抹殺の決断

巨躯を持つ牛頭の魔族が、魔皇城の廊下に立ち塞がる。

それぞれ武器を持つ6本の長い腕が、廊下いっぱいに広がって行く手を阻んでいた。

【傀儡王】モースが直接操る生き人形は、その巨大さに見合わぬ精妙な動きを可能にするのだ。

 

「貴方とここで会えたのは僥倖です!

あの時貴方の脅威性はよく理解しました…ここで死んでいただきますよ!」

 

6本の腕から放たれるは、武器と魔法の乱打。

災害と見紛う攻めに対抗するのは、たった1人の、2本腕の男。

その名はケイ。キャメロットに勇名を轟かす【円卓の12人】の1人。

 

「懲りないね、人形の人。

俺にどうやって負けたかもう忘れた感じ?」

 

ケイが生き人形の腕を掴み、力を込める。

同時に手のひらが赤熱し、人形の表面を焼く。

そう、表面しか焼けない。

 

「……?」

 

「熱を通さぬ表皮です。貴方の体質には懲りました。

その攻撃はもう効かない!」

 

破城槌めいた蹴りが、ケイを吹き飛ばした。

 

「おっと、ととと!」

 

軽く衝撃を受け流すも勢いあまって数歩下がり、何かにぶつかる。

 

「ごめんごめん」

 

「ケイ卿…」

 

グランスタールの指揮官だ。

 

「どう、です…そちらの…ゲホッ、戦況は…?」

 

「そっちほどは悪くないよ。

悪いけど、もうちょっと耐えてくれる?」

 

「え、ええ。問題は…ありません…!」

 

「問題ない、か」

 

銀髪の女が、大金槌を引きずりながら歩み寄る。

 

「そのザマでよく吼える。

アレかな?馬鹿なのかなぁ~?」

 

表情も口調も、異常なほどコロコロと変わる。

 

「狂ったか…!」

 

「ハ?俺様が狂ってるってか?

その通りです。誰がそうしたと思います?」

 

「があッ!」

 

喉輪を掴んで持ち上げる。

人間の女の膂力で、鎧を着た大の男をだ。

 

「やはり…ぐッ。ケタの違う戦士は居るものだな…!」

 

「ベラベラとやかましい。言葉が軽いな。

人間共はいつもそうだ。言葉に責任の重みが無い」

 

「なぜ…外道に堕ちた…!」

 

「外道?外道とは、命懸けで戦った者を迫害する馬鹿共のことだ。

覚えているか?【傀儡戦役】を生き延びた者たちに、貴様らが何をしたか」

 

生き残ったわずかな者は、己の所属する軍、あるいはギルドへと帰った。

だが組織は『生き人形にされている可能性がある』として、これを拒絶したのだった。

もちろんこれは公式な対処ではない。現場の者が帰還者を拒んだのだ。

 

軍やギルドの上層部はなんとか間を取り持とうとしたが、厄介な事に生き人形は人間と見分けが付かない精巧さだった。

簡易的な改造の場合は球体関節が剥き出しになっていて分かりやすいものもあったが、それ以外はほとんど人間と変わらぬものばかりである。

 

そして最悪の事態が起きた。

一部の過激派が、生き残った者たちを襲撃したのだ。

 

「お前たちは、人間に拒絶された…それがネネルに付いた理由か…!

だがそれならなぜ、モースと手を組んでいる…!?」

 

「貴様に恨みは無い。だが殺すのに躊躇も無い。黙って死ね」

 

「がぁああああッ…!」

 

絞められた喉が、断末魔めいた苦痛の喘ぎを吐き出させる。

そして首肉にめり込んでいくリュリの手に…火球が命中した。

 

指揮官を取り落とす。

 

「っ…羽虫が」

 

部下の魔術兵が放ったものだ。

 

「はァーッ、がはッ…ば、馬鹿者!逃げろと言ったはずだ!

貴様らには情報を届けるという重大な役目があるのだぞ!」

 

「既に1人は逃がしました、我々は閣下にお供します!」

 

「ほう、将器はあるらしいな。では貴様らから死んじゃおっか?」

 

焦点の合わぬ目で兵士を睨み、大金槌を振り上げた。

 

「魔導兵、放てーっ!!」

 

「あ?」

 

押し寄せる雷。

大金槌が壁となって全てを防ぐ。

 

「フン…増援か」

 

「お前たちは…!」

 

「ご無事か!バロネリア第1部隊が参上したぞ!!」

 

バロネリア帝国の代表、元帥が直々に部隊を率いて現れた。

もちろん図って現れたのではない、空間ごと歪められた城内を彷徨って偶然辿り着いたのだ。

 

「バロネリア?ああ…ネネルの後釜に座ったのが貴様か」

 

「あの男は我が国の汚点…この手で濯がねば誇りが廃る!!」

 

「下らん…だが、珍妙な光景ではあるな」

 

両国の指揮官を指差す。

 

「大国グランスタールとバロネリア。

軍の最高責任者が、この廊下に2人も詰めかけるとはな。

いや、円卓の騎士も入れれば3人か?」

 

本来攻城戦にあるまじき状況だが、城外からの指揮が出来ないこの戦争ならではの光景だった。

 

「一度に3国の将を討ったとなれば、話の種にはなるか」

 

「【鎚葬者】リュリ!貴様の強さは知っている!

だが貴様は人間!魔物でも、竜でもない!!」

 

バロネリア元帥が高らかに呼ばわる。

 

「数は、力だ!!…放てぇーッ!!」

 

「私は魔物なんですがねぇ。リュリさん、頭」

 

リュリが頭を下げると、そこを通過して斧が飛んでいく。

それは空中で分裂すると、バロネリアの魔術兵を鏖殺した。

 

「…手を出すな。傀儡王」

 

「しかし手が空いていましたので」

 

モースの生き人形は、4本の腕でケイを押していた。

 

「ごめん、バロネリアの人…ちょっとそっちまで守れる余裕ないかも…!」

 

「…ふ、不要です!怯むな、突撃ーッ!」

 

リュリがモースを睨みつける。

 

「モース。そこまで言うならいいだろう、交代だ!」

 

「そ、そうしましょう」

 

大金槌を振り回し、後方に下がる。

グランスタールの指揮官がよろめきながら飛び退き、兵士たちがこれを受け止めた。

同時にモースの人形がケイを押しのけ、前方に走り出す。

 

「こらこら、行かせないってば!」

 

ケイは追いすがり、無防備な背後から渾身の一撃で斬り付ける。

直撃こそしなかったものの、右腕の1本は切断された。

 

「その腕は差し上げます!

この人形には自己修復機能がありますゆえ!」

 

モースとリュリはすれ違い、戦闘相手を入れ替える。

リュリ対ケイと、モース対バロネリア。

 

「腕は5本でも身体は1つ!

落ち着いて動きを見れば数で押し込めるはずだ!!」

 

「れ、冷静ですね…多腕の魔族に対しての的確な対処法です」

 

突然モースの腕関節が異常な方向へと曲がり、四方八方へと攻撃をばら撒く。

 

「ぐぁああああッ!!」

 

「人形相手でなければ、ですが…」

 

兵士たちは瞬く間に切り刻まれ、焼かれ、凍り付いていく。

人形の身体に予備動作など存在しないのだ。

 

「円卓の騎士。その命貰うぞ」

 

一方リュリはそう言うが、ケイは答えない。

切り落とした人形の腕を拾い、それを半透明の老人に見せていた。

 

「…誰だ、その男は。何をしている!」

 

「じいちゃん眠たいとこ悪いんだけどさ、もうちっと頑張ってくれる?」

 

老人は横たわりながら、ぼそぼそと何か言った。

 

「ふむふむ。…ええ?そうなの?

じゃあせっかくだから頼むよ。うん…うん。ありがと。

もう寝ていいよ」

 

そして老人の姿は霧のように掻き消えた。

 

「バイバ~イ、マーリン爺ちゃん」

 

「答える気はないか。じゃあ死ね」

 

「ん?あ、俺に聞いてたの?

ごめん、悪いんだけどさ。急用が出来ちった!」

 

「は?」

 

ケイは突然背を向け、廊下の奥へと走り出した。

 

「おいッ…逃げるのか!」

 

バロネリアの兵を肉片に変えながら、モースが振り向く。

 

「……まさか。

リュリさん!今すぐっ、今すぐ追ってください!!」

 

「言われんでもそのつもりだが…どうした!」

 

「今、辿られました!!逆探知です!!」

 

「辿られただと?何が…」

 

優れた人形使いは遠方からでも人形を操る事ができるが、どんな人形使いでも糸を繋げる必要がある。

それは本物の糸であるにせよ、思念の糸であるにせよ、繋がらなくては動かせない。

その繋がりは、逆に使い手の居場所を辿らせる手がかりにもなり得るのだ。

 

「ケイ卿は、私の本体を探しに行ったのです!」

 

「バカな…我々にすら隠している貴様の部屋が、どうしてアイツに分かる!?

だいたい、扉を閉じている限りは外から入れないはず!」

 

「今は扉を半開きにしています!せざるを得ないのです!

部屋に籠って外界から切り離された状態でも、私なら人形を操れる…ですが!

この人形だけは別なのです!」

 

本来、空間的に切り離された場所から人形を動かす事はできない。

モースがそれをやれるのは、彼の特殊な体質ゆえなのだ。

 

だがそんな彼でも、今のように全力で人形を操る時はそうはいかない。

 

「私が追っていいのだな?」

 

「え、ええ!あなたは私をお嫌いでしょうが、私はあなたという戦力を評価しています!

私の本体はお任せしました!」

 

リュリも走り出した。

 

「……さて。とんだ事になってしまいました。

私も急いであなた方を片付け、追い掛けねばなりません」

 

人形の背から、無数の針が突き出す。

 

「リュリさんが行ったので、ようやくコレが使えます。

ま、巻き込まずに済みます…ね!」

 

爆発のように針が炸裂する。

針といっても1本1本が槍めいた太さを持つそれは、周囲に無差別な死を撒き散らした。

 

「マズいッ…【伝承武装】ッ!」

 

グランスタールの指揮官が、兵士を突き飛ばす。

そして大盾を生み出し、針を防いだ。

 

「な、なんと手強い…これで殺しきれませんか」

 

盾の後ろにいた指揮官と数名の兵士は生き延びた。

それ以外の何名かも、運良く周囲が肉壁になって、あるいは剣技で弾き返して生存した。

 

「く…なんという殺戮兵器だ…!」

 

「しかし、あなた方を生かしておく訳にはいかない」

 

突然、針がズブズブと死体の中にめり込んでいく。

貫くのではなく、体内に入り込んでいくのだ。

 

「あ・あ・が・あ・ああ…」

 

死体は、呻きながら1人また1人と立ち上がる。

 

「…貴様ァ…ッ!!」

 

「撃ち込んだのは傀儡の針です。体内に入り込んで無理やりに動かす。

では私はこれにて。後はお任せいたします」

 

即席の傀儡が、生き残りの前に立ちはだかる。

 

「逃げるか、外道がァアアアアアッ!!」

 

バロネリアの兵士たちは激昂するが、傀儡に阻まれて後を追えない。

 

「おのれぇええええッ…!!」

 

「私に任せろッ…!」

 

指揮官は大盾を持って死骸人形を踏み越え、モースの前に立ち塞がる。

 

「おやおや…」

 

「ここは通さん!バロネリアの【伝承武装】を味わえ!!」

 

「き、聞いた事がありますよ。創造魔法の一種。

伝説上の武具を再現したソレは、人々の信仰によって補強され、力を増すとか」

 

創造魔法は、何でも作れてしまうが故に、強いイメージ力が必要になる。

実在する伝説や神話をなぞる事で、それを確かなものにするのが【伝承武装】である。

 

「そうだ…そしてコレは【伝承武装】の奥義…【生涯武装】。

自分自身の生き様を体現した武装を作り出す…それがこの盾だッ!

伝説は、それを信じる者たちによって強くなるッ!」

 

「し、指揮官殿…ッ!」「我々は…くっ!信じております!」

 

「見よ!我が部下と私自身の信念によって、この盾は不壊とな…」

 

「なるほど」

 

5つの腕が同時に魔法を叩き込むと、盾はパリンと砕け、指揮官は爆散した。

 

「し、指揮官殿ぉおおおおおッ!!」

 

「お見事です。信念がこれほどの硬度を生むとは。

でもこの人形の方が強かったようですね」

 

人形は振り返る事なく、指揮官の死体を跨いでケイの後を追った。

 

 

 

 

 

「で、分かっちゃった訳だけど。どうすんの?ボス」

 

ツルードはキルエの情報を盗み聞きした後、その足でネネルの下へと向かった。

 

「召喚獣ミランミ。そして魔眼とそれを用いた魔瞳法ね、ふむふむ。

厄介な術だし、彼の事だからまだ何か隠してそうだねぇ」

 

「…いや、そこじゃなくて!

今キルエくんを殺しても、呪われる事は無いって事ですけど!

それどころか、すぐにでも始末しないとマズい事になるって!」

 

「それさぁ…ホントかな?」

 

真魔皇は、猜疑と愉楽が融け合った複雑な情動を瞳に宿した。

 

「は?」

 

「こっちが慌てて判断を焦るように、わざと聞かせたんじゃない?」

 

「あのっ…ねぇ!向こうは俺が居ると知らずに話してたんですよ?

実際、メルディゲがチクらなきゃ俺だって知らなかったし!」

 

「そのメルディゲくんが、嘘をついてないって証拠は~?

その首飾りは、キルエくん専用にチューニングしてあるんだよ」

 

ツルードの首に下がった首飾りを指差す。

これもまた、ネネルが研究によって生み出した試作魔道具の1つ。【真実くん1号】。

トレースした相手の全身の魔力の波長や脳波を感知し、嘘の気配を察知する。

とはいえまだまだ未完成の機器であり、精度は低い。

 

「自分で作った発明品でしょ?信じましょうよ」

 

「信じてはいるよ、性能相応に、ね」

 

キルエとメルディゲの会談を盗聴していた時、この首飾りを着けてキルエの言葉の真偽を確かめていたのだった。

 

「少なくとも、真実確定の台詞があります。

まず『自分を殺した相手を呪い殺す手段は無い』ということ。

そして『ある術の準備をしていて、成功すれば凄い事になる』ってこと。

これだけ分かれば、出来る命令があるでしょ?ボス」

 

「…教えてくれ。何だいそれは」

 

「俺に、『息子を殺せ』と命じてください。

そしたら俺がこの手で、あの子を始末してきます」

 

「ふむ…その意味が分かって言っているのなら、キミは実に奇特だ」

 

それは、全ての責任とリスクを自分が背負うという宣言である。

 

「もし、この首飾りがポンコツだったとしましょう。

キルエ君が死んだ時、復讐の呪いが発動するかもしれない。

それが心配なんですよね?」

 

ツルードの声は、聞かん坊の子供を宥めるような調子だった。

 

「だとしても、呪いで死ぬのは実行犯の俺だけ。

さすがに命令した人まで辿って殺すのは無理でしょう。

まぁ念のため命令せずに、俺が独断で動いたという事にしたっていい」

 

「そこまでのリスクを背負う理由が無いように見えるけど?」

 

「いやいや、こりゃゲームですよ?

手を抜いて勝てるならともかく、最善手を出さずに負けたらクソつまんねぇでしょ?」

 

「そのたかが一手のために、キミは死ぬと?」

 

「ご存じでしょ。俺は全ての攻撃をすり抜ける。

リスクさえ取らなきゃ無敵。絶対に負けない楽勝人生な訳よ。

だからぜ~んぶ他人事でしかない、つまんねー生活だった。

でも今は楽しいっすよ!ごちゃごちゃ殺し合って、奪い合ってるのを間近で見られる!

しかも時々ちょっかいまで出せる!」

 

「つまり…楽しいからそうするってこと?」

 

「そ。でもそれはルールが分かるから、観戦するのが楽しいんすよ。

呪術みたいな訳わかんねーもので盤面めちゃくちゃになっても、シラケるだけ。

だって『そんなん何でもアリじゃん』としか思えないもん」

 

「そこは意見の相違だね。僕はそういうカオスこそ望む所なんだけど…うん。

だったら、好きなようにしてみたら?命令はしないけど。

とりあえず決着がつくまで、僕がキルエくんを監視して逐一教えるよ」

 

「っしゃあ!じゃ、サクッと殺してきちゃいますね」

 

この時ようやく、キルエの殺害が決定された。

 

〈つづく〉

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