水のヒーローアカデミア   作:ていも

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第四話

 

4月。暦の上でも気温的にもすっかり春を迎え、暖かい日差しを感じることのできるすばらしい時期。出会いの季節とも言われ、多くの人が心を躍らせるそんな今日の良き日に、我らが雄英高校の入学式は行われる。

 

なんだかんだで無事に中学を卒業した俺は、春休みをフルに使って個性の強化に励んだ。

途中、上鳴と思い立ってヒッチハイク日本一周の旅に出てちょっとした騒動に巻き込まれたりはしたが、それはまたの機会に語ろう。

 

珍しくアラームなしで目を覚まし、真新しい制服に身を包む。寝癖を直して身嗜みを整えたら水無月 修高校生verの完成だ。うーむ、さすが俺。制服効果も相まって5割増しでイケメン。

 

母親と簡単な挨拶を交わし家を出ると清々しい春の風が吹き抜けた。これから俺は新しい場所でどんな出会いをするのだろう。どんなヒーローになれるのだろう。

 

チラリとケータイを見る。表示されている時刻は8時を少し回ったところ。いつも俺が家を出る時間だ。

 

ここで地理の話をしよう。俺の家から中学までは徒歩で約15分。

今日から通う雄英は数駅先の場所にあるため電車通学となり、どう頑張っても30分はかかる。

 

さて、ここで雄英高校の始業時間をお伝えしよう。8時25分である。もう一度言う。8時25分だ。

 

つまり、この時間に家を出たらどうあがいても間に合わないのである。

 

もう一度ケータイを見る。上鳴から夥しい量の着信が入っている。

 

そう、俺はアラームなしで起きたのではない。

アラームをかけ忘れて寝坊したのだ。

今までより早く起きなくてはならないことをすっかり失念していた。

 

ひとつため息を落とし、空を見上げる。

 

 

 

「終わったなあ…」

 

 

 

ああ、今日も空が綺麗だ。

 

 

 

 

 

 

 

▼△▼

 

 

 

 

 

俺、上鳴 電気は頭を抱えていた。

初めは軽い疑念だった。一緒に行こうと話をしていたシュウから今朝になって連絡が返ってこない。それ自体はまだ良い割とよくあることだ。その疑念が困惑に変わったのは電車に乗った後だ。電車内にヤツの姿がない。

 

確信に変わったのは電車から降りた後。ホームを見渡しても姿を確認できず、チャットアプリを見ても既読がついていない。

 

奴は寝坊をしている。

 

背中に冷たい汗を感じながら鬼電した。

もう引くほどかけた。昔シュウが前の中学の知り合いに鬼電されて顔を青くしていた時並みにかけた。

 

成果は、何もなかった。

 

自分の配属されたクラスに入り、席に着く。刻一刻と迫るデッドライン。どれだけかけても繋がらない電話。

皆が親睦を深める中、鬼気迫る形相でケータイを連打する俺。どう見ても変な奴です。本当にありがとうございます。

 

「ね、ねえ…」

 

かけられた声に振り返ると横の席に座るパンクな女子が心配そうにこちらを見つめていた。

 

「さっきからすごいケータイ連打してるけどどうしたの…?」

 

「ああ…ちょっとな…。バカだバカだとは思ってたんだが、まさかここまでとは思っていなくて…」

 

「それってもしかして、水無月のことだったりする?」

 

「シュウのこと知ってんの?…あ、あれか耳郎ってもしかしてキミ?」

 

「そそ、やっぱあんた上鳴だよね。入試の時騒いでた2人組。覚えてるよ」

 

そう言って軽く笑う彼女。なんで俺の名前を知ってるのかはわからないが多分シュウが教えたんだろう。

 

「…あのバカは寝坊だ。なんならまだ寝てるかもしれん。」

 

「嘘でしょ!?あと5分も無いけど…」

 

「無理やりにでも引きずって来るべきだった…!」

 

そんなやり取りをしてるとケータイがメッセージを受信する。あわてて開くとそこには

 

『空、キレイ』画像添付

 

何かを悟った表情で自撮りをかますバカが表示されていた。横で耳郎が笑いを堪えている。ほんっっっとにこのバカはどうしてくれよう。

 

「空、キレイって…!ほんとバカじゃないのこいつ…」

 

腹を抱えて机をパシパシ叩きながら震えている彼女を見てるとなんかもうどうでもよくなってきた。まあ最悪何とかなるだろ。初日だし。

 

てか俺には関係ないしな。もう知らん。

 

直接ホールに来いとだけメッセージを送り、ケータイを机に閉まった。

 

 

 

 

 

▼△▼

 

 

 

 

 

ようやく雄英に到着し、ケータイを確認すると『直接ホールに来い。』とだけ書かれたメッセージが上鳴から来ていた。

 

まぁ時間的にそろそろ入学式も始まる頃だしそうした方が良いだろう。ほんとはカバンを置きに行きたいところだけどそこは遅刻した手前贅沢は言えない。

 

とにかく無駄に広い雄英の敷地を駆け回り、やっとの思いで人の気配がするホールを見つけたのでなるべく音を立てないようにしながら隅の方から入場。

 

すると式はすでに始まっており、ちょうど新入生代表挨拶をするところだった。

 

『新入生代表、爆豪 勝己!』

 

すげえ名前だな。なんかめちゃめちゃ強そう。なんて思ってるとなんか教員席がざわざわしてる。あれ?もしかして俺以外に爆豪くんも遅刻組!?

 

やった!これで俺だけが怒られることはない可能性が出てきた!

 

『えー、すみません。新入生代表、水無月 修!』

 

と、思っていると今度はなぜか俺の名前が呼ばれた。…あ、あれか。入試の成績か。主席がいないから急遽次席の俺が呼ばれたわけだ。すると何やらまたざわついている。まずい!ここで出て行かないと俺の遅刻もバレる!ええい!迷ってる場合じゃない!

 

「はい!!!」

 

カバンを投げ捨て、中心の通路へと身を投げ出す。スポットライトが全身を照らし、壇上へと歩みを進める。

 

なんでか知らないけど出てきた後の方がザワザワしてるけど、そんなこと気にしてる余裕はない。

 

ステージに上がりマイクの前に立つ。が、当然代表挨拶なんてものは一切何も考えてきていない。…思い出せ、いつもこういう時委員長的なやつは何を喋っていた…?

 

震える喉を唾を飲み込んでなんとか制し、狭まる視野を、視線を正面に集中させなんとか保つ。ここだ。ここが俺の分水嶺。遅刻のミスをここで挽回する!

 

『暖かな春の日差しに包まれる今日のこの良き日に、私たちは無事、この歴史ある雄英高校の入学式を迎えることができました。』

 

できるだけ爽やかに、それでいて初々しく言葉を紡ぐ。

考えろ、考えるんだ。

 

『本日は私達のためにこのような盛大な式を開催していただき、誠にありがとうございます。』

 

いや、待て。何かおかしくないか。

 

口を回しながら周囲を見る。

生徒が、教師が、明らかに反応がおかしいではないか。そう、言うなれば、「なぜここにお前が居るんだ」とでも言いたげな…。

 

そして会場全体を改めて見渡して気がついた。新入生、そのヒーロー科1年A組のクラスの席であろう場所が丸々空席になっていると言うことを。それはつまり、俺がこの場所に居てはいけないことを証明している。

 

血の気が引いていくのを感じる。

だがここに来て口を止めるわけにはいかない。

ここまで来たらもう止まれない。やり切るしかない。この意味のわからん代表挨拶をやり切ることしか俺にはもうできないのだから。

 

『先生方、先輩方どうか今後ともご指導のほどよろしくお願いいたします。新入生代表 水無月 修』

 

頭を下げ、チラホラと拍手をもらいながら壇上を降りるとけたたましい音と共にホールの扉が開いた。

 

何事かと思いそちらを見やると、そこには怒髪天を衝く鬼の形相をしたロン毛ヒゲぼさ男性とその後ろで頭を抱えている上鳴と大爆笑している耳郎ちゃんがいた。

 

何事かと考える暇もなく飛来した包帯のようなものでぐるぐる巻きにされた俺はホールから引き摺り出され、言葉を発するまもなく連行されることとなった。

 

 

うん…終わった…

 

 

 

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