運営より「検索妨害」と判定され、ボーイズラブタグを設定されました。アンケートに答えてもらったばっかなのにすまぬ……。
本件、詳細は活動報告に記載しております。
これによりアカBAN対策のため、今後はボーイズラブタグが付くこととなりますが、作中で同性間の恋愛感情および恋愛関係の描写は出てきませんのでご安心ください。
引き続きよろしくお願いいたします。
最初に見たのは、一触即発の景色。
年若い少年とヒューベルトがあとほんの少しでお互いに攻撃を交わす、というその瞬間。
次に見たのはあたり一帯が強大な──それでいて、酷く加減された──霊圧によって制圧された景色。
数多の人間が跪く中、馬上にいる影のような男。
そして男の前で唯一、真っ直ぐに立つ細身の少年。
柔らかな金糸は緩やかに畝り、柳眉は不安げに寄せられながらもその蒼い瞳は確かに目の前の男を真っ直ぐに見つめていた。
その姿を見た瞬間、ユーハバッハの言葉に偽りはなかったのだとジークフリードは頭ではなく心で理解する。
自分の胸の奥底で何かがストンと落ちる感覚。
正確に言えば、自分が何を理解したのかさえ理解していない。無意識に思い浮かんだのは綺麗な伽藍堂のガラスの器。それから、ただ漠然と思った。
ああ、あの子なんだな、と。
集まる視線に居心地悪そうに身を小さくする少年の姿に、ジークフリードは深く被った軍帽の下で瞼の端に瞬くものを感じた。
視線を切るように彼は瞼を閉じ、一度俯く。それからすぐに顔を上げると、アルゴラのそばに馬を寄せて話しかけた。
「よっ」
「ジークフリード……」
「何があった?」
「あの赤毛の子供の挑発をヒューベルトが買ったところで陛下が来られた」
「へえ、子供に構ってやってたのか。ヒューベルトは将来いい父親になるな」
「この状況でその感想を言えるのはお前だけだ……。それより何故ここに?」
「陛下のご意志だ」
ジークフリードはそう返すと、持っていた手綱をアルゴラの手元へ放って任せると馬から降りた。
状況がどうであれ、今のジークフリードの役目は皇帝陛下の護衛だ。馬に乗ったままではその役目を完璧にはこなせない。
「私はお前の名を知っている、ユーグラム・ハッシュヴァルト。我が半身よ」
「……え……?」
未来で視ていたのだろう、当然の如く少年の名を口にするユーハバッハからやや離れた位置にジークフリードは立つ。
万が一ユーハバッハに凶刃が向けられても護れるように。例えそれが遠距離からの狙撃であろうとも、複数人からの襲撃であろうとも。
彼を側近として迎え入れることを口にしたユーハバッハと、それに戸惑う少年。
そのやりとりを認識し、音として耳に入れながらもジークフリードはそこにさしたる関心を抱かなかった。ユーハバッハがそうすると口にしたのならばそうなるのだろうと思っているからだ。
ジークフリードは自身の霊圧感知の間合いを広げながら周囲へ視線を巡らせる。
護衛するという時に、護るべき人を見つめる者は愚かだ。
真に見なければならないのは護るべき人へ危害を加えようとする者。
ユーハバッハとハッシュヴァルトへ視線が集まる中、それ故にジークフリードは彼らへ視線を向けず、微かな異変さえ見逃さぬように周囲への警戒を続けていた。いつでも戦闘態勢に移れるよう、余分な力を抜いたまま、息を潜め、周囲の意識の外側に立つ。
そんなジークフリードのほうへ、ユーハバッハは一度だけ意識を向けた。
普段の豊かな表情はどこにもなく、ただ氷像のような顔つきで周囲の霊圧を探るその姿に、己は護られているのだと改めて認識する。この場において己の障碍になるものは何一つないと心から信じられた。
それ故にユーハバッハは衆目を集めることにさえ関心を抱かず、無防備に馬を降りる。そして、ハッシュヴァルトへ変わらない淡々とした声音で語りかけた。
「お前は私と同じ分け与える力を持つ滅却師だ」
驚きに大きく見開かれる少年の蒼い瞳を、ユーハバッハは静かに見つめ返した。
弓も矢も作れないと己を卑下するハッシュヴァルトへ、ユーハバッハはそれは当然のことだ、と受け入れるように伝える。
ユーハバッハは視ていた。
それ故に知っていた。
目の前の子供がどれだけ凄惨な幼少期を過ごしてきたのかを。
そして運命と出会った自分とは異なり、誰もその地獄から助け出してくれなかったということさえも。
そしてそれは自分も同様だ。自分ならばこの子供をもっと早くに救い出すことはできた。
或いはきっと、この未来を視る眼を自分ではなくジークフリードが持っていたのならば、もっと早くにハッシュヴァルトを助けに行っていたに違いないと確信する。
けれど、ユーハバッハはジークフリードではない。益の無い善性に価値を抱けるほど己が善良では無いと知っている。そんなものでは意味が無いと知っているから、その手段は選ばなかった。
それでもユーハバッハは知っている。
暗く深い絶望を知るからこそ、差し出された掌に希望の輝きを見るのだ、と。
生半可な絶望では光に目を灼かれることなどない。堕ちて堕ちて堕ちて、自己嫌悪と自己否定の果て、失意の泥濘の中で昏く沈んだ瞳でなければ、救いに価値など無い。
その最果てでようやく救済は価値を抱く。
お前は孤独では無い。
お前を必要とする者がいる。
お前は特別な存在なのだ。
そんなささやかな言葉がかけがえのないものとなる。
この掌の中に光を得ることができる。
──かつての自分自身のように。
故にユーハバッハは言葉を紡ぐ。かつて与えられた真っ直ぐな優しさとはまるで異なる懐柔の言葉を。その奥深くにあるごく小さなシンパシーには気が付かないふりをしながら。
手を差し伸べることはしなかった。
今のまだ揺らぎの中にあるハッシュヴァルトはきっとこの手を取れないとわかっていたから。
故にこそ、いつか彼がこの身に名付けた愛称と共にそうしてくれたことを思い出しながら、ユーハバッハは小さなハッシュヴァルトの頭にそっと手を置き、撫でる。柔らかな髪の感触に想起されるいつかの記憶。
そうしてその子供の名を呼んだ。
「行くぞ、ハッシュヴァルト」
その手段を知らないかのように抵抗の無い子供の体。
その痛ましさの意味を知りながら、言葉を紡ぐ。
「──私にはお前が必要だ」
瞬間、ハッシュヴァルトの瞳に光が灯る。
地の底に堕ちていた自尊心を掬い上げられるような感覚。
突如運命のように現れたその人は、力の無い自分を、弱い自分を、そのまま受け入れて必要としてくれた。
その事実に幼いハッシュヴァルトの心はただ当たり前のように傾く。はなから曖昧だった復讐心は霧散し、抑圧された日常に帰るための橋が崩れ落ちる。
ユーハバッハは必要としていたし、ハッシュヴァルトは必要とされたかった。故に、それでよかった。
……世界がこの二人だけだったのならば、だが。
世界が一変したのはハッシュヴァルトだけではなく、バザード・ブラックにとってもそうだった。
彼は地に這いつくばったまま、交わされる言葉を、語られる言葉を前に目を見開いたまま耳に入れる。
自身の中に驕りがあったことは否定しない。
ハッシュヴァルトのことを対等な存在ではなく、自分が守り、庇護しなくてはならない存在だと内心で感じていたことは事実である。けれど、彼の出生と性格故にその思考に至ることは決しておかしなものではなかった。
自分の方が強い。自分の方がすごい。幼なげで下らない、それでいて子供らしいごく当たり前の感情。
しかし、それは今日この日を持って容易く打ち砕かれる。
自分こそが選ばれると疑うこともなく信じていたユーハバッハの側近という立場。
けれど、現実として選ばれたのはバザードではなく、ハッシュヴァルトだった。
どうしてお前が特別な力を持っているのか。
どうして選ばれたのが自分ではないのか。
どうして弱く、才能の無いお前なのか。
目の前に現れる事実にバザードは驚愕し、そして同時に強く怒りと嫉妬心を抱く。必死に保とうとする自尊心は現実を前に音を立ててひび割れていく。
そして、決定的だったのはユーハバッハの言葉だった。
「自分の力だと思っていたか?」
「この者に感謝せよ」
「無力なお前を、天才に仕立て上げてくれた男にな」
普通の大人が見たのならばささやかで微笑ましくさえ思える様な子供らしい驕りと自尊心は、ユーハバッハの悪意によって容易く踏み潰される。
お前に才など無い。特別なのはハッシュヴァルトであって、お前は埋没する有象無象に過ぎないのだ、と。
……無力?この俺が?そんなわけがない。そんなはずがない。
俺がいなければ困っていたのはユーゴーのほうで、弱くて無力なのはユーゴーのほうで、俺が強くなったのは自分の努力と才能のためで、だからユーゴーじゃない。お前じゃない。お前じゃない!……お前のおかげなんかじゃないのに!
現実が、目の前で交わされる会話が、己の持つ知識が、肌で感じる感覚が、バザードを今度こそ追い詰めていく。
それでも爆発する感情を友たるハッシュヴァルトへ向けなかったのは彼の理性であり、僅かに残った冷静さであり、築き上げてきた友への情だろう。
それ故に、激情は敵と看做したユーハバッハへ躊躇いなく向けられる。
それが彼にとっての最大の悪手だと知る由もなく。
湧き上がる怒りのまま、自身を押さえつける強大な霊圧を跳ね除け、バザードは気力だけで立ち上がる。そして彼は霊子兵装でボーガンを構築して、その矢をユーハバッハへ向けようとした。
憎悪に満ちた瞳が歪み、滲ませた敵意が殺意に変わり、叫び上げる、その、直前。
──バザードの身体が吹き飛ばされる。
自身の顎の肉と骨が砕ける音をバザードは聞かなかった。
音よりも痛みよりも先に意識を刈り取られたから。
まだ成長途中の細身の身体は躊躇いの無い暴力によって宙に跳ね上げられ、そのまま誰に受け止められることもなく地に叩きつけられる。
抉れた骨と肉、凄惨な顔の傷を晒したまま、仰向けのままピクリとも動かなくなった少年に逃げる意思など持てはしない。だが、万が一にでも逃すまいとその四肢に躊躇いなく矢が突き刺さった。それは或いは標本にされた昆虫かのように。
ほんの一拍のうちに起こった事象に、周囲の民は言葉どころか吐息を吐くことさえ憚れた。
何が起こったのか、理解までにかかる時間は久遠の如く。やがて辿り着いたその久遠の果てで恐怖に身を硬直させるばかり。
嗚呼。あの男だ。あの氷の眼をした懐刀が、元領主の子を容赦無く制圧したのだ、と。
息を飲み、ただ重い沈黙と恐怖だけがその場を支配する。
その静寂を破る声はただどこまでも冷たく鋭い。
「この者から陛下への敵意を感知いたしました」
蹴り一つで子供の顎を砕いたジークフリードは、バザードのそばに立っては淡々とそう言った。
意識を奪ったのは彼なりの配慮である。死に際の人の悲鳴とは悍ましいものであり、銃後の民や君主に聞かせるものでは無いと知っているからだ。
赤毛を白帽の中に隠し、感情の無い目でその子供を見下ろしながら、ジークフリードはバザードの胴に足を置き、鳩尾の奥、柔い臓器へ体重をかけるように強く押さえつけた。
彼の手の中に構築された弓、それに番う矢は強く引き絞られ、その先端は迷いなくバザードの頭蓋を指している。
「陛下、射殺の許可を」
温度の無い声が淡々と子どもを殺す許可を求めるのを周囲の人間は遮ることもできずに聞いていた。
張り詰めた空気、恐怖を感じながらも逃げ出すことさえできない人々の視線の中でジークフリードは君主の言葉を待つ。己の任務は皇帝の護衛であり、主君へ仇なす者を排除することなのだから。
しんと静まり返る世界。
けれど、待てど返ることのない言葉と胸の奥に覚えた違和感に彼は顔を上げた。
顔を上げた先、彼の視線の先にはユーハバッハがいる。
側から見れば常と変わりのない感情の無い顔に見えただろうが、ジークフリードにはその中にある微かな感情を察する。
指し示すようなそれにつられるようにして、彼の視線はユーハバッハから、彼のそばに立つ小さな少年に向けられた。
少年は、ハッシュヴァルトは目の前の光景に眼を見開いたまま震えていた。
ユーハバッハに心が傾こうとも、それはハッシュヴァルトにとってのバザードの存在が意味を無くすことにはならない。
例え微かな感情の行き違いによって生まれた不和が二人の間に横たわろうとも、かつて自己の肯定さえままならなかったハッシュヴァルトの心がバザードと出会って救われた事実に変わりはないのだから。
ユーハバッハの独白の通り、バザードはハッシュヴァルトを物理的に救い出す存在ではなかっただろう。けれど、この残酷な世界でそれでもハッシュヴァルトが生きて、立ち続けていられたのは友という支えが、バザードという杖があったからだ。
その彼が、今、自分の目の前で虫を潰すかのように殺害されようとしている。
薄く開いた唇の奥でガチガチと音を立てる歯列。身体から血の気が引いたように体温は下がり、とうに指先の感覚など無い。
今、目の前で何が起こったのか、どうしてこんなことになっているのか、ハッシュヴァルトはその全てを理解できてはいない。
それでもこのままでは自分の友がジークフリードによって殺されてしまうということだけは理解していた。
引き攣る喉、震える四肢、右腕で自身の体を守るように抱きしめ、左手で縋るように無意識にユーハバッハのマントの端を掴みながら、ハッシュヴァルトは必死に声を上げた。
「……っ、こ、ころさ、ないで……っ……!」
この場が静寂に包まれていなければ、その掠れた声は誰にも届かなかっただろう。大きな蒼い瞳に涙を溜め、震える脚で、それでも振り絞るように懇願する。
「ご、めん……なさい………おねがいします……殺さないで、殺さないでください………」
ひっ、ひっ、と泣き噦る寸前のように喉を引き攣らせながらハッシュヴァルトはジークフリードを見つめる。
ピタリと合った感情の無い碧い瞳に怯え、これまでに感じたことのない恐怖に心が折れそうになりながらも言葉を紡ぐ。
「……と、友達、なんです…………ぼくらは……」
瞬きをひとつ、その途端ハッシュヴァルトの目から涙が溢れた。彼の瞳の色を滲ませた落涙が頬を濡らす。
その涙に、その言葉に、ジークフリードの瞳が一度だけ揺らいだ。
命令を待って停止したまま、張り詰めた弓のストリングスが震える。
軍人として、騎士としてあるべき己という鎧を構築しながら、その奥にある普段の穏やかな彼の心は幼子の涙を前に普遍的に罪悪感を抱く。
いつかの青年期、あのソドムの屋敷で免罪符を得たまま激情に流されて殺人を犯せたのは、あの頃の自分がまだ子供だったからだ。
今は違う。殺していいのか、殺す理由が、価値が、必要性があるのか、判断しなくてはならない。押さえつけた鎧の中で「子供を泣かせてまで人を殺したくない」と喚く声を殺して、ジークフリードは咄嗟にユーハバッハを見る。
殺せ、と言われたのならそうする。
心よりも先に身体が動くから。
けれど、命令が無ければどうすることが正しいのかがわからない。だから教えて欲しい。殺すべきか、殺さざるべきか。これはお前のためになることなのか?これは必要なことなのか?俺はどうしたらいい?何がお前のためになる?お前を理由にするしか人を殺せない俺を許して欲しい。どうしたらいい?何が正しい?何が間違っている?答えを出せない。答えを知らない。教えてくれ。お前の半身を、あの子を泣かせてしまった。だがこの子供はブラック家の人間だ。あの夜に殺し損ねた最後の一人。生かす理由がない。きっといつかお前に矢を向ける。でもまだ子供だ。あの子は友達だって言ってる。俺たちと同じ、友達なんだって。それがなんだ。お前に敵意を向けた。今すぐ殺すべきだ。本当に?どうして。わからない。どうしよう。どうしたらいい。教えて、ユーフェン。
縋る色を見せたジークフリードの瞳を見つめ返すユーハバッハは、内心に湧き上がる己の感情を観測しては、懐かしい感覚を思い出す。
感傷に浸ることはできたが、今この現状に変化を与えられるのは自分しかいないこともまたわかっていた。それ故に、彼の名を呼ぶ。
「……ジークフリード・ジンツァー」
その声に諌める色が含まれていることに気がつけない者はいなかった。
その声に名を呼ばれた瞬間、ジークフリードはほとんど反射的に霊子兵装を解除し、その場に片膝をついて跪く。
バザードの四肢に突き刺さっていた矢は消え、代わりにジークフリードの手で治癒術がかけられる。
「申し訳ございません、陛下。勝手な判断をいたしました。どのような処罰も受け入れます」
「お前との話は城に戻ってからだ」
「はっ」
背を向けるユーハバッハに
助かった、と思った。
助けてくれた、と認識した。
殺さずにすんだ、と安堵した。
額に張り付いていた玉のような汗が地に落ちるのを目で追った時、近づいてくる気配に顔を上げる。
「ジークフリード殿、代わります」
「ザイドリッツ」
子供にかけていた治癒術のことだろうと察して、ジークフリードは頷く。こういった繊細な術式は自分よりもザイドリッツの方が適任だと知っている。
それからジークフリードは視線をヒューベルトへ向けた。バチリとあった視線に、一瞬怯んだのはヒューベルトの方だった。ジークフリードはそれを気にせず口を開く。
「ヒューベルト、馬車を2台用意してくれ。この子供を軍医に診せる」
「……その必要がどこにある。どうであれ敬意の足りぬ、ましてや陛下に仇なそうとした猿だ。お前は陛下の命令通り殺さなかった。それで充分だろう」
思うところは数多にあるのだろう、グッと寄せられた眉間にある感情を察しながらもジークフリードは言葉を続ける。
「だが、陛下の御心に背いてしまった」
「……!」
「陛下にこの子供を害する意思はなかった。その意に背いてしまった以上、私はこの子を元の通りにしなくてはならない」
ただ冷静に淡々と語るジークフリードにヒューベルトへの表情が歪む。この青年が自分のために心を乱していると知っているからこそ、ジークフリードはその眉を彼の前だけで下げた。
「……お願いだ、ヒューベルト」
ヒューベルトは苦々しい顔を隠さないまま、鋭く舌を打つ。それからジークフリードへ背を向けて、吐き捨てるように言った。
「お前は私の上官だろう。……命令だと言え」
そう返して馬へ戻るヒューベルトにジークフリードは微かに肩の力を抜く。
それから表情を騎士らしいものへ戻して立ち上がると、状況を見守り続けていたアルゴラとニキータの元へ歩みを進めた。
預けていた手綱がアルゴラから投げ渡される。それを受け取りながら、二人へ向かって軽く声を張る。
「お前たちは部下を連れてこれまで通り任務を続行しろ」
「ララウ、了解」
「デスロック、了解」
素直な返事の割にこちらを伺うような視線を向けられて、ジークフリードは内心で苦笑する。襟を正す様につばを摘んで白帽の位置を直しながら「私は陛下と側近殿の警護に戻る」と返した。
それから手綱を引いて自身の馬を寄せると、ジークフリードはその頬を撫でてやる。そうすればむずがる様に不機嫌に首を振られて、ジークフリードは溜息に似た息を吐く。
「放っといて悪かったよ」
ユーハバッハとその傍に立つハッシュヴァルトの背を見つめながら、愛馬の機嫌を取る様に撫でる。
「……悪かったって」
誰に言うでもなく、そう呟いた。