アリナ・クローバーの素敵な日常   作:ナガレボシ

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憂鬱な戦い PART5

 広く薄暗いボス部屋を、真っ赤に染め上げるほどの爆炎が、ジェイドとルルリに襲い掛かった。だが2人と炎の間に、間一髪でアリナが滑り込んだ。

「だらぁああああああ!!!!!」

 両手で振りかぶった相棒のウォーハンマーが、火炎放射とぶつかる。炎とハンマーの力はまったくの互角だった。2つのエネルギーがぶつかった衝撃で、熱風が吹き荒れ、頑丈なはずの部屋の壁が音を立ててひび割れる。

「・・・・!!!」

 わずかにアリナの方が押されていた。その小さな身体は、少しずつ後ろに下がっていた。アリナはハンマーを持つ両手に更に力を込めながら、ここに来るまでにロウが話した『仮説』が正しいということを思い知らされた。

 

 

 

「結論から言うと、今回のヘルフレイムドラゴンは、前にアリナさんが倒したヤツとは別物だ。あいつは『魔神』の気を持っている」

「それはわかってる。問題はどうしてそんな事になったのかってことよ」

「前に初心者用のダンジョン『永久の森』で、双子の魔神と戦っただろ?たぶんだけど、今回のヘルフレイムドラゴンはそこにいたんだ。だから魔神の気を吸って、普通ではありえないくらいの強さになったんだ」

「どういうことよ?」

「ドラゴンってのは比較的安全な場所に卵を産むんだ。俺たちが以前戦ったヘルフレイムドラゴンが、『永久の森』に卵を産んでいたとして、その卵からかえった子龍が、魔神との戦いのあった場所にとどまる。そしたら魔神の気をまとい、急成長したヘルフレイムドラゴンの誕生だ」

「そんなに都合よくいくわけ?」

「最初のヘルフレイムドラゴンも、レリックを飲んで大幅パワーアップしてたしな。そもそもダンジョン内に流れるエーテルが魔物にどんな進化を及ぼすかは、未だにはっきりわかってない。だが1つだけ確実に言えるのは、大量のエーテルがある場所にいる魔物は、例外なく強い奴しかいない。ドラゴンが魔神の気を吸って劇的な進化を遂げるってのも、ありえない話じゃないってことだ」

「魔神の力を持ったドラゴンとか、厄介でしかないんですケド・・・。ロウの仮説が外れてる事を祈るわ」

「俺もだ」

 

 

 アリナの両手の痺れが、火炎に押されて消耗していく体力が、嫌でもロウの仮説の正しさを物語っていた。

「シグルスウォール!!」

 押されるアリナの横に、硬質化された大盾を構えたジェイドが立った。

「ジェイド・・・」

「アリナさん、このまま2人で火炎を弾くんだ!」

「・・・!! わかった」

 毎度の事ながらボロボロのジェイドを見て、アリナは大きく目を見開いた。しかし今はそんな事を言っている場合ではなかった。こいつの戦い方が心臓に悪い事は、ここ数か月で嫌というほど思い知らされた。それでも心臓に悪い事も、見ていて胸が苦しくなる事にも慣れるわけがない。

 

「はぁあああぁあああ!!!」

「うぉおおおおおおお!!!」

 バチィン!!

 

 

 阿吽の呼吸でハンマーと盾に力を込める。アリナとジェイドはヘルフレイムドラゴンの火炎を上空へと弾き飛ばした。

「ここだ!!インベル!」

 更にロウの氷魔法が、一瞬退いたヘルフレイムドラゴンの足を凍らせた。

「だぁああああ!!!!」

 間髪入れずアリナが飛び出した。その超人的な脚力で、ヘルフレイムドラゴンの巨体を飛び越え、その脳天目掛けて渾身のハンマーを振り下ろした。 が、ヘルフレイムドラゴンも負けてはいなかった。頭上のアリナ目掛けて再び火炎放射を放った。

「・・・・!!!」

「ルルリ、アリナさんの援護を! ロウ、もっと魔力をあげてくれ!」

「「了解!」」

 ジェイドは指示を出しつつも、『シグルスウォール』を地面に向けて発動していた。

「スキル発動! シグルスリバイブ」

 アリナの身体をシグルスリバイブの優しい光が包み込んだ。

「う、うぉおおお!!!」

 ロウの氷魔法が更に強くなり、ヘルフレイムドラゴンの胴体までも凍らせていく。

 バチィイ!!っと鋭さと重さが合わさった轟音が響く。アリナのハンマーとヘルフレイムドラゴンの火炎が再び激しくぶつかり合った。その摩擦で空気がバチバチと音を立て、風圧が嵐のように荒れ狂う。熱風と化したそれはアリナの身体に容赦なく襲い掛かって来た。が、ルルリの『シグルスリバイブ』が、アリナの火傷をみるみる癒していく。

「シグルスブラッド!!」

 ジェイドは幾つも地面に発動させた『シグルスウォール』を、『シグルスブラッド』の力で強制的に自分の剣に集める。同時に幾つものスキルを同時に発動した激痛が、ジェイドの意識を貫いた。何処かどのように痛い。等と理性が追いつかない激痛に、一瞬意識を手放しそうになる。それでもジェイドは集めた『シグルスウォール』すべてを、長剣に収縮させた。

 

「 千重壁 ( ミリア )!!! 」

 

 硬質化された長剣はスキルの赤い光を放ち、巨大な大剣へと姿を変えた。

「うぉおおおおぉおおおぉおおおおおおおおおおぉお!!!!」

「グギャアァアアアァアアアァアアアア!!!!!!」

 ジェイドは大剣を振りあげ、ヘルフレイムドラゴンの腹を貫いた。 再びジェイドの全身を激痛が貫く。それでもジェイドは血を吐きながら叫んだ。

「今だ!!!アリナさん!!!」

「みんな、ありがとう!!」

 アリナはこのチャンスを逃すまいと、ハンマーに力を込める。

 

「んあああぁあああぁああああぁああぁああ!!!!!」

 

 ウォーハンマーはアリナの意思を受け取ったように、黄金色の光を放ち美しく輝く。その光はアリナ自身をも包み込み金色のオーラとなった。その絶大なエネルギーは激しくぶつかり合い、スパークを起こすほどのものになっていた。そのオーラだけでアリナは火炎をはじき返していた。 

 

「・・・・・!!」

 ヘルフレイムドラゴンの理性が、自分の敗北を悟らせた。

 

「私の平穏のために・・・・」

 アリナはそのまま勢いを加速させ頭蓋骨目掛けて、黄金のウォーハンマーを振り下ろす。

 

「死ねェエエェエエぇええぇええぇええぇええぇえ!!!!!!」

 

 

 ズゴグォアン!! と大岩と大岩が衝突したような轟音が空間を震えさせた。ヘルフレイムドラゴンは短い悲鳴をあげ、その場に崩れ落ちた。大家ほどある巨体が倒れたため、辺り一面は地響きと砂煙で覆われる。次の瞬間にはヘルフレイムドラゴンの身体はバラバラと音を立てて砕け、灰となり、砂埃と混ざり跡形もなく散っていった。

「・・・・」

 それを確認したアリナはフゥっとため息を吐いた。彼女がまとっていた黄金のオーラは消えた。それが『白銀の剣』の勝利を証明していた。

「よっしゃ!!!」

「流石はアリナさんなのです!」

 ロウとルルリは手を取り合って喜び、ジェイドは柔らかい笑みを浮かべたものの、身体中を襲う激痛のため、その場に膝を着いた。

 

 アリナはその足でボロボロのジェイドへ駆け寄った。 ジェイドは足をもつれさせながら、なんとか立ち上がった。

「すまないアリナさん、助けにゲブォオ!!」

「なんであんたは私が目を離すと、いっつも死にかけてんのよォオオオォオオオ!!」

 ジェイドの言葉は、バチィィンっという平手打ちの音によって、強引にかき消された。ジェイドの首は、人体が曲げられない方向に回転し、そのまま身体ごと吹っ飛ばされ、壁にめり込んだ。

「やっぱりな」

「なのです」

 予想していた展開に、ロウとルルリはヤレヤレとため息を吐くしかなかった。勝利の余韻を噛み締める余裕すらない。

 

「・・・・・っ!!」

 メチャクチャ痛いはずなのに、ジェイドは自分の意識が、自分に馴染んでいくような、不思議な感覚があった。そんなジェイドの胸倉を掴み、アリナは鬼の形相で更にまくしたてる。

「俺は死なないんじゃなかったの!!!私をアタッカーからはずしておいて、それでこんな所で死ぬなんて、絶対に、死んでも許さないんだから!!バカバカバカ!!世界1の馬鹿!!!」

「あ、アリナさん、だ・・・」

 ジェイドは、自分を睨みつける少女の顔を見て、何処か懐かしいものを見るような目をした。

「あぁ、なんだろう、すごく久しぶりのアリナさんだ・・・」

 ジェイドは思わずアリナの背中に腕を回し、そのまま自分の元へ抱き寄せた。

「ちょ・・・!!」

 アリナは抵抗しようとしたが、彼の力にされるがままになった。 思えばこの状況は、魔神シルハとの戦いに似ている。

(あの時もジェイドは死にかけてて、身体中から血の臭いをさせてた。それでも、とても弱弱しいのに、なんだか力強くて・・・、冷たい身体には、しっかりと暖かい血が流れていて、それで私は・・・)

 必死でここまで来たため、アリナの身体は内側から熱くなっていた。同時にジェイドを失うかもしれないという恐怖で、悪寒が神経を支配していた。 だがジェイドの温もりを肌で感じていると、今までの不安と焦りが、ゆっくりとほどけていくような、安らぎにも似た不思議な感覚が、自身を覆っていくのを感じた。

(あぁ、私は今、安心してるんだ・・・)

 しょうがない。もう少しこのままでいいか。とアリナは観念したように全身の力を抜いた。そこで初めてアリナは自分が泣いている事に気が付いた。この涙はいったいどうして流れたのだろう?自問するが、それ以上に、アリナは今はジェイドが生きているという安心感に身を任せていたかった。

「あぁ、アリナさんの香りだ。アリナさんの感触だ」

「あの、ちょっと」

「やっぱりアリナさんは柔らかいな。流石俺のアリナさんだ」

「オイコラ」

「やっぱり受付嬢の制服より、処刑人の服の方が薄くて、しっかりと感触がつた・・・」

「調子にのるなぁあ!!!この変態ドスケベセクハラクソストーカー野郎がぁああ!!!」

「ぼぼぉ!!」

 アリナの鉄拳がジェイドの顎を捉え、彼はダンジョンの高い天井まで吹っ飛ばされるのだった。

「なんでウチのリーダーって、いい雰囲気を自分で壊すのかな?」

「ジェイドらしいと言えば、それまでなのです」

 ロウとルルリは、再びため息を吐くのだった。

 

 

 

「・・・・」

 シュリナ・ヴァレンは完全な敗北感から、『白銀の剣』から、思わず目を背けた。これほどまでに目に光が宿り、力強いジェイド・スクレイドを見たのは初めてだった。同時にこれほどまでに元気でイキイキしたアリナ・クローバーを見たのも、また初めてだった。アリナとジェイド。この2人はお互いの温もりを感じてこそ初めて、本来の自分に戻れる、いや本来の自分を超えた潜在能力を引き出せるのかもしれない。

「なら、『天使様』はなんで、『処刑人』の正体を、私に伝えたのだろう・・・」

 敗北感と悲しみの中で、シュリナ・ヴァレンは『あの日』の事を鮮明に思い出すのだった。

 




あとがき



 ナガレボシです。まずはここまで読んで頂きありがとうございました。
 やっとヘルフレイムドラゴンとの戦いを終わらせることができました。本当はもう少し長く書くつもりだった戦闘シーンですが、だいぶに削り、あっさりめにしました。戦闘をメインにしたくはないのと、純粋に下手な事もあり、このくらいで丁度いいかなと思っています。あとジェイドのセクハラはアニメよりも原作よりにしているので、アニメしか見ていない方は少し違和感を覚えるかもしれません(;'∀')
 それでは、ここまでのおつきあい、ありがとうございました。
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