異世界でいっちょ噛みするだけ。   作:ゴリラプリン

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第80話 竜の戦い

「GWAHAHAHAHAHAHAHAHAHA!!」

 

爆撃音のような哄笑が響く通路を、四足の竜が駆け抜ける。

黒い水面の上を疾駆し、狼のように剥かれた牙で剣を咥えている。

 

「チョロチョロ逃げるのだきゃあ得意だな?

フリッケンガルドよォオオオ!!」

 

同じく四足だがそれを超える巨体の竜が、壁を壊し水を掻き分けながら後を追う。

長い首を悠然と揺らし、攻め立てるように火炎を吐く。

 

(コイツ…遊んでやがるな…!)

 

水面を走る竜フリッケンガルドは、追手から距離を広げつつも余裕のない心境だった。

 

(元々の速度と併せてこの粘つく水のおかげで、水面を突っ切れる俺の方が圧倒的に速い…が。

いつまでも逃げている訳にもいかない。このままじゃ城全部がこの水に沈む。

そうなりゃ翼を持ってるボルドの野郎だけが逃げられる一人勝ち状態だ)

 

他者を竜化させて使役するボルドも、竜の存在を広範囲で探知するフリッケンガルドも、戦闘タイプの竜ではない。

そういった場合、純粋なパワーや体格が勝敗に直結する。

 

(戦闘タイプの人が来てくれりゃ楽だったんだがな…!)

 

本国カディナにおいて、竜は現実の脅威であった。

故に竜狩り(ドラゴンスレイヤー)の中でも、竜化できる竜憑き(ドラゴンシフター)は貴重な戦力とされている。

そもそも遠地に派遣する事自体が大きな決断なのだ。

 

(ま~無いモン数えても仕方ない。

どうするか…っつってもな~…アレしかないか…!)

 

水面で飛び上がり、壁を蹴って空中で反転する。

 

「小賢しいんだよ…テメェは!!」

 

ボルドの吐く火炎が勢いを強め、逃げ場のない空中のフリッケンガルドを捉える。

 

「GUOAAAHH!!」

 

竜狼が吼える。

 

「KUAHHH…!!」

 

竜将がなおも炎を激しく噴き付ける…その炎を切り裂き現れたのは、裸体の男。

 

「あァ!?」

 

「失礼…しますよッと!!」

 

その手に持った剣を、竜の胸に突き立てた。

 

「くッ…テメェ如きが、俺の鱗を…!?」

 

「ちょうど脆そうな部分があったもんで…」

 

フルブーストによるドリルでの突撃は、ボルドに防がれた。

だがその先端は、確かに胸に傷を刻んでいたのだ。

フリッケンガルドはその一点めがけ、剣を突き込んだ。

…しかし、これで終わりではない。

 

「…『竜葬』!!」

 

「GAAAAAHHHHHHッ!!?」

 

魔力を込めた十字の斬撃。竜狩りの奥義として伝わる戦技である。

熟達した者であれば、この一撃で竜の命を絶つ事すら可能。

 

「て、め、ぇ…」

 

巨竜の首がだらりと倒れ、黒い水に沈んだ。

 

「ハァ…ハァッ…」

 

フリッケンガルドは脱力し、突き刺した剣に縋りつく事で辛うじて立っている。

ワイバーン狩りと掘削作業から休みなく戦闘し、炎の直撃を受けながら生身で技を放ったた疲労と反動が、今になって押し寄せてくる。

 

「ボルドを…倒したはいいが…これじゃ、ネネルは…倒せそうに、ない、な…」

 

彼が壁に寄りかかって気絶しかけていると、水面が揺れ始める。

 

「ぐ、くッ…痛ぇええええッ…んだよ!!」

 

巨竜は、再び起き上がった。

 

「な…ッ」

 

「ハ、ハハハ!死んだと思ったか?

そうだな!普通なら死んでたよ!!」

 

水中からワイバーンの首が飛び出してきて、フリッケンガルドを引きずり込む。

初めから水中に潜航させておいたのだ。

 

「ク、ソ…がぶぉッ!?」

 

「お~し、いいぜェ!そのまま殺れ!

ヒャハハハ、惜しかったなァ…俺ァネネルにとっちゃ『失いたくない駒』らしくてな、身体を弄られてんのよ!

つっても弄らせたのはごく一部だ、逆らえないようにされちゃたまんねぇからな」

 

ボルドは余計な改造を防ぐため、麻酔なしの意識明瞭な状態で手術を受けていた。

 

「ネネルの奴ぁ自分の部下の能力を解析しててな。

…おい、聞こえてるか?俺の話!終わるまでは死ぬなよ!」

 

「……!!」

 

フリッケンガルドはもがいているが、動きは緩慢になりつつあった。

 

「【蛮神】アルキュオード、知ってるだろ?あの伝説の男だ。

その体質の一部が再現されててな、ちっとやそっとじゃ死なねぇのよ!」

 

正確に言えば、両足が大地に付いている限り不死身のアルキュオードとは異なり、体内に大地の力を埋め込まれているボルドは常時能力を発揮できる。

とはいえ再生能力は本人とは比べるべくもないが、それでもなお強力であった。

 

「なぁ、聞いてるかよ?…チッ、もう終わりか」

 

もはや水面は静まり返り、答えどころか呻きすら聞こえない。

 

「あ~痛ッてぇなクソが…」

 

胸についた十字の傷が消える事は無いが、すでに致命傷は修復完了している。

 

「全部終わったぜ。聞いてるかボス?

……ま、聞いてる訳ねぇか。あの飽きっぽい奴が」

 

『聞いてるよぉ~』

 

「あらッ、珍しいな」

 

『あのさぁ…そのままの姿でいいから、向かってほしい所があるんだけど…』

 

「はぁ?」

 

 

 

 

 

「…うん、じゃあ、そこに行ってもらえる?

は~いよろしく」

 

ネネルは念話をしつつも、目では勇者たちの様子を監視していた。

 

「やれやれ…やっと見つけられたよ」

 

玉座の間は城全体の管理室の役目も担っており、空間隔離できない。

そしてこの玉座の間と繋がる前室に当たる部屋は1つしかない。

要するに、居場所さえ分かっていれば、いつかは必ず勇者たちも魔皇の間までたどり着けるという事だ。

 

「でも残念。キミたちは振り出しに戻るんだよ」

 

玉座のひじ掛けをトントンと叩くと、装飾の蛇が鎌首をもたげた。

 

『城内管理システムの音声認識が起動しました』

 

「グレンくんたちが居る部屋丸ごと、地上に転送しちゃって」

 

魔皇にとって、城内の空間は自由自在。

1つの部屋だけ切り離し、城外へと転送する事も難しくない。

 

(ま、どうせ女神の力を使ってすぐに城まで戻ってくるだろうけど。

そしたらグレンくんはもう女神の力を使い切った状態で、また僕のいる部屋まで辿り着かなきゃいけなくなる。

あの子たち、ガッカリするだろうなぁ…!)

 

『転送までの時間は3分です。途中での対象の変更は不可能になりますがよろしいですか?』

 

「よろしいで~す!」

 

『了解。転送術式を起動します。対象・内部領域第662室。

カウントダウンを開始…180、179、178』

 

「さて、こっからが問題だけど…」

 

3分間、勇者たちをその部屋に釘付けにする必要があるという事だ。

 

「っつっても、そのために手は打っておいたからね。

さぁ…せいぜい3分奮闘してくれよ」

 

 

 

 

 

『連絡。当室は3分後に地上へと転送されます』

 

それは、部屋に突如響いた声だった。

グレンたちはその意味を理解するのに、数秒を有した。

 

「…転送、っつったか?」

 

「とうしつ…この部屋、って事だよね?」

 

「……どうやらジッとしてはいられないようだ!」

 

これがネネルの懸念事項。

部屋の中にいるグレンたちにも、タイムリミットは伝わるのだ。

 

「しっかし…コイツらしつこすぎんだろ!!」

 

黒い水は暴走し、聖なる力を持つ勇者を排除すべく襲い掛かる。

ダメージこそ低いものの、足元全体を覆うこの水は、足止めには最適だった。

 

『この水、もうネネルの制御からも外れてる。

この暴走状態じゃ相手にするだけ無駄だわ!

とにかく、力ずくでもいいから前に進んで脱出して!!』

 

「んな事言っても…よぉ!!」

 

液体はぬらぬらと照る黒い手となって、グレンを水中に引きずり込む。

 

「ああックソ!…もういい、お前らだけ先に逃げろ!」

 

「何を言ってるんだ!?」

 

「コイツの狙いは俺だ!お前らは逃げられるだろ!

俺なら地上に送り返されても、女神の力で戻ってこられる!」

 

「でも女神の力を使い切っちゃったら…それに、グレンくんがいないとネネルを…!」

 

「大丈夫だ、なんとかすっから!今までもそうしてきただろうが!」

 

「……ッ」

 

フェリスとラスタが、苦しげに顔を見合わせ…

 

「…必ず追いついてくるんだ、いいね!?」

 

「ひ、1人だけサボろうったって、そうはいかないよ!」

 

「はいよ!すぐ追いついてやっから覚悟しとけや!」

 

「それじゃ困るんだわ」

 

何者か、地鳴りのように低くよく響く声。

 

「「「!!?」」」

 

部屋の扉を開け、長い首が入ってくる。

鱗と角と牙とで武装した、凶悪な竜。

壁を削り壊しながら、巨体を部屋の中にねじ込んでくる。

 

「ドラゴン…かよ」

 

竜憑き(ドラゴンシフター)な、正確には。

俺はボルド。【なんちゃらの七冠】…つまり幹部の1人だ」

 

これがネネルの打った手。

たかが3分の足止めに、幹部を派遣するのだ。

 

「そういえば、幹部に会うのは初めてだね…?」

 

「えっ?マジ?じゃあアイツら勇者以外にやられたのかよ、ウケる!

お前らの仲間に殺られたザバダカは幸運だったのかもな!」

 

「メルトとエリンか。彼女たちは成し遂げたんだな…!」

 

「おいおい、顔明るくしてる場合かよ。

まあ別に俺は3分経つまでここでお喋りしててもいいんだが」

 

グレンたちは我に返った。

 

「っと、そうだったな。さっさとこの部屋から逃げねぇと、地上送りにされちまう!」

 

「血気盛んだねぇ勇者クンよォ!まさかお前も俺と戦り合えるつもりか?

生命の水がお前を離してくれねぇだろ、あぁ?」

 

「この程度のドブ水がなんだってんだよボケ!

テメェみてぇなトカゲ1匹殺すのにはちょうどいいハンデだ!」

 

黒い粘液がグレンに巻き付き沈めようとするが、魔剣で切り裂く。

だが次々と沸き上がって、キリがない。

 

「グレン、キミは部屋を脱出する事に専念しろ!

僕らはコイツを倒して、さっさと先に行かせてもらう!」

 

「あ!?んな事言っても…」

 

「私たちは大丈夫だから!」

 

フェリスは空元気でない、信念に満ちた答えをグレンにぶつける。

 

「…分かった分かった。任せる」

 

「ほう!大丈夫、ときたか。威勢は充分だな!

だったら見せてみな小僧ども!」

 

巨竜が咆哮し、牙の隙間と鼻から火炎を噴く。

 

「この【竜将】ボルドに、魔皇を倒した力ってやつをなァ!!」

 

「来るぞ!」

 

「うん!最初から全開で…」

 

「ちょ、お前ら邪魔じゃ。どけボケ」

 

身構える聖騎士と人狼少女を押しのけ、後ろから黒い甲冑の騎士が現れた。

 

「いや…ちょ…誰誰誰?」

 

「えっ…だ…誰だろう?」

 

「し、知らない人だな…」

 

「誰だよお前!」

 

ボルドまでもが困惑している。

 

「ちょぉコラ…お前。来い来い来い」

 

黒き騎士は苛立った様子で身体を揺すりながら、手をこまねく。

誰に向けての動作なのか分からず、その場の全員が固まる。

 

「お前に決まっちょろうが、ボゲがよ!!」

 

「ぼげぇあッ!!?」

 

騎士の鉄拳が、竜の側頭部を抉って壁に叩きつけた。

 

「ワシャイライラしとんじゃ、あ゛ァ!?

呼んだら一発で返事せぇや、わやくちゃにしちゃろけ!!」

 

「ん、だよテメェは…!テメェも俺と遊びてぇのか、あぁ…!?」

 

騎士は角を掴んで眼球に膝蹴りを叩き込んだ。

余りの衝撃で角がへし折れた。

 

「ギャゴゲェッ!?」

 

「わりゃ、誰にもの言いよんならぁ…あぁ?」

 

追い打ちで踏みつけようとした騎士に、爆炎を吐きつけた。

 

「ッテメェに決まってんだろ…コラァ!!

俺にそんなつまらねぇ攻撃が効く訳ねぇだろマヌケ!!死ね!!」

 

繰り返し、何度も炎を放つ。

 

「ここからが楽しいとこだろうが!邪魔してんじゃねぇよ雑魚が!!

俺はな、あの【蛮神】アルキュオードの力で不死の肉体を…」

 

炎と空気を裂いて、斬撃が飛ぶ。

ボルドの胸の十字傷に、赤い線を付け足した。

 

「がぁッ…!?」

 

「それがどぉした、ワシャ天下のランスロット様じゃ!!

おどりゃナメくさっとるとぶち殺しちゃるど!!」

 

いつの間にか抜いていた剣を、ボルドに繰り返し叩きつける。

粗雑に見えて、その剣筋は鋭く冴え渡っていた。

 

「がッ、げほッ…お、俺は不死身の身体を…」

 

「じゃッ!かッ!ま!しぃッ!わァアアアアーッ!」

 

竜の頭蓋が、粉砕と再生を繰り返す。

 

「き、聞け…よ…俺には、再生、能力が…」

 

「何べん言わせば分かるんか、おお!?

ワシは!!ランスロットじゃ!!覚えて死ねや!!」

 

「「「……………」」」

 

 

 

 

 

その凄惨な光景を、勇者たちだけでなく、ネネルも茫然と見ていた。

 

「ありゃー…………ま、まぁいいや。生命の水はグレンくんに執着する!

最悪グレンくん1人だけでも足止めして、地上に飛ばせば…」

 

そこで、ネネルの見る光景に更なる異常が起きた。

 

 

 

 

 

「お、おい…足元、気を付けろ!」

 

「へ?…きゃっ!?」

 

「み、水が…!?」

 

黒い水が一斉に足元から移動し、どこかへと流れていった。

 

「……???」

 

『まさか…グレンより神聖なものに反応したの…?』

 

「ん?じ、自分で言うのもなんだが、俺の力って女神の力だぞ?

それより神聖なものなんてあんのか?」

 

『分からない…女神そのものか…あるいは、その化身と呼ばれる聖女…?』

 

「いや!そんな事より、ドラゴンはあのオッサンに任せてさっさと行こうぜ!」

 

「そ、そうだね…」

 

「あ、あの~…1人で大丈夫そう、ですよね…?」

 

兜のバイザーの隙間から、血走った目が少年少女を睨み据えた。

 

「じゃかあしいわ!!はよ行け!!」

 

「は、はいぃっ!」

 

 

 

 

「えっえっえっ…マジ?どうなってんのこれ?」

 

『対象の部屋から、目標とする人物が移動しました。

転送を続行しますか?』

 

「いいえ!終了!!」

 

『了解。転送術式を停止しました』

 

「グレンくんより強い神聖属性を持ってる奴なんて、いるわけ…」

 

『城の上空に、高濃度の神聖反応を検知』

 

「ああもう…城の外だと見れないじゃん!

近くの監視術式を起動して!!」

 

『了解。映します』

 

 

 

 

 

魔皇城の真上を見られる限られた者たちだけが、その姿を目にした。

純白の翼で舞い降りる、神々しき騎士たちを。

そしてその中央で両手を広げ、後光と共に降臨する…西の聖女を。

 

「猊下、魔性の反応が接近してきます。

狙いは恐らく猊下かと」

 

城の窓、扉、穴という穴から黒い液体が溢れ出て、上空の聖女へと向かっていく。

 

「貴方たちは城内の者を援護しに向かいなさい。

この怪物は…私1人で十分でしょう」

 

「ハッ」

 

騎士たちが分かれて城の各地へと向かう。

 

「さてさて、これはまぁ…よくもここまで膨れ上がったもの。

そちらから来るというなら好都合。欠片も残さず祓ってあげる」

 

〈つづく〉

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