バッハ「私たちは友達だからだ」   作:ホネホネ

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if you know you know

 

 

「確かに我が一族は長くこの地を治めてきました。ええ、陛下が光の帝国を建てられるより以前から。ですが、それは我々が陛下の前に傅かぬ理由とはなりません」

 

そう言って目の前の男は何の嘘もないような顔で笑みを浮かべた。

 

初めて訪れる城、他人の領域、薄暗い広間の中。

ユーハバッハのすぐ背後で彼の影のように立ちながら、ジークフリードは警戒を隠すことなくその言葉を耳にする。その言葉を素直に受け取るのならば、安堵できる。安堵したい、とそう思っている。

 

「お恥ずかしながら、ブラック家には敵が多いのです。我らが陛下への逆心を抱いているなどというあらゆる虚言や流布はそれらによるものでしょう」

「……私は争いと偽りをこそ嫌悪する。故に私は皇帝としてお前のその言葉を信ずるぞ」

「ええ、我らの心にある陛下の敬意は何者にも曇らせることなど叶いません」

 

己の城の中で、ブラック家当主であるその男は皇帝に対してはっきりとそう口にする。

目の前の晴れやかな笑顔を前に、けれどユーハバッハもジークフリードもその口角を緩めることはなかった。

 

 

 

帝国より南にあるブラック家が治める領地は、未だ光の帝国の土地ではない。

帝国建国の時より、ブラック家はユーハバッハによる帝国への併合を拒んでいた。あくまでも自家による領地支配の独立性を望んでいたのだ。

 

そのため、建国したばかりの頃には意見の異なる双方による小競り合いも数度あった。しかし、当時はまだ今のように騎士団と呼べるほど配下の滅却師たちが存在していたわけでもなく、下手に正面から戦争を起こせば他の領地からの不信も買いかねないと、実質的な不可侵の関係を築いていた。

滅却師の統一を望むユーハバッハとて、徒に戦を起こす気はない。益はないが不益もないが故に、その不可侵を黙認していた。

 

話が変わったのはここ最近のことである。

ブラック家の軍備拡張と、未だユーハバッハの支配を拒む他の領地との同盟の噂が流れてきたのだ。

 

治安維持部隊の調査においても、少なくとも前者についてはほぼ確定、後者においても他の領地とのこれまで以上に密接な連携は確認され、同盟が結ばれていないことを証明することはできない状態となっていた。

 

それ故に行われたのが此度の光の帝国とブラック家による会談であった。

これはある種、ユーハバッハによる慈悲である。

 

もしもブラック家が反乱の意思は無いと口にし、軍備拡張を停止するのであれば、光の帝国はこれまでと変わらない不可侵をよしとする、と。

 

そして、少なくともブラック家当主は、反乱の意思は無いと口にした。

あとは口にしたその言葉を事実にすれば良い。

 

 

 

「騎士団の増強、親衛隊の設立、領地の拡大。ブラック家が焦る理由もわからなくはねえが……」

「こちらとしても不可侵は悪い状況ではなかった。あの地に狙いを定めたつもりはなかったが、路傍の石が私の往く道に転がり出るのならば除けるほかあるまい」

「まあ、一応向こうが敵対する気はないって言っている以上、疑いたくはねえ。気持ちとしてはな」

「私も同様だ」

 

ユーハバッハとジークフリードはブラック家の所有する城での会合を終えて帰路に着こうとしていた。

馬の背に跨りながら、ブラックの領地の外れから北の方角へ進んでいく。

ほとんど森のような場所だったが、このあたりで生活している人間もいるらしい。時折、家屋を見かけた。

 

ふと小さな気配に視線を木々の中へ向ければ、ローティーンにも満たない小さな少年が太い枝の上に立っているのが見えた。こちらの視線に気がついて、少年もジークフリードへ目を向ける。

 

ブラック家からの刺客、ではないだろう。あれがユーハバッハに刺し向ける暗殺者ならばお粗末にも程がある。

しかし、少年の手にあるロングボウは霊子兵装だった。あの幼さであれだけ霊子操作ができるのなら優秀な部類だ。様子からして兎でも追っていたのか、得た力を自在に使いたい気持ちには経験がある。

 

少年と視線を合わせたジークフリードは「お揃いだな」と示すように自身の赤髪を摘んで少年に見せる。そうすればその意図に気がついたのか、少年もまた自身の赤毛を摘んでみせた。

 

無言の交流に満足してから、ジークフリードはユーハバッハの横顔へ視線を向けて、先ほどまでの話を続ける。

 

「とはいえ、だ。正直ザイドリッツの言葉に納得してる俺もいる」

「ほう、ザイドリッツはなんと?」

「本当に敬意と畏怖があるのなら、ブラック家はお前を領地に呼びつけるのではなく、あちらから城に来るはずだ、ってさ」

「ああ、それか。私も似たようなことは言われたな、仮想敵の本拠地に行くなど言語道断だ、と」

「そりゃあそうだ、よく許してくれたもんだよ」

「お前を護衛として連れていくと言ったら許された」

「信頼されてんねえ、俺」

「ただし、もし帰路で道草でも食い、真っ直ぐ帰って来なかったら、お前は一週間夕食抜きかつザイドリッツ監視の元で内勤をさせる、とも」

「……信頼されてねえ、俺」

 

久しぶりにユーハバッハと馬に乗ったわけだし、ちょっとくらい遠回りしてもいいだろうと思っていた気持ちが萎む。

しゅんとするジークフリードを横目に、ユーハバッハは言葉を紡ぐ。

 

「呼び寄せた私をその場で殺そうとするほどブラック家も愚かではない。親衛隊を連れて行かなかったのはそれが理由だ」

「アホじゃねえだろうけど、舐められてはいるぜ、俺たち。なあ、ユーフェン、あっちの言う通りにわざわざ領地まで行っちまって、要らねえ成功体験与えたんじゃねえの?」

 

こちらの要求を突っぱねることなく、皇帝が従った。まして部隊を連れてくることなく最低限の護衛だけで自身の領地へ来るなど、それがブラック家にとってどのような印象を与えるかなどジークフリードにも想像がつく。

 

主君であり友人である彼を軽んじられて内心では苛立っていたのだろう、わざと意地の悪い言い方をするジークフリードに、ユーハバッハは鼻で笑う。

 

「それこそ好都合だろう」

「は?」

「時折、私が望まれた道を進んでやると喜ぶ連中がいるのだ。その道が誰の手の上にあるかも知らずに」

「……なに、そこまで考えてんの、お前」

 

目を丸くするジークフリードに、ユーハバッハは薄く笑った。素直な反応は嫌いではない。

 

少しだけ見せてやった餌に相手が食いついてくるのなら重畳。攻め立ててくるのなら、滅ぼす理由になる。

彼の紅い重瞳が揃ってジークフリードを見つめ、その姿を逃さず捉える。

 

「……我々はそう遠からず、この地に戻るだろう」

「予言?」

「そう大したものではない。お前が仕込みの匂いで夕食の献立を当てるようなものだ」

「俺そんなことしてると思われてんの?」

「していないのか」

「するか!俺はちゃんと正々堂々毎日献立聞きに行ってる!」

「……それをザイドリッツの前で言ってみるがいい。これ以上ない溜息が聞けるぞ」

 

呆れた声でユーハバッハは呟いた。

食い意地が張っているというよりは、長命と多忙故に食以外でさしたる趣味を持てなかったというのが近いのだろう。もう少し余裕があれば元々適性のあった彫刻や絵画などの趣味を持っていたのかもしれないが。閑話休題。

 

「だが、ジーク、お前にはこの地へ戻る前に少しばかり仕事をしてもらうことになる」

「さては面倒事だな」

「嫌いか?」

「嫌いだよ。お前からのものじゃなかったらな」

「ふ、よく振られた尾だ」

「いや、お前からの頼み事って大抵面倒で厄介なのに逃げらんねえから諦めて前向きに受け入れてるだけだから。喜んではねえからな、覚えとけよ」

 

ジトッとした目を向けられるがユーハバッハにはどこ吹く風だ。結果が同じならば過程に文句を言う理由もない。

視えた未来にユーハバッハは微かに目を細める。

 

「……ふむ、そうか。だが、証拠は……いや、どうとでもするか。私としてもその方が好都合……」

「勝手に人の未来見て、感想言うのやめてくんね」

「嗚呼、ジーク……何も錐揉み回転しながら窓から飛び出さずとも……」

「どんな未来!?」

 

 

 

 

ニキータ・デスロックは警戒していた。

食堂の片隅でフォークを手にしながら、ほとんど睨むような視線でじっととある人物を見つめ続けている。

 

「……料理が冷めるぞ、ニキータ」

「ん、アルゴラ」

「何をそんなに熱心に見てるんだ」

 

フォークを握りしめたまま、ろくに食事もせずにどこかを見つめてばかりいるニキータに思わず声をかけたのは同じく親衛隊のアルゴラだった。彼は自身のプレートを手に彼女の隣の席に腰掛ける。

 

「ねえ」

「どうした?」

「隊長と一緒にいるアイツ、誰」

 

その言葉にアルゴラはニキータの視線の先を辿る。

そこにいたのは見慣れた赤毛のジークフリードと、彼と向かい合うようにして食事を取る一人の女性隊員がいた。

 

キッチリと纏め上げた黒髪や凛とした顔立ち。

そこから真面目そうな雰囲気を受けるが、ジークフリードを前に彼女の表情は穏やかだ。

決してここ数日の仲ではないのだろう、談笑しながら食事をする二人は親しげで、割って入るのには勇気が必要に感じられる。

 

「あいつは……ああ、ムフートだな」

「なにそいつ」

「シュトゥル・ムフート。実働戦闘部隊所属の騎士だ。俺は部隊での所属が違ったからあまり交流は無いが、問題も起こさないし、真面目な奴だと聞いてる」

「新人?」

「いや、若いがそこそこの年数いるはずだ。中堅ってところじゃないか?」

「……ふーん」

「なにかあったのか?」

「……なんかアイツ、隊長に纏わりついてて、いや」

 

アルゴラの言葉を聞いてなお、ニキータは警戒を隠さない。

グッと眉間に皺を寄せる彼女の姿に、アルゴラはハッと察するものがあった。

ジークフリードに近づくよく知らない女性の姿を見て不愉快に感じている。

 

……それはつまり、そういうことなのではないか、と。

 

とはいえ、あり得ないことでは無い。

ジークフリードはともかく、ニキータはうら若き女性だ。そういう感情の芽生えも勿論あるだろう。

彼女からしてみれば好意を抱いている男性にライバルが生えてきた、というわけだ。不愉快に感じてしまうものおかしいことではない。……あくまでもアルゴラの予想ではあるが。

 

とはいえ、彼としてはかなり意外だった。

ニキータがジークフリードに懐いている様は、例えるのなら子犬が自分より大きな犬に懐いて戯れているようなものに近いと思っていたからだ。

愛情はともかく、まさか恋慕が混じるようなものだったとは。

 

「……そうか、まあ、見てくれも良い奴だからな。年頃の子が年上に憧れる気持ちもわからなくはないし、そういうこともあるか……。いや、だが絶対にあいつは唐変木だぞ。察しが良い筈がない。それに黒髪……。真面目そうだからあいつに対して強く当たるようなことはないだろうが黒髪か、アドバンテージがあるな……。いや待て、そもそも陛下がいらっしゃるのにそんなこと許されるのだろうか……」

「アルゴラ、ぶつぶつうるさい」

 

勝手に心配しだすアルゴラを他所に、ニキータはじっとあの二人の囲むテーブルを見つめる。そして、苛立たしげにフォークで肉を刺した。

 

ニキータ・デスロックは対虚戦闘部隊出身の騎士である。

彼女はその小柄な体つきに反して、虚戦闘の玄人として銃による遠距離戦闘はもちろんのこと、剣による近距離戦においても隙のない戦闘巧者である。

そして何を前にしても表情を変えることのない冷静さを持ち合わせている騎士……のだが、同時に彼女は親衛隊随一の暴れ馬でもあった。

 

自分を舐めてかかってきた奴は全員殺す。

陛下を舐めてかかってきた奴も当然殺す。

陛下の大切な臣民を襲う虚などブチ殺す。

味方は命に代えても守るが、敵は差し違えても殺す。

 

親衛隊らしく彼女も皇帝のシンパであり、凄まじく導火線の短い滅却師だった。

 

「隊長」

「お、ニキータ。元気?飯食った?」

「食べた」

 

のどかな午後のことだった。

城内を歩いていた時に見かけたジークフリードに、ニキータは少し表情を明るくさせながら駆け寄った。

アルゴラはジークフリードとニキータの関係を大きな犬に懐く子犬と評したが、実際それに近しいようなもので、ニキータはジークフリードによくよく懐き、慕っていた。

 

敵には容赦ない反面、彼女は一度身内と判断した相手には穏やかである。比較的当たりの強いヒューベルトに対してだって、敵意はない。小競り合いも舌戦も兄弟のような戯れ合いと変わらない。

そのためジークフリードに対しても仲間としての親愛と、騎士としての敬愛を持って懐いていた。

 

「昼飯食うと眠くなるよなあ」

「うん」

「いい天気だし、仕事なんかしないで昼寝でもしてえなあ」

「だめ、ちゃんと仕事して、隊長」

「はーい」

 

たわいのない会話をしながら二人は並んで歩く。

隣を歩くジークフリードを見上げながらニキータはそっと唇を開く。

彼に話したいことはたくさんあった。ささやかなことから、そうでないことまで。それでも彼女は彼女らしく、最優先を選ぶ。

 

「あのさ、隊長、確認しておきたいんだけど──」

「ジンツァー教官!」

 

しかし、ニキータの言葉を遮るようにジークフリードの名が呼ばれたのはその時だった。

二人の視線は自然と声の方へ向かう。そこにいた人物に明るかったニキータの表情が微かに歪む。

 

纏め上げた黒髪に、凛とした顔つきをした女性。

実働戦闘部隊の騎士、シュトゥル・ムフートの姿がそこにあった。

 

彼女は声をかけてからニキータの存在に気がついたのだろう、ムフートは一瞬バツの悪そうな顔をしてからおずおずと「申し訳ありません」と頭を下げる。

 

「約束の指導の時間が近づいて参りましたので、お声がけをしようと……。会話の最中に失礼しました」

「いや、問題ない。連絡をありがとう。すぐに向かう」

「はい、お待ちしております」

 

はっきりとしたよく通る声でムフートはそう口にすると敬礼をしてからその場を去った。ニキータはやはりどこか警戒した表情のまま、去っていく背中をじっと見つめる。

 

「んで、どうしたって、ニキータ」

 

それを遮るようにニキータの視界に入り込み、小柄な彼女に視線を合わせるようにジークフリードは屈んだ。彼を見つめ返して、彼女はその碧い瞳の奥にあるものを探ろうとする。

けれど無いものを探しても見つからないのは当然のことで、それゆえにニキータは問いかけた。

 

「……隊長って、今までに恋人いたことある?」

 

唐突な質問にジークフリードは一瞬鼻白んだ。

それから、照れと戸惑いの混じった表情で頰を掻いてからごにゃごにゃと言葉を返す。

 

「えぇ、んとぉ、あのぉ、俺の人生ってなんかそういう感じじゃなくてぇ……」

「そういうってどういうこと?」

「んんん……あ、じゃあ今度話してやろうか?俺の半生。多分一晩くらい掛かるけどな、わはは!」

 

冗談めかしてそんなことを口にすれば、少しも冗談のない顔に頷かれた。

 

「うん、聞きたい」

「……ありゃ、冗談のつもりだったんだけどな」

「私は聞きたいよ、隊長のこと好きだから知りたい」

 

快晴の空のような瞳に真っ直ぐ見つめられたジークフリードは一度目を丸くして、けれどそれからいつものように眉を下げて笑った。

 

「ありがとな、俺もニキータのこと好きだよ」

「うん、知ってる」

「知ってるかあ」

「隊長、今日の夜、ヒマ?一緒にご飯食べよ」

「いいよ」

「明日も、明後日も」

「いいよっと」

「んわっ」

「わはは」

 

ジークフリードは撫でるようにしてニキータの被る白帽をグッと目元まで引き下げた。

唐突に暗くなった視界に慌てる彼女をジークフリードは揶揄って笑う。ずらされた帽子の位置を直しながら、その快活な笑顔を上目遣いで見つめて、ニキータは少しだけ表情を緩めた。

 

「ん、じゃあまたね、隊長」

「おう、またな」

 

手を振って去っていくニキータの背中を見送る。

その小さな背が曲がり角で消えてから、ジークフリードはゆっくりと一呼吸をした。

そして傍にあった窓を全開にすると、そこから勢いよく飛び出した。

 

カ!ワ!イ!イ!

 

心の中でそう叫んだ。

現実で叫んだら異常者すぎるから我慢した。

 

外に飛び出した彼は霊子で構築した階段を駆け上がり、城の最上階にあるユーハバッハの執務室の窓を割らんばかりの勢いで開く。

 

「ユーフェン!!!」

「っ……!」

 

窓際にいたザイドリッツが驚いて肩を揺らす。目を丸くする彼を置いて、錐揉み回転、部屋の中に矢のように突っ込んで、地面にべたんと叩きつけられたジークフリードはその体勢のまま大きな声で問いかけた。

 

「ユーフェン、俺のこと好き!?」

「好きだ」

「だよな!ザイドリッツは!?」

「はあ、好きですが……」

「ありがとっ!俺も好きっ!」

 

素早く立ち上がり、来た時と同じくらい勢いよく、今度は窓ではなく廊下の方へ飛び出していったジークフリードに、ザイドリッツは呆気に取られたような顔で呟く。

 

「今のは、一体……?」

「……大方、珍しく良いものでも口にしたのだろう。それに驚いて、慣れ親しんだ味を食べに来たといったところか」

「なるほど、口直しにされた、と」

 

随分気を許されたものだ、とザイドリッツは苦笑しながら肩を落とした。それからふと気がつく。

 

ザイドリッツがいる(二人きりじゃない)のにユーハバッハをあだ名で呼んでいた、と。

 

……随分気を許されたものだ、まったく。

 

 

ジークフリードは左胸を押さえながら走っていた。熱いトキメキを胸に受けてしまったからだ。

そういうことじゃないとわかっていても、脈打つ心臓が止まらない。ドストレートな好意に年甲斐なく照れてしまう。可愛い。可愛すぎる。年下可愛すぎる。もしかして俺の子なんじゃないか?そう思ってからジークフリードは首を横に振った。違う。前にユーフェンが言っていた。私は全ての滅却師の父だ、と。つまりユーフェンの兄である俺にとって全ての滅却師は甥か姪ということになるのでは?それだ。そういうことだ。これからの人生そういう感じで生きていこう。

彼にとって都合の良い正解を見つけたジークフリードは満足げに頷く。

思考が異常方向へ進みながらも、彼は慣れ親しんだ霊圧を追って城を風のように走る。そして曲がり角の先で彼らを見つけた。

 

ジークフリードは二人に駆け寄ると目の前でぴたりと止まり、それから大きな声で聞いた。

 

「アルゴラ!俺のこと好き!?」

「え?ああ、まあ、好きだが」

「ダンケ!ヒューベルトは俺のこと好き!?」

「は?失せろ」

 

絶対零度の物言いに、ジークフリードは切羽詰まっていた顔を一気にふにゃりと緩めると満面の笑みを浮かべる。

そして、そうそうこれこれ!これだよ!という笑顔で何度も頷くと、軽やかなスキップで去っていった。

 

「……なんなんだあの不審者は」

「馴染みの店で「いつもの」と頼んだらいつもの料理が出てきた時みたいな顔をしていたな……」

「なんだんだ本当に……」

 

……まあ、あいつが変なことをし出すのはいつものことか。

 

そう思ったアルゴラとヒューベルトはさして気にすることもなくジークフリードが来る直前までしていた仕事の話に戻った。

 

 

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