異世界でいっちょ噛みするだけ。   作:ゴリラプリン

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第87話 終結、そして後片付け

ネネルの死後、キルエは勇者たちと報酬についての相談を終えて財宝の保管場所へと戻る。

しかしキルエの下に付いていた傭兵たちが、集めた財宝を盗もうと画策していた。

 

(ま、元々アイツらが集めたもんだし、それだけなら応相談だったんだが…)

 

傭兵たちは徒党を組み、幹部であるキルエの首を手土産にして降伏しようとしていたのだった。

先手を打って何とか始末しようとしたキルエを手助けしたのは、金属で造られた蛇。

戦いの後に蛇は告げる。

 

『管理者権限が継承されました。現在のティアマト城管理者は、あなたです』

 

「……???ど、どういう意味です?」

 

『前管理者の死亡に伴い、最も近い血縁者へと権限が移行しました』

 

最初の管理者であるキングウは、自身が死んだ場合に母であるティアマトへと権限が移るようにしていた。

実際にそうなった訳だが、そこへネネルが現れてティアマトの力を取り込み、権限を得たのだ。

そしてついにネネルは死に、息子であるキルエが権限を受け継いだ訳だ。

 

「えっと…」

 

戸惑いの質問を投げかけようとしたが、無意味だと気づく。

 

「もういいです、分かりました。

この財宝を楽に地上へ運ぶ方法はあります?」

 

『はい。この部屋をそのまま地上へと転送する事が可能です』

 

「おっ、それいいっスね。じゃあそれ…あっ待って!

あの~この城の中にメルディゲって人いるでしょ?」

 

『はい。同名の人物が登録されています』

 

「じゃあさ、この部屋を転送したら、その人にこの城あげちゃって」

 

キルエは、躊躇う事なく言った。それがメルディゲとの契約だからだ。

契約を反故にして恨みを買うくらいなら、城を引き渡して円満に別れる方が良い。

それがキルエの基本方針だった。

 

『不可能です』

 

「ダメ?理由を聞いても?」

 

『管理者権限の譲渡は不可能となっております』

 

「…じゃ、生きてるかどうかだけでも分かんない?」

 

『管理システムには当該人物の生死・在否を確認する機能がありません』

 

「まぁ、そりゃそうか。

そんなん便利機能あったら俺らも自由に動けなかっただろうしな…」

 

キルエがふと考え込むと、蛇が淀みなく語り始める。

 

『城内放送で当該人物に呼びかけるか、あるいは本端末が物理的に捜索するという事も可能です』

 

「放送…はさすがに目立ちすぎるか。

あの、手間だけど探してもらってもいいです?」

 

『了解。その後のご注文はございますか?

当該人物へ一時的に管理者権限を貸与する事は可能です』

 

「たいよ…ああ、貸すのね。じゃあそれで!」

 

『貸与期間を設定してください』

 

「あ~…じゃ、俺がまたこの城に来る時までって事で」

 

『了解。登録名【メルディゲ】の捜索、および管理者権限の貸与。期間は管理者の再入城まで。

以上でよろしいですか?』

 

「あっ、その前にこの部屋転送して!」

 

『転送までの時間は3分です。途中での対象の変更は不可能になりますがよろしいですか?』

 

「はい。復唱いらないんで、それで確定で!」

 

『了解。マーキングします、ご注意ください』

 

「え?」

 

蛇はいきなりキルエの首に噛みついた。

 

「痛っ…何すんだよいきなり!」

 

『マーキング完了。もし当施設に帰還なさいます場合は、そのマークに指を押し当てて強く念じてください』

 

噛まれた首筋には、噛み跡と模様が刻まれていた。

 

「あ…」

 

『ご利用ありがとうございました』

 

蛇はそのまま部屋を去り、『連絡。当室は3分後に地上へと転送されます』という放送が響く。

 

(こりゃ思わぬ収穫だった。貸したとはいえ、この城は俺のものか。

後はこの左目を治療も…楽に済みそうだ)

 

懐から、凶星堂から貰ったチケットを取り出す。

彼女を経由し、師匠…【兇仙】ウーシエの手を借りるのだ。

 

(ちょうどよく、代わりの目もあるしな)

 

ネネルの首を取り出し、額の魔眼を露わにさせる。

 

(こいつも収穫だったな…へへへ。

今回は行き当たりばったりにしちゃ良い稼ぎ場になったな。

さて、その後はどうするか…まず勇者一行から貰った書類で銀行への手続きを…)

 

ふと、瞼が落ちる。

長時間の緊張から多少解放され、疲労が一気にのしかかったのだ。

 

(それから…どうやって生活するか…………)

 

 

 

 

 

『お名前はメルディゲ、でよろしいですか?』

 

「…何だ、貴様は」

 

指令から数時間後、瓦礫の山に佇む男の下へと蛇は辿り着いていた。

 

『登録名【キルエ】がティアマト城の管理者となりました。

管理者より、この城の管理者権限を一時的に貸与されました』

 

「な、に……?」

 

男は目を見開く。

 

『管理者の当初の予定は譲渡でしたが、システム上不可能なため貸与となります。

期間は管理者の再入城まで。以上です』

 

「ク、ククク…ヤツめ。契約を完遂したか。

どうやって管理者となったか知らんが、やるではないか。

蛇よ。この城は今、この俺の支配下にあるという事だな!?」

 

『はい。期間中は、管理者と同等の権限を行使可能です』

 

「ついに…ついにッ!!この城を手に入れたぞ!!

この城を手に入れたからには……ッ!!」

 

無上の歓喜に全身を震わせ、野望を叫んだ。

 

「愛でるぞッ…この城をッッッ!!」

 

この男、メルディゲ。本名をメルディゲ・ルグ・ドルゲという。

ドルゲ家は代々、魔皇城について調査する事を至上の使命として継承してきた。

かつては何らかの目的があってそうしていたのだろうが、今となっては全て忘れ去られ、調査結果を誰に報告する事もなくただ親から子へ使命を受け継ぎ続けるだけのシステムに成り果てていた。

 

形骸化した使命に嫌気が刺したメルディゲは家を出奔し聖職者となったが、父の死を機に我が家へと帰り、地下室に隠された膨大な魔皇城の資料を見て驚愕した。

その城の美しさに魅了されたのだ。

 

以降、聖職者を辞めて傭兵となり、ネネルの誘いに乗ってこの城を手中に収めようとした。

そのネネルすらも裏切り、そして今キルエを裏切ってでも何が何でも城を手に入れるつもりだった。

 

(律儀な小僧だ…契約はもう切れているというのに。

ならば…こちらも応えてやるか)

 

キルエと契約を交わした時、ある条件を提示されていた事を思い出す。

 

(『なるべく犠牲を出さない方針で行きましょう』か…フン)

「おい、システム!城の全域に放送しろ!」

 

『了解。音声加工機能・映像投影機能が使用可能です』

 

「音声加工…声を変えるという事か?では適当にやっておけ。映像は要らん」

 

『了解。接続完了。本端末を持ち、口部分に向かってはっきりと発声してください』

 

メルディゲは勢いよく蛇を引っ掴み、高らかに、かつ平静な声を心掛けて言う。

 

「…こちら、魔皇城の管理システムより警告!

当施設はこれよりさらに浮上する!当時刻から5日以内に総員退避せよ!繰り返す…」

 

この放送の後、生存した連合軍の兵士とギルドの傭兵全員の脱出が完了。

放送の通り、魔皇城は5日後に目視不可能な領域まで上昇。消息不明となった。

 

 

 

 

 

「…おい、起きよ。起きんか!」

 

「んあ…」

 

キルエが目を覚ますと、柔らかなベッドと岩壁が見えた。

 

「ああ、師匠…おはようございます」

 

「おはよう、じゃあるかい!

ったく、いきなり転がり込んできたと思ったら、『また目を治してください』と来たわい!

わしゃ目医者じゃないのよ!?」

 

喚いているのは、深い黒の肌と黄金の体毛を持つ童女。

キルエの師、外道の仙人ウーシエであった。

 

「あ、もう終わりました?」

 

「そりゃ、今回は現物で支払われたからの。

この仙境を訪れるための道具代、手術費用もきっちり頂いたわ。

しかし…またえらく派手に稼いだもんよ」

 

「ええ、まぁ…いてて」

 

キルエは術後の左目を抑える。

 

「その左目も…どっから仕入れてきたんじゃ、そんなもん。

現存する最上級の魔眼なぞ、そうお目にかかれる物ではないぞ」

 

「ありゃ。売れば高かったですかね」

 

「実際、バカ弟子は『もったいない』とか言うておったわ」

 

親指で差したのは、岩壁に持たれて眠る女。

疲れ切った顔つきでぐっすりと眠りこけている。

 

「凶星堂さんにも悪い事をしましたねぇ、急に呼び出しちゃって」

 

「反省しとるとは思えんの~?」

 

「そりゃしてませんし…で、目の状態ってどうなってます?」

 

「ん。下手したら魔眼に生命力を吸われて死ぬんじゃが…」

 

「えっ?」

 

「本来なら、な。安心せい、よく馴染んでおるわ」

 

「あ、そ、そうですか…ならいいんですけど」

 

ウーシエは、左目の瞼に触れた。

 

「ただ、しばらく魔眼を使った術は使うな。

魔眼自体の能力も…使わん方が良い」

 

「身体に悪いから、ですか?」

 

「それもある。

…最上級の魔眼は、【太陽級】と呼ばれておってな。神々が扱うべきモノだとされておる。

人間が太陽級の魔眼を持っていても、本領は発揮できぬ」

 

「宝の持ち腐れ、ですか」

 

「それに、何度も言うがワシは目医者じゃない。

どういう危険が起こるか、ハッキリとは知らんのだ」

 

(仕方ないか。視力が戻って来ただけでも大きな収穫だ。

それに視界を覗く能力なんて、俺に使いこなせるとは思えん)

 

目まぐるしく変わる戦況の中、相手の視界から動きを予測するなど、用途だけならキルエも思いつく。

実際、達人であれば有効に使えるだろうが、キルエ自身はそこまでの領域に至る素質も理由もない。

 

「それから、もうひとつ。その目はあまり外で見せびらかすな。

何度も言うように、最上級の魔眼は極めて貴重じゃ。

貴様のような雑魚が持っていたら、あっという間に攫われて目だけ抜かれ、土の下で眠るのがオチじゃて」

 

「ヒーッ…し、しかし、見たら分かるものですかね…!?」

 

「太陽級の魔眼は、眼球全体に模様が広がっとるのが特徴でな。

その目なんか見ただけで分かるわい」

 

キルエの左目は今、真黒い眼球を覆うようにして、青い円や楔めいた紋様が規則的に配置されている。

まさしく異形の目である。

 

「眼帯かお面でも着けて隠すとするか…視界狭まるの怖いけど」

 

「そうしろそうしろ。

そして最後の忠告じゃ…これが本題ね」

 

「へ?まだあるんスか?」

 

「呪いに蝕まれておるぞ…貴様の身体」

 

一瞬、その言葉への理解が遅れる。

 

「ん…?いや、それをこないだの修行で治したんでしょ?

あのご先祖の悪霊を倒して、耐性を付けたって…」

 

「そうだ。()()をな。

それでも積み重なれば、確実に負担は掛かるもんなの!」

 

「え?だって、原因になった【命を殺す法】は使ってませんよ?」

 

「何を言っとるんじゃバカ者…あらゆる呪術は、基本的に使い手をも蝕むもんじゃぞ?

貴様は耐性が高まっとるからまだ元気でいられるだけじゃ!」

 

「……マジ?」

 

「マジ。せっかくワシが【魂喰らいの術】を授けてやったというのに」

 

「なんすかそれ?」

 

「忘れたのか!?ほら、あの悪霊と戦った時に教えてやったじゃろ!?

倒した悪霊をどんどん取り込んだあの術!」

 

「……あ」

 

精神世界での死闘。先祖の霊を呼び出し、倒しては食い千切った。

そして最後に残ったジェト族の開祖、ドルグの霊とも戦った。

 

「あの術、現実でも使えるんスか!?」

 

「当ったり前じゃ!ていうかそのために教えたんじゃ!

呪いに蝕まれた肉体へと魂を取り込み、衰えた生命力を補填するのよ」

 

「じゃ、相手を殺したら魂食っちゃえばいいんスか。

…なんか、化け物みたいで気ぃ悪いな~」

 

「気にする事もあるまい、魂は果実よ。

種に意志や記憶が宿るとすれば、食らうのは実の方じゃ」

 

どこか舌なめずりするように、ウーシエは言った。

かつて味わった魂の味を反芻しているのだろう。

 

「仙人の道は呪いにも通じておる。

ワシも未熟だった時は、呪いの反動を打ち消すためにやむなく魂を喰ったものよ。

…やむなく、な」

 

「ハハハ、やむなく、ですよね。ハハハ。

しかし、教えてもらって大変助かりましたよ。

他にもそういう見逃しがあったら教えていただきたいんですが」

 

言いながらベッドを降り、荷物を確かめる。

 

「見逃し、か」

 

ウーシエが、じろりとキルエの脳天からつま先まで見つめる。

 

「…貴様、前から気になっておったが、死の気配がするな」

 

「えっ!?何それ、死相が見える的な奴ですか!?」

 

「違う。貴様、何度か既に死んでおるな」

 

「っ!!」

 

キルエは俯いて考え込む。

 

(確かに、つい最近死んだばっかだ。

でも、何度か、って事は……もしかして、前世での死も見えてる?)

 

「別に何でもよいがな。よほどの無茶をせぬ限りは何の問題もない」

 

「…無茶、って?」

 

恐る恐る聞いたキルエに、ウーシエは口の端を歪めた。

 

「もう一度死んで蘇る、とかな?」

 

「そ、それやったらどうなるんです?」

 

「知らんよ。そんなバカを見た事がないのでな。

というか、普通に蘇生失敗するじゃろ。

貴様の魂は、死と深く繋がりすぎておる…あまりにも」

 

「…………」

 

キルエには、事の重大さが分からない。

知識が足りないのもさることながら、生と死を大したモノとして扱っていないからだ。

命の価値は理解できても、価値を付ける理由は理解できない。

 

「ま、いいや。さて…そろそろですかね」

 

「なんだ?もう帰り支度か?」

 

「ええ、まぁ…あまり長居してもお邪魔になりますし…」

 

「そう言わず泊まっていきなさい。な」

 

ウーシエがガッシリと肩を掴み、身動きを封じる。

 

「いっいや!そんな、悪いです!」

 

「あれだけの財宝ともなると、持ち帰るのも一苦労じゃろ。

…少し、軽くしてやろうか?」

 

「ホント全然お気になさらず!!」

 

「まぁまぁ…前回は中途半端で終わって、貴様も収まりが悪かったじゃろ?」

 

「まさか…っ」

 

「そう、修行!短期集中コースは300万から♥」

 

「か、勘弁してくださいよぉ!

何させられるんですか俺!?」

 

「今回は、ふむ…遠足というのも面白いかのう?」

 

 

 

 

 

東の大国、瑞龍帝国では占星術が大きな力を持っている。

公官庁として【星命部】という組織が星の動きを常に調べているほどで、その占いの結果如何で国家の動きも左右される極めて重要な部署であった。

さて、その星命部において、本日ある一つのデータが算出された。

 

「ど、どうお思いになられます部長。

この星の動き…『北に凶兆あり』とも読めるのでは…?」

 

「そうかもしれんが、この規模では国家の危機というほどでもあるまい。

確か似たような事例が前もあったな?」

 

「は、はい。調べてみましたが、その時は凶悪犯が大量に脱走しました。

とはいえすぐに全員逮捕されるか殺されたようですが」

 

「まぁ、そんなところだろうな。

一応聞くが、疑わしい場所は見つかったか?」

 

部下が応えて地図を広げる。

 

「真銘山、虚王湖、霊識峡…後は血鬼山などが有力かと」

 

「血鬼山か…」

 

「何か疑わしい事が?」

 

「あの山には封印された洞窟がある。

あの世に繋がっているとか言う理由でな」

 

「それは存じておりますが…」

 

神秘に携わる業界において、それなりの事情通には知られている事だった。

 

「…これはあまり知られておらんが、その洞窟を掘ったのはあのウーシエだという噂がある」

 

「ウーシエ!?あ、あの、【兇仙】ウーシエですか!?」

 

「声が大きいぞ、馬鹿者…!あくまでごく一部に伝わる話だ!

荒唐無稽な話だ…仙境と現世を繋ぐために作られただの。弟子を殺し合わせ、優れた者を選ぶために作られただの。

…あるいはその両方という説もあるがな。所詮は根拠の薄い話だ」

 

昔話としてはさして珍しくもないが、ウーシエの名が出ると途端に笑い飛ばせなくなるのがこの国の霊能関係者だった。

 

「な、何か物凄く嫌な予感が…」

 

「予感と憶測で慌てるな。見るべきはデータだ。

…念のため、疑わしい地域周辺の退魔師に連絡しておけ。

ウーシエの名を聞けば、向こうも無碍にはすまい」

 

「りょ、了解しました!」

 

〈つづく〉

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