水のヒーローアカデミア 作:ていも
日を跨いで翌日。俺に関しては初日に除籍がどうとか殺伐とした空気だったし、クラスのみんなも嘘とは言え最下位は除籍だなんて言われて雄英の洗礼を受けたこともあり、今日は何をさせられるのかという雰囲気が教室中に蔓延していた。しかし予想に反し行われたのはいたって普通の授業だった。
しかしただの授業と侮るなかれ。偏差値79は伊達じゃないのだ。もうまじでついていくのに必死だった。ペースが早すぎる。何でみんな涼しい顔して受けられるんだ?既に頭から煙出そうなんだけど。
というか上鳴が涼しい顔してこなしていたので腹立って問い詰めにいったらなんとあの野郎予習して来たらしい。
おい絶対偽物だろお前。
やっとの思いで午前の授業を終え、ランチラッシュが取り仕切るバカ広い食堂で上鳴と耳郎ちゃんと飯を食った。味の感想は、あんなに安くてうまい飯初めて食ったとだけ記しておこう。
さて、そんなダイジェストで午前中をお送りしたが本日午後はヒーロー基礎学。何をするのかは知らないがみんな随分楽しそうだ。まあ今日の担当教諭オールマイトだしね。上鳴もあんなナリだけど大好きだもんねオールマイト。申し訳ないが俺にはガチムチなおじさんのフィギュアを集めたりする趣味はない。
「わーたーしーがー、普通にドアから来た!!」
なんて考えてると扉からすげえ勢いでオールマイトが独特の体制で突撃して来た。それ貴方だから許されてるけど他の中年男性がやったら普通に事案だからね?
そんな俺の心の中のツッコミを他所にクラスのテンションは最高潮。シルバーエイジ時代のコスチュームだ!とか作画ちげえとか色んな声が上がってる。
え、シルバーエイジ時代って何?オールマイトのお爺ちゃん時代ってこと?今幾つなのこの人。
みんなが盛り上がりを隠せない中オールマイトはヒーロー基礎学とは何かを話していく。なるほど、この科目が1番単位数が多いのね。まぁヒーロー科だもんね。
「今日の授業はこれ!戦闘訓練!」
すげ、いきなり戦うのかよ。てか座学じゃないだけで大分ありがたい。そろそろ脳味噌ショートしてウェイ上鳴になるとこだった。
「それに伴ってこれ!提出してもらった個性届けと要望に沿って誂えたコスチューム!」
あー、そういやそんなん出した記憶がある。
「着替えたらグラウンドβに集合だ!」
そう言い残してすごい速さでオールマイトは教室を出て行った。…もしかしてオールマイトって落ち着きない?
▼△▼
「来たな、有精卵ども!」
グラウンドβに着くとオールマイトが俺たちを出迎えてくれた。改めて全員のコスチュームを見るがみんななんかカッケェな。
あ、ちなみに俺は個性の補助とかできる特別な機能はついてない。俺の頭だと水を活かすサポートアイテムってやつが思いつかなかった。青のワイシャツに黒のネクタイ、黒のスラックスを履いている。見た目は普通のスーツスタイルだが動きやすいし破れない防水のやつだ。
そんなことより女子のコスチューム全体的にエロくね?八百万ちゃんとか露出半端ないんだけど。葉隠ちゃんなんて用は全裸にブーツと手袋でしょ?最早そういうプレイじゃん。ぶどう君…名前なんだったかな?が女子をエロい目で見てまた白い目で見られてる。やばい、俺も気をつけよ。
「てかよ、シュウほぼ普通のスーツじゃんそれ。」
「考えるのめんどくさかったんだよ、察しろ」
「カッコイイけどヒーローっぽくないねえ。手抜きだ手抜き」
「葉隠ちゃん…、手袋とブーツしか履いてない人に言われても…」
「ちょっと!そんなジロジロ見ないでえっち」
「ええ…見えないし…」
釈然としないがとりあえず気を紛らわすために辺りを見渡すとここは入試の時に使った場所だった。入試の時みたいなロボ狩りか?と思ったけどどうやら今日は屋内での対人戦闘をやるらしい。
「君らにはこれからヴィラン組とヒーロー組に分かれて2対2の屋内戦を行ってもらう。」
「基礎訓練無しに?」
オールマイトの発言に反応したのは小柄な女の子。なんかあの子めちゃめちゃカエルみたいだな。たしか、あすいちゃんだったかな。
「その基礎を知るための実戦さ!ただし今回はぶっ飛ばせば終わりのロボじゃないってところがミソだ!」
その一言に対し、クラス中から質問の声が上がる。やんややんや言うみんなに合わせてせっかくだから俺もなんか言っとこう。
「やーいオールマイトの全身タイツー」
「うーん、聖徳太子ぃ!あと水無月少年は関係のないヤジを飛ばさないの!!」
怒られた。
そこからオールマイト先生による設定の説明が始まった。カンペ取り出すな。そんくらい覚えてこい。
まず、ヴィラン役がアジトのどこかに核兵器を隠していて、ヒーローは時間内にヴィランを確保するか核兵器を回収すれば勝利。ヴィランは制限時間までに核兵器を守り切るかヒーローを捕まえれば勝ちとのこと。核兵器とか設定重すぎね?そんなぽんぽん持ち運ばれるもんじゃないでしょ。
チームはくじ引きで決めることになり、初戦は爆豪&飯田のヴィランチームVS緑谷&麗日のヒーローチームの対戦となった。
なんか爆豪くんの方が緑谷くんにすげえ睨み効かせてるけど、この2人ってひょっとしてめちゃくちゃ仲悪かったりする?
とはいえなんだかんだで俺は昨日皆の個性見れてないからその辺も楽しみにしながら観戦と洒落込みますかね。
▼△▼
そんな気楽な気持ちで見始めた初戦はまぁ正直に言うと度肝を抜かれた。爆豪くんの…もういいか、君付けそろそろ外していいでしょ。爆豪のド派手な攻撃や立ち回りはその能力の高さを示すには充分すぎたし緑谷と麗日ちゃんの即席とは思えない連携プレーからの核奪取。飯田だけちょっと流れに乗り切れなかった感はあるけどそれでも状況には順応して動いていた。
正直、なめてた。
そっか、みんな本気なんだもんな。緑谷なんて個性全く使いこなせてないし終始爆豪にボコられてたけど最後まで諦めずに抗って結果勝ちを拾って見せた。
ガラじゃないけどちょっと熱くさせられちまったなあ。
そんなことを考えていると講評も終わり、次の試合の組み合わせが発表された。
「じゃあ次は、水無月少年と尾白少年のヴィランチームvs轟少年と障子少年のヒーローチームの対戦だ!各自持ち場に着くように!」
おっと、もう次俺か。
「水無月、よろしく頼むよ」
「うん、こちらこそよろしく」
「シュウ、ファイトー」
「うーっす。ぼろ負けしたら笑ってくれ」
ちょっと燃えてきた。
▼△▼
その後、核という名のハリボテを四階の片隅に設置したあと、俺たちは作戦会議をしていた。
「水無月、一応軽く作戦会議しておこう。俺の個性はこの尻尾だ。結構力もあるし近接戦は自信ある。」
「なるほどね、なら近接は任せて俺は後衛に回ろうかな。俺の個性はわかるでしょ?」
「ああ、昨日見てるからな。大丈夫だと思う。」
「そりゃよかった。ところで相手の2人の個性は何かわかる?俺昨日皆の個性見てないからさ。」
「轟は氷使ってたよ。障子に関しては、悪いけどよく分かってない。腕増やすとかそんな感じだとは思うんだけどね」
「おっけありがと。基本は防衛戦で良いんじゃない?守り切れば勝ちなんだし。近づいて来た2人をぶっとばすって方針で。」
「雑だね…」
そんなこと言われても情報がなさすぎて作戦の立てようがない。
その後も打ち合わせをしていたら第二試合開始のアナウンスがかかった。
その直後だった。
「!?」
「なんだこれ!??」
一瞬にしてビルが凍りついた。その際に俺と尾白の足も床に張り付いてしまい、身動きが取れない。
なるほど、氷ってこーゆー使い方で使えるのか。想定外だな、氷を射出するとかそーゆーのだと思ってた。どっちかと言うと温度操作に近い個性か。
素直に轟の手際の良さに感心する。この使い方なら核を傷つける可能性もないししかもほぼ確実にヴィランを無力化できる。ずいぶん強個性だ。でも…俺には関係ない。
ガシャン!と音を立てて俺は張り付けられた氷を割りつつ拘束を解いた。
「水無月!?お前どうやって?」
「俺の水、温度調節もできんのよ。足から熱湯噴き出して内側から溶かした。こんくらい薄い氷なら問題ないよ。尾白の方も溶かすね、熱いけど我慢して」
ちょっと熱めのお湯を尾白の足元にかける。少し時間がかかったが問題なく氷は溶けてくれた。
そんなことをしていると部屋の外からガシャガシャと氷を砕きながら歩く足音が聞こえてきた。
部屋の中を見た轟が部屋の中の氷が溶けていることに目を見開く。
「なんだ…?氷が溶けて…」
「瞬殺したと思った?油断してんなよアホヒーロー!」
全力で煽りながら足元から放水、水量に任せて一気に押し流す。
部屋の外まで流れて行ったところで出していた水が一気に凍った。おそらく轟が凍らせたのだろう。放水を打ち切り尾白の方を振り向く、まだ状況把握が追いついていないみたいだ。
「尾白はここで核守って!障子は頼んだ!俺は轟を足止めする!」
「わ、わかった!頼む!」
部屋から飛び出て氷の上を走りながら轟の元へと先制攻撃、脳天かちわりかかと落としをぶち込む。
「ちぃ!!」
苛立つように俺のかかと落としを躱し、その際に足に触れられ凍りつく。距離を取りながらもこちらから目線は外しておらず訝しげな視線をこちらに向けて来た。
「てめぇ、なんで凍ってねえ」
「いやー、運よく凍らなかったんだよ」
「んなわけあるか…!」
すぐ様凍らされた右足を先ほど同様溶かし轟の方に手を翳して放水を発動。それに轟も氷で応戦。こっちの放水は出した端から凍らされていく。
「やっぱ相性最悪だなこれ!それなら!」
氷塊を避けつつ轟に接近、近接戦闘を仕掛ける。
「オラオラオラァ!!」
殴る、蹴る、ヘッドバッドなどありとあらゆる手段で攻撃するが全て紙一重の所でいなされかわされる。それどころか徐々に反撃まで混ぜ込まれる始末。くっそ体術じゃ敵わねえか!
「テメェの個性、水出すだけじゃなく出す水の温度も調節できんのか…ちっ、やりづれぇ」
「そりゃこっちのセリフだわ。水出した端から凍らされてやりづらいったら無いよ、と。オラァ!吹っ飛べ!!」
近接戦の最中、距離が空いた瞬間に室内で壁とか壊さないで出せるレベルの放水を足元から放出し、押し流そうとするも轟に辿り着く前に全て凍らされ砕かれた。
「あー!もう!どうすんだこれ!キリがない!」
「無駄口多いな、舌噛むなよ!」
「んな…!行動はっや…!」
いつの間にか接近してた轟が下から掌底を放ってくる。それを上体を逸らしてなんとか避けて返す刀で続け様に蹴りを放つが捕まれ、足を凍らされる。ひぃー!またかよ冷たいな!!でもただでは転ばん!
左手を轟の腹に当てる。
「しまっ」
「喰らえや!」
いつもなら飛ぶために使う高出力放水を轟に放つ。流石に対応が間に合わなかったのかしっかりと吹き飛び、壁にぶち当たって倒れた。
動きがないのを見て確保ロープを巻こうと近づく。その時だった。
「やっと油断したな」
底冷えするような声と共に一瞬にして全身が凍りに包まれた。やばい、しっかり動けん。あとめっちゃ寒い。
「ぬ、くっ、マジか。あれ食らってなんで」
「放水の瞬間自分から後ろに跳んで衝撃を逃した。…薄い氷なら水温で溶かして動けるかもしんねぇがこんだけ厚く凍らせりゃ身動きもできねえだろ」
「体術に加えて対応力まで一流かい。やんなっちゃうな」
「わりいな。後で溶かしに来てやる」
そう言うと轟は俺に背を向けて核のある部屋に向けて走り出す。
ただね、俺は一度もこの拘束を解けないとは言ってないんだよ?
ガシャンっと音を立てて崩れる氷。
驚いた様に振り向く轟。
「テメェ!なんで!?」
「ナメた拘束してくれてどうも!高温の高圧水流でバラバラにしてやったわ!!」
別に特別なことはしていない。入試の時に使ってた超高圧水流を自身から四方八方に射出し内側から氷を切り刻んだだけ。
「サッカーしようぜ、お前ボールな!!」
速攻仕掛けて蹴りを繰り出す。動揺していた轟は大した抵抗も出来ずに俺の蹴りをくらい倒れた。
ただ、今回はそこで手を緩めない。轟に向かって放水をし、形を球体状に整え水の牢獄を作る。
「凍らせても良いけど自分ごと動けなくなるよ。溺れる前にギブアップしない?」
苦しそうにもがく轟。なんとか水牢を壊せないかと腕を振るうが水ってやつは暴れてどうにかなるようなもんじゃない。
「気になったんだけどさ、『後で溶かしてやる』って言ってたってことは、もしかしなくてもキミ高温を出す事もできるんじゃないの?」
俺の発言に水の中の轟がギロリとこちらを睨む。
「ま、使えないのか使わないのか、そこは深く詮索はしないけどね。とりあえずそろそろ呼吸が苦しくなってきたんじゃ…」
そこまで言ったところで横から飛来する何かを察知し、即座にその場から離脱する。
「…っち、援軍か」
「外したか…。助けに来たぞ轟!」
そこにいたのは個性で増やした拳をを振り下ろした障子だった。尾白はやられたのか?いややられてるならとっくに核が奪取されて終わってるはず…。何かしらの方法で轟のピンチを察知、援護に来たって感じか。
「すまない水無月!逃がした!」
尻尾を器用に使い俊敏に飛び跳ねながら尾白が俺の隣に着地する。良いなそれ楽しそう。
「どんまい。ガン逃げきめられたら仕方ない。仕切り直しだね」
「拘束も無力化も出来なかった…障子のやつ思ったより個性が厄介だ。腕の複製で死角が少ないし、自力もある。さすがは握力500キロオーバー」
「いやそれ関係なくね?」
尾白ってボケるんだ、なんて思いながらヒーローチームを見ると、苦しそうに呼吸をする轟を庇う様に障子が腕を広げている。
くっそ、水の牢獄強いんだけど集中切れるとすぐ壊れるんだよな。しかも出せるの一個までだし。タイマンじゃないならもう使えない。
「悪い障子…、助かった。…やってくれたな水無月」
「そっちもエグい拘束やってるしお互い様でしょ。チームメイトも来た所で第二ラウンドいこうか」
「…臨む所だ」
手から溢れ出る冷気が周囲をパキパキと凍らせる。それとは対極的に滲み出る轟の熱を持った気迫。…けど、既に轟は驚異足り得ない。俺の出した水でこんだけ体を濡らした意味を教えてあげよう。
「ぐ…!?」
俺が手をかざすと突如として轟が膝をついた。体をブルブルと震わせ立っていることもままならない。
「轟!?」
障子が驚いたように駆け寄り轟の肩に触れその驚愕をさらに深くする。
「なんだこの冷たさは…!?」
「温度調節できるって言ったでしょ」
ニヤリと笑った俺を震えながら轟が睨む。
「てめぇ…!!」
「別に水出す時だけじゃなくて自分が出した水ならその後消すのも温度いじるのも自由自在なんだよね。今轟が被ってる水の温度を2℃まで下げた」
ただでさえ氷と水がばら撒かれてこの建物の気温は低くなってる。加えて轟自身が氷ばら撒いてるし本人の体に霜も降りてたってことは体温も個性の反動で下がっていただろう。極め付けに今の轟は真冬の海よりも寒い水の中にいるようなものだ。
「もう轟は動けない。それどころか数分で低体温症で意識もなくなる。さっさと降参してくんないかなヒーローさん」
チラリと目線を向けて障子に声をかける。
「形勢は完全に逆転した。任務である核の奪取と仲間の命どっち優先するのかな。別に俺たちはどっちだっていいんだぜ?」
庇うように轟の前に立ちまだ迷いのある障子に対してトドメとなる一言を放つ。
「あと5秒で戦闘を再開する。動けない轟を庇いながら俺たち相手に何秒持つのか試してみる?」
「………降参する」
長い沈黙の後、悔しそうに両手を挙げて障子が降参の意を示した。
『ヴィランチーム!!ウィィィイイイン!!!』
こうして、我らが第二戦組の試合は最後は割と呆気なく終わった。
▼△▼
オールマイトのアナウンスと共に俺は轟が被っている水の温度を徐々に42℃まで引き上げる。急にあげると心臓とかに負担かかるからね。
「…すまん障子、もう大丈夫だ」
体の震えが収まった轟が立ち上がりながら障子に声をかける。
「えげつない攻撃しやがって…」
「流石に悪かったと思ってるよ。でも正直轟なら対応してくるかと思ってもいたんだよね。温度調節ってもしかして上げる方はできなかったりする?」
俺の疑問に対して一瞬顔を顰めた後、こちらに向き直る。なんかめちゃめちゃ不服そうだな。
「いや、上げることもできる。ただ…戦闘では使わないって決めてるんだ」
「ふーん、なんか事情あんのね。まぁいんじゃね?」
「適当だなお前…」
「別に人様の事情に首突っ込む気もないしそんなに興味もないよ」
なんかあれかな。下げる方に比べて上げる方は調整が難しいとかそーゆー感じなのかな。
「…変なやつだなお前」
そう言った轟は何故か知らないが少しだけ晴れやかな顔をしていた。
「その変なやつに負けてやんの」
「うるせ…次は勝つぞ、水無月」
「いつでもリベンジ待ってるぜぃ」
そんな軽口を叩きながら俺と轟は軽い握手を交わした。