アリナ・クローバーの素敵な日常   作:ナガレボシ

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憂鬱な戦い PART3

「ヘルフレイムドラゴン・・・、だと・・・!

 その外見はかつて『処刑人』ことアリナ・クローバーの残業のうっぷんによって、フルボッコにされた上で倒されたヘルフレイムドラゴンだった。しかし巨体から放たれる禍々しいオーラーは、かつてのヘルフレイムドラゴンにはなかったものだ。身体から溢れる黒炎は、地下の寒い迷宮の気温を強制的にあげていくのに対して、その禍々しさからは嫌な悪寒を感じずにはいられなかった。

「この感じ、やっぱりま・・・」

「ロウ、俺が時間を稼ぐ。候補生を連れて地上へ!ルルリ、俺にシグルスリバイブをかけてくれ!」

「・・・! わかった!!」

「り、了解なのです」

「ハストル!」

 何かを言おうとしたルルリの言葉をさえぎり、ジェイドは魔物の注意を自分へ向ける魔法を発動した。

「グガァアアアアアア!!!!」

 再びヘルフレイムドラゴンは雄叫びをあげる。

「・・・・!!!」「ひ・・・!!」

 その風圧だけで、候補生たちの腰は抜け、とっさに座り込むものまでいた。同時にドラゴンはジェイド目掛けて火炎弾を吐き出す。

「スキル発動、シグルスウォール!」

 ジェイドはスキルによって相棒の大盾を硬質化させる。盾と火炎弾が轟音を立ててぶつかる。

「う、うぉおおりゃぁあ!!!」

 苦戦はしたものの、ジェイドは盾で炎を弾き飛ばした。

「お、俺も戦う!」

「わ、私だって!」

 ジェイドの優勢を見たシュリナ率いる候補生は、自分も戦いに加わろうとする。なんとか立ち上がる。

「駄目だ。お前達はあくまでも候補生。ここからは『白銀の剣』の戦いだ。巻き込むわけにはいかない」

 いつになく穏やかな口調のロウだが、その声には有無を言わさない威圧感があった。

「それに、お前達はヘルフレイムドラゴンの雄叫びだけでビビっただろ?それじゃ戦いに入る前から負けだぜ」

「でも、ロウさん・・・!!」

「負けるとわかっていても、戦わないといけない時が冒険者にはある。でもな、負けるとわかっていて逃げられる戦いから退くのは、決して臆病な事じゃない」

「・・・・!!」

「それを悔しいと思うんなら、腕を磨くことだ」

「・・・・・!!!」

 候補生たちは何も言い返せなかった。彼らにはその場から撤退する以外の道はなかった。にも関わらず、その表情からは何処か安心の色が見えた。シュリナ以外は・・・。

 

 

 候補生たちがいなくなった事を確認すると、ジェイドはヘルフレイムドラゴンに向き直った。

「随分と余裕だな。わざわざ『候補生をビビらせるために手加減した攻撃』を打ってくれた上で、『逃げる間は待っていてくれる』なんてな」

 ジェイドは皮肉を込めて言葉を放つが、その額には嫌な汗が浮かんでいた。 ヘルフレイムドラゴンから放たれる禍々しいオーラが更に強くなったからだ。

(やはりこいつは、魔神・・・。だが、どうして・・・)

 考える暇はなかった。次の瞬間、ヘルフレイムドラゴンはその巨体をくねらせ、尻尾を振り回してきた。

「速い・・・!」

 ジェイドは間一髪で背後に飛びそれを避けるものの、更にドラゴンは一歩踏み込み尻尾を振り回す。ジェイドは大盾で攻撃を受けるものの、わずかに地面に足を着けるのが遅れ、大きく背後に吹き飛ばされ、背中から壁に激突する。

「が、はぁ・・・」

 激痛と痺れでその場に崩れ落ちる。

「・・・! ヒール!」

 ルルリはすぐにヒールをかけるが、ジェイドの動きに違和感を覚えずにはいられなかった。

(確かに、このヘルフレイムドラゴンは以前よりも数段強いです。その上にどういうわけか、魔神の力まで感じます・・・。でもそれ以上に、ジェイドの動きが悪い・・・!)

 ジェイドは剣を突き立てて立ち上がりながら、ヘルフレイムドラゴンを睨みつける。ヘルフレイムドラゴンは余裕を見せ、次の攻撃をしてこようとはしなかった。ルルリは立ち上がるジェイドの背中から、いつもの気迫を感じる事が出来なかった。

(アリナさんがいないと、駄目なのですか・・・!) 

 同時に彼女は自分の非を責める。どうして気が付かなかったのか?と。

 

 ジェイドはイフール1と言っても過言ではない盾役だ。冷静な判断力と、何ものも恐れない闘志、何度倒れても立ち上がる強靭な肉体と精神力のすべてを持ち合わせている。以前から完璧超人とまで言われた彼を、更なる高みへ導いたのは白銀の剣のリーダーという名前でも、責任感からでもない。アリナ・クローバーという少女の存在だ。

 初めて処刑人の圧倒的な強さを眼の当たりにした時から、ジェイドは彼女に夢中になっていた。圧倒的な強さを誇る処刑人とは裏腹に、何処か虚ろで疲れた表情をしているアリナ。常に他者から距離を取っているようで、人を惹き付ける不思議な魅力のあるアリナ。ジェイドは1人の男として、彼女を守りたいという情熱と、欲したいという本能の元、その強さは今までにない高みへ上り詰めた。全部アリナがいたからだ。

(どうして気が付かなかった・・・?いえ気が付かないフリをしていたのです・・・!)

 ルルリは唇を噛んだ。気が付かないうちに涙が溢れていた。 好きな女のために戦う男は何処までも強くなれるが、女が隣にいなくなった瞬間から、嘘のように弱くなるのだ。アリナを戦いに巻き込まないために、新しいアタッカーを探し始めた時から、ジェイドは無意識のうちに弱くなっていたのだ。だがルルリもロウもそこへは触れなかった。当たり前だ。アリナを戦いに巻き込みたくないという気持ちは、自分たちも一緒なのだ。

(なら、せめて、こんな所まで来なければよかった・・・!なんで私達は、私は、引き返す事を提案しなかったのだろう・・・!!仲間の背中を預かる回復役として、仲間の変化に誰よりも敏感でなければいけない私が、どうして引き返す道へ、背中を押してあげられなかったのです・・・!!)

 

「がはぁ・・・!あぁ・・・」

 ヘルフレイムドラゴンの攻撃はどんどん激しくなり、ジェイドは何度も壁へ叩き付けられていた。必死で立ち上がろうとするジェイドを、まるで玩具で遊ぶかのように、決して壊さないように、ヘルフレイムドラゴンは遠目でもわかるほど、醜悪な笑みを浮かべて、ジェイドで『遊ぶ』のだった。

 

 

 

「♪~ マジで残業なんてクソくらえ~~ ♪」

 一方その頃アリナは、帰りに商店街で買った旬のフルーツでジャムを煮詰めていた。部屋いっぱいに甘い湯気が立ち上り、鍋はコトコトグツグツと美味しそうにうたっていた。アリナはヘラについたそれを少し舐めてみた。

「甘~い。でももうちょっとかな。いやいや冷やせば3日後くらいには丁度いいのが出来るか」

 片手のレシピ本を置き、ガスの火を止める。

「粗熱を取る間に、制服にアイロンをかけちゃおっと」

 アリナは制服をかけているハンガーの前に行って、思わず目を疑った。スカートのポケットに入れてある『導きの結晶』が輝いているのだ。

「・・・うそ、なんで・・・」

 これは『白銀の剣』のメンバーだけに与えられる宝石で、持ち主が瀕死になると輝いて、仲間に教えてくれるものだ。アリナは次の自分の声が口から出る時には、『処刑人』の服を着ていた。

「なんで、候補生の訓練で・・・!!絶対に死なないって、約束したじゃない!!」

『俺はアリナさんのウォーハンマー以外で死ぬつもりはないから』

 ジェイドの言葉が頭をよぎる。

「私がいないところで死んだりしたら、ぶっ殺してでも、あの世から連れ帰ってやるんだから・・・」

 暗くなり始めた空の下、処刑人は飛び出すのだった。

 

 




 あとがき


 ナガレボシです。まずはここまで読んで頂き、ありがとうございました。
 当初より話が膨らみ、長くなりそうなので、前、中、後編 ではなくPART1,2と表示を変える事にしました。この調子だとPART5くらいまでいきそうです。
 それでは、ここまでのおつきあい、ありがとうございました。
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