水のヒーローアカデミア 作:ていも
「弁明を聞こうか」
ホールからぐるぐる巻きにされて引きずられ、砂まみれになりながら連れてこられた場所はグラウンドだった。
ひとまず拘束を解いてくれたので制服を手で払いながら周囲を見渡す。すると先ほどいなかった1年A組の面々がなぜか運動服に着替えて揃っていた。
うーん、なんも状況わかんねーな。
「遅刻はアラームのかけ忘れが原因です。大変申し訳ございませんでした。ホールの方に居たのはそこの金髪…上鳴から直接ホールにくるように、とメールを貰ったので行きました。代表挨拶に関しては呼ばれたので行かないとまずいと判断し、行動に移した次第です。」
今北産業、とは行かなかったが極力簡潔に自分の行動について話すとおっさんはため息を吐きながら額を抑え、こいつもう見込み無しで良くないか、とか不穏なことを言ってる。
「申し訳ないついでにもう一つ。あなた誰です?見たとこ立場は先生っぽいですけど風体は浮浪者でこっちも理解が追いつかないんですよね」
「浮浪者は余計だ。俺は相澤消太、この1年A組の担任だ。だがお前のような入学初日から遅刻して来るような生徒を教えてやる義理はない。お前は除籍だ。このまま帰れ」
わっつ?え、なにこの人今除籍って言った?
「え、まじで言ってます?」
「まじも何もない。ヒーロー科に時間すら守れない人間は必要ない。即刻お引き取り願おう」
やばい、取りつく島もない系だこれ。
真面目にやっちまったなどうしよう。えげつないくらい冷や汗流れてきた。たぶんこれ茶化したら余計やばいやつだ。
「いやいやいや!先生!いくらなんでもそりゃないって!確かに遅刻したシュウがわりーけどそれだけで除籍ってあんまりだろ!」
「ウチもそう思います。確かに遅刻はありえないけどさっきホールで代表挨拶までした生徒をその日のうちに除籍って職権乱用じゃないんですか?」
上鳴と耳郎ちゃんがフォローを入れてくれるけど先生の厳しい表情は一向に緩んでくれない。むしろどんどん眉間のシワが増えていってる。
「さっきも言った筈だ。普通の学生の様に生活したいなら他所でやれ、と。ここはヒーロー科だぞ。有事の際に寝坊で遅刻するヒーローがどこにいる。そして耳郎、職権乱用と言うが、除籍は俺に与えられている職権の範囲内だ。」
これもう終わったな。まさか遅刻1発でアウトとは思わなかった。中学の頃センセーにも散々時間厳守を意識しろって怒られたけど、ごめんセンセー、俺は学べないバカだったよ…。
ごめんマミー。初日から転校手続きしなきゃ行けなくなった。どっか別の高校入学受け入れてくれるかな…
自分の今後を受け入れたその時、背後から尋常じゃない爆音と共にグラウンドが爆ぜた。
「さっきからゴチャゴチャうるせーんだよテメーら!!」
悲鳴と爆煙が入り混じる中、爆心地から現れたのはツンツン頭の見るからにガラの悪そうな兄ちゃんだった。いや…登場シーンこっわ。
「除籍にするだのしないだの、俺からすりゃなんだっていいんだよ!!…おい遅刻魔ァ!!」
「…ん?遅刻魔ってもしかして俺?」
「テメェ以外に誰がいんだ殺すぞゴラァ!…俺の代わりに挨拶してきたってこたあテメェちょっとはできんだろ。これ投げてみろ」
そう言ってボンバーマン君は俺にボールを投げ渡してきた。…なにこれ?
「おい爆豪、お前なに勝手なことを…」
それに対し相澤先生が睨みつけながら言葉をぶつける。
てかなるほど。彼が爆豪くんか。入試主席は彼なんだよね、名前の通り個性も爆発系なんだ。
「なら遅刻じゃなくて欠席ならよかったのか?アァ?素直に寝坊って言えば除籍で具合ワリィってサボっちまえば明日から普通に登校できんのか?それとも初日に関してはどんな理由であれ除籍になんのかよ?そんなわけねぇよな」
人殺すんじゃねってくらい鋭い目つきから放たれた言葉に皆一様に言葉を失う。
なるほど、そうすりゃ良かったのか。思いつきもしなかったわ、見た目によらず賢いな爆豪くん。
「いつまでもそんなくだらねぇことぺちゃくちゃ喋ってねーでやる事やれや。今ここに何する為に居んだ、個性把握の為だろが。やらしてこいつがアンタの言う見込みの無えカスなら除籍でもなんでも好きにすりゃいい。」
「俺はここにNo. 1になりに来てんだよ!お喋りしてぇんなら他所でやれや!!」
フンッ!と鼻を鳴らすと爆豪くんはもともとやってたであろう何かの計測をする場所へと歩いて行ってしまった。キミの計測もう終わってんじゃないの?
ふと相澤先生の方を見るとハァとため息をついた後、俺に対して鋭い目つきを向けてくる。
てかどいつもこいつも目つき悪すぎじゃない?鋭い目つきってワード使いすぎてる感が否めない。
「…お前への処分は追って言い渡す。一先ず他の連中と合流して個性把握テストを行え。…もしろくでもない成績なら、分かってるな?」
「イエス、サー!この水無月 修!全力を持って取り組ませていただきます!!」
なんかよくわからないけど一旦助かった!!ありがとう爆豪くん!口悪いし目つきもひどいけどまじで愛してる!!
「俺はサーじゃない。計測方法はそこの上鳴や耳郎に聞け。…他のやつはとっくに計測終わってんだ!さっさと行け!」
「ラジャー!!」
何するかわかんないけどとりあえず全力でやろう。めちゃくちゃ居心地悪い中、上鳴と耳郎ちゃんの所へ全力疾走してやった。
▼△▼
「はーん、なるほどね。体力テストの個性アリバージョンってことか。」
2人からの説明を聞いた俺は現在、ボール投げをするべく円の中に立っている。現状の一位は先ほどの爆豪くんの705mだそうだ。いやエグいな。
「相澤先生ー」
「なんだ、さっさと投げろ」
「こっから出なければまじで何してもいいんですか?」
「そう言ってる」
なるほど、ならお言葉に甘えよう。あとから文句言われても知らんぞ。今の俺にそんな余裕はない。
「そんじゃ行きまーす。」
ボールを右手に構え、前方斜め上へと突き出す。その瞬間今俺のできる全力の水位で掌から放水。
とんでもない量の水に押されて、瞬く間にボールは遥か彼方へとすっ飛んでいく。
「まだまだぁぁぁあああ!!!!!」
本来ならここで放水を止める所だが今日はここからさらに水量を増やしボールを空へと押し上げる。徐々に水圧に体が負け、後退し始めたところで放水をやめるとボールはとっくに見えなくなっていた。
『記録 785.6m』
「うぉおおおお!!最高記録出たァ!!」
「ちょ、やばくね?グラウンドびっちゃびちゃになってるけど!?」
「あ、待ってね水はすぐ消すから」
「出し入れ自由かよ便利だこいつ!!」
あちこちから歓声が聞こえる。そうだよこれだよ、俺はこれを求めてたんだよ!なんか青春っぽい!間違っても除籍がどうとかそんなことする為に来たんじゃない!
「お前のせいで時間押してんだ。次、50m走。早く行け」
この先生さえなんとかなれば…!!
【50m走】
これは楽チン。こないだのフライボードの要領で手から瞬間放水で吹っ飛べばいい。
『記録 3秒23』
「ぶべらっっ!!!」
「すげえ早かったけど顔面から行ったぞ!?生きてるかあれ!?」
「飯田に続いて3秒台また出たぁ!」
【握力】
測定器を握り、掌側と指側から高圧水流をぶっ放し水の力で挟む力を底上げする。
腕弾け飛びそうなんだけど!?
『記録 280kg』
「これもすげぇ!けど手の指ありえない方向向いてないかそれ!?」
「ギャグ枠の怪我の仕方だからね…次の測定では治ってるよ…」
「どういう体してんだお前!?」
【立ち幅跳び】
「フライボード飛行!!!」
「うわ、入試の時のやつじゃん。もう見えなくなってるし」
『記録 測定不能』
いつまででも飛べるぜ!って叫んだらそこで測定終わった。解せぬ。
「また測定不能出たよ!!てかさっきからあいつやばくねえか!?」
【反復横跳び】
「根性入ってるかぁぁああ!!!こんちくしょーーー!!!!」
『記録 67回』
「あ、これは普通なのね…」
「いやでも充分すごくね?」
【前屈】
「足の筋が切れても、俺はここで優秀な成績を収めるんだぁぁああ!!!」
「切るな、バカ」
『記録 27cm』
「体硬い!!ストレッチって大事!」
▼△▼
「はぁ…はぁ…」
その後も体力テストは続いていき、遅刻してきたせいで休憩時間もなく全種目を一気にこなしたせいで全身の疲労がえぐい。ていうかクラスのみんなが横で散々突っ込んでくれやがって…楽しかったからいいけど。
「んじゃあ、余計な時間食ったがパパッと結果発表。採点方式は単純に各種目の合計点だ。」
前方の簡易スクリーンに順位が映し出される。俺は俺は…、お!二位じゃん!入試に続いてまた二位だ!これならどうよ相澤先生!
「ちなみに最下位除籍の話は嘘な。君らの全力を引き出すための合理的虚偽」
「「「「はぁぁぁあ!!!??」」」」
え、なにそれそんな話もあったの?除籍好きすぎじゃないこの人。
「水無月に関しては…除籍は勘弁してやるが、この後反省文提出。今後遅刻した場合は…分かってるな?」
「イエス、サー!この水無月 修!金輪際遅刻しないことを固く誓います!お心遣い痛み入ります!!」
「俺はサーじゃない。んじゃ撤収だ。」
その後相澤先生は緑谷と言う生徒に保健室に行くよう伝えるとスタスタと歩き去って行った。
「た、助かった…まじ終わったと思った…」
緊張がやっと解け、膝から地面に崩れ落ちる。
「おいおい、大丈夫かよ!」
「いやー、キミすごかったね!いろんな意味でぶっ飛んでるー!って感じ!」
数人の生徒がこちらに駆け寄ってきてやいのやいのと話しかけてくる。でもとりあえず俺が今話さなきゃいけないのは…
「ボンバーマ…間違えた爆豪くん!」
「誰がボンバーマンだテメェコラァ!!」
「いやまじで間違えたスマン。さっき、まじで助かったありがとう。俺、水無月 修。これからよろしく」
そう言ってキレ散らかしてる爆豪くんに右手を差し出すと、しっかり跳ね除けられた。なんで?
「よろしくする気も馴れ合う気もねぇよ!…次は勝つ」
それだけ言うと1人スタスタと教室へと戻ってしまった。どんだけ負けず嫌いなのさ。
「これでひと段落か…良かった…」
「お疲れシュウ。悪かったな、メール」
「いや、今日のに関しては100%俺が悪い。フォローさんきゅ」
「ウチもめっちゃ笑っちゃったし…こんなんなると思わなくてさ、ゴメン」
「気にしないでよ耳郎ちゃん。無事生き延びたからね!なんとかなってよかったわまじで!これで除籍になってたら恥ずかしくて生きていけないとこだった」
その後、クラスの連中と自己紹介をしながら教室に戻るとなぜか俺の席は切島の後ろだった。
俺の苗字水無月なのに…なんで?なんか見えない力が働いてるとしか思えない…。
▼△▼
「相澤君の嘘つき!」
相澤が職員室に向けて歩いていると校舎の影から巨体が現れた。
「オールマイトさん、見てたんですね。暇なんですか?」
「合理的虚偽って?見込みゼロと判断すれば迷わず切り捨てる。そんな男が前言を撤回。それって、君もあの子達に可能性を感じたってことだろ?」
「あの子達?まぁ水無月と緑谷では状況が違いますがね。2人とも、見込みゼロではなかった。それだけです。」
「水無月少年に関しては流石に除籍させるかと冷や冷やしたよ。初日に遅刻は前代未聞だしね」
「受け入れるって言ったのは俺です。本人の態度を見てました。感情的になるヤツなのかどうかを。まぁ、少々諦めが早いとも思いましたが。」
「そこを爆豪少年の出した助け舟に良い感じに乗っかったってわけか!うーん!相澤君も役者だねえ!」
「もういいですか?仕事、残ってるんで」
そう言うとスタスタと相澤は歩き去ってしまう。残されたオールマイトはボソッと、合わないんだよなあと呟いた後、
「緑谷少年の話、全然できなかったなあ」
と寂しそうに呟いたと言う。