アリナ・クローバーの素敵な日常   作:ナガレボシ

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憂鬱な戦い PART4

 アリナ・クローバーは上位ダンジョン『ドラゴンの谷』の前まで来ていた。だがダンジョンから漂う異様な雰囲気に思わず息を呑んだ。

「この気配は、魔神?なんで・・・」

 辺りを見回し状況を把握しようとするが、すぐに考える時間が無駄だと思った。このダンジョンは何度か来た事があるので、最深部までの道も把握している。だから普通通りに進めば、数時間かかる事も知っている。

「なら、こうしてやる! スキル発動!」

 アリナの足元に白い魔法陣が現れ、その手に巨大な銀のハンマーが現れる。

 

「うおりゃぁあああぁあああぁああぁああ!!!!!」

 アリナは身体中に力を込めて飛び上がる。その衝撃で足元の地面が音を立てて凹む。遥か上空まで飛び上がりそこから更にハンマーを振り上げて急降下した。

 ミサイルが撃ち込まれかのような轟音の後、辺り一面を地震が襲う。既に眠りについていた動物や鳥、魔物ですら、その衝撃で飛び起き、何があったかわからぬ間にその場から逃げ出していた。

「さて、と」

 先ほどまで地面だったそこにはむごたらしい大穴が開き、地下へ続くダンジョンがあらわになっていた。アリナはそのままダンジョンの道を進む、のではなく、ハンマーで床や壁をぶち壊しながら、自らの道を作るのだった。毒ガスも薄い酸素も、ドラゴンも、ダンジョン特有の複雑な洞窟でさえ、彼女の行く手を塞ぐ事は不可能だった。

(ジェイド・・・、みんな・・・!!)

 

 

「なんだこれ、地震か・・・?」

 一方その頃、地上を目指していたロウと候補生たちは、ダンジョン内の揺れと轟音で思わず足を止めた。

「音はこっちへ近づいている・・・。まだこんなにでかい魔物がいたのかよ・・・!!」

 ロウはロッドを構え、辺りを警戒する。最悪の場合は自分が囮になり、候補生たちを逃がす事を考えていた。そうやって思考を巡らせ、警戒を強め、魔力を溜めている間にも、轟音はどんどん近づいてくる。そして・・・。 ドゴォンと天井が砕ける音が響くと同時に、ロウはそこへ最大火力の氷魔法を放った。が・・・。

「うおりゃぁあああ!!!」

「え・・・!!」

 勢いのあるアリナのハンマーに勝てるわけもなく、魔法はかき消され、勢いを殺しきれないアリナのハンマーはロウを殴り飛ばしていた。

「へ?」「ふんぎゃ」

 2人の間に抜けた声と、ハンマーが衝突する轟音が同時に響いた。

「え、まさか、あれ処刑人・・・!!」

「マジ?本物かよ・・・」

 シュリナ以外の候補生は、憧れのスターを見るような声をあげる。

 

 

 

「やば」

 アリナはフードを深くかぶなおす。一部の人間以外には、処刑人は『男性』で通している。

「ロウがいるって事は、候補生を逃がしてるな。ジェイドとルルリは奥だな。何があった?」

 処刑人は『導きの結晶』を見せ、今の状況は把握していると付け加えた。

「それは、候補生の前じゃ話せない。わかるだろう?」

「そっか」

 アリナはロウの言葉から、『魔神』の存在を確信した。魔神というのは単語でさえ、ギルドの上層部以外知られていけないのだ。

「お前ら候補生は、わた、俺が作った道を辿って地上へ行け。魔物は殆ど倒してある。ロウ、早くジェイドとルルリの所へ」

「ああ・・・」

 候補生『4人』の気配が消えるのを確認しながら、処刑人とロウは、奥へ進もうとした。

 

「・・・会いたかったわ処刑人・・・!」

「言いたい事があるのなら早くして。こっちは早くジェイドとルルリを助けに行きたい」

 処刑人はただ1人残り、着いてこようとするシュリナ・ヴァレンを睨みつけた。

「私も着いていく。白銀のアタッカーとして、ジェイドさん、ルルリさんは私が助ける!」

 シュリナの口調は落ち着きを帯びていたが、その目は明らかな処刑人への敵意で染まっていた。

「足手まといだ。さっさと消えて・・・」

 1秒でも早くジェイドとルルリを助けたいアリナは、思わず怒声をあげそうになる。だがそれ以上に「なんでこの女がここにいる?」という腹立ちが頭を懸けまわる。シュリナ・ヴァレン。先輩受付嬢や女冒険者をたぶらかし、自分に嫌がらせをしてくるようなな奴が、まさか白銀の剣のアタッカー候補だなんて・・・。

(これ以上私の邪魔するのなら、本気でこの場で・・・)

「慣れない男のフリなんて、やめてはどう?処刑人。いえ」

「・・・・!」

 シュリナはツカツカと音を立てて近づいてきて、処刑人の前に立った。

「受付嬢の『アリナ・クローバー』さん」

「・・・な・・・!」

 ロウは思わず声をあげるが、意外にもアリナは冷静だった。

「・・・ならあんたも・・・」

 何かを言いかけてやめた。アリナは代わりに深くかぶっていたフードを脱ぎその素顔をさらし、同時にシュリナを睨みつけた。

「もう一度だけ言うわ。足手まといだから消えて」

「・・・・っ!!」

 シュリナは思わずたじろいだ。アリナ・クローバーの雰囲気は、昼間に見る華奢な受付嬢と、とても同一人物とは思えなかった。その美しい翡翠色の瞳から放たれる光は、今まで戦ったどんな魔物よりも鋭かった。逆にそれがシュリナには気に入らなかった。

(昼は清楚な受付嬢で、ギルドを抜ければ一流の冒険者ですって? しかも2つの姿でジェイドさんの隣にいる・・・!)

 シュリナの中で、怒りが恐怖を打ち負かした。

「私はね、あんたが気に食わないのよアリナ・クローバー! 私を連れて行かなければ処刑人の正体をバラしてやる!!」

「お、おいシュリナ、いいかげんに・・・!!」

 思わずロウが2人の間に割って入ろうとした。がそれより速く、アリナの手がシュリナの襟首を掴み、頭1つ小さな自分の顔へ強引に近づけた。

「今はそんなくだらない事、言ってる場合じゃないでしょ」

 アリナは襟首を持つ手に更に力を入れ、ドスの効いた低い声を出す。シュリナの首の骨がミシミシと嫌な音を立て、呼吸が出来なくなっていく。

「仲間が戦ってるのよ。少しでも早く助けたいって時に、ぎゃーぎゃーぎゃーぎゃーわめいてんじゃないわよ。あんた本当に白銀のアタッカー候補なの?」

「・・・・!!!」

「いい。『白銀の剣』ってのはね、富や名声欲しさで気楽に名乗っていいもんじゃないの。 なんで魔術師のロウが、たった1人であんたら候補生をここまで守って連れてきたかわかる? 覚悟のないヤツらを、戦いに巻き込まないためよ。 なんでジェイドとルルリは、たった2人で残って戦ってるのかわかる? 命を懸ける覚悟のないあんたらを、確実に無事に、家に帰すために囮になってるのよ!!」

「・・・・!!!」

「たとえ自分の命を投げ出しても、他人の人生をないがしろにしない。その覚悟と責任があって初めて名乗れるのよ『白銀の剣』は!」

 アリナは泣きそうになるシュリナの襟首を離し、乱暴に放り投げる。やっと呼吸が出来るようになったシュリナは、激しく咳き込みながら、アリナを見上げる。

「私は、そんな仲間たちを絶対に死なせない。どんな事があっても必ず助ける。あんたはここから逃げ出して、私の正体をペラペラとしゃべってればいい。今の私には、そんな事より守りたいものがある。それが『白銀の剣』のアタッカー『処刑人』の覚悟よ」

(ここで、負けちゃダメだ・・・!!)

 シュリナは呼吸が整わない内に立ち上がった。

「わ、私にだって、覚悟はある!!私は、絶対に、逃げない・・・!!」 

「・・・・」

 アリナはシュリナの瞳に宿る強い覚悟をみた。同時にこれ以上の説得は時間の無駄だと諦めた。

「命の保証はしないわよ」

 アリナはそれ以上何も言わずに、ハンマーをかついで背中を向けた。

「着いてくるのなら、俺からも条件がある」

 さっきまで何を言っていいかわからないような顔をしていたロウが、鋭い目でシュリナを睨んでいた。その眼光には確かな殺気と人を人とも思っていないような冷たさが宿っていた。

「アリナさんの正体もだが、この先で起こる事は他言無用だ。この約束を破った場合、俺がお前を殺す」

「・・・・!!」 

 ロウの瞳には確かな殺意があった。それはまるで人間を人間と思っていないような、氷のように冷たい眼光だった。

(この処刑人といい、ロウさんといい・・・。『白銀の剣』というのはいったい・・・?)

「ほら、さっさとくる!」

 いつの間にかパーティの主導権はアリナに握られていた。

「それでどういうことロウ?わかっているところまで聞かせて」

「ああ。こいつは俺の仮説になるが・・・」

 ロウは推測の範囲から出ないが、自らの立てた『仮説』をアリナへ説明した。

 

 

 

 ドゥゴン、グシャ・・・!

「が、はぁ!!!」

「ジェイド!!」

 ヘルフレイムドラゴンに胴体を鷲掴みにされたジェイドは、そのまま壁に叩き付けられた。その背後ではルルリが『シグルスリバイブ』をかけながら、悲痛な悲鳴をあげていた。

「あ、あが・・・、ゴハぁ・・・!!」

 力なくうなだれ、激しく吐血するジェイド。そんなジェイドの血を腕に受け、ヘルフレイムドラゴンは、醜悪な笑みを浮かべる。

(私のシグルスリバイブで、治せる程度、そしてジェイドが気絶しない程度に力を抑えてる・・・)

 ジェイドを苦しめて遊ぶために・・・。 ルルリはその事実に驚愕した。いくらドラゴンが賢いと言っても、そのような力加減が出来るほど知性が発達しており、尚且つ残虐性に秀でた個体など、これまで発見された事がない。

(やはり魔神の力が・・・!ならアリナさんがいないと・・・!)

 そこまで考えてからルルリは泣き出しそうな自分を りつけた。

(いや人に頼ろうとしては駄目なのです!)

 パン!と両手で自身の頬を叩き、ヘルフレイムドラゴンを観察した。

(ヘルフレイムドラゴンはジェイドで遊んでいる状態。少なくとも今は殺す事はない。それにシグルスリバイブを二重にかければ、ジェイドの傷は大部分完治します。ならばジェイドをどうやって奮い立たせるかです。ヒーラーは仲間のモチベーションを高め、戦闘を不利な状態から立ち直らせる事も役目なのです。なら・・・)

 ルルリは大きく息を吸い込んだ。

「ジェイド!!なんなのですかその様は!!」

 思わぬルルリの声にジェイドより先にヘルフレイムドラゴンが反応した。ドラゴンはルルリを睨みつける。一瞬怖気付きそうになるが、それでもルルリは歯を食いしばって、負けまいと声を張り上げた。

「ジェイドのそんな姿を見たら、アリナさんが悲しむのです!!」

「アリ、ナ・・・さ、、・・・」

「ジェイドの、アリナさんを戦いから遠ざけようとする気持ちはわかるのです!でも戦いの度にそんなに傷つくジェイドを見たら、アリナさんは絶対に泣くのです!!」

 ヘルフレイムドラゴンの鋭い眼光が、より鋭くがルルリを射抜く。ルルリは構わず続けた。

「好きな女の子を悲しませるだなんて、ジェイドは、そんなに弱い男なのですか!!アリナさんの事が好きという気持ちは、そんな程度なのですか!!」

「・・・・!!!」

 ヘルフレイムドラゴンの尻尾がルルリを薙ぎ払おうと構える瞬間、ジェイドの意識が覚醒した。

「・・・シグルスウォール!」

 ジェイドはスキルによって、手に持っていた長剣を硬質化させた。

「う、うおぉおおおおおおおおぉおおおおおおぉお、、、、らぁああぁあ!!!!!」

 その体制から、自身が握られている体制から、血を吐きながら、硬質化した剣を力任せに振り上げた。ズシャという音と共に鮮血が舞った。

「がぁああぁあぁああぁああ!!!??」

 掌を切り裂かれた激痛で、ドラゴンは雄叫びをあげ、握っていたジェイドを頬り投げた。

 

「ここです!! スキル発動! 不死の祝福者『シグルス・リバイブ』!」

 

 ルルリはこのタイミングでジェイドにシグルスリバイブを上がけした。スキルの二重がけにより、ジェイドの傷はみるみる癒され、体力が戻っていく。だが逆にルルリの身体は反動により激痛が襲う。掌に集めた反発する魔力が弾け、皮は破れ焼けただれる。それでもルルリはスキルを発動し続けた。頬り投げられたジェイドは、しっかりと受け身を取り、ルルリの元へ駆けつけた。

「ありがとうルルリ!!大丈夫か!?」

「・・・ジェイド、よかった・・・、です」

 しかし2人よりも先に、ヘルフレイムドラゴンは体制を立て直し、口内にエネルギーを溜めていた。

「がぁあああ!!!!!」

 雄叫びの風圧が迷宮内を揺るがした。同時に灼熱の火炎放射がまるで意思を持っているかのように、うねりを上げながらジェイドとルルリに襲い掛かった。

「シグルス・・・」

 ジェイドはまだ痛みの残る身体を起こし、大盾を構えた。だが次の瞬間、炎とジェイドの間に何者かが滑り込んだ。

「・・・・!!」

 見間違えるはずがない。冒険者というには、あまりに軽装な外套、小さな背中、それにまったくそぐわない巨大なハンマー。

「だらぁああああああぁああ!!!」

 『処刑人』 アリナ・クローバーだった。

 





 あとがき


  ナガレボシです。ここまで読んで頂き、ありがとうございます。
 今回は少しですが、オリジナルキャラの『シュリナ・ヴァレン』にも焦点を当ててみました。そしてやっとこちらの反撃ターンになってきました。ヘルフレイムドラゴンと魔神の関係など、次回で描くつもりです。
 それでは、ここまでのおつきあい、ありがとうございました。
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