バッハ「私たちは友達だからだ」   作:ホネホネ

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Words are not enough

 

星十字騎士団(シュテルンリッター)、ねえ……」

 

ネーミングセンスめっちゃ良いな、とジークフリードは思った。

それから、こいつほんとに星が好きだな、とも。

さて、それはさておき。

 

「新設部隊つっても、対虚戦闘部隊と治安維持部隊から人員を取るわけにはいかねえな、帝国の秩序維持に関わる。そうなると実働戦闘部隊を全投入することになるわけだが、敵地に赴いての戦闘となるとそれだけじゃ不安が残る人数になる。兵站や補給、治療班まで考えねえといけないしな」

「だからこそ志願者を募ると陛下がおっしゃっていたんだろう」

「これから戦争しますつって志願者が来るか?」

「来るでしょ」

「……そうか?」

 

書類を片手に呟くジークフリードに、左右から覗き込んできたアルゴラとニキータが茶々を入れるように口を挟んだ。

 

いつもの談話室で、三人は先日皇帝より話が降りてきた尸魂界侵攻の件について話している。

志願制での騎士団の増強に疑問を抱くジークフリードに、ニキータはきっぱりと心配ないと口にした。

 

「言っとくけど、隊長が思ってる以上に滅却師って血の気が盛んなんだからね。元から戦える力があるならそれを最大限使いたいって思うのは普通でしょ」

「ニキータもそうなわけ?」

「当然。撃つの好きだし、衣食住完備だし、陛下のこと好きだし、天職」

 

胸を張ってそんなことを口にするニキータに、ジークフリードは「血、ねえ」と呟く。

ユーハバッハ以外の誰も知らないが、滅却師でありながら滅却師の血が流れていないジークフリードはどこかピンとこない顔で小首を傾げる。生まれのせいか育ちのせいかジークフリードにはよくわからないが、ニキータ曰く滅却師とはそういうものらしい。

 

「俺は徴兵制も検討したほうがいいと思うがね……」

「私は反対だ」

 

次にきっぱりとした声音を飛ばしてきたのは三人からやや離れた位置に座っていたヒューベルトだった。

ジークフリードが顔を上げるのと、ニキータが「げえ」と呟くのは同時だった。

 

「ヒューベルト」

「徴兵制など、陛下への忠誠も無い下等な連中が増えることになる。そんな輩がこの城を我が物顔で闊歩するなど、考えただけで反吐が出る」

 

腕を組み、不愉快げに眉を顰めたヒューベルトがそう吐き捨てる。

その言葉に賛同したのは意外にもアルゴラだった。

 

「そこまでのことは言わんが、俺も徴兵制には反対だな。組織としての統率を考えれば意欲のある者や最期まで陛下に仕える覚悟のある者で構成するべきだと思うぞ」

「そりゃあ、もちろん理想はそうだが」

「だろう?だから、まずは志願制で様子を見ていいんじゃないか」

「様子を見る必要もない。力の足りぬ烏合の衆と陛下への忠誠を持った少数精鋭なら後者のほうが望ましいに決まっている」

「気ィ強ぉ……でもそういうところも好き」

「は?口を開くな、気色悪い」

「クソボンボンより私の方が強いけど?」

「張り合うな、ニキータ」

 

ジークフリードは息を吐くと手に持っていた書類をテーブルに置いて、紙飛行機を折った。そして指の先で摘んだそれをそっと宙へ飛ばす。

通常であれば容易く地に落ちるそれは、飛廉脚の要領で霊子の流れに乗り、部屋の中を大きな円を描くように飛び続けた。

 

「あーあ、隊長いけないんだー、書類で遊んでる」

「いーや、書類も遊びたいって言ってるね」

「おや、それは興味深い」

「え゛」

 

室内を飛ぶ紙飛行機をキャッチしたのは、談話室へやってきたザイドリッツだった。彼は真顔のまま、掴んだ紙飛行機を眺めて唇を開く。

 

「楽しそうなことをされていますな、ジークフリード殿」

「あっ……い、いや、違う、これは、その……」

「随分良い紙を使われていますが……まさかサインをして返却するようお願いした書類ではありませんよね」

「……えっ、サインして返すんだっけ?」

「ほう」

「あー!嘘嘘!わかってる!親衛隊の連中にも内容を共有した上で確認しようとしてて……!な!みんな!」

「みんな、とは?」

「えっ?ウワ!あいつら逃げやがった!」

 

アルゴラたちへ同意を求めるように周囲を見渡したが、今の談話室にはザイドリッツとジークフリードしかいなかった。あの三人、逃げ足が速すぎる。

 

ジークフリードはもしも彼が犬だったら「キューン」とか細く鳴き、尾を股の間に挟んで震えていただろうと思うくらい、身を小さくするとザイドリッツに平謝りを繰り返した。

ザイドリッツは呆れた顔をしながら、紙を広げると「では今すぐサインをして返してください」と口にする。

 

「はいはいはい」

「返事は一度で十分です」

「はぁい」

 

部屋のどこからか持ってきたペンでえっちらおっちらサインを書こうとするジークフリードを、ザイドリッツは隣の椅子に腰掛けて見守る。

 

「ところで、先ほどの話ですが」

「んー?」

「新たな部隊の人員確保の件です」

「ああ、聞いてたのか」

「ええ、ご心配せずとも、元より騎士団への入団希望者は多いのですよ。ただ、来る者拒まず受け入れるにはこちらのキャパシティがなかったのです。故に敢えて高い水準を設けていました」

「へえ」

「ですが、新たな戦闘部隊の設立に伴い、より多くの人員を受け入れる準備ができた。故に門戸を広げる。ただそれだけのことです」

「なるほど、心配無用というわけだ」

「ええ、その通りです」

「ま、今回の件だって、お前やユーハバッハがちゃんと考えてのことなんだろう、なら信じるさ」

 

顔を上げてニカっと笑うジークフリードに、ザイドリッツは肩の力が抜ける。気の抜ける笑顔に妙な安堵の心地があった。

それからお節介とわかって彼に問いかける。

 

「……陛下とはお話されましたか」

「してるしてる。毎日のようにしてるって」

「それなら良いのです」

「言っとくが、侵攻の件だって頭ごなしに否定してるわけじゃないからな。それでもみんながみんなあいつと同じ意見ってのも良くないだろ」

 

角ばった癖のある筆跡で自身の名を書き連ねるながら、ジークフリードはザイドリッツへそう語った。その言葉に耳を傾けながらザイドリッツはペンの先から生まれる文字を見つめる。

 

「結果はともかくいろんな視点や考えがあるってことを過程で把握しているだけでも違うと思ってな。まあ、俺が考える程度のことなんて、とっくにお前たちが思いついているとは思うが」

「……そうでしたか。いえ、おっしゃる通りです」

「あいつは変なところで夢想家だからな。小市民的で現実的な視点を認識させるだけでも意味はあるだろう。なまじ力のある奴の視野が狭くて良いことなんかねえだろうし」

「陛下のことを考えてらっしゃるのですね」

「こう見えてあいつのことは友達として大事にしてるつもりだよ、俺は」

 

サインを終えたジークフリードはペンを置き、それから「今の、あいつには言わなくていいからな」とザイドリッツへ釘を打った。

 

「お喜びになると思いますが」

「あいつのことは知らんが、俺にも恥じらいってもんがあるからな」

「それは存じ上げませんでしたな」

「ははは。……ん、あれ?今の悪口?」

 

きょとんとした顔でこちらを見るジークフリードを放ってサインが書かれた書類を貰い受ける。確認していれば雑談が振られた。

 

「ヒューベルトって字綺麗なんだよな」

「彼は責任ある一族の者ですから」

「読み書きもきっちりできるしな、憧れる」

「それはどちらもできない者のほうが多いですよ。やや古風なところはありますがジークフリード殿は十分かと」

「そうは言うが、書く方はあんまりなあ……割と雰囲気でどうにかしてる」

「…………確かに。ジークフリード殿、お名前のスペルが足りていません」

「ありゃ」

 

紙を返せばジークフリードは足りていなかったzを無理やり文字の間に捩じ込んだ。

 

 

 

 

 

 

「あ、留守番の人だ」

「普段からサボりで城下に行ってるから仕事で行かせてもらえなくなった奴が不貞腐れてるな」

「自業自得」

「違いますー!お前らが城を空ける間のユーハバッハの護衛という重大任務を一身に担ってるだけですー!」

「今日も元気だな」

「はい、わんわん」

「こんなところにいないで早く陛下の元に向かえ」

「可愛い部下のお見送りくらいさせてぇ!?」

 

星十字騎士団の設立と志願者を募るため、親衛隊隊員を中心とした十数名ほどで城下の街々を回ることとなった。

 

何故わざわざ親衛隊を出すのかと問えば、生半可な練度の騎士を出して民から舐められては困るというヒューベルトからの進言故らしい。

銃後の民であろうと滅却師である以上、霊圧である程度の実力が測れるためある種当然の対応なのかもしれない。

 

そんな中、ジークフリードは当たり前のようにその任務から外された。

 

「……あのさ、ザイドリッツ。一応なんで俺がこの任務から外されたのか聞いていい?」

 

すでに馬に跨り準備を進めている他の面々と同様、馬に跨るザイドリッツへジークフリードは恐る恐る問いかける。

そうすればきっちりと団服を纏った彼は地に立つジークフリードを馬上から見下ろして唇を開いた。

 

「当然、陛下の護衛をお任せするためです」

「だよな、よかったあ」

「それはそれとして貴方が行くと城下の人間に常連がパンを買いに来たのだと勘違いされて任務の緊張感が無くなるからでもあります」

「ほら、普段からサボってパン屋さんに行ってるから」

「因果応報」

「エーン!」

 

身内から揶揄われてわざとらしく泣き真似をするジークフリードに、彼の人となりを知っている他の部下たちからも笑い声が上がる。アルゴラもまた苦笑しながら、ジークフリードの名を呼んだ。

 

「ジークフリード」

「おう」

「何も無いだろうが、陛下のことはお前に任せるぞ」

「そりゃあ当たり前だ。殺気ひとつだってあいつにゃ触れさせねえよ」

 

躊躇いの無い答えにアルゴラをはじめ、みなが満足げに笑みを浮かべた。彼がそう口にするのならば、それは絶対であり、何の問題も無いと信じられたからだ。

 

準備を終え、馬に乗って城下へ向かっていく部下たちを、ジークフリードは穏やかな瞳でに見つめる。

責任ある仕事を任された彼らの背中は自信と誇りに満ちており、見つめるジークフリードは感慨深さと安心感に心を満たした。

そして彼らの背中を見つめながらふと思う。

 

……もし帰ってきた時に俺とユーフェンがいなくなってたら、あいつらどんな顔すんのかな、と。

 

「ユーフェン今暇!?俺と遊ばねえ!?今から夕方くらいまで城の外で遊ぼうぜ!帰ってきたらザイドリッツにクソほど怒られると思うけどまあたまにはいいよな!」

 

思い立ったが吉日。

当たり前のように皇帝の執務室に窓から入ったジークフリードは元気良くそう言った。部屋の主たるユーハバッハは突然の侵入者をちらりと見ると真顔で返す。

 

「ならん」

「えー、なんでだよ」

「ザイドリッツのキレ方が尋常では無い」

「そりゃ予言の話か?」

「現実の話だ」

「…………マジ?」

「お前も樹木ならまだしも、井戸の中に吊るされたくはないだろう」

「……え?拷問?」

 

ジークフリードは固まったまま思案し、面白半分でやるにはリターンが痛すぎると思って首を横に振った。

仕方なく窓枠から降りて部屋の中に入るとソファの上に寝転がる。当たり前のように皇帝の執務室を仮眠室にしている部下に、しかし慣れ切っているユーハバッハは何も言わなかった。

 

「あーあ、ザイドリッツって俺らが遊びに行こうとすると怒るんだよな」

「何故かわからんか」

「仕事中だから」

「そうだ」

「仕方ねえ、今日は我慢してちゃんと城にいるようにするか。お前もちゃんと仕事しとけよ」

 

「お前が言うな」的なユーハバッハからのツッコミを期待としての発言だったが、不思議なことに返事が返ってこなかった。小ボケを無視をされるとそれはそれで悲しい。

ソファに寝転がったまま天井を見上げていたジークフリードは、体勢を変えて視線をユーハバッハへ向ける。

 

そうすればその目に紅い重瞳を浮かべたまま、どこかぼんやりと空を見つめるユーハバッハの姿があった。

あまり見かけない虚な彼の様子に、ジークフリードは起き上がると咄嗟に彼の名を呼んだ。

 

「ユーフェン」

「…………」

「ユーフェン、どうかしたか」

「…………ジーク」

「ああ、どうした」

「……事情が変わった。馬を用意しろ、城下へ向かう」

「え?いや、ザイドリッツに叱られるっつったのお前だぞ」

「その未来は無くなった」

「マジ?やりたい放題?」

「お前のあるがままに動くがいい」

「よっしゃ、叱られそうになったら今の発言を引き合いに出すからな」

 

ジークフリードは立ち上がると嬉々として部屋を飛び出し、馬小屋へ向かって駆け出した。

そして自身の白馬とユーハバッハの黒馬を連れてきたジークフリードは、迷いなく城下へ向かって馬を進ませるユーハバッハへ着いて城を出る。

突然の行動だったが、未来視で何かが見えたのだろう。これまでも似たような経験のあるジークフリードは慣れた様子でユーハバッハに問いかける。

 

「で?何があったんだ?」

「探し物が見つかった。それを拾いに行く」

「おお?そりゃあ良かったが、何か探してたのか?言えば手伝ったのによ」

「……そうだな、お前ならばとっくに見つけられていたのかもしれんな」

「え?」

 

何の話かと問うジークフリードの視線を躱して、ユーハバッハは続けた。

 

「ずっと探していた私の半身をようやく見つけた」

 

正しくはその姿自体は以前からその目に映ってはいた。その存在を感じてもいた。それでも今日この日今この瞬間でなくてはならなかった。

 

馬を行かせるユーハバッハの隣に並走しながらジークフリードはポカンとした顔で親友を見つめて呟いた。

 

「……ご結婚おめでとうございます……?」

「違う」

 

何を言っているんだお前は。

そんな目でジークフリードを見つめ返せば、彼は驚きに跳ねる左胸を掌で抑えたまま素っ頓狂な声を上げた。

 

「だよな!だよな!?びびった!言葉が足んねえんだよお前は!もう二度と比喩表現を使用するな!」

「己の思考の跳躍を私のせいにするな」

「だいたい半身ってなんだよ!初耳なんだけど!?」

「滅却師の未来のために必要な者だ。その者を連れ帰り、我が側近とする」

「側近!?ザイドリッツというものがありながら!?この浮気者がよォ!」

「ザイドリッツは私の補佐官であり参謀長だ。求める役割が異なる。それにお前も私の魂を持つ以上、その者を見れば私の言葉の意味を理解するだろう」

「見りゃわかるじゃなくて、口で説明しろっつってんの!」

「言葉を重ねられて納得できるお前ではあるまい」

「重ねてから言え!」

 

ジークフリードは肩を怒らせると「大体なあ……!」と強い語調でユーハバッハへ感情を向ける。

しかし、彼はそれ以上の言葉を紡がなかった。突然何かに気がついたかのようにばつの悪そうな顔をすると、今の発言を無かったことにしようと黙り込む。けれどユーハバッハはあえてそれに言及した。

 

「大体……なんだ」

「……なんでもねえよ」

「私に言いたいことがあるのだろう」

「いや、あの、なんかもう、何言うか忘れた。いいだろもう、この話終わり」

 

下手な嘘をついてまでこの話を切り上げようとするジークフリード。彼は押し黙ることで自身の中に生まれた感情を無かったことにしようとしていた。

……だって、言えるはずもない。

 

──俺はお前の半身じゃねえのかよ、なんて。

 

「ジーク」

「……おう」

 

唇を曲げて微かに俯き、押し黙るジークフリードを、ユーハバッハは流し目で見つめながら色素の薄い唇を開く。

 

「お前の中には私の魂がある」

「なんだよ、何回も。知ってるっつの」

「故に、私はお前の心など手に取るようにわかる。それは当然、今も、だ」

「は?……は!?」

 

カッと目を見開いてジークフリードはユーハバッハを見た。二度見した。

ユーハバッハの涼やかな横顔を見つめながら、手綱を握る手を震わせると羞恥に顔を真っ赤にさせながら「え?」と小さく声を漏らす。

 

心が手に取るようにわかる、なんて、つまりそれは……。

 

「あ、え、じゃあ、なに、さっき「俺はお前の半身じゃねえのかよ」って思っちゃったことも、全部お前にバレてた……ってこと……?」

 

子供のような悋気を抱いたことさえ、とっくにユーハバッハに知られていた。

そのことを知ったジークフリードは羞恥に今すぐにでも頭から落馬したくなった。或いはユーハバッハにも頭から落馬してもらって一緒に記憶を無くして欲しかった。

ジークフリードは友を見つめたまま、耳の淵まで赤く染めながら震える。そんな彼へ、ユーハバッハはそれまでと変わらない淡々とした声音で言った。

 

「なんだ、ジーク、お前はそのようなことを(・・・・・・・・)考え(・・)()()()()()

 

まるで今言語化されて初めて内心を知ったかの様なユーハバッハの返答に、ジークフリードの思考が再度固まる。

何を言われているのか、何が起きているのか分からず混乱して、気の抜けた声しか出せなくなる。

 

「………………は?え?なに、だって、今、お前、手に取るようにわかる……って……」

「そこまで完全に言語化された精密な感情まで把握できていたのなら、私とお前の間に言葉は不要だったろうな」

「……え?」

「酷い顔をしているな。好物を地に落としでもしたか?」

 

敢えて頓珍漢なことを口にすることで、相手の心などわからないということを示すユーハバッハに、ようやく理解に至ったジークフリードが喉を引き攣らせた。

 

「……はあ!?じゃあ嘘ついたってことか!?騙した!騙したッ!騙しやがったこいつ!嘘つき!嘘つき野郎!絶対ザイドリッツに言いつけてやるからな!」

「人聞きの悪いことを言うな。嘘などついていない。お前の心の機敏程度、ある程度は手に取るようにわかる」

「ある程度ってなに!?」

「犬の尾程度だ」

「結構ざっくりじゃねえかよ!ほんとに手に取れてんのかそれ!」

「主観では取れている」

「多分それ客観では取れてねえよ!」

 

散々ツッコミ喚いた挙句ジークフリードは倒れ込む様に馬の鬣に顔を押し付けると呻き声を上げる。

友人に対して子供のような悋気を抱いただけではなく、それを騙し討ちで告白させられたダメージは大きかった。

 

「……楽しいか?俺がこんなになってんのを見てよ……」

「言葉を選ばずに言うのなら、週に21回のペースで見たいくらいには愉しい」

「朝昼晩の食事感覚かよ……舐めやがって……」

「舐めてはいない」

「主観じゃ舐められてるんだよ……」

「さて……それで、私にとってお前は半身ではないのか……だったか?」

「やめろやコラ」

 

羞恥を強がりで隠したまま睨みつけてくるジークフリードにユーハバッハは口角を緩める。

 

奪うことなき魂の半身。忠実な騎士。比翼連理。

あの日ソドムから連れ出してくれた奇跡であり、あり得ざるはずだった我が運命。私を不完全なまま完全とした者。臆すことなくこの手を取った私の英雄。

彼という存在を表す方法はいくらでもあり、それは半身などという言葉で足りるものではない。

 

「言っただろう、ジーク、お前はあるがままで良いのだ、と」

 

側から見れば温度のないユーハバッハの声音もジークフリードには揶揄いの感情が混ざっているように聞こえる。

その言葉にジークフリードは手慰めのように馬の耳を指の先で撫でながら、大してそうでもないくせに不機嫌そうな顔を作ってみせた。

 

「……なに、お前今日テンション高いね、良いことでもあったか?その半身とやらに会うのがそんなに楽しみか?」

「ふ、また悋気か。尾が止まっているぞ」

「やかましいな、マジでよ」

 

続く街並み、閑静な道を進んでいく途中で、屋敷の向こうから馬の嘶きが聞こえた。

どこかトラブルを感じさせるようなその声に、愛馬に突っ伏していたジークフリードは素早く顔を上げる。

 

「お、ヒューベルトの馬の声だ。珍しい、普段は大人しい奴なんだけどな」

「…………」

 

ユーハバッハからの「お前、嘶きひとつでヒューベルトの馬だと判別できるのか……」という若干引いた表情をスルーして、ジークフリードは手綱を操り直しながら言った。

 

「急ごうぜ、トラブルかもしんねえし」

「ああ」

「ヒューベルトのやつ、結構短気だからなあ。ニキータもだし、ザイドリッツも案外気ぃ短けえんだよな」

「……人のことを言える性格か?」

「俺の気は長えだろうが。200年もお前に付き合ってんだぞ」

「……お前はともかく、気の長い者ならアルゴラがいるだろう」

「でも、あいつ他の連中を止められるタイプでもねえからな……。となると、面倒になりそうだな」

 

トラブルの内容によっては剣が抜かれかねない。或いは銃弾か。どちらにせよ望ましい話ではない。

 

ましてこの辺りは場所が悪い。

ここら一帯は今でこそ光の帝国の領土だが、三年前まではブラック家の領地だった場所だ。

光の帝国にとってはともかく、ブラック家は領主としては決して悪い為政を行なっていたわけではなかった。彼らに好意的だった領民も少なくはないだろう。

まして、光の帝国とブラック家の間にどのような確執や諍いがあったのかを知っている者などそういない。

当時領民だった者の中には、ユーハバッハが理由もなくブラック家を滅ぼしたように見えている者もいるだろう。

 

つまるところ、これは恐らく多くの民に悪印象を抱かれているだろうユーハバッハの凱旋となる。

そこでのトラブルなど、面倒の予感しかしない。ジークフリードは苦々しい顔をした。

 

「……油は注ぐなよ」

「ふ……」

「おい、返事はどうしたよ、返事は」

 

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