「トレーナー君、ハッピーバレンタイン」
「ありがとうルドルフ、とっても嬉しいよ」
生徒会室、執務が一段落した所で私はトレーナー君にケーキの箱を渡していた。
2月14日、今日は甘さ香るバレンタイン。世間では想い人や大切な方へチョコレートを渡す日となっているが、私も例に漏れなかった。
「今食べても平気? 」
「あぁ、構わない。紅茶を淹れるから、君はソファで寛いでてくれ」
「いいのか? 」
「今日は私がもてなしたい」
「なら任せる」
私は予め沸かしていた電気ケトルからお湯を注ぎ入れ、箱からミルフィーユを皿へと盛り付けた。そのまま私はトレーナー君の対面のソファに腰を下ろした。
「チョコレートを使った生地とクリームのミルフィーユだ、以前食べた時とても美味しくてね。君にも食べて欲しかったんだ」
「ありがとう、それじゃあいただきます」
トレーナー君はナイフとフォークでミルフィーユを1口サイズに切り、口へ運ぶと目を一瞬広げた後直ぐに細め、頬を緩ませる。
「……本当に美味しいね、ミルフィーユって普段食べないんだけど、今度から買ってみようかな」
「口にあったようで何よりだよ、所で……トレーナー君は、バレンタインにおけるミルフィーユの意味を知っているかな? 」
「意味? それって、クッキーを渡したら友達と思われてる……みたいなやつ? 」
「その通り、そしてミルフィーユの意味は──」
〝貴方への想いは幾重にも積み重なっています。〟
そう聞いたトレーナー君は少しびっくりした後、誰が見てもふにゃふにゃとしたにやけ顔になり下を向く。
「ルドルフ、それは……ちょっとずるくないかな? 」
「何がだい? 私は普通にバレンタインチョコを渡しただけだよ」
「このっやりきったみたいな顔しといていけしゃあしゃあと」
「ふふっすまない、想定よりも一段と可愛らしい反応をしてくれたものだからな」
トレーナー君はジト目でこちらを見ながら、ミルフィーユを1口入れふにゃりと笑い、またジト目に戻る。そんなおかしく愛おしい彼を見て、こちらも口角が思わず上がってしまう。
「ご馳走様、とっても美味しかったよ」
「喜んで貰えて嬉しいよ」
「俺は急にからかわれたからまだドキドキしてるよ、キミは自分の魅力をもう少し自覚してくれ。心臓がもたない」
けど、どうせならジト目ではなくもっと可愛い顔が見たい。そう思い私は立ち上がり、おもむろに彼の隣で体を預ける。
「自覚してるよ、とってもね」
「る、ルドルフ? 」
「私が君の事をとても想っている……それと同じ位、君も私の事を想っていてくれている事もね」
私が顎を彼の肩に乗せると、そっぽを向かれてしまったので右腕を彼の首に回しつつ、左手を彼の顎に添えこちらに向けさせる。
「あっあのルドルフさん」
「さん付けなんて他人行儀な、ルナって呼んで欲しいな。なんだい、トレーナー君」
「こういったオラオラ系のアプローチは、貴方のご友人の専売特許かと思ってたのですが」
「私も人の心を無理やり向かせようとは思ってないさ、ただ……」
顔を向けさせても未だに交わない目線、少しだけ腕に水気を感じさせる首元、りんごのように赤い耳たぶ。
「君が私に首ったけであるのなら、こういった事も吝かでは無いと思ってね」
「……惚れた弱みとはいえ、こういう時のルナはいじわるだ」
「まだ私も未熟な子供ということだな、受け止めてくれると嬉しいよ、トレーナー君」
「答え分かってて、言わなくても良いお願いする所が本当にいじわるだ」
トレーナー君は私の方へと体を向き直すと、私の手を引きそのまま2人一緒にソファへ倒れ込む。
「受け止めるよ、全部」
「ありがとう、愛してる」
「俺もだ、ルナ」
あぁ、本当に彼は愛おしい。今日も幸せを積み重ねる事が出来た。