異世界でいっちょ噛みするだけ。   作:ゴリラプリン

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第86話 金と宝

巨悪ネネル、死す。

その絶命と魔皇の力の消滅を確認した勇者たちの下に、1人の少年が現れる。

 

「いや~、大変おめでとうございます!」

 

軽薄な笑みと共に入ってきたその少年は、勇者たちのよく知る顔である。

 

「…コイツ、いきなり力を失いやがった。

お前がやったのか?」

 

「ええ!存分に恩に着ていただいて結構ですよ!」

 

「それがマジなら……ありがとよ。

全く、いつもオイシイとこを持っていきやがるな、お前はよ!」

 

「良いじゃありませんか、悪を討ったのは勇者様たちなのですから」

 

キルエが父の死体に近づき、屈み込む。

 

「おい…何してる」

 

「これでも父です。骨くらい拾わせてください」

 

「……そうだったな、気が済むまでやってくれ。

…あ、ちょっと待った!外は大騒ぎになってるんじゃねぇか?

ネネルの奴が、神を産み出したとか言ってただろ」

 

「ネネルが死んだ事で消滅していれば楽だが…とりあえず確認しようか」

 

グレンたちが疲弊した頭を働かせて他の者たちを助ける事を考えている間、キルエは死体から素材を剥ぎ取る事に没頭していた。

 

(鱗はいいね。爪も剥がして持ってくか。

角と魔眼は…いいや、頭部ごと回収しちゃおう)

 

父親の死体を楽しげに吟味していると、玉座に付いていた装飾の蛇が動き、地を這ってキルエの袖の中に入った。

 

「うわっ!?」

 

「どうした?」

 

「…あ。いえ、思ったより死体がグチャグチャだったもんで」

 

グレンが肩を竦める。

 

「あ~…すまん」

 

「いえいえ!あ、もう終わったんで行きますね!」

 

「行く?どこにだ?」

 

「まだ用事が残ってまして…」

 

「相変わらず企んでんなお前は…まぁその企みのおかげで助かった訳だが…待て!」

 

そそくさ帰ろうとするキルエは、引き留められて肩を踊らせた。

 

「へっ?な、なんです?」

 

「お前、最初からこうする予定だったのか?

俺たちを裏切って敵につき、最後はどうにかしてネネルの力を封じるって…」

 

「うん?どういう意味です?

スタート地点からして偶然なんだから、徹頭徹尾アドリブですよ」

 

「そうじゃなくて…裏切ったのは、最初から父親を倒すためだったのか?」

 

「そりゃ、依頼を受けていましたので。貴方がたを手助けしろ、と」

 

平然と言うキルエの心を、グレンはやはり見抜く事が出来なかった。

友情か、利益か、あるいは誇りか。やはりその真意は底知れない。

 

「おっと…それで思い出しましたが、依頼の成功報酬を頂きましょう!

確か言い値で構わないとか?」

 

「無茶な額はやめろよ」

 

「またまたぁ、世界を救った勇者様ですよぉ?

褒賞はたんまり頂けるんでしょう?」

 

「すぐには無理だ。それとも、お前も俺らに付いてくるか?

お前犯罪者扱いだったよな?俺らから弁解して何とかしてやるから…」

 

「うう~ん…ありがたいんですけど、どうしようかな。

これからちょっと色々と用事があって…」

 

「そうか。じゃあ…とりあえず、金の話だな。

俺ら、色んな魔族を倒してるうちに軍のオッサンたちから信頼されてよ。

アルヴェント銀行に口座作ってそこに報酬振り込んでもらってっから、そこにあるだけの金が限界だけどな」

 

「ア、アル、ヴェ…?」

 

「ええと…世界有数の、特に信頼性の高い銀行だね。

他国からの干渉を受けないエルフの聖地アルヴェントにある銀行で、顧客の素性を問わず厳重に管理してくれるんだ」

 

「ほ~、じゃあおいくらほどあるんです?

まぁ世界の救世主様ですし、100億バルケーくらい…」

 

「いや…1000万くらいじゃね?」

 

「ほあ!?ちょっと、話が違いますよぉ!」

 

「んな事言われてもな…色々出費もあったし。

じゃあ貯金全額やるか?1000万!」

 

「で、でも…この後いっぱい貰うんでしょ!?」

 

「いや、だからまだ分かんねぇって…」

 

キルエとてあまりに無茶な額を出すつもりは無いが、言い値という響きから来る期待感からはあまりに肩透かしである。

彼が人生を棒に振った司教暗殺任務の報酬が、1回で1000万あったのだ。

魔皇退治…しかもティアマトとネネルで2回ともなれば、その100倍は欲しいところだとキルエは思った。

 

「とはいえ僕たちも、キミには救われている。

こうしよう…キミと契約を交わし、銀行にある貯金から一定の額まで引き出せるようにする!

どうかな?今すぐに大金を払う事はできないけど…」

 

「なるほど…」

 

キルエも、この辺りが落とし所であろうと確信した。

 

「でもなぁ~!俺がいなきゃ皆さん勝てました?

実際の様子は見てませんけど、だいぶピンチだったんじゃないです?」

 

「し、しかし…」

 

その落とし所からさらに2歩進んだ所が、キルエにとっての利益だ。

 

「こうしましょう。毎月、一定の金額を払う。そうですね、例えば50万バルケー。

これを()()続ける、というのは?」

 

「い、一生!?それはぼったくりすぎじゃないのかい!?」

 

「考えなさい。世界を救った報酬が50万ですよ?

それが毎月…1年でも600万。年収600万と考えれば、安いものでしょう」

 

「う、ううん…しかしこっちも出費が…」

 

「いくらなんでも、世界を救った報酬が0って事は無いでしょ?

大丈夫、俺と違って世界の英雄なんだから、一生遊んでも使いきれない額が貰えるって!」

 

「でも、魔法契約にしてしまうと怖いなぁ…修正しづらいし。

それにキミは優秀な傭兵だ、食うに困る事もあるまい…せめて1月20万程度で」

 

「45万」

 

「30万だ、それでよいだろう!?」

 

「40万」

 

「さ、35万で勘弁してくれ…」

 

「…不労所得で年収420万か…世界の救世主が。

ハァ…まぁ、いいでしょう」

 

「それに、一生というのはさすがに厳しい。

何しろ僕たちはまだまだ先の長い人生だ、これで仕事をやめるという訳でもあるまい。

働けるうちは安く、働けない年齢になったら高額。そういうルールにしないか」

 

「ええ~?その場合、年を取ったら最終的な額は35万より上にしてくれますよね?」

 

「しかしこの場合は…」

 

喧々諤々の応酬を、グレンとフェリス、ナンムは唖然と見守っていた。

 

「…アイツ、聖騎士目指してんだよな?」

 

「まぁ、お金周りの管理がしっかりしてるに越したことはないから…」

 

『意外だわ…』

 

 

 

 

 

「あら?あらら?」

 

3体目の巨神を葬り去ろうとした聖女が気付く。

巨神たちは自らうずくまり、次第に朽ち始めていった。

 

「城の下側から感じてた禍々しい圧力が消えた…黒幕が死んだの?」

 

見渡せば、あれだけ多くいて城の内外を蹂躙していた巨神が影も形も無かった。

残ったのは、魔皇城に刻まれた暴威の傷跡のみ。

 

「しかしまぁ…これだけ破壊されてもまだ浮遊しているんだから、魔族の技術も大したものね。

でもいつ墜ちるか分からないし…各騎士に通達!」

 

聖女の頭上に光の輪が生まれる。

 

「速やかに戦場を鎮圧後、負傷者等の動けない者を優先して城から脱出させなさい!」

 

『了解!』『はい!』『了解』『任務了解』『了解』『はッ!』

 

複数の声が同時に返ってくる。

 

「どうやら全員無事のようですね。

という事は当然、怪物の被害は食い止めたのでしょうね?」

 

『はッ、無論です。抗う力を持たぬ者のために戦うのが聖騎士ゆえ』

 

『しかし猊下、我々の他にもあの巨大な敵性存在を倒している者がいたようですが』

 

「ほほう!さすがに各国の精鋭が集まっているようですね。

なら心配は無用です、各自通達したとおりに実行なさい」

 

『了解しました!』

 

頭上の円環が消えた後、聖女は安堵したように薄く笑った。

 

「かなりギリギリで駆け付けたつもりだったけど、意外と余裕そうね。

しかし連合軍か傭兵か知らないけど、あの怪物を倒せる余力があったとはねぇ…」

 

 

 

 

 

「このッゴミクズがァ!!死ね!!死んで己の愚かさを思い知れ!!」

 

巨神がメキメキと音を立て、凄まじい重力に圧し潰される。

 

「死ねッ!!このッ!!カス以下のッ……む?」

 

巨神は既に事切れ、風化し始めていた。

 

「ハァ…ハァ…ようやく理解したか。

よくもこの私の城を傷つけてくれたな…!」

 

入れ墨の入った禿頭を汗でびっしょりと濡らし、荒い息を落ち着けさせる。

 

「さて…全ては終わったか…?

後は…どうやってこの城を得るか…とりあえず、ヤツと接触して…ク、ククク…」

 

懐から、契約書を取り出す。

 

「…バカな」

 

契約書に書かれたキルエの名は黒ずんでいる。

こうなるのは、契約者が死んだ時か、契約が切れた時だけである。

 

「契約失効…だと…!?あの小僧、何を…!!

こうなれば、力づくでこの城を…!!」

 

メルディゲは、燃える野心で瞳を輝かせた。

 

 

 

 

 

 

勇者たちとの契約のすり合わせに苦心したキルエは、へろへろになって玉座の間を後にした。

何やら感動的な別れの言葉を投げかけられた気もするが、キルエにとってはどうでもいい事だった。

 

(それより金だよ金金!俺の財宝、誰にも見つかってないだろうな!?)

 

財宝を溜め込んでいる部屋に着くまで、キルエは気が気でなかった。

 

「あ…」

 

そして宝の山とそれを囲む傭兵たちを見つけた時、色々な意味で安堵した。

 

「おっ…おお!良かった…無事か、ボスの息子殿!」

 

「…貴方がたも元気そうでなによりですよ」

 

「ほとんど死んだけどな。

ていうか、どうなってんだよ…訳が分かんねぇうちに何もかも終わっちまって。

アンタの父ちゃんは…俺らのボスはどうなったんだ!?」

 

キルエの部下たちは皆、戦う事をせず楽に稼ぐ事に腐心してきた。

この混乱の中では、何が起きたか把握する事も出来ないボンクラ揃いであった。

 

「まぁまぁ落ち着いて…ここに居るとかえって危険です。

混乱が起きているうちに逃げた方が良いのでは?」

 

「バカ言え、転送陣は今頃向こうの連中が脱出に使ってるよ!

のこのこ出て行ったら殺される!」

 

「じゃあどうするんです?」

 

「だから考えたんだよ!

アンタもこのままじゃマズいだろ?こっち来い」

 

「はい?別にこの距離でも話せるでしょ?」

 

「ボスがまだ生きてて、この会話聞かれてるかもしんねぇだろ。

いいから…小声で話そうぜ」

 

「はいはい」

 

キルエは傭兵4人の下へと走り寄っていき、突然1人の後ろに回った。

そして手中に隠したナイフで右足の腱を斬る。

 

「がぁッ!?てめ、何しやが…!」

 

そのまま引き倒し、喉を裂く。

 

「おおかた、俺の首を手土産に降伏するつもりでしょう?

いくらなんでもソワソワしすぎですって!」

 

「クソがッ…ガキの分際で…!」

 

キルエは死体と共にその場で寝転がり、全身をバネにして死体を蹴り飛ばす。

 

「ぐわッ…!?」

 

ぶつけられて怯んだ1人を狙い、猿めいて素早く飛びつくと、耳からナイフを刺して殺す。

そのまま財宝の中に飛び込み、尖った形状のタリスマンを拾うとこれを目に投げつけた。

 

「ぎゃあっ!!」

 

「うわっ!?」

 

突然痛みで動けなくなった味方を見て、もう1人が警戒し自分の顔を庇う。

その間に装填を済ませた毒の吹き矢を打ち込み、1人を殺す。

 

「がぁあっ…」

 

「この、ガキィイイイッ!!」

 

目をやられた痛みで逆上した傭兵が剣を振りかざすが、キルエはその足元をスライディングで通過。

背後から飛びつき、黄金のネックレスで首を絞めた。

 

「ぐ、ぎ、ぎぎ…」

 

「貴方恥ずかしくないんですかっ…こんな子供をよってたかって…!」

 

みるみる間に、最後の傭兵の顔が青黒くなっていく。

涎を垂らし、白目を剥き、意識が限界を迎える…その瞬間。

 

「がぁおおおおッ!!」

 

「ほへっ!?」

 

その傭兵は、薬の服用によって理性を飛ばし肉体の枷を外す秘術を持っていた。

奥歯に仕込んだその薬の効き目が、今発揮され始める。

 

「わわわわっ!」

 

「がぁぐぐぐ!」

 

ネックレスを引きちぎり、キルエを投げ飛ばす。

 

「いででででッ!?まだやる気かよ!?

もういいじゃん全部終わったんだからさァ!勘弁してよ!」

 

己の運の無さを嘆く暇も無く、狂乱した男が襲い来る。

 

「がぁぐぐぎぎ…ッ」

 

「…クソ。やっぱ俺弱いな!」

 

真魔皇を手玉に取った後で、薬物でとち狂った男1人を相手にして手こずるのが、彼という特異な人間だ。

 

(こんな時に手持ちのナイフが少ねぇ!

吹き矢っ、次の弾を装填して…ああヤベぇ!)

 

男の腕を躱すと、その指が触れた部分の床が抉れた。

異常なまでの膂力。

 

「えっなにそれちょっと待っ…」

 

「がぁあああ!」

 

触れられるのは危険と見たキルエが、慌てて飛び退こうとする。

 

「ぐあッ!?」

 

「え…」

 

その時、キルエの袖から金属の蛇が飛び出して男の脳天を突き刺した。

 

「…がぁ~ッ!!」

 

しかし薬で痛覚が麻痺した男は止まらない。

 

(でも、おかげで隙は出来た)

 

頭に意識が行った男の股下に滑り込み、股間にナイフを突き立てる。

 

「ぐぎ~ぃッ!!」

 

「クソ、まだ死なねぇのか!」

 

「…くきぃ…けへっ…」

 

顔のいたる所から血を振りまきながら、男は倒れて動かなくなった。

キルエの与えた傷は、直接の死因ではない。薬の反動であった。

 

「なるほど、奥の手だったか…ビビらせやがって…!

……で」

 

足元でとぐろを巻く蛇を睨む。

 

「お前は誰…?」

 

『こちらはティアマト城管理システム、音声認識端末です』

 

「っおお喋った!?」

 

問うてはみたものの答えを期待していなかった彼は、その声に驚く。

 

「え?ていうか何?管理システム?この城の?」

 

『はい。管理システムの音声認識…』

 

「そのシステムさんが俺に何の用なの」

 

『管理者権限が継承されました。現在のティアマト城管理者は、あなたです』

 

「……???」

 

〈つづく〉

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