本編と関わっているようなそうでもないような、そんな感じのあんまり深く考えないでほしい軽いノリのコメディ幕間。
メタ発言やパロディ、捏造設定のオンパレード。
なんか、こう……タイトルの時点でお察しください。
◇登場?人物紹介
ユーハバッハ先生:バッドエンド救済というか、教育災害に近いという説が有力です
ジークフリード:またしてもなにも知らない生徒。帰っていい?
███████さん:パパだよー!じいじだよー!
ネコ:出ない
おしえて!ユーハバッハ先生!
「……なにここ」
ジークフリードは困惑を隠さない顔でそう呟いた。
広々とした教室、木で出来た簡素ながら丈夫な椅子、引き出し部分に空洞の開いたこじんまりとした学習机、目の前には教壇と大きな黒板。
硬い椅子に座るジークフリードは周囲を見渡して首を傾げる。その身にはエイプリールフールにはまだ早い白い学ランを纏っていた。
ここが何処なのかどころか、一体いつこんなところに自分がやってきたのか、いつこんな服を着たのかさえもわからない。
明らかに学校の教室の中だ。とはいえ、学校というものに通ったことのないジークフリードにとってその景色はあまりにも新鮮すぎた。
とは言っても、今彼がいる教室は現代日本の学校の教室の様相であったから、仮に彼が学校に通っていたとしても馴染みはなかっただろうが。
と、その時、教室に声が響いた。
「Guten Tag. 滅却師でありながら滅却師のことを何一つ知らないお前のためだけの『おしえて!ユーハバッハ先生!』のお時間だ、ジーク」
「は?」
「別にデッドエンドを迎えたわけではないから安心するがいい。この物語に分岐ルートとか無いからな、多分。あとお前には恋愛ルートも無いぞ。全て私が未来で消しておいたからな。安心安全の確定ルート一直線だ。喜べ少年、お前の願いは大体私が叶えてやる」
「……ユーフェン、お前なにしてんの」
彼の視線は教壇の上に向かう。
そこには白シャツと黒のスラックスに赤のネクタイを締めて、肩口まで伸びた髪を揺らしながら立つ少年姿のユーハバッハがいた。何故かメガネをかけている。
ユーハバッハはさしてズレてもいないメガネの位置をかちゃりと指先で直しながら腰に手を当てて言った。
「今の私のことはユーハバッハ先生と呼べ」
「なんだよ、先生って。つか、ここどこ?お前はなにしてんの?」
ジークフリードの問いかけを無視して、ユーハバッハは白いチョークを手に持つと黒板に「Big ass」と書いた。
「ジーク、この言葉の意味がわかるか?」
「いやわかんねえけど。なに?」
「デカいケツだ」
「は?」
「とまあ、お前とこうやってレゼ編ごっこをするのもやぶさかではないが……」
「レゼ編ってなんだよ。いやわかんねえけどなんかダメな気がする。俺がボンッてなる気がする」
「残念ながら
「お前がなに言ってんのか普段の八割方わかんねえよ」
「お前は普段私の言っていることを二割も理解しているのか?」
「してるわけねえだろ、俺は雰囲気でお前と会話してる」
つまり現在は十割理解していないということになる。もちろんならない。それはさておき。
ユーハバッハは白ランを来た生徒役のジークフリードを見つめて(やはり制服を作る時は絶対に白にしよう)と思いながら口を開いた。
「これはお前のためだけの
「ダーテンってなに?これ知得留先生のパチモンじゃねえの?」
「パチモンではない。ネコがいないからな。では授業を始める」
ジークフリードはネコの代わりに兎でも出してやろうかと思ったが、こんな異常空間に出される兎が可哀想に思えてやめた。あと今はもう知得留先生ではなくシエル先生だし、シエル教官だ。
ジークフリードはよくわかっていないながらも、あんまりツッコんだり逐一理由を聞いたりしたら話が進まないということも理解しつつあったので、(なんじゃこりゃ助けてくれ)と思いながらも「ああ、うん、もういいよ、好きに始めてくれ」と返した。
「さて、本日は『何故この私が滅却師の父と呼ばれているのか』について解説しよう」
「そもそも呼ばれてんのを聞いたことねえけど」
「いつかお前にも簡単に話をしたな、私という存在はとある一人の男の持つ力の具現である、と」
「すげえ無視された……」
ジークフリードの呟きをガン無視してユーハバッハは続けた。
「その男はこの世界が三界に別れる以前から存在していた者であり、人・死神・滅却師・完現術者の四つの力を持っていた」
「ふるぶり……?カラブリの亜種か?ついに新作来るのか?つか、死神って何?」
「静かにしろ、質問するな。話が脇に逸れる」
「おい、誰だこいつを教師役に任命したやつ。生徒の質問に黙れと言う教師がいてたまるか。詰め込み学習反対ー!生徒の好奇心を潰すなー!」
「逆に聞くが死神がわからない奴が何故カラブリはわかるんだ。……いやそんなことはどうでもいい。その四つの力を持つ者こそ『霊王』と呼ばれる存在。その名を『███████』と言う」
「……? 今なんて言った?なんか聞き取れなかったんだけど」
突然ノイズがかかった様にユーハバッハの言葉が聞き取れなくなったジークフリードが困惑した顔でそう問いかける。そうすればユーハバッハは失意に似た表情を微かに見せて返した。
「……そうか、お前には聞こえないのか。仕方あるまい、その名を認識できる時間と空間と人間は限られている。この存在さえ曖昧な夢現の境界線では認識が不可能だったというだけだ」
「……どういうこと?」
「よく言うだろう、『名は体を表す』と。故に体を奪うために名を奪われたというだけの話だ」
困惑して首を傾げるジークフリードだったが、問いかけを許さないかのようにユーハバッハはすぐに言葉を続けた。
「現在の世界は現世・虚圏・尸魂界の三つに分かれている。だが、かつてはその全てが混ざり合いながらも全て均衡を保ち、完全で完璧な状態で世界は構築されていた」
「うぇこむんど、って?」
「ああ!」
「ああ!じゃねえわ、原型無さすぎて誰もわかんねえよこのパロ。つか解説と言いながら、俺の知らない用語をバンバン出してくるんだけど……誰向けの解説なんだよ……」
ユーハバッハは黒板に大きく丸を描くとその中に現世・虚圏・尸魂界と書いた。
そしてその頂点に簡単に人間を──相変わらずドヘタクソだが、多分人間だ──を描いた。
ジークフリードは理解の阻害に繋がるので黒板を見ない様に視線をずらす。
「しかし、一部の死神共の都合のために世界は三つに分けられた。そしてその分かれた世界を維持するために霊王は四肢を切り落とされ、臓腑を奪われ、生も死もない状態で存在させられ続けている」
現世・虚圏・尸魂界の文字を切り離すように大きな円を線で三つにわけた。そして頂点に描いた人間の四肢にユーハバッハはばつ印をつける。その上で水晶をイメージしてその人間を四角く囲ったが、ジークフリードには棺か何かにしか見えなかった。
「……なんか、急に重たい話になったな」
「ああ、霊王は現在の分たれた世界を維持させるための機能としてのみまだ存在し続けている。そこに最早知的生命体としての意思や感情はほとんど無い。ただ壊れかけた世界を継続させる機関としてのみ存在だけが許され続けているのだ」
「……なんかよくわかんねえけど、その人のおかげで今の世界が成立してるってことでいいのか?」
「その認識でいい。私からしてみれば、霊王のおかげではなく、霊王の
「いや、気にするけど。つか、気になるけど……」
「そしてその霊王から零れ落ちた滅却師としての力、それこそが私という存在だ」
「ああ、前にもそんなこと言ってたな」
「……ジーク、何故私が肉体としての死を迎えてもなお転生を繰り返して生まれ直すのか、その理由がわかるか?」
「くそ、都合がいい時だけこっちに質問しやがって……」
「それは私の力の根源たる霊王が死に至っていないからだ」
「聞いといて答えさせねえのかよ!」
ゴーイングマイウェイ過ぎるユーハバッハに、ジークフリードのツッコミが炸裂するが、当然の様に無視される。
黒板に描かれていた人間から、線で繋いだ先に新しい人間が描かれる。
「私という魂は霊王から生まれ落ちたもの。つまるところ、霊王は私の父に当たる存在というわけだ」
「ああ、うん」
「ここでいう父とはプロセスにおける親と考えていい。子が何度死のうとも、親プロセスの処理が開始され続ければ何度でも子プロセスは生み出される。親プロセスたる霊王が世界を継続させる処理を続ける限り、私という
「はーん、なるほど?」
話の内容は理解しきれてはいないが、ジークフリードは頬杖をついたまま、ユーハバッハを見つめて口を開いた。
「んで?この話が『ユーハバッハが滅却師の父と呼ばれる理由』とどう繋がるわけ?」
「……お前にユーハバッハと呼ばれると少しテンションが下がるのは何故なのだろうな……」
「あーもー!わかったわかった!ユーフェン!ユーフェンって呼べばいいんだろ!」
愛称で呼べば満足気な顔をして解説を再開するユーハバッハ。
「しかし、いい質問だ、ジーク。何故この私が滅却師の父と呼ばれるか。──それは原初、私が霊王の力の具現としてこの世界に生まれ落ちた時に滅却師の力を人間たちに分け与えたからだ」
「……? 滅却師の力って与えようとして与えられるものなのか?」
「いや、違う。お前も知っているな、私に力を与えられた者は魂を侵され、やがてそう時を待たずに死に至る。……だが、例外もあるのだ」
その言葉にジークフリードは小首を傾げる。
「……例外?お前に与えられても死なない人がいるってことか?」
「ああ、与えられた力に魂が耐えきれずに命を失う者も多くいた。だが、生き残った者たちも僅かながらいた。私が分け与える力の中に残る滅却師としての力を己のものとして受容できる稀有な存在。そういった者たちが結果的に滅却師と成ったのだ」
その言葉にジークフリードは不意にかつてユーハバッハから教えられた話を思い出す。
滅却師とは虚への抗体がないために抗体として戦う力を持つ者のことだ、と。
虚への耐性が無いけれど、ユーハバッハの力に対しては耐性があった人たちが滅却師と成れた、ということなのだろうか?それともユーハバッハの力を受容できた結果、虚への耐性を無くしたのだろうか?
「その者たちが血を継ぎ、子を残し続けたが故に滅却師は残り続けた。私はその者たちにとっての力の起源であり、始祖。それ故に私はこの世に存在するすべての滅却師の父なのだ」
「……そのナリで」
「このナリでも、だ」
ユーハバッハは一息ついてから、ジークフリードへ視線を向けた。キリッとした表情で口を開く。
「つまりワンチャン私がメリダから生まれていた可能性を考慮すると、今世においてお前より後に生まれた私はお前の弟と称していいのかもしれない」
「は?」
「だがそれはそれとして滅却師の力を持つ以上、私はお前の父でもあるということだ」
「お前にあんまこんなこと言いたくねえけど、言わせてもらうな。どのツラ下げて言ってんだ」
お前みたいな弟イヤだ。
お前みたいな父親はもっとイヤだ。
あと誰のせいで滅却師になったと思っとんねん。
魂のことも母のことも恨んではいないが、それはそれとしてお前が言うな案件過ぎた。
「と、ここまで話してきたが……ジーク、質問はあるか?」
「いやまあたくさんあるけど色々ありすぎて全部忘れたわ」
「ふっ、あまりそう深く考え過ぎるな。これはあくまでもこの
「何の話?マジで何の話?」
「我が友と出会わなかった世界線の私でもワンチャン勝てるかもしれん。まだ未来は確定していないのだからな。がんばれがんばれ」
「何の応援?」
そうは言っても、普通に
とはいえ、この世界における己の結末はまだ見えないのは事実。
つまり、まだもしかしたらジークフリードとの友情パワーで三界をぐちゃぐちゃに壊して生と死の境界のない世界に戻すという本懐達成エンドに至ることができるかもしれないのだ。そうかな?そうかも……。
「……ジーク、お前は私と共に
「なんかわかんねえけど、勝手に俺を共犯にするのやめてくれるか?」
「……一言でいい、ジーク。「許す」と私に一言伝えてくれ。それだけで私は救われる」
そう言ってちょっとだけ儚げに微笑んだだけで、ジークフリードはクソチョロ主人公なので否定の言葉が紡げなくなった。ゔっ……と言葉が詰まった様な声を出す。苦虫を噛んだ様な顔をしてから、溜息をついてそれから肩を落として少し照れの混じった表情で言った。
「……まあ、その、なんだ……許すもなにも、別に俺はお前に対して許してないことなんてねえよ」
「ふっ……なるほど、お前は私の共犯者で、私がこれまでに抱えたあらゆる罪も罰も共に分かち合い、私のためにその命の全てを捧げ、たとえ世界を敵に回したとしても私だけの正義の味方を張り続けてくれるということだな」
「おっと、一瞬で連帯保証人にされたな。これなんて特殊詐欺?」
「拇印でいいぞ」
「俺がよくねえ」
「ジーク、臆せば……死ぬぞっ」
「名言をここで使うんじゃねえ!しかも元ネタの方!」
まるでヒーローポーズのように左腕を右上に伸ばし、右腕を軽く交差させながら楽しそうに揶揄ってくるユーハバッハに対してジークフリードは溜息をつく。
それから少しだけ真面目な声音で教壇の上に立つ友へ問いかけた。
「なあ、ユーフェン」
「ああ、どうした」
「……お前はその霊王ってやつを、憎んでるのか?」
その問いかけに、ユーハバッハは微かに嘆息し、思考を巡らせる。
ユーハバッハはこの世界が成立しているのは霊王のせいだと言った。
彼の言動の端々から感じられるこの世界への嫌悪。ユーハバッハは他者から簒奪しなければ生きられない自分の構造を呪っていた。
彼をそんな存在として生まれ落としたのは霊王。
霊王が死なない限り、望む望まないに関わらず彼の生は強制的に繰り返される。分たれたこの世界において不要なものとして放り出されたままの滅却師という存在、ユーハバッハという具現。
父たる霊王は私を見棄てたのだろうか?
全てを見通していたというのならば、私が生きるために生み落とせざるを得なかった滅却師さえ見棄てたのだろうか?
私が慈しむ者さえ、貴方にとっては打ち棄てるに相応しい存在だったのだろうか?
私が貴方の力の具現であるならば、貴方と私は同じ存在なのだろうか?
この心が抱く感情は、私のものではなく貴方のものなのだろうか?
問いかけに答えが返ることはない。きっととこしえに返ることはないだろう。
霊王を愛してはいない。だが憎んでもいない。
ただ、証明したいのだ。そうではない、と。
貴方が棄てたものさえ、私は拾い上げ、慈しみたい。
例えこの身が貴方の力のほんの一欠片だとしても、私は貴方ではなく私自身なのだと信じたい。
だから、貴方を殺したい。
貴方を殺し、私という魂の転生を止め、貴方の私がただの私と成った時に残るものがあったのならば、それこそがきっと本当の私なのだから。
「……憎んでなどいない、ジーク」
「そっ、か」
「どうであれ、この転生の果てにお前と出会った。その事実に変わりはないのだから」
そう言ってユーハバッハは微笑んだ。
それを受けてジークフリードも微かに眉を下げて、それから小さく笑い返した。
「あとさ、最後にもいっこだけ聞きたいんだけど」
「ああ、なんだ?」
「俺とお前って、出会ってからもう20年くらい経ったよな」
「ああ、もうそのくらいにはなるか」
「……なんで俺もお前も見た目が全然変わんないの?」
実年齢にしてみれば35歳ほどになっているはずのジークフリードだったが、どう見ても外見年齢がティーンエイジャーのまま変わらないのだ。なんか、おかしい気がする、流石に。
ジークフリードの問いかけに、ユーハバッハはそれはもう綺麗に微笑んだ。
…………微笑んだだけだった。無言貫徹。
「オイコラなんか言え!!!やっぱこれおかしかったんだっつーか、絶対お前がなんかしてんだろこれ!!!」
「まさか20年気付かれないとは思わなかった」
「お前!!!」
ジークフリードは咄嗟にその場に立ち上がると、異議ありとばかりにユーハバッハに向かって指を指した。対してユーハバッハはいけしゃあしゃあとそんなことを言って肩をすくめる。そして続けた。
「さっき話したな、霊王は私の親プロセスだと」
「あ?なんだよ急に」
「では、ジーク、問おう。お前の
「……………は?……え、まさか……」
その瞬間、キーンコーンカーンコーンの間の抜けたチャイムが鳴り響く。呆気に取られるジークフリードを置いて、ユーハバッハは締めに入る。
「ということで第一回『おしえて!ユーハバッハ先生!』のお時間も終わりだ。タメになったな。第二回があるかは知らん」
「いや待て待て待て待て!俺だけホラーみたいな終わり方してる!」
「では、さようなら、ジーク。気をつけて帰れ」
「どこに!?」
そう叫んだ瞬間、ジークフリードは急速に意識が遠ざかる感覚に襲われた。
・
・
・
「まっ!またたび!?」
ジークフリードはそう叫んで飛び起きた。
起きた瞬間、頭の中が空っぽになる。
……夢を、見ていた気がする。
なんかこう、意味のわからんネコ的なカオスの奔流の様な夢を。グレートキャッツビレッジ……?知らない子ですね……。
毛布を掴んだまま半身を起き上がらせたジークフリードは自分が今どこにいるのかわからずあたりを見回す。
狭い部屋、古びたベッド、朝日の差し込む小さな窓。そうだ、ここは昨日借りた宿の一室だ。
自ら滅ぼしたソドムの屋敷から離れたユーハバッハとジークフリードは、あの日以降様々な国や街を回って2人旅をしている。そしてここはそんな旅の途中で借りたとある町の宿だ。
隣を見れば並んだもう一つのベッドの中でユーハバッハが寝ていた。……が、飛び起きたジークフリードの声で彼も起きてしまったのだろう、不機嫌そうな顔で「うるさいぞジーク……」と掠れた声が届く。
ユーハバッハの姿を見てジークフリードは夢の中の出来事を思い出しそうになった……が、うまく思い出せない。
うんうん唸って、それから不意にハッとする。
彼は慌ててユーハバッハのベッドに近づくと、まだ眠たげな友に忘れないうちにと問いかけた。
「なあ!ユーフェン!」
「……なんだ、騒々しい……」
「お前、『Big ass』ってどういう意味がわかるか!?」
瞬間、ユーハバッハの拳がジークフリードの顔面にめり込んだ。