水のヒーローアカデミア 作:ていも
制服から動きやすい服装に着替え演習場へ着くとそこは既に受験生で埋め尽くされていた。
皆一様に緊張した面持ちでストレッチをしたり精神統一をしたりしてる。
この場面で一発ギャグとかやったらウケるかな?
てかこれが演習場?めちゃくちゃ広くね?普通に全部水に沈めるとか無理だったわ。
そんなことを考えているとスピーカーからノイズ音が聞こえてきた。
『ハイスタート!!』
はい?
『どうした!実戦にカウントダウンなんて無えんだよ!走れ走れ!』
むっちゃくちゃなこと言ってるな。ほら周りの受験生も戸惑って…ない!?
やばいなんかみんなとんでもない勢いでダッシュしてるし完全に取り残されてる!
くそう、なんで俺はいつもいつも微妙にマイナスからスタートするんだよ!
言うが早いが個性を発動。もう皆さまわかってる思うけど俺の個性は水を操る。足の裏から水を射出して空を飛翔する。ほらあれ、フライボードの要領よ。
一気に市街地上空へと飛んだ俺は眼下に広がる街並みの中からターゲットを探す。
「みぃつけたあああ!!!」
まだ交戦していないロボ目掛けて両の掌から尋常ではない量の水を放水のように射出する。水流を操作してロボたちに浴びせるとほとんどのロボはボン!とショートするような音とともに動かなくなったがまだ動いてる奴が1体居た。
「なるほど、1ポイントと2ポイントは水濡れ厳禁のカモだけど3ポイントは防水なのね。」
言うが早いがフライボード放水を使い3ポイントの近くに着地。
するとロボがグルンとこちらに振り返りこちらに視線を飛ばしてきた。首の可動域180度オーバーかよメカすげえ。
「イイシャワーヲドウモ!!キカネエンダヨハゲ!!」
「誰がハゲだ!このフッサフサの髪の毛が見えないのか!積んでるグラボがお粗末だから映像の処理できてないんじゃないですかぁ!?」
ブチコロシテヤラァ!!と物騒な声を発しながら突撃してくる3ポイントロボに手のひらを向け圧縮した高圧水流を横なぎに放つ。
「ア、アレ…」
するとなんと言うことでしょう。3ポイントロボが真っ二つになってるでは有りませんか。
高圧水流は石も切れるんだよ。よく知らない人はYouTubeで動画見てみ。引くほどすごいから水の力って。まあ人相手だと怖くて使えないから普段はやらないんだけどね。
ボゥン!と軽快な音を立てて爆発したロボを尻目に再びフライボード式飛行で空に舞う。
「ロボが仮想ヴィランって知った時点でこうなる事は分かってた!!ふはははは!!全員スクラップにしてやらぁああ!!」
さぁ、殺戮ショーの始まりや…
▼△▼
「ファッキュークソヤロウ!!」
「誰がクソ野郎だホントに口悪いロボだなお前ら!」
高圧水流を両手の五指から出し網目状に振るうことでロボをサイコロステーキにした所でハイテンションメガネから残り2分を告げる方法が入った。
ラストスパート頑張るぞいとばかりに空へ飛ぶと目の前にバカでかいロボがいた。
「what’s happen??」
何を言ってるのかわからないと思うが俺も何がなんだかわからない。さっきまでこんなの間違いなく居なかった。びっくりしすぎて流暢な発音になってしまった。
まぁ何はともあれやることは1つ。
多分これゼロポイントのお邪魔ギミックだし36計逃げるが勝ちでござるぅぅう!!!
「待って!!!」
速攻で0ポイントの正面から離脱した俺に地上から声がかかる。下を見ると耳たぶのなっがいパンクな女の子が腕を押さえてこっちに向かって叫んでいた。てかあれさっき俺たちのこと苦笑いしてた耳たぶ女子じゃん。
とりあえず速度を落として耳たぶちゃんの横に着地。
「なになに、どしたの?」
「ごめん突然。あんたさっきのバカだよね?」
「え、急にケンカ売るじゃん。なにここで殴り合いが御所望?俺女の子殴る趣味は無いけどビンタくらいならしちゃう」
「違うから!いやウチの言い方も悪かったけども!!時間ないから用件言うけど多分あそこの瓦礫の下に逃げ遅れてる子がいる。このままだと危ないから助けるの手伝ってくれない?」
なるほど。確かに他の受験生たちはとっくに逃げ出してるし助けるって言ったって、耳たぶちゃんは耳たぶちゃんで腕怪我してるしでどうしよう状態だったところに俺を見つけて声かけたって感じか。
「まあ俺をバカと呼んだ件については後でじっくり話すとして、瓦礫の下に人がいるって確証あるの?」
「ウチの個性、耳がいいの。あそこの瓦礫の下から心音が聞こえるから間違いない。お願い、手伝って」
まぁそう言うならそうなんだろう。ただまだ腑に落ちない点がある。
「なんでわざわざ耳たぶちゃんが助けるの?お宅もまあまあ痛そうな怪我だよそれ。他の受験生みたいに逃げてポイント取りに行きなよ。それに試験なんだしセーフティくらいあるでしょ。心配しなくても大丈夫なんじゃ」
「それでも!!!」
言葉を遮り、急にでっかい声を出した耳たぶちゃんが体を震わせながら俺のことを睨みつけてくる。
「それでもウチは助けたい!万が一があるかもしれない!試験だから大丈夫なんてわかんないでしょ!?」
「それにここで逃げたらウチは何のためにヒーロー目指したのかわかんないから。」
「あんたが言うようにポイント取るのが正解なのも分かってる。でもウチが目指したヒーローってやつはここで他人を見捨てて自分可愛さに動くヤツのことじゃない」
「…ごめん言いすぎた。ウチは行くからあんたは好きに逃げて。」
そこまで言い切ると耳たぶちゃんは身を翻しゼロポイント巨大ロボに向かって走り出した。
対する俺は恥ずかしながら呆気に取られていた。なぜって?
彼女が涙目になりながら俺に想いをぶつけるその姿に、いつかの金髪バカの姿を重ねたからだ。
『お前が何したかなんて知らねーけどよ!それで勝手に壁作って逃げてんじゃねえぞ弱虫!』
随分前の記憶だ。もう思い出すのも恥ずかしいイタイタしい記憶だ。だけど
その姿に確かに救われたあの日を思い出した。こんな奴がヒーローになるんだなとぼんやり思ったんだ。喜べよ上鳴。お前とおんなじ様なバカが此処にも居たぞ。
そう思った俺はすぐさま駆け出し彼女に声をかける。
「待ってよ耳たぶちゃん。そんな体じゃミイラ取りがミイラになるのが関の山だぜ。救助は任せるけどあのデカブツは俺に任せてくんないかな?」
だから、今俺のやるべきことは全力でこの愛すべきバカ第二号を助けることだ。
▼△▼
俺が声をかけると驚いた様に耳たぶちゃんが振り返る。おいなんだその信じられないものを見る目は。
「…良いけど、あんたさっきと言ってること全然違うよ。どういう心境の変化?」
「素直になれないお年頃なんだよ。察して欲しいなその辺は。それより耳たぶちゃん。俺が時間を稼ぐからその瓦礫の下の子助けてこの通りから離れられる?」
「…耳郎」
「ん?」
「ウチの名前。耳郎 響香だから。その耳たぶちゃんってのヤメテ」
「オッケー耳郎ちゃん。んでできる?」
「分かった。やって見る。そのかわりそっちも頼んだよ!」
そう言って走り出した耳郎ちゃんを尻目に俺はゼロポイントロボへと向き直る。やっべ、やっぱ超でかいわこいつ。ひとまず…
「やーいやーい!デカいことしか能のないポンコツー!そのデザインどうなってんだよダッサ!悔しかったらなんか言い返してみろ!」
必殺小学生の煽り。やってることはバカ丸出しだし瓦礫へと走ってる耳郎ちゃんも頭抱えちゃってるけどとりあえずいい。問題はそれでこいつのヘイトがこっちに向くかどうかだけど…
「ナマイッテンジャネエゾクソガキガァァア!!!」
やべえ想像の300倍煽り耐性ないじゃんこのロボ。てかやっぱ搭載してるAI同じヤツなんだな本当に口悪いなこいつら。
とんでもない勢いでデッカイ腕を振り回して殴りかかってくるのを飛んで交わし一先ず水砲を放って見るがどうやらこいつにもしっかり防水は施されてるみたいだ。
「キカネエンダヨハゲ!!」
「どいつもこいつもよくみろこの頭を!ハゲてねえだろが!」
お返しとばかりに高圧水流を放つもデカすぎて切れ込みが入るだけで貫通、切断には至らない。
どうしよっかなと思いブンブン振り回される腕を躱していると下からいいよ!!と女の子を抱えて路地に逃げていく耳郎ちゃんの姿が見えた。どうやらもう救助したらしい。さすが雄英志望だ。優秀が過ぎる。
「ナーイス」
華麗にバク宙をかましながらゼロポイントから距離をとって着地。人払いも済んでてロボもこんだけデカいんだ。多分誰かの妨害にはならんしやっても文句言われないだろ!てか文句言われても知らん!
片膝をついて右手を地面にかざす。
すると大通りの端から端を埋めつくさん勢いで地面から水が吹き出しそれは大きなうねりとなって津波に変わる。
「ふはははは!!これぞ俺の必殺技のひとつ!飲み込まれて死ねい!ロボ畜生めが!!」
高さ数十メートルに迫ろうかという津波が周囲の瓦礫や車などを飲み込みながらゼロポイントロボを巻き込んで流れていった。
後に残ったのは水に濡れたアスファルトと見通しの良くなった大通り。ゼロポイントロボは遠くの方ですっ転んでいたし津波に巻き込まれた瓦礫やなんやらでシェイクされてそこら中ボコボコになっていた。ざまーみろ。
さーて俺も耳郎ちゃんと合流するかなーと思ったところでスピーカーから終了の合図が流れ、試験は終わってしまった。
あーあ、もうちょいポイント稼げると思ったんだけどな。残念無念。
そんなことを考えてると安全な場所に女の子を送り届けた耳郎ちゃんが戻ってきた。元気そうだけど腕から結構血出てるよ?大丈夫?
「いや…あんたの個性やばいね。とんでもない威力じゃん。あんな量の水出せるの?」
「お、耳郎ちゃんおつかれーい。まぁね。俺って割と天才な所あるからさ。それと俺はあんたじゃなくて水無月 修だよ。覚えて帰ってねこれテストに出るから」
「なんのテストよ…。ねえ水無月。その…ごめんね?」
「え?何が?」
なんかすごい申し訳なさそうにしてるけど意味がわからない。
「いや、そのウチが変なこと頼んだりしたから。多分水無月ならもーちょいポイント稼げただろうしさ。だから、ごめん」
「あー、そんなことね。いーよいーよ。さっきの耳郎ちゃん、カッコ良かったぜい。お互い受かってるといいねえ」
ほんとそんなこと気にしなくて良いってのに。でもそこを気にすることができる時点でウチの金髪バカよりよほど賢い。褒めてつかわす。
そんな俺を見て耳郎ちゃんはクスリと笑った。
「やっぱ入試前に見た通りだ。バカでしょあんた。お人よし」
「なんだと?さっきもそうだが俺をバカと呼ぶのは許さん。上鳴はバカだが俺はバカじゃない。むしろ賢い」
「なんでそんなに目バキバキにしてんのよ…。上鳴ってあの金髪のでしょ?2人とも何やってんだろって思ったけどアレのおかげで緊張解けたよ。ありがと。それに、さっきのも」
呆れた調子から放たれるお礼ってギャップあっていいよね。なんかこうすごく可愛く見える。いい子だわこの子。
「そんだけだから。受かってるといいね。それじゃね」
そう言うと耳郎ちゃんは走ってどこかへいってしまった。
「俺も帰るかねえ」
▼△▼
その後模擬演習会場を出てから上鳴と合流し、帰路に着くと今日の手応えについての話になった。
俺が耳郎ちゃんとの話をすると上鳴はすごい形相でこっちが真面目に試験受けてる最中に何ナンパしてんだ死ね!と掴みかかってきたのでカウンターパンチを喰らわせたら帯電使ってやがって感電死するかと思った。キレちまったよ…このクソ野郎今日がてめえの命日だ。
ブチ切れて手ごろな空き地で大喧嘩を繰り広げ、上鳴をボコボコにしてから奢らせたアイスはめちゃくちゃ旨かった。雑魚め、と煽ったら食べかけのアイスほぼ全部喰われた。コロス。
あ、上鳴も手応え的には悪くなかったらしい。そりゃ回路ショートさせればどんなロボでもぶっこわれるわな。