異世界でいっちょ噛みするだけ。   作:ゴリラプリン

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第91話 兄弟子もぐもぐ

キルエはシャーヤに導かれるままに先へと進み、追手を引き連れて出口に辿り着く。

シャーヤが”出口”と呼ぶそこは暗黒の壁にしか見えない。

 

「……っ」

 

だが、その前に立ちふさがる者の存在が、そこが出口であると証明していた。

その番人は悪霊。シャーヤのかつての兄弟子であり、他者を喰らって取り込んだ霊力で死後も現世に残る修羅となった。

6本の腕によるただの物理攻撃が、一騎当千の猛者たちを軽々と弾き飛ばす。

直撃を喰らった者の中には、右半身を抉り飛ばされた者もいた。

 

「うわっ、一撃死か…!」

 

「いや、攻撃当たったら死ぬのは当たり前。

そこは問題じゃない」

 

「え?…いやまぁ、言われてみりゃその通りではありますけど!

だったら、何を恐れて…?」

 

「見てろ。すぐ分かる」

 

その時。眼前の戦場では、半身を失った男が高笑いしながら起き上がっていた。

悪霊に負けず劣らずの怪物ぶりである。

 

「ぐげ、げげげげッ!!この程度で、ワシを殺せるかァ!

こ、こ、この傷…貴様にも分けてやろう!!

……喝!!」

 

悪霊の半身が鏡写しのように吹き飛んだ。

己の負傷をそのまま相手にも反映させる、【鏡傷の術】である。

 

「おお!?あれ…殺せそうじゃないですか!?」

 

「だたら楽でいいけどね。…多分、無理よ」

 

悪霊は数秒もかからず、半身を再構築した。

 

「再生できるのか…」

 

「チッ。やぱりダメだたか。

あのな、見ての通りアレ死なない。霊だし」

 

「だ、だったらこう…除霊術みたいなヤツで倒せないんスか!?」

 

「それは一度、ワタシ試した。でも無駄」

 

「はぁ?だって…悪霊、なんですよね?アイツ」

 

「正確には、仙人と悪霊の間の存在ネ。

霊は元々不自然な存在だから、依り代ないとすぐ消える。

でも仙人になれば、自然と一つになれる。…分かるか?」

 

「分かるような分からんような…」

 

キルエの反応に、シャーヤはため息をついた。

 

「はぁ…慣れない言語(ことば)で説明させるなヨ…いいか?

まず、霊体は霊力の塊よ。エネルギーの集合体。

普通は触れないけど、アイツはエネルギーをたっぷり溜め込んで悪霊化した。

だからエネルギーの密度が高くて、触れる。お互いに」

 

「じゃあこっちの攻撃も通用するんですね?」

 

「見てたダロ?もちろん効きはするヨ。

刀で斬れるし、矢で撃ち抜ける。もちろん術だって通じる」

 

シャーヤの指差した方向では、今なおウーシエの弟子たちと悪霊の戦いが続いていた。

その内の1人が、秘伝の武術によって悪霊の頭部を砕いた。

 

「黒鏖拳・秘奥義…邪狼爪。死人とて、我が死の爪から逃れる事は出来ぬ」

 

「…………」

 

だが悪霊の頭部は即時再生した。

 

「ふん、この程度では消滅せんか。

だが再生するたびに、貴様の溜め込んだ霊力は失われていく!!

そらそら、また首が飛ぶぞォ!!」

 

たった1人で6つの腕を捌き切る絶技は、ウーシエの弟子に恥じぬ怪物ぶりである。

だが、見つめるシャーヤの目つきは厳しい。

 

「ダメね。アイツ分かってない。無理もないけど」

 

「と、いうと?」

 

「確かに、いくら霊でも元の形が保てなくなたら消えてなくなるヨ。

だから霊体を復元するんだけど…散った霊力はそのままだから、そのうち再生できなくなるのネ」

 

「しかし…あの悪霊だけは違うと?」

 

「そうよ。アレは空気中に飛び散った霊力を全部回収して再生してる。

いくら再生しても、霊力は無くならない。

仙人は自然の中のエネルギーをあつかう達人だから、そういう事が出来る」

 

「じゃあ、全身をまとめて吹き飛ばすしかない…?」

 

「いや、その場合も…全身丸ごと再生する可能性高い。

仙人修行極めれば、霊力なんて自分の手足と同じに操るの簡単よ」

 

「……じゃあ無理じゃん!!」

 

「は?お前がなんとかするダロ?」

 

シャーヤは平然と言う。

 

「えっ…俺?」

 

きょとんとするキルエに、鉄仮面の隙間から殺人的眼光を投げ掛けた。

 

「お前、『何かの役に立つかも』みたいな事言った。

でもまだ役に立ってないネ」

 

「い、いやいや!襲われてた時助けたでしょお!?」

 

「あの時はまだ、協力してない。つまりお前が勝手に助けただけ」

 

「んな無茶苦茶な!

この状況で俺に出来る事なんか無いっつーの!!」

 

「じゃ、逃げたら?追いついて殺すけど」

 

「……冗談キツいっすよぉ」

 

冷や汗を流しながら、乾いた笑みで流すしかなかった。

 

(実際どうだ?ここで逃げれば、悪霊を倒すチャンスはもう二度と来ないだろう。

そしたら師匠に挑んで入り口から出るしかない。

…無理、だな)

 

「どした?死ぬ覚悟できたか?」

 

「い、いや!ちょっと待ってください!

もう少し考える時間をくださいって!」

 

「いいけど、他の連中全滅する前に思いつけヨ」

 

キルエは、何かちょうどいい術が無いかとジェト族の秘伝書を見てみる。

除霊の術はいくつかあるが、霊体を霊力に分解し自然へ還元する事しかできないようだった。

本来ならそれでどんな悪霊も消滅するのだろうが、この敵に限ってはそうはいかない。

自然に還った状態から霊力を集めて霊体を再構築できるのだから。

 

「作戦タイム終わったか?」

 

「ちょ、ちょっと黙っててくださいよッ!」

 

「ひとつ見てて気づいた事あるけど、黙ってた方がいいか?」

 

「…それは言ってよ」

 

「あのね。アイツ…あの悪霊ね、物理攻撃しか使えないと思うヨ。

呪いとか…仙術とか。たぶん使えないネ」

 

それは生前を知るシャーヤ故の気付きだった。

 

「普通なら手段選ばないアイツが、さっきから腕ブンブン振るだけしかしてない。

多分、霊力を消費する技は使いたくないのネ」

 

「でも、仙人になったんでしょう?

霊力なんて空気中からいくらでも集められるんじゃ…」

 

「なりそこないだし、死んでるからね。

元々自分の霊力だったものは回収できるけど、新しく霊力を練ったり、自分以外の霊力を集めたり出来ないて事よ」

 

「う~ん…でも、物理攻撃も充分脅威というか…」

 

キルエはちらりと悪霊に目を向ける。

悪霊はうわ言を呟きながら、寄ってくる相手を片っ端から返り討ちにしていた。

ただ6本腕を鞭のように振るっているだけで、肉も骨も抉り取られている。

 

(…霊力、か。そういえば、そもそも大前提の部分が分かってねぇな)

 

キルエは意を決して問う。

 

「その~…霊力ってのは…具体的にどういうものなんですかね…?」

 

「ハ!?」

 

シャーヤは鉄仮面の上からでも分かるほどあんぐりと口を開けた。

 

「それも知らないのか?お前ホントにウーシエ師匠の弟子か!?」

 

「あんまマトモに修行付けてもらった事なくて…」

 

「霊力は魂の力!魂そのもの!こんなの常識ネ!」

 

「魂そのもの?

…つまり魂ってのは霊力で出来てるんですか?」

 

「だからそう言ってるヨ!!」

 

「ふむ…いけるか…?」

 

呟くと、足元に転がる剣と鉈を拾い上げる。

 

「一つ、作戦があります。

もしも上手くいったら恩に着てくださいね!」

 

「…できるか?ホントに?」

 

「『もしも』っつったでしょ!」

 

躊躇なく、悪霊へと飛び込んでいく。

悪霊は一瞥せずとも察したらしく、腕の1本を差し向けた。

 

「くッ!」

 

凄まじく速い。咄嗟に剣で逸らさなければ、確実に死んでいた。

 

(他のヤツらは強い、たかが俺ごときに構ってる暇はねぇはずだ!

この隙に、なんとか間合いに入らねぇと!)

 

ところが、悪霊は他の敵を弾き飛ばして、6本中2本の腕をキルエに向けた。

 

「来る な。お前 危険 だ」

 

「…ッッッ!?」

 

視覚は頼りにならぬと目を閉じて、気配で対応する。

皮膚のピリつきを手掛かりとし、間一髪で斬り払う。

 

(ウソだろッ、なんで俺を優先すんだよ!?

…とにかく、間合いに入らねぇと!)

 

「寄る な!!」

 

「げ…ッ!?」

 

4本の腕による、伸縮自在の波状攻撃!

掠りでもすれば肉がごっそりと削げ落ち、致命傷を負うであろう。

だがそれ以前に、キルエの手が追いつかない。

 

(ヤバッ…)

 

「殺してやるヨ…兄弟子ィイイイッ!!」

 

「っ!?」

 

背後からの大音声は、シャーヤのもの。

半裸の巨体が迫り来る。

 

「お前 は…!」

 

悪霊はシャーヤを即座に脅威と認定。

キルエに向けていた腕をシャーヤの方に全て回した。

 

「小僧!攻撃はこちらで引き受ける!

その代わり、結果出せなきゃ殺すネ!!」

 

「無茶言うな!!」

 

キルエは叫びつつも、間合いに届くや否や、右手の剣で悪霊の首を刎ねる。

 

「く ああ 無駄な 事 を」

 

(そうだ…本題はこっからだ!)

 

キルエは斬り落とした頭部をキャッチし、グジュグジュと貪り食った。

そう。霊体を捕食したのである。

 

「うげぇえええ…っまじぃ~!!」

 

「!!?」

 

場が一瞬凍り付き、キルエはほくそ笑む。

 

(やっぱりか…【魂喰いの術】なら、相手の身体をそのまま取り込める!)

 

それは師匠のウーシエから与えられた、魂を食う術。

魂そのものである悪霊にとって、天敵のような技だ。

 

「お、お前!?その術は…!」

 

「どうです、見たかオラァ!

結果出してやりましたよ!」

 

得意げに言うキルエだが、周囲の者の関心はもはやそこになかった。

 

「お前…その術!【魂喰いの術】使えるか!?」

 

「あ、は、はい…?」

 

キルエは与り知らぬ事だが、【魂喰いの術】はウーシエの術の中でも特に禁忌と恐れられる術だった。

殺した者をなおも貶め、己が糧にする非道さは、ウーシエの在り方を代弁する術でもある。

それ故多くの弟子が習得を望んだが、ウーシエは拒み続けてきた。

そういう歴史のある術なのだ。

 

「うゥ…ウウウウウッ!!」

 

悪霊は頭部を再生させながら唸りを上げた。

 

「決めた。 小僧 お前 から 殺す!!」

 

「やべッ…!?」

 

悪霊仙人の6つの腕が舞う。キルエには反応も回避もできない。

 

「どこを見ているゥ!!」

 

「小僧ごときに気を取られたなァ!!」

 

他の弟子たちが、勝機と見て突撃。

6つの腕はキルエに届く前に斬り落とされた。

 

「助かった…!

皆さん、攻撃への対処はお任せしますよ!」

 

キルエは切断した悪霊の腕を1つずつ拾い上げては、体内に取り込んでいく。

怨念の喉越しを感じるたび、綻びた魂が補われるような充足が胸を満たす。

 

「こうやって霊力を奪い続ければァ!

再生し続ける事は出来なくなるよなァ!!」

 

頭部も腕も元の形を取り戻してはいるが、霊力は回収できない。

保有する霊力は目減りするばかりだ。

 

「く くくく ならば それ も 良し」

 

だが悪霊は満足げに笑い、6つの手で3つの印を組む。

 

「気をつけろ!アイツ霊力の消費(かま)てられなくなった!

術を使てくるぞ!!」

 

「獣牙魔窟」

 

洞窟の天井と床に巨大な岩の牙が現れ、何人かの弟子を噛み砕いた。

 

「雷葬咆」

 

凄絶な稲妻が束ねられ、一条の焦熱となって眼前を焼き払う。

 

「兇嵐撃震」

 

竜巻が巻き起こり、地盤を捲りながら暴れ回る。

まさに天災の如き大破壊が、あまりにも容易に命を踏み潰していく。

それは死を齎す蹂躙であり、同時に自身を守る障壁でもあった。

 

「焦てるね、兄弟子」

 

「…!!?」

 

だが、()()()()の事はウーシエの弟子たちにとってどうという事もない。

 

「背後がおろそか。師匠に怒られるぞ」

 

シャーヤは両手を重ねて1本の槍と成し、背中から貫く。

そして悪霊の身体を、そのまま左右に引き裂いた。

 

「ぐぁ がッ!!ふざけた 真似 を…!」

 

「キルエ!!喰っていいぞ!!」

 

地面が水のように飛沫を上げ、弟子の1人が少年を抱えて浮上してくる。

土遁の仙術によってキルエを運搬したのだ。

 

「ガキ!トドメはくれてやるから、さっさと殺せ!」

 

「助かりました!

…それじゃ、いただきま~す!!」

 

千切れた悪霊の左半身を貪り喰らう。

 

「それは 俺 の 力だ。返せ…!!」

 

悪霊は猛り狂い、半身を治さぬまま襲い掛かる。

だが白い霧が鎖のように悪霊を拘束し、動きを封じた。

 

「ぐっ…!!忌々しい 弟弟子…(いな) 我が弟よ…」

 

「悪いネ兄ちゃん。大人しく消えろ。

小僧早くトドメを!!」

 

「了解っ!食い尽くす…ッ!!」

 

キルエが悪霊に頭から齧りつき、悪鬼の如く怨念を啜り尽くす。

 

「あァ~マズい!超マズいッ!!」

 

「いいから食べる。ほら早く」

 

「我、が。消える?バカな。

奪われて ゆく…我の 霊力 が…!」

グォオオオオオッ!!

 

断末魔もろとも、悪霊はキルエの中に吸い込まれていった。

キルエはゲップをひとつ残し、腹をさする。

 

「ひっさびさに魂食ってみましたけど、悪霊って胃にもたれる感じがしますね」

 

「言てる場合か。…ほら見ろ、出口だぞ」

 

悪霊が立っていた場所の後ろにある黒い壁を指差す。

既に生き残った弟子たちが群がり、破壊している。

 

「アレは封印。師匠がしたのか、それとも別の誰かがやったのか、それは知らん」

 

「…あの。どうです、ちゃんと役に立ったでしょう?」

 

「フン。役に立つの当たり前ネ、そのために生かしたの忘れたか?

じゃ、ここから出た後は互いに関わらない、いいか?」

 

「むう。別に良いですけど」

 

キルエは、褒められなかった事に不満を覚えた自分自身に驚く。

 

(散々痛み目見て、褒められるのも嬉しくなくなったと思ってたけど…気のせいだったか。

まぁ、人はそう簡単に変わらないしな…)

 

「あ、開通したナ」

 

黒い壁が崩れ、洞窟内を懐かしい光が差し込む。

弟子の1人が、右腕と左足を失っているとは思えぬテンションで飛び出した。

 

「フフッハハハハハ!一番乗りはこの私がもらっ…」

 

その男の頭部を、光の矢が貫いた。

 

「え?」

 

出口の先で、道士服を着た者たちが数えきれないほどズラリと並んで待ち構えていた。

 

「封印が解けたぞ!!こやつら全員皆殺しだッ!!」

 

リーダーらしき老人の命令に応じて、全員が光の矢を構える。

 

「おいおい…ッ」

 

「下がれ!回避するネ!!」

 

無数の光の矢の弾幕が、波のように押し寄せてくる。

前方の弟子たちはズタズタに裂かれ、貫かれていく。

シャーヤは全身に霊力を纏わせて防御し、キルエはその後ろに隠れる。

 

「どうやら…もう少し、付き合い長くなりそうネ」

 

「そうらしいですね」

 

〈つづく〉

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