アリナ・クローバーの素敵な日常   作:ナガレボシ

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2つの顔を持つ少女 前編

 カーテン越しに入り込む日差しが、心地よく彼女を目覚めへと導く。小鳥のさえづりが耳に入り、「あぁ朝か」とまだ覚醒しきっていない脳に言葉を投げかける。

「う、ん~~~~~~!!」

 布団から出た瞬間にまとわりつく寒気を払うため、身体を大きく伸ばしてみる。カーテンを開けて更に太陽の光を全身に受け、窓を開けて朝の風を浴びる。今日と言う日がまた始まった!

「さ、てと。今日も頑張ろっと!」

 寝ぐせの残る長い黒髪をさっと整えて、顔を洗い、鏡の中の自分を覗き込む。うん、思ったより疲れた顔をしている。それともまだ眠いだけか?疑問を振り払うようお得意の接客スマイルを鏡へ披露する。完璧だ。

 次はは朝食の仕度だ。昨日の帰りに買っておいたクロワッサンを温めている間に、さっと半熟卵のベーコンエッグを作る。簡単だが暖かい朝食が、殺風景だったテーブルを鮮やかに彩る。その手際の良さは、アリナ・クローバーが長年の一人暮らしの末身に着けたものだ。

「飲み物は・・・。今朝はコーヒーにしようか、それとも紅茶がいいかな?」

 少し考えたあと、彼女はすぐに温めるだけの簡単な紅茶を飲む事にした。コーヒーは昼食の時に回そう。今日の仕事はそれほど忙しくはないが、故に気を抜けば眠気に襲われる。苦いコーヒーはそれほど好きではないが、昼の眠気を飛ばすのにはもってこいだ。最も飲み過ぎると変に興奮したり、胃を痛めたりするので、そこは注意が必要だが。

 

 

「うん、クロワッサンはパリパリでほんのり甘くて、ベーコンエッグの半熟加減は最高!またこの店のパンを買おっと」

 軽い朝食をすませたあと、一息つきながら紅茶を飲む。暖かなそれはまだ寝起きの冷たさの残る身体の芯に、しっかりと染み込み、心身ともにリラックスさせてくれる。

「あぁ、優雅だわぁ。これが受付嬢の在り方ねぇ」

 最近はクエストが少なく、書類整理や事務整理に追われる事がない。 つまり残業がない! つまり定時で帰れる! 

 

 そう残業がない!! 定時で帰れる!! (大切な事なので二度書きました。アリナさん的には5回くらい繰り返したいそうです)

 

「つまりそれは、無理なく自分のペースで働ける! あぁこのなんと快適な事か! なんと素晴らしいな事か!」

 

 小鳥のさえづりに合わせるようにルンルンと鼻歌をうたいながら、多めに焼いたベーコンとスクランブルエッグにした卵をクロワッサンに詰め、弁当の仕度をする。

「ライラ、プチトマト好きだったわね。少し多めにいれていこう」

 

 食器洗いまで終わらせると、今度は出勤の仕度だ。大きな鏡の前に立ち、お気に入りの白い制服に身を包む。更に念入りに髪を溶かし、動きながら全体像をチェックする。

「よし完璧。今日も頑張ろっと♪」

 最後にもう一度接客スマイルを決める。これをどんな時にでも崩さない事が、一人前の受付嬢の条件だと言われている。他はともかく、それだけは自信があるアリナだった。

 

 

 受付嬢の仕事。 それは冒険者ギルドにて、クエストやダンジョンに臨む冒険者を安全に送り出す事だ。故にクエストが少ない日は、必然的に仕事が少なくなり、多い日は仕事に追い回される。すなわち残業に追い込まれる。しかし今は前者だ。最近は新しいダンジョンが発見されていないため、そこから湧き出てい来るモンスター討伐のクエストが少ない。既に攻略されたダンジョンから出てくるモンスターはいるものの、それも統率するダンジョンボスがいないため、それほどまでに強いものはいない。従って今は高ランクのクエストが少なく、ギルドに来る冒険者の数も少ない。

「だから私達受付嬢の仕事も少なくてすむ。うふふ常にこうありたいものね」

 

 

 アリナが受付嬢をするイフールのギルド。彼女が予想した通り、今日は冒険者が少なかった。 が、妙に荒々しい雰囲気が、ギルド内を支配していた。この雰囲気に隣のカウンターの新米受付嬢のライラは、笑顔がひきつり、時々身体を震わせていた。 

 それもそのはず。

 クエストが少ないという事は、冒険者にとって仕事がない。つまり稼ぎがないという事なのだ。ベテランならまだしも、中級以下の冒険者にとっては、今日の寝床すら危うい状況なのだ。だから彼らは奪い合うようにクエストを求める。が 今あるクエストと言えば、『森の野性動物退治』や、『遺跡調査の護衛任務』、『薬の素材探し』 等の簡単なクエストだ。初心者ならまだしも、中級者の冒険者ともなれば、このようなクエストやりたがる者は殆どいない。危険度が少ないわりに報酬は良いのだが、野心溢れる冒険者にとって、このようなクエストはダサイのだろう。彼らは見栄っ張りでプライドが高く、常にロマンとスリルを求める傾向がある。しかし大半の者が、今日の生活にさえ困るというのが現実である。アリナ・クローバーはこのような殺気立っている冒険者を見るとつくづく思う。

(安定した職業の、なんと素晴らしいことか!!仕事の量に関わらず、ちゃんとお給料がもらえる!贅沢さえしなければ、お金に困ることは一生ない! あぁ、やっぱり受付嬢って最高だ。しがみついてでも、絶対に手放すものかこのポジ・・・)

 

「だぁかぁら! こんなクエストは受けられないって言ってるだろうが!」

「は、はい、しかし、でもォ・・・」

 アリナの思考を止めたのは、男の怒声と後輩のライラの今にも泣きだしそうな震え声だった。

(ライラが担当してるのは、あぁランベルド家の三男のパーティか)

 アリナは自分が対応した冒険者の書類を手早く整理しながら、横目で冒険者を観察する。鎧と剣に着いた家紋が、彼を貴族だと証明していた。最も三男坊ともなれば騎士団などに入らず、このように冒険者になる事は珍しくない。そして財産があるためか、強い武具をまとえる彼らのパーティは実力以上に、実績を出すのが早い。彼らのパーティはギルドに登録してわずか三か月という間で、ダンジョンを3つも制覇し期待のエースとして注目されている。

(最初は貴族ってことで物腰も柔らかかったけれど、難しいクエストを攻略していくにしたがって、だんだん態度がでかくなっていったんだよね。よくあるパターンだけど。しょうがないなぁ)

「ライラ、こっち変わって」

「へ、せ、先輩?」

「この者に変わりまして、私めが代わりに対応をさせて頂きます。アリナ・クローバーと申します。どうぞよろしくお願い致します。それでいかがなされましたか?」

 アリナは丁寧に頭を下げ、自分より体格の良い男を見上げ、その目を見据えた。

「お、俺たちのパーティに見合ったクエストはないのかって・・・」

 男は一瞬たじろぎながらも、アリナを見据え返した。

「クエストのすべては、あちらの掲示板に提示しております」

「そんなクエストじゃ物足りないから、こういう話になってんだろうが!」

「申し訳ございません。仰るとおりでございます。しかしランベルト様」

 アリナは相手の名前の部分を強調したあと、一呼吸置いてから再び話始めた。

「今寄せられているクエストは、町民の生活を守るためのものでもあります。野生の、それも討伐以来がくるほどの狂暴な動物は、魔物化している可能性があります。素材集めも、制覇されてるとはいえ、やはりダンジョンに潜らなくてはなりません。このようなクエストは、ランベルト様方のような凄腕のパーティには、物足りないものでしょうが、受けて下さることで、私たち町民の生活が支えられているのも、また事実なのです。それに」

「・・・それに?」

「ギルドにはまだ未登録とはいえ、冒険者を志望している方々は多いです。先輩冒険者の方々が、町民のためクエストを受けて下されば、彼らのお手本にもなりますし、修行にもなります。そうする事により、冒険者様と町民との距離が縮まり、より多くのクエストがギルドに届くようになります。そのクエストがまた新人の育成につながるのです。私のわがままかもしれませんが、ランベルト様方のような凄腕パーティには、そういう後輩のためのパーティになって頂きたいのです」

「お、おう。ま、まあ、町民の生活を守るのは、冒険者のつとめだし、先輩として、後輩の手本になるのも、そりゃ、冒険者の義務だな・・・。それなら・・・」

 照れたようにニヤけた顔をどうにか仏教面に保ちながら、結局彼らは野生の動物討伐クエストを受注した。

(勝った。チョロいなお坊ちゃまは)

「ありがとうございます。それではいってらっしゃいませ」

 内なる悪い笑顔のアリナはガッツポーズを決め、それを隠すように彼女は丁寧にお辞儀をし、ランベルト一行を見送った。

 

 この一連のやりとりを見ていた冒険者は、すぐにクエストを受注し、先ほどまで殺気立っていたギルドは、活気あふれる室内へと変わっていた。

 アリナ・クローバー。事務仕事は苦手だが、意外と口はうまい。しかし本人にその自覚はない。

 

 午後になる頃には冒険者は減り、受付嬢たちは、ゆったりと休憩をはさみながら、自分のペースで仕事をしていた。

「これで今日は残業はない。ビバ定時帰り。それにこうやって余裕をもって仕事が出来るのって素晴らしい!!フフ、この素晴らしい職場に祝福を!」

 そんな受付嬢に満足してルンルン気分で仕事をしていたアリナの眼に、一組のパーティが目に止まった。彼らはクエストの張ってある掲示板を見ながら、何やら迷いながら、あれやこれやと相談していた。

(あの子たちは・・・)

 見覚えがあった。先日冒険者としての登録を、アリナが担当した子たちだ。幼さの残る風貌と、都会に慣れていない様子を見るに、田舎から出てきたばかりだろう。確かギルド名は『希望の光』。うん子供っぽい。

「ライラ、ここお願い」

「あ、はい」

 持ち場を後輩に任せてアリナは『希望の光』の元へ出向いた。

「失礼致します。何かお困りでしょうか?」

「あ、いや、そのすみません・・・」

「あ、あれ、お姉さんは確か、登録の担当をしてくれた方ですよね?」

 持ちなれないであろう剣を背中に背負った少年は、慌てた様子でたじろぎ、魔法使いらしき少女がアリナを見た。

「覚えて頂けていて光栄です。受付嬢のアリナ・クローバーです。それでいかがなされましたか?」

 受付嬢に敬語で話す冒険者は少ない。それと田舎育ち特有の匂が抜けきっていない彼らに、アリナは好感を覚えずにはいられなかった。

 話を聞くと、彼らは自分らの身の丈にあったクエストを受けようとしているらしいが、そもそもどのクエストが自分たちの身の丈に見合っているかわからずに話し込んでいたとのことだった。

「なるほど。そういうことでしたら」

 アリナは掲示板を見渡し、素早く隅へ目をやる。それは冒険者になりたての者が挑むダンジョンからの素材集めだった。

「このダンジョンなら、比較的弱い魔物しかいません。逆にここが難しいようなら、修行をしなおさないと、冒険者は危険かと・・・」

「あ、ありがとうございます!!やらせて下さい!!」

 アリナが言い終わらる前に、剣士の少年が飛びついてきた。

「かしこまりました。では手続きを致しますので、カウンターへどうぞ」

 

 数分後、装備を再確認し、作戦を練りながらダンジョンへ向かう『希望の光』を、アリナは見送っていた。

「それではご武運を。いってらっしゃいませ」

 自分よりも年下の、まだ幼さすら残る少年少女を送り出す。純粋に冒険者を夢みて輝いている彼らを見ると、まだ社会を知らず、冒険に憧れていた頃の自分を思い出し、わずかな懐かしさが胸を過る。 同時に危険なダンジョンから彼らが生きて帰れるのかという一筋の不安がよぎらずにはいられない。

「無事に、帰ってきなさいよね」

 アリナ・クローバーは自分でも気づかないほどの小さな声でつぶやいていた。

 




 あとがき


 ナガレボシです。まずはここまで読んで頂き、ありがとうございました。
『ギルドの受付嬢ですが、残業が嫌なので、ボスをソロ討伐しようと思います』面白いですよね。個人的に提示帰りのために戦うアリナさんに、憧れすら覚えてしまいます。
 ただ私は個人的にですが、アリナさんは戦っている姿よりも、優雅?に仕事をしていたり、休日を過ごしていたりする姿を書きたいので、勝手ながらこのように原作とはあまり関係のない短編を、2,3本書こうと思います。
 それでは、ここまでのおつきあい、ありがとうございました。
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