水のヒーローアカデミア   作:ていも

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プロローグ

 

個性というものがある。中国だかどこかの国で光り輝くリアルかぐや姫が生まれたことがきっかけで、世界各地でさまざまな異能力を持つ子供たちが確認され時代の流れとともにその割合は増えて行った。

 

今や世界人口の8割が何かしらのスペシャルな力を持ち、その力のことを総称して個性と呼んでいる。

 

個性には未だに謎も多く、現代においても解明されていないことはたくさんある。

 

だが人間、そんな力を持ってしまえば悪いことをしようとする奴も一定数出てくるものだ。考えてもみてほしい。あなたに個性が発現してそれが『透視』だったらどうする?めっちゃ悪いことするでしょ、覗きとか。いや頭いい人ならもっと違うことするかもだけどね。

 

そんな悪いことをする奴らはヴィランと呼ばれ、それを取り締まり社会の平和を守るのがこの個性社会の象徴とも言える職業。

 

それがヒーローだ。

 

小中学生のなりたい職業ランキングでは毎年1位を獲得し、名実ともに子供たちの憧れとなっている。俺の通う中学でもヒーロー志望は数多くいるし、ヒーローになるための名門校、雄英高校への進学志望の奴もいる。

 

だがよく考えてほしい。ヒーローとは誰かの為に戦う仕事だ。誰かも知らないヤツの為に血を流し、我欲に溺れず市民を守る。その姿は正しくヒーローだろうと俺も思う。でもそのかわり自分自身は傷つくのだ。誰かを守って傷つき続けたその先に果たして自身の幸せなんてあるのだろうか。

 

滅私、と言えば聞こえはいいがそれは社会の犠牲とも言える。捻くれた物の見方だと、ヒーローはもっと夢のある仕事だと、社会を知らない中学生の戯言だと笑えばいい。

 

感謝され市民に愛されても自分が幸せで満たされていなければ意味などない。英雄思想大いに結構だが俺はスペシャルじゃなくていい。

 

普通に働いて普通に生きて普通に死ぬ。そんな人生に俺は幸せを感じることができるから。

 

故に、俺はヒーローは目指さない。否、目指したくないしやりたくない。

 

「話がなげえ。本音は?」

 

「正義の味方っていう看板がもう既にめんどくさいよね。不労所得欲しい。」

 

 

 

 

 

▼△▼

 

 

 

バシッと軽快な音がする。

本音で答えたのに頭を引っ叩かれた。痛い。

 

「何すんのよ上鳴」

 

呆れた顔でこちらを見下ろしているのはクラスメイトの上鳴 電気。個性は【帯電】で電気を放出することができる強固性だ。派手な金髪などのチャラついた風貌から勘違いされがちだが根は真面目だし、シンプルにいいヤツ。

 

「急に個性の成り立ちから話し始めて何かと思えばそんなくだらねーことかよ。いいから俺と雄英行こうぜ」

 

「やだやだ。お断りでーす」

 

 

だって痛いの嫌だし。普通にめんどくさそうだし。俺は極力ラクして生きたいの。

 

「シュウなら絶対行けんのに勿体ねーよ!馬鹿だけど成績は悪くないしムカつくけど個性は強いし」

 

「ちょっと?なんでいちいちディスを挟んでくるの?そんな誘い方あります?」

 

「素直に褒めたくないお前が悪い」 

 

「褒めろ褒めろ。俺は褒められて伸びるタイプだから」

 

「そーゆーとこが素直に褒めたくない理由なんだよ」

 

そう言ってまたため息をつかれる。幸せ逃げるぞ吸え吸え。

 

とはいえ現在季節は初夏、俺たち中学3年生はとっくに進路を固めて受験に向けて勉強を始めなければならないので、まだ進路をちゃんと決め切っていない俺に対して上鳴が鬱陶しいくらい誘ってくるのもわからんでもない。

 

「まぁとにかく俺の人生の目標は不労所得で食べてくことだから。もしくは養ってもらう」

 

「ほんっと、ゴミみたいな目標だよなそれ。でもヒーローになって人気出れば不労所得の方はワンチャンあるぞ」

 

「え、何その話詳しく」

 

「いや、人気ヒーローってグッズ出てるじゃん。ああいうのって売上のうち何%かは本人に還元されるんだよ」

 

「…まじ?」

 

「まじ」

 

「…俺ヒーローになる。大人気ヒーローになって子供たちにグッズ買ってもらえるヒーローになる。そして速攻引退してグッズのお金で生きていく」

 

前言撤回。不労所得をもらえる可能性がある仕事。なんて素晴らしいんだろう。人気あるヒーローになることができれば働かなくてもグッズでお金は増えていく。俺はスペシャルじゃなくていいけどノーマルよりイージーに心惹かれる。

 

「ちょっと職員室行ってこないだの進路調査票変えさせてくださいってお願いしてくる」

 

「雄英な」

 

「任せろ、No. 1ヒーローに俺はなる」

 

「誘っておいてなんだけど、本当にそれでいいのかよお前…」

 

失礼な。進路が決まる瞬間なんてこのくらい緩い理由から始まることもあるだろ。

 

 

▼△▼

 

 

 

 

その後担任の元へとダッシュした俺は進路希望調査票に『雄英高校』と書いたものを担任に叩きつけ、俺は雄英に行きます!と声高々に宣言した。

 

「水無月…どう言う心境の変化だ」

 

「いやなんかヒーローって儲かるらしくて」

 

スパァンと景気のいい音が鳴り響いた。なんか今日頭ひっ叩かれること多くない?馬鹿になりそう。

 

「お前は元から取り返しのつかない馬鹿だ」

 

「ナチュラルに心を読むなおっさん。あんたの個性は読心じゃないだろ」

 

軽口を叩くと今度はボディに良いのを入れられた。ぐふぅ…くっそこのおっさん調子に乗りやがって…!

 

「誰がおっさんだ先生と呼べバカたれ。お前は顔にデカデカと書いてあるんだよ。…それより本当に良いのか?」

 

「んー、まぁいいかなって。センセーも事情知ってるからあんま強く俺に言わないでいてくれたんだと思うんですけど。不労所得欲しいのはまじなんで」

 

「…まぁ良い。雄英は一筋縄では行かんぞ。励めよ」

 

「うーっす帰りまーす」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして職員室を後にして教室に戻ると上鳴が何やらケータイを弄りながら俺の席の机に座っていた。おい、机に座るなお前の温もりとか感じたくねーよ。

 

「お、帰ってきたなシュウ!センセーなんて言ってた?」

 

「特になんも。励めよって言われた。」

 

「そっかそっか!よっしゃこれでシュウも雄英か!俺たち2人とも受かったらうちの中学創立以来の快挙だぜ!?伝説の卒業生になれるぜ!?」

 

「気ぃ早いって。とりあえず上鳴は勉強もうちょいやんないと。あそこ偏差値バグってるレベルで高いからそれなりにやらんと筆記で死ぬよ?」

 

「ま、まあそれはなんとかする…とりあえずそろそろ帰ろうぜ。」

 

「ういー」

 

 

 

 

▼△▼

 

 

 

水無月と上鳴がなにやら騒ぎながら帰宅していくのを職員室の中から見届け、先ほどあのバカに突きつけられた進路希望調査を軽く眺めながら自分のデスクに向き直る。

 

「はぁ…」

 

水無月 修。あいつは言動や行動はバカそのものだが完全なバカってわけではない。寧ろ学力テストでの成績だけで言えば上鳴より雄英合格に近いとすら言える。

 

だがヤツには致命的なマイナス要素がある。それを雄英のお偉いさん方がどう思うことやら。

 

デスクの片隅にある資料を手に取り徐に開くとそこには教職員が見ることのできる各生徒の情報がまとめてある。

 

ペラペラとページを捲っていると目的の人物に辿り着いた。

 

水無月 修

 

中学2年時の冬に本校へと転入。表向きの理由は父親の転勤となっている。

だが実際は転入のひと月前に水無月 修が起こした暴力事件によるもの。事件に情状酌量の余地が多く、被害者側からの訴えも出なかったため公にはなっていない。青少年保護の観点からこの事件の内容については守秘義務を設ける。事件の詳しい経緯は下記参照

 

 

 

胸糞悪い内容に途中で読むのを止め、ガシガシと頭を掻きながらパタリと資料を閉じた。

ひとつため息を落とし安物の椅子に背を預ける。ギジリと椅子が軋む音がした。

 

「せいぜい頑張れクソガキ共」

 

その呟きは誰も居ない職員室のシンと静まり返った空気へと溶けて消えていった。

 

 

 

 

 

これは、ひょんな事からヒーローを目指すことになった水無月 修が不労所得を貰えるイージーな人生を送れるようなヒーローになれるまでの物語だ。

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