異世界でいっちょ噛みするだけ。   作:ゴリラプリン

79 / 82
第77話 反撃へ至る暗躍

無貌兵と傭兵、総勢50人以上が一心不乱に1人の男を追う。

 

「や、ちょ、ちょっと待ちましょ!ね!」

 

「待ったらその首くれるかァ?ヒャハハハハァ!!」

 

城内に侵入した連合軍の兵の中でも、実力者は特別に賞金を懸けられている。

その内で最高額の賞金を懸けられたのは誰か。

キャメロットの王子モードレッド?

魔界七王の娘メルト?

勇者グレン一行?

 

答えはそのどれでもない。この男だった。

 

「これじゃ、ボルドを探すどころじゃないな…!」

 

男は垂れ眉で口元の締まりがなく、一見頼りなさげだった。

 

「挟み込め!!」

 

逃げた先にも、傭兵の群れ。

 

「ちょろちょろと逃げ回ってくれたな」

 

「ああっ…もう!こんな所で体力を使ってる場合じゃないんだけどなぁ」

 

男は観念したように足を止め、その場で全身に力を込め始めた。

 

「フーッ…」

 

その時体格が急速に膨れ上がり、体表を鱗が覆う。

顔は前方に伸び、瞳孔の形が変わり、牙が伸びる。

 

「そう来なくちゃなァ…【竜狼】フリッケンガルド!」

 

先頭の傭兵が雷撃を放つと、フリッケンガルドと呼ばれた男の額に直撃した。

自然の生み出す雷とは比べるべくもないが、頭部に当たれば脳が焼き尽くされてもおかしくない。

 

「ぃい゛ってぇ~…ッ!」

 

しかしフリッケンガルドはわずかにのけぞっただけだ。

その姿勢から反動を付け、渾身の頭突きを傭兵へ叩き込む。

 

「がッ…!」

 

「何もこんな寄ってたかってイジメる事ないじゃない、ねぇ?」

 

男の姿は、体型はそのまま頭部が竜に変化していた。竜人、と呼ぶのがふさわしい姿だ。

どこか狼を思わせる鋭いフォルムで、口には血塗れの肉をへばり付かせている。

 

「デ、デメェ…大した早業だぜ…ぐぶッ」

 

頭突きの一瞬、傭兵の喉元を食い千切っていたのだ。

 

「ま、一旦冷静になりましょうよ皆さん」

 

しかし両側を挟む追手の勢いは止まらない。

前列の者を踏み潰さんとする気勢で押し寄せる。

 

「なんで俺がこんな狙われてんだ…???」

 

考える暇もなく次から次へと襲い来る敵を、竜人の膂力で殴り潰し、引き裂く。

その硬い鱗は、生半可な魔法や斬撃を一切通さない。

 

「命を貰うぞ!!」

 

「く、ううう…っ」

 

しかし無貌兵に混じって襲撃する傭兵たちが、着実にフリッケンガルドの体力を奪っていく。

 

「…カネはあの世に持ってけないでしょうに!」

 

「貰ったァ!」

 

背後からの突きを交わし、首を捉えてへし折る。

 

「貰ってないよ…いい加減諦めませんか!?」

 

「少しずつ削れてんのに、ここで止める訳ねぇだろ!」

 

(あ~これヤバいな…死ぬかも…)

 

戦いは一方的なまでにフリッケンガルドが優勢だが、彼が優れた戦士だからこそ、その未来が見えている。

個の力でひっくり返せる数の力には、限界があると。

 

(防御に回ったら、そのまま押し切られる!

多少のダメージは覚悟の上で、攻め続けないと…!)

 

即座に対応するが、それがやがては破られるものである事も分かっていた。

 

(隙を見て突破しないと…あれ?

…なんか増えてね?)

 

追われている時以上に多い敵が、いつの間にか周りを取り囲んでいた。

 

(…なぜ俺がこんなに狙われる?

そもそも誰が俺を狙っているんだ…?)

 

この懸賞金を決めたのはネネルである。

ネネルが、この男を脅威と認定したのだ。

 

(まさかボルドの奴がけしかけてるんじゃないだろうな…)

 

「足止めして数で抑え込め!」

 

「ヤバいッ…!」

 

無貌兵が一斉に群がってきた瞬間、どこかでトンと地面を叩く音がした。

 

「…ッ?」

 

フリッケンガルドの驚異的な感知能力は、それを確かに聞きつけていた。

だが次の瞬間起きた事は、彼にも予測できなかった。

 

「ぅおおおおっ…!?」

 

「なんだ!?敵か!?」

 

無貌兵たちが見えない力に吹き飛ばされ、将棋倒しに転倒していく。

傭兵たちは謎の圧力に耐えようと身構える。

 

「ええと…どちら様?」

 

現れたのは、ローブで顔を隠した男。

手に持った杖で、地面を叩いた。

 

「がぁあああああッ…!?」

 

「ぐぎゃぁああああ!!」

 

「……???」

 

突然傭兵たちが床に倒れ伏し、苦悶の声を上げ始めた。

そして内側から爆ぜるように潰れ、血溜まりになった。

 

あれだけいた襲撃者は瞬く間に吹き飛ばされ、潰れ、逃げ去っていた。

 

「あ、いや、こりゃどうも!助けていただきまして…!

しかしお強いですなぁハハハ」

 

唖然としていたフリッケンガルドは、ふと我に返る。

そして竜人化を維持したまま、ヘラヘラと礼を言った。

目は真っすぐに、この謎の男の姿を見据えていた。

 

「そう警戒してくれるな」

 

男は低く呟いた。

 

「それより貴公、あの【竜狼】フリッケンガルドであろう?

カディナの竜狩りの…」

 

「ええ、はい。おかげさまで」

 

「確か貴公には、竜を嗅ぎつける感知能力があったな?」

 

「…よくご存じで」

 

名前だけは業界で広く知られているフリッケンガルドだが、国外に出るとさすがに能力や実績までは知らない者の方が多い。

故にこの謎の男の事情通ぶりは、フリッケンガルドを警戒させるに足りた。

 

「ネネルの部下に、【竜将】ボルドが居る。

貴公はそれを追ってきたのだろう?」

 

「ええ、そうなんですよ。

…しかし本題が見えませんね」

 

「この城の中を、ワイバーンが飛び回っておろう?

アレが何だか分かるか?」

 

「ボルドの能力によって竜化させられた兵士…ですね?」

 

「その通りだ。そしてその工程を行なっているのは、材料たる無貌兵どもの製造工場だ」

 

「こ、工場?やはり無貌兵は人間ではないんですか!?」

 

「ああそうだ、ここからが本題だぞ。聞け!

そして貴公は竜を探知できる…分かるな?」

 

フリッケンガルドが膝を打って声を上げた。

 

「ボルドの気配を感知すれば、無貌兵の工場がどこにあるか分かる…と!」

 

「そうだ。ネネルはどうやらほとんどの部下にも工場の場所を漏らしておらぬ。

それ故、ネネルは貴公を危険視しているのだろう」

 

「そうか…だが、ボルドはそこに常駐している訳ではないでしょう?」

 

「左様、だがワイバーンは城の外から物資を運ぶのにも使っている重要なインフラ。

それを大量に狩られれば、やむを得ず増産する必要が出てくる。

たとえこちらの狙いが分かっていたとしてもな」

 

「そうなると向こうも警備を強化してくるでしょうね。

も、もちろんあなたは手伝ってくださるのですよね…?」

 

謎の男は肩を竦めた。

 

「悪いが他に用事があってな。

それが済めば助けに行こう」

 

「え…でも、あの、俺狙われているんですよ。

1人でやるのはちょっとしんどいかなって…」

 

「ククク…弱気な事を。

お前たち竜狩りは既に、一度はワイバーンを全滅させかけている。

それを受けて、つい最近また増産されたのだ」

 

「…それを、なんでアンタが分かるんです?

ワイバーンが何頭配備されてるかなんて、敵でもなきゃ…」

 

「内通者がいるのだよ。その者は教えてくれた。

つい最近ワイバーンが補充された、とね」

 

「……」

 

訝しむ目線を切らずに、フリッケンガルドはもう一つの懸念を問い掛けた。

 

「…さっきからボルドの気配を感知しようとしてるんですがね。

これが全然引っかからないんですよ。

この程度の大きさの城なら、全域を感知できるはずなのに」

 

「この城は、扉と扉をデタラメに繋げる。空間の組み換えでな。

その仕組みを利用すれば、一部の部屋を完全に隔離する事ができるのだ。

具体的に言えば、幹部の部屋と…恐らくは無貌兵の工場もそうだ」

 

「そういう部屋に閉じ籠れば、俺でも探知できないと?」

 

「そうだ。だが部屋から出て工場へと向かう時であれば探知できる。

それを追跡すれば、工場の位置が分かるはず」

 

「う~ん…それをどうやって見分けるんです?」

 

「それはこちらで合図を出す。これを持て」

 

魔法陣が刻まれた、小さな金属片を渡す。

 

「こいつの形が変わったら、それが合図だ。

ボルドの気配を探知して、追跡しろ」

 

「…まぁ、それはいいんですがね。問題はまだあるでしょう。

この城はちょっと進んだだけでも無茶苦茶な場所に出る迷宮だ。

工場の地点が分かっても、そこまでへの道のりが分からない」

 

「安心しろ、そちらの人材も探しておく。

今まさに、声を掛けているところだ」

 

 

 

 

 

鋼鉄の肉体を軍服で包んだ男が居る。技術大国ゲルセン王船団の将校である。

彼に指揮する部下はいない。ただ1人で兵団なのだ。

 

「ハッ!」

 

今も、無貌兵をなぎ倒してはその仕組みを調べ続けていた。

 

(…やはりおかしい。これだけ殺し続けているのに、依然として数が減らん)

 

足元に転がる無貌兵の死体はドロドロに溶け、石床の隙間に入っていく。

 

(恐らくまた元の場所へと帰り、再び人造人間として生産されるのだろう。

だが、それにしても…!)

 

男が目を光らせるとその眼光は線となって照射され、黒い液体は蒸発した。

 

(これは何の変哲もない、神聖属性の光線だ。

これに触れただけで、無貌兵の原液は消滅してしまう。

恐らくは魔性のものだろうが…そうなると妙だ)

 

無貌兵は神聖魔法を食らうと消滅する。

そうなれば、原液を回収して再生産する事はできない。

つまり、兵力を無限に生産し続けるなどありえないのだ。

 

(これだけ長期に渡る戦闘であれば、いずれは兵力が尽きるはず…!

だが現実には、無貌兵は未だ生産され続けている)

 

彼に搭載された解析機能は、原液に含まれる魔力の濃さを示していた。

 

(いくら魔皇の力とやらを得たとして、こんな量の魔力を生み出せるものなのか?

何週間も絶え間なく?)

 

彼が所属するゲルセン王船団は、船上の技術者国家である。

その異常さはよく理解できている。

 

(いや…魔皇の力は未知数。出来る可能性はあるか。

しかし、そんな神域の力では分析のしようがないぞ)

 

深い思考の海から、彼の意識は急速に引き上げられた。

 

(…あれは!!)

 

血に塗れた1人の兵士を目の当たりにしたからだ。

 

「大丈夫カ!」

 

生き人形の可能性を選択肢から外さずに、しかし恐れず近寄る。

 

(識別は味方。もちろん生き人形かもしれんが、攻撃してくれば分かる)

 

機械仕掛けの肉体は、ある程度の奇襲を食らってなお問題なく稼働する。

火薬でも毒物でも魔法でも、恐れる理由にはならない。

 

「あ…ゲルセン、の…」

 

「どうした。他ノ味方は!?」

 

「じょ、じょう、ほう、を…!」

 

人形ではないと見て取った男は、兵の傷口に何かを噴霧した。

 

「な、なにを…」

 

「止血ダ。これデもう安心、とはとても言えんがナ…」

 

噴き付けた液体は瞬時に固着し、傷口を覆う。

そして薬効成分が傷の回復を促進する訳だが、本来は軽傷治療用のものにすぎない。

この今にも灯火付きかけた兵士には、気休めにもならない。

 

「バ、バロネリア、の…元帥が、俺を逃がすために…!」

 

「情報と言ッタナ。ゆっくりデ良いから、話せ」

 

「無貌兵、が、命令にしたがうのは、仮面のせい…だ。

仮面に仕込まれた術式が…奴らに戦闘能力と命令を植え付けて、いる…!」

 

「……!」

 

それは願ってもない情報だった。

 

(無貌兵自体の生成だけでなく、呪いの仮面の生成もしているのか。

となると仮面を作っている場所も、すぐ付近だろう!)

 

更なる情報を得るべく、兵士に向き直る。

 

「オイ、他には……」

 

兵士は、動かなくなっていた。

 

「…ヨク、届けてくれタ」

 

そう言って優しく横たわらせ、うずくまる。

 

(いい話を聞いたが…まだ足りない。人造人間を生み出す工場を見つけるには!)

 

思わず、その手に力が籠る。

死体の腕が、ボギリと鈍い音を立てて折れた。

 

(しまった!何をしているのだ私は……ん?)

 

手から伝わる、感触の微妙な変化。

機械の肉体ゆえに測り得る、その奇妙さ。

 

(いくらなんでも、この程度の握力で折れるとは…)

 

死体がどんどんと朽ち果てていく。

腐敗の段階を飛ばして、塵になっていくのだ。

 

(そういえば、これだけの死人が出ているにもかかわらず、どうも嗅覚センサーの反応が弱い。

大規模な戦場は血肉の匂いで使い物にならぬほどなのに…)

 

そして、ある1つの可能性に考え至る。

 

(どうにかして、死体から生命エネルギーを吸収し、それを無貌兵の材料としている?

そうだ、そうすれば相手が死ねば死ぬほど戦力が増強されていく!

その仮説に沿うと、生産場所は…!)

 

そこまで進んだところで、思考が足踏みする。

 

(…ダメだ!これでも足りない!

この人造人間技術は常軌を逸している!地に足の付いた理論だけでは…!)

 

「無貌兵の生産工場。知りたくないですか?」

 

「ッ!!?」

 

その声の主は、ローブで姿を隠した小柄な者だった。

 

「おっと、物騒なものは下ろしてくださいな」

 

来訪者の顔は闇に包まれて認識できず、声はざらついて性別すら判別できない。

 

「…何者だ。タダの敵では無さそうだが」

 

「ただもなにも、敵ではございません。貴方の味方ですよ。

無限の兵力を生み出す工場、どこにあるか分かりますか?」

 

「いや、まだ分からんガ…」

 

「そこで、見つけられる可能性のある味方を探しました。

フリッケンガルドという方ですが…ご存じですか?」

 

「……アァ、あの竜狩リの男だろう」

 

「実は敵の中に、人を竜へと変えて操る者がいます。

城内のワイバーンは、そいつが無貌兵を竜化させたものなんですよ。

そしてフリッケンガルドさんは、そいつを探知できるのです」

 

「本当カ…!?」

 

「つまり彼なら、無貌兵の工場を探知できる…可能性がある」

 

「そうか。ダガ、彼とどうやって合流スル?

この城の中は空間がメチャクチャで、味方を探すのは難しイのだぞ」

 

「御心配なく。すでに私の仲間が彼を発見し、事情を説明しています。

すぐに会えるでしょう」

 

期待で警戒心が薄れそうになり、将校はあえて大声で問う。

 

「…お前ハ、いったい何者ナンダ?

どの軍に所属してる?傭兵か?」

 

「私の正体など、今はどうでもよろしい。

あなたたちはただ、ネネルを倒すという当初の目的を果たせばいい。

許してはおけないのでしょう?ネネルの野望を!」

 

黒いローブの者は、そう高らかに言いながら心中で自嘲する。

 

(なんか…どんどん怪しい言い回しになってきたな。

信用させようとして、どんどんドツボにハマってる感じ…)

 

「そんな物言いデ、信じられるト思うか?」

 

(だよね!俺もそう思う!)

 

正体を隠すローブと闇の仮面の内側で、キルエは同意した。

 

(敵側から主人公を支援するキャラって、なんで最初あんな胡散臭い喋り方すんだよと思ってたけど…!

短時間で信用させろってなると難しいんだねコレ!)

 

「貴様ガ何ヲ考えているのか、今の私には分からん。

ダガ、何もかも貴様の思イ通リになるとは思わん事だな」

 

「ええ、それで結構。

私はただ、あなたたちの作戦の成功を望んでいるだけですので。

…ッフフフハハハ!」

 

キルエは、我ながら怪しすぎる台詞に思わず噴き出した。

 

「怪しい奴だが…今は信じてやろウ」

 

しかしかろうじて、将校は信用してくれたようだ。

 

(あっぶね!よく信じてくれたなこの人、詐欺とか気を付けた方がいいよ!

まぁとにかく、これで無貌兵を無力化できれば御の字だ…!)

 

こうして、ネネルと人類が争う中、キルエはメルディゲと共に暗躍を開始していた。

 

〈つづく〉

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。