異世界でいっちょ噛みするだけ。   作:ゴリラプリン

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第75話 円卓血風伝 脅威の聖剣

モースの部屋へと急ぐケイ、その後を追うリュリ。

リュリは驚異的な脚力で少しずつ距離を詰めていくが、大金槌がかなりのハンデになっていた。

対するケイは逃げる事に専念しており、その異常な身体能力とスタミナでトップスピードを維持していた。

 

(化け物め。全く速度が落ちんとはな…!)

 

(あの子体力あるなぁ、怖いしそろそろ引き離しておくか…)

 

ケイは懐から小さな玉を2・3個取り出すと、背後のリュリに向かって投げつけた。

 

「小癪な!」

 

念のために触らず回避したが、床や壁にぶつかった玉は弾けて粉を散布した。

 

「目晦ましなど…おッごぇええッ!!?」

 

ほんのわずかに粉を吸い込んだリュリは、緑色の泡を吐き出した。

マーリン製の毒粉だ。

 

円卓の騎士の中ではそこまで戦闘に特化している訳ではないケイは、むしろ体力を生かした斥候としての能力を見込まれていた。

故に、生きて情報を持ち帰るための道具を持たされているのだった。

 

「く、だらぬ…下らんぞ!!」

 

大金槌で風を巻き起こし、毒粉を弾き飛ばす。

 

「待て…逃がす、か…ッ!!」

 

既にかなり遠ざかっているケイの背中を、毒に侵された身体で追い掛ける。

驚異的なまでの執念。

 

「まだ追ってくんの!?

ねぇ、その粉身体に悪いから治した方がいいよ!」

 

「ほざくな…!!」

 

「ウソじゃないよ、マーリン爺ちゃんの毒はたちが悪いし…あっ!」

 

「ッ!!」

 

廊下の壁に、隙間が空いている。

否、それはただの隙間ではない。半開きの扉なのだ。

 

「見っけた!」

 

ケイの叫びに対し、扉の隙間を潜るように細い声が返ってくる。

 

「もうご到着とは…こうなればやむを得ませんね。

とっておきの人形を回収できないのは癪ですが…」

 

ひとりでに扉が閉まっていく。

ケイがまた何かの玉を取り出し、扉の蝶番にぶつける。

すると中から粘液が溢れ出て、空気に触れるとすぐさま硬化した。

 

「ここまで来させといて、今更閉めるのは無しでしょ」

 

「く…リュリさん!そこにおられますか!」

 

「ああ!ここが貴様の部屋だったのか。

まぁいい…この部屋にこの男を入れさせなければいいのだろう?」

 

突如振り下ろされた大金槌の一撃を、飛び退いてかわす。

 

「うおっ…物騒な得物だなぁ!」

 

「ここまで御苦労だったな、さっさと死…」

 

「隙あり」

 

赤熱した剣が、リュリの喉元を狙う。

意識の間隙を縫うような、巧妙な剣技だ。

 

「っ…大層な名で持ち上げられるだけはあるな、円卓の騎士」

 

「後はキミを倒してから、人形の人を始末するだけ」

 

「どうかな?モースの足止めを、あの程度の雑兵でこなせるとでも?

こうしている内にも、ヤツの人形がここに来るかもしれんな?」

 

その時また扉の隙間から、声が響く。

 

「リュリさん!人形が勇者に潰されました!

も、もはや貴女が頼りです!」

 

「だってさ。良かった、お姉さんと1対1だ」

 

リュリは険しい顏になるかと思いきや、むしろ不敵に笑った。

 

「せいぜい部屋の隅で震えていろ。

すぐにカタがつく!」

 

大金槌を手放して急接近したリュリを、ケイの腕が捉えた。

熱が肌を焼く。

 

「そうだね。すぐに片付きそうだ」

 

「ぐぅううう…っ、舐めるなァ!!」

 

腰の短剣を抜き、ケイを斬りつける。

反撃でケイの剣を肩口に受けるが、離脱には成功する。

 

「その火傷と肩の傷、もう治らないよ。

そういう呪いなんだ。ごめんね」

 

「…何だ貴様…気色の悪い力を使うようだが」

 

円卓の騎士ケイは改造人間である。

その頑強な肉体によって妻モルガンの魔術改造にも耐え切り、いくつもの能力を獲得した。

高温発熱・水中呼吸・筋肉と骨格の操作・不癒の呪いなど多岐に渡り、その肉体構造は今や人間と呼べるかどうかも怪しい。

 

「まぁ、いい。貴様がいかな能力を持っていようと、関係は無い。

この傷も…どうでもいいや。あははっ」

 

大金槌を拾い上げる。

 

「潰れちゃえ」

 

大きく振りかぶった一撃を、当然ケイはかわす。

だがその勢いを利用し、リュリは空中で一回転してもう一度振り下ろす!

 

「おおっ…!?」

 

驚異の瞬発力で、間一髪かわし壁際へ退避する。

 

「あひゃひゃっ…当然そう避けるよねぇ!?」

 

大金槌を横薙ぎに振るい、ケイを壁に叩きつけた。

 

「ぐわッ…」

 

「オラオラァ、ぶっ潰れろよ!!虫ケラみてぇによォ!!」

 

血走って狂気に染まった目が、ケイの命を磨り潰そうと滾っている。

 

「…舐めすぎでしょ」

 

「あァ!?」

 

ケイは大金槌を受け止め、そのまま押し戻す。

 

「この程度で圧死したら、ホントに虫と一緒だよ…!」

 

「テメェッ…実に愚かですね。膂力で上回ろうなどと」

 

その時、大金槌の面に刻まれた呪印が輝きを放つ。

 

「…【鎚葬封印】!!」

 

「えっ、何コレ何何何!?」

 

衝撃がケイを壁に押し付け、その反動で大金槌が弾き飛ばされる。

 

「ぐわっ!?」

 

「おっとっと。…教えてあげましょう。

私は封印術師で、このハンマーは封印具です」

 

空中に浮かぶ呪印が、ケイの身体を壁に押し付けて拘束していた。

 

「つまりですね…貴様の負けだ。

常人なら心臓の動きまで止まって死ぬが…貴様の事だ、そうはなるまい。

だが少なくとも、今は動けん。違うか?」

 

「う…く…っ」

 

声を出す事すらできない。

 

「今殺してやってもいいが…大事な用件があってな。

処刑の時まで待っていろ」

 

リュリはケイを放置し、モースの部屋へと入り込む。

 

「…そこで止まってください」

 

「用心深い事だな」

 

灯りひとつ無い暗室の奥で、ぼろ布を被った小さな姿があった。

 

「な、なぜ入ってきたのですか。

ケイ卿は倒せたのですよね?」

 

「ん?ああ、もう心配はない」

 

リュリはつかつかと奥へ進む。

 

「止まってくださいと言っ…」

 

そして一息にモースの前へと跳び、大金槌を振り下ろした。

ぼろ布もろとも中身が潰れて、血肉を滲ませる。

 

「…ふぅ。っあは。あはあはあはっ。

ひひひ。うひっうひひひひっ。

やった。やったやったやった。敵は死んだぞ。作戦は成功だ!」

 

焦点の定まらぬ目で、繰り返し大金槌を叩きつける。

 

「【傀儡王】モース討ち取ったり!

きゃはきゃはきゃははは!!」

 

「……し、死んでいませんよまだ」

 

背後から、無数の触手が這い寄ってリュリを絡め取る。

 

「む、ぐぎぎ…ッ」

 

「いきなり何をなさるのです、リュリさん!

やはり私怨を捨てきれていないのですか」

 

「しえん?なんだそれは。

バカじゃないの?なぜ狙われないと思った?

作戦はまだ終わっていない。標的である【傀儡王】モースが生きているんだから」

 

モース討伐を目標として起きた【傀儡戦役】。その悲惨な末路。

彼女は全てを覚えている。

その上で彼女の精神は結末を受け入れられず、引き裂かれた。

 

「……なるほど。貴女の時間はあの戦いで止まっていたのですね。

今まで我々に協力していたのも、全ては私を倒すためだった、と…」

 

「そうだ。スパイだ…あはッあはははは!」

 

手足を子供のようにばたつかせながら、虚空に笑い声だけを投げ掛ける。

 

「貴女は味方として有能でしたが、こ、こうなっては仕方ない…!

あ、貴女を殺し、ケイ卿には私がトドメを刺します!」

 

「おい。ハハハ、バカめ。

あの姿が本体でない事など見抜いていたぞ。

だからこそ、この時を…貴様の部屋を見つけ出すこの時を待っていた。

あははっ…ていうか、キモッ!その姿、想像より遥かに醜いなぁ!」

 

触手は蠢く巨大な肉塊から生えていた。

この肉塊そのものが、モースの真の姿だった。

 

「ひ、ひ、酷い事を言いますね…」

 

「だがそんな事はどうでもいい。

どちらにせよ、貴様は滅びるのだからな」

 

リュリの全身から光が放たれる。

 

「私は封印術師だぞ?

この身体に仕込んだ術式で…永遠に封じてくれるわ!!」

 

「な…マズい…っ!」

 

「もう遅いわ!回避など間に合わん!!」

 

 

 

 

 

部屋から、1人の女が出てくる。

目は虚ろで、口元はニヤけ、フラフラと歩いている。

 

「フ、フフフ…やった。私の勝ちだ…」

 

ふと壁に封じられたケイを見て、破綻した思考を巡らす。

 

(コイツは…誰だ?私が封印したのか?

…じゃあ敵か。敵は殺さないといけないな)

 

元々崩壊寸前だったリュリの人格は、目的を達した事でタガが外れ始めていた。

 

「あは。おまえもしね。しねしねしね!」

 

短剣を取り出し、動けぬケイ目がけて振り下ろし…

 

「おい、オバサン。

俺のダチに何してくれてんの?」

 

「…あ?」

 

流れるような金の長髪。端正な顔立ち。

そして華麗な剣を腰に佩く、絵物語からそのまま出てきたような美しい少年騎士がそこにいた。

 

「殺すぞコラ。その剣置いて跪け。

…早くやれっつってんだろクソアマァ!!」

 

だがその言葉は便所の落書きめいて汚い。

 

「なんだ、小僧…貴様も敵か。そうか」

 

「何ブツブツ言ってんだ、気持ち悪ぃんだよブス。

…いや、ブスではないか。美人だな」

 

「死ね、敵め!」

 

まだ剣も抜いていない少年相手に、リュリは思い切り大金槌を叩きつけた。

 

「…がッ!」

 

攻撃をかわしざま、少年の右ストレートがリュリの顔面を見舞った。

 

「でも、これからブスにするかもしれねぇから、謝らないでおくわ」

 

「クソガキがァ…」

 

「啖呵はもっとデケェ声で切れや、屁でもこいてんのかと思ったわァ!」

 

少年は腰の剣に手を当て…抜剣せずに、鞘ごと構えた。

 

「なんだそれ、あはは。剣の使い方知らないのか?」

 

「舐めてねぇよ、アンタの乳首なら舐めてぇけどなァブへへへッ!」

 

乙女のような顔立ちを下品に歪め、爆笑した。

 

「あ。忘れてた。

我が名はモードレッド!キャメロットの王子にして騎士なり!

いざ尋常に勝負せよ!…ってな。

これやっとかねぇとションベン残ってるみたいで落ち着かねぇんだ」

 

騎士としての教育は、一定の成果を見せてはいるようだった。

 

「さて…遊んでやっから掛かってこいよメスブタ」

 

「黙って潰れ死ね!!」

 

大金槌が、裁きを下すガベルめいて掲げられる。

 

「オラ、来いよ。んなザコくせぇ技が効くかよ!」

 

「…っは!モードレッド、そのハンマーヤバいぞ!」

 

ケイの声で、モードレッドはとっさに飛び退いた。

 

「チッ…もう喋れるようになったか。化け物が!」

 

「は~、つまりそのデカブツで叩かれっと、おっちゃんみたいにされる訳ね」

 

「そうそう、そゆこと…封印術でこのザマだよ。

てか早く助けて~!」

 

磔にされたまま手足をジタバタさせる。

 

「ぶひゃひゃひゃッ、死にかけの虫みたいでウケる!

おっけおっけ、す~ぐ助けっから待っててよ」

 

音も無く、大金槌が迫る。

 

「しね!死ね。シネ!」

 

「…今さ、人が話してんじゃん?」

 

宙返りで回避し、リュリの間合いに着地。

 

「気ぃ使えや。な?」

 

剣の鞘が脇腹にめり込み、あばらを破砕する。

 

「おごッ…」

 

「つーかお前誰だよ。まず名乗れや」

 

既に毒と蓄積したダメージで限界に達していたリュリは、両膝をついた。

 

「あう…?」

 

「…バカが。ボロボロの身体で挑んできやがって」

 

鞘が腹部にめり込み、内臓を破裂させた。致命傷だ。

 

「が、ぶッ、ぐへぇ…ぇ」

 

リュリはその場にうずくまり、わずかに痙攣すると…動かなくなった。

 

「へッ、美人の姉ちゃんだから手加減してやろうと思ったのによ。

なんか気味悪ぃ奴だったな」

 

恐る恐る近づいて覗き込む。

 

「…ッがァアアアアアッ!!」

 

「はっ!??」

 

まだ、死んでいない。

 

「ふ、ふざけんなッ…」

 

モードレッドはとっさに聖剣クラレントを抜いた。

その瞬間、刀身は凄まじい光輝を放ちながら魔力を高め始める。

 

「あ。抜いちった…!」

 

クラレントは、鞘から抜かないという約束で与えられたものだ。

 

「ま、いっか!!テメェが死ねば目撃者ゼロだ!」

 

刃がリュリの腹に触れる。

途端に、熱したナイフでバターを切るように、抵抗なく斬れていく。

横一文字の動きを終えた時には、リュリは上と下に分かれていた。

 

「あ…」

 

「っハハハ!なんだこりゃ、スゲェ!

はぁ~親父も母ちゃんも出し渋るよなァ、俺最強になっちゃうもんなァ」

 

皮も肉も骨も臓器も、胴体丸ごと両断されている。

普段から死体を切り刻んで鍛錬しているモードレッドには、その切れ味の凄まじさが分かった。

 

「ったく、悪あがきしやがって…ザコのくせによォ!」

 

死体を更に細切れにしようとして、背後から止められる。

 

「あァ!?誰だテメ…おっちゃん!」

 

ケイが剣を持つ手を抑えこんでいた。

 

「大丈夫なのかよ!」

 

「おう。死ぬ気で暴れたらなんとか脱出できた。

それよりはやく鞘に収めて。父ちゃんと母ちゃんにバレたらヤバいだろ」

 

「あっ、そっか。危ねぇ危ねぇ…」

 

「っ…があ゛あ゛ァ!」

 

「は?」

 

リュリは上半身だけで立ち上がり、モードレッドに抱き着いた。

 

「い、いやッ…それはおかしいだろ!?」

 

(…?なぜ、私は生きている?なぜこんなことをしている?)

 

内臓を破壊され、胴体から真っ二つに斬られ、それでもなお身体は動き続ける。

 

(こんなの、まるでゾンビか…生き人形)

 

その結論を理解する前に意識が絶えた事は、リュリにとって幸運だった。

光がリュリの心臓を抉り取り、消滅させたのだ。

 

「…ハァーッ、ハーッ、クソが…!!」

 

モードレッドは刀身だけでなく全身から光を放ちながら、リュリを引き剥がす。

 

「コイツ、ただの人間…だよな?」

 

「うん、そのはずだ。ちょっと面白いから持ち帰ろ……いや。

その前にやる事あったな」

 

「あ?何?」

 

半開きになった隠し扉を示す。

 

「ここにもう1人いる。【傀儡王】モースっていう厄介な魔族が…」

 

魔族と聞いた瞬間、モードレッドはクラレントを抜き放って扉を切断する。

 

「いいねぇ、あのボロボロの女じゃ物足りなかったとこだ。

さっさと出て来…」

 

中から無数の肉触手が素早く滑り出て、少年の身体に巻き付く。

 

「うおッ!?こ、コイツか!?」

 

「ええと…アンタ、【傀儡王】モースの本体だよね?」

 

「ええ、そ、その通りでございます…」

 

モードレッドは、その肉塊がスライム種の魔物であると見抜いた。

 

「スライム野郎にゃ上等過ぎる名前だなァ!

クズ肉ゴミ虫にでも改名しとけ!!」

 

「こ、これは手厳しい…」

 

弱弱しい声に反して、触手の締め付けはどんどん力強くなっていく。

 

「がッ…く、そ、ごみ…!」

 

「リュリさんの事は残念でしたが、あの場合こちらが殺されていたでしょうからやむを得ませんね。

さて、貴方は…素体として優秀なようですね。丁寧に加工させていただきます」

 

「ざ、けん…なボケがァアアア!!」

 

「なんとッ…!?」

 

モードレッドの纏う光輝は更に増し、頭上には円環が出現した。

その神々しき光に触れた肉が、瞬時にボロボロに朽ち果てていく。

 

「あぁ…こいつぁいい!!

神聖な力がよォ、どんどんキマッてきたぜぇえええッ!!これが法悦かァ!?」

 

「です、が…この程度では消滅いたしません。

アンデッドであれば塵も残さず消えていたでしょうが…!」

 

触手は次々に鋭く形を変え、モードレッドを襲う。

 

「しゃらくせぇわなァ!!」

 

しかし一度刃は閃けば、全てが瞬く間に切り刻まれていく。

 

「ヒャハハハハッ!!浄化してやるよォオオオ!!」

 

掲げられた刀身が、ひときわ強く輝く。

 

「これは、いけない…!」

 

「…おいモードレッド。いったん剣しまえ…ッ」

 

「消し飛べ!!!」

 

光の輝きが、最高潮に達した。

 

〈つづく〉

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