水のヒーローアカデミア 作:ていも
あのロボぶち壊し選手権となった雄英入試から1週間がすぎた頃。今日も今日とて俺は家で惰眠を貪っていた。
いやね、なんかあの試験の疲れがなかなか抜けきらないわけよ。あんなに個性ぶっ放したこととか数えるくらいしか無いし。
下からマミーが呼んでる声が聞こえる気がするけど気にしない。知らない。ドラゲナイ。流石にこれは古すぎるな。
「だーかーら!さっきから呼んでるでしょうが!しばかれたいのあんた!!」
バン!とドデカい音を立てながら部屋へと突撃してきたマイマザーを横目にもう一度夢の世界へと旅立つ。次の夢は俺が主人公のハーレム系異世界転生モノでお願いします。
「寝んな!」
マミーの怒声と共にベッドに横たわる俺の腹に拳が突き刺さった。
「ぐぼあ!!!さすが我が母…世界獲れるよこの右は…」
呻きながらそう答えると呆れた様子で何かをこちらに手渡してきた。
「何度呼んでも起きないアンタが悪い。ほらこれ、雄英からだよ。さっさと確認しな」
手渡されたのは1通の茶封筒だった。何が入ってるのか知らないけど形おかしくない?書類入ってる封筒こんな形にならないよね?
中身を取り出してみると書類が何枚かと用途のわからない機械がひとつ。いやまじでなにこれ?
振っても叩いても反応しない。
あ、なるほどわかった。
「ゴミか」
ポイっと部屋の片隅に設置してあるゴミ箱に投げ込むと突然ゴミ箱から私が投影された!!という声が聞こえてきた。え?この声オールマイトじゃね?何が起きた?
「おいバカ息子。あれ投影機でしょ。早く取り出しなさい」
母さんがため息を吐きながら俺にさっさと拾う様に促す。気づいてたなら先に言って欲しかった。
どれどれ…あ、ほんとだ。ここがボタンになってるのね。一回押して消して…もっかい押せば
『私が投影された!!!』
「おお、ちゃんと出てきた!」
『最初に言っておくがこれはOBによる特別出演とかではないぞ!実はこの春から雄英で教師を務める事になってね!よろしく頼むよ!』
さらっと言ったけどそれ大事件じゃね?在学生大歓喜だろ。
てか改めて見るとオールマイトって本当にガタイやばいな。これでNo. 1H.ERO(変態)か…世界は広いな。
『さて水無月 修君!まずはサクッと結果発表だ!ヴィランポイント41ポイント!これだけでも充分優秀な成績だが我々試験官が採点していたのはそれだけにあらず!』
『どんな時でも他者を助けるのがヒーロー!もうひとつの採点項目、救助ポイント!これが完全審査制!』
へえ、そんなのあったのか。てことは耳郎ちゃんはこのポイントすごそうだな。
『君の個性はすごいな。ゼロポイントヴィランを津波で吹き飛ばした時、我々試験官も年甲斐も無く熱くなったモノだ。ちょっと攻撃の規模がデカすぎたのはいただけないがな。』
『さぁ!改めて水無月 修君!君の救助ポイントは35ポイント!合計76ポイント!これは今年の入学試験において次席の成績だ!誇っていいぜ!』
『まだまだいろいろ喋りたい所だが他の受験生へのメッセージも残っていてね!今日のところはこの辺で失礼する!雄英で待ってるぜ!』
しゅんっと音を立ててオールマイトが消えた後、部屋には不思議な静寂が残った。
次いで来たのは合格したんだという強烈な達成感。体が芯からブルブル震えてくる。
遂にやった。やったんだ。
俺はこれで…やっと…!
「不労所得への第一歩を踏み出したんだ…!」
「そんなことだろうと思ったわバカ息子」
ここ最近で1番の威力で頭を引っ叩かれた俺はそのまま部屋で気絶した。ありえん威力だった。きっといつも使ってる個性とは別に一撃必殺の個性とか持ってるに違いない。
▼△▼
「とゆーわけで雄英受かりました」
「右に同じくでーす」
マミーにぶん殴られた翌日。無事に合格していた上鳴と一緒に職員室に出向き我らがおっさんセンセーに報告すると職員室が静まり返った。
すぐにザワザワと色んな先生方が喋りだす。
おい、そこ受かるわけないと思ってたとか言うな聞こえてるぞ。
そっちもただのバカじゃなかったのかとか言うのやめろや、どう見てもバカじゃないだろ。
「そうか。おめでとさん」
「あ、あざっす」
他の先生方がザワつく中、センセーは異様なまでに通常運転だった。びっくりしすぎて反応できないとかそういう系?
「反応薄くない?史上初なんでしょウチから雄英って。それも2人同時だよ?それの担任だよ?めっちゃ名誉じゃないの?」
とりあえず釈然としなかったのでおっさんに対して抗議してみる。するとこちらを憎たらしい目つきで見た後にため息をひとつ。
「お前らはバカだ。バカを極めてる。だがな、俺は行けると思わないやつを雄英入試に送り出したりはしねえ。中学浪人とかされても寝覚め悪いしな。だから受けさせてる時点で受かる目はあると思っていた。…もういいか?仕事山盛りなんだよこっちは。ほらいったいった。」
シッシッとやられて俺も上鳴も職員室から追い出される。
「なんか思ったよりアッサリしてて肩透かし感すごい。」
「それな。折角雄英受かったのにな。センセーももうちょい反応してくれても良いのにな」
「クラスの連中なんてすげえいい反応してくれたのにな。上鳴女子に囲まれて鼻の下伸ばしてたしな。気持ち悪い」
「そういうシュウだって後輩の女子に声かけられてニヤついてたじゃねーか。このロリコンが」
「はあ?」
「あ?」
教室までの歩みを止め胸ぐらを掴み合う。予鈴がなるが気にしない。
「おい予鈴鳴ったぞクソやろう」
「今はどこぞの勘違いバカを教育するので忙しいからな。後だ後」
「お?上等だコラ、こないだ勝ったからって良い気になってんなよハゲ」
「よくみろやふさふさだろうが。IQ2か?知ってる?サボテンってIQ3あるんだよ。お前より賢いじゃん」
「髪の話じゃなくて道徳とか倫理観とか思いやりがハゲ上がってるって言ってんだよ。読解力小学生未満か?」
「上等だコラ。その目障りな金髪引きちぎって物理的にハゲにしてやるわ」
「何やってんだバカ共。さっさと教室入れ」
さっき別れたばかりのセンセーがため息を吐きながら俺と上鳴の頭を引っ叩き教室へと連行する。なんかいつもため息つかれてる気がするな俺たち。
教室に担ぎ込まれるまでの間上鳴とメンチを切り合ってると他の生徒に安心した様子で、「あっ、バカはやっぱりバカなんだね」と言われたのが本当に本当に心外だった。
こいつはバカだけど俺は違うからね!!!
ちゃんと分別して!!と叫ぶとゴミなのかお前は、と突っ込まれ凹んだ。
▼△▼
時は少し遡り、場面は雄英高校へと移り変わる。職員が一同に介するこのホールでは現在入学試験の合否判定が行われていた。
「えー、続いてこちらの生徒ですね。水無月 修。映像からも分かる通りかなり高いレベルで個性を扱えており救助ポイントと合わせ今季次席の成績を収めています。問題なく合格で良いかと」
司会を務めていた職員の言葉に多くが肯く中、待ったをかける者がいた。
「ちょっと待ってください。この水無月ですが、現在の中学には昨年転入しています。それ自体はよくある話ですが問題はその転入理由です。この資料を見てください」
彼の一声と共にスクリーンに水無月 修のプロフィールが投影される。
「ここにもある通り彼は転校前に個性の私的利用により負傷者を出した経歴があります。この様な者を我が校に招き入れるのは雄英の品位に関わるのでは?」
「待ってください。こちらの資料には相手は指定ヴィラン団体であり個性の使用に関しても情状酌量の余地は十分にあると書いてある。これは公的文書だからこの様な書き方をしているが、要するにヴィランから人を守った結果こうなったと言うことだ。排斥する理由にはならないだろう」
「無免許でこのような行為に出たのだぞ!ヒーロー科に在籍させ増長してしまったらどうする!?何のためのヒーロー免許だ!」
「そうならないように導くのが我々教師の務めだろ!能力のある若者を正しく育てるための雄英だ!」
両者の意見は真っ向から対立し、合格させるべきではないと考える者と能力がある者を正しく導くのも雄英の務めだと主張する者。議論が白熱する中、判断は校長であるネズミ…ではなく根津へと一任された。
「ふ〜む。お互いの主張も分かるところ。どちらかが間違っているという単純なものではないのさ!」
あっけらかんとした根津の考えに少々毒気を抜かれる両者。
「俺にやらせてください」
そこにそれまで壁際に寄りかかり腕を組んで傍観を貫いてきた長髪の無精髭を生やした見るからに不健康そうな男が割り込んできた。
「水無月 修。見込みはあるのは間違いない。だが心がヒーロー足り得るのか。それを判断するには自分が適任でしょう。ここで我々が無駄に議論を重ねてもそれは合理的じゃあない。」
「相澤先生!しかしそれは…!」
「見込み無しと判断したら即刻除籍処分とします。加えて時期が来れば本人から直接事件について聞く機会もある。判断はその時でいいでしょう」
相澤と呼ばれた教師の言葉に反論していた職員は言葉を詰まらせる。その相澤の様子を面白そうに眺めた根津はいつもの軽薄さを潜ませ真面目な調子で相澤へと問いかける。
「本当にいいのかい?相澤先生」
「良いも何も、自分が適任でしょう。それに、ここでただ落とすには惜しい人材ってのもある。水を操る個性は案外貴重だ。汎用性も高い。それをこの年齢でここまで使いこなすヤツも珍しい。なら一度見てみるのが早いと思います」
「なら僕は君に任せるとしよう。先の緑谷くんと言い爆豪くんと言い、今年のクラスは面白くなりそうだね」
校長の鶴の一声もあり、話は急速にまとまり、すぐに次の受験生の合否へと話題は移る。
(水無月 修…ね。どんな面倒を抱えたヤツなのかは知らんが、つまらないことはしてくれるなよ)
相澤が密かに思いを巡らす。
この一月後、入学初日で水無月が盛大にやらかす事を今はまだ、誰も知らない。
そう、彼らは知らない。
バカはどこまで行ってもバカだと言うことを。