ありがたいことに、私が観測出来た範囲だとデイリー11位にまで浮上したようで、改めてダンまちの力を目の当たりにしました。嬉しい限りです。
なんとか月一回は更新出来るように頑張ります。今回はギリギリセーフということで……。
オラリオからほど近い荒野には、黒竜と共に現れた暗雲が立ち込めていた。まさしく世界の終焉がそこにはあった。ただ、それだけではない。凄まじい重圧を放つ黒竜に相対する戦士たちが居た。決戦が始まり数瞬、黒竜の重圧に耐えきれず気をやる者や、恐慌状態に陥る者、彼らを守り、血を噴き上げて倒れる者も居た。それでも、彼らは希望を捨てることだけはしなかった。
開戦と同時に戦場には鐘の音が響き、風が吹き荒れていた。此処に集う者の中には、この音を聞いたことが有る者も居た。この風を感じたことが有る者も居た。それは、何処までも気高く、雄々しい鐘の音だ。只管に力強く、優しい風だ。死屍累々の様相を呈している冒険者たちは、この鐘の音を、大鐘楼の鐘の音を聞いて、立ち上がる。風に吹かれて前を向く。震える膝を堪えながら、その手に己の武器を執る。
彼らは現状を正しく理解していた。迷宮に挑み続け、幾度も困難を超えて、自身を昇華させてきたオラリオの冒険者を、容易く打ちのめした黒竜の脅威も。鳴り響く鐘の音と、吹いている風が、その脅威を打倒し得るということも。
そして、このままでは、そのか細い希望が容易く途切れてしまうということも、彼らの理解していた。故に、歴戦の冒険者は、自分が為すべきことを為すために、立ち上がった。
「守れえぇぇぇ!!」
「二人を、あの二人を守れ!!」
「少しでも黒竜を引き付けろ!」
「時間を稼げ!!」
此処に集うは、誇り高き冒険者。ヘスティア、ロキ、フレイヤを始めとしたオラリオの神々の眷属。これまで世界を守ってきた学区の教師や生徒。
文字通り、下界の有する最高戦力達。これまでであれば、考えられない光景だった。全ての勢力が手を取り合い、一つの終焉に抗っていた。
それを為した一端に、彼の少年がいたのは間違いが無かった。無論、全ての勢力を彼が結びつけた訳ではない。これまで、彼と関りを持たなかった者も居た。それでも、
あまりにも恐ろしい終焉。
ある者は怒った。こんな音に支えられている自分に怒った。その怒りのままに
ある者は歓喜した。鳴り響く鐘の音の正体を正しく理解し歓喜した。壮絶な笑みを浮かべて放った残光は、丘を断ち、城を斬るに留まらず、竜に届いた。
ある者は歌った。指揮を同胞と妖精に任せて歌った。その果てに何時かの蹄跡を越えた勇者の一槍は、竜の鱗を貫き、打ち砕いた。
ある者は猛った。雷光を冠する猛牛は己が好敵手の存在を本能で察していた。自身の
ある者は、ある者は、ある者は。魔法を放ち、剣を振り下ろし、槍を投擲する。ここに居る戦士は、皆すべからく尋常ならざる力を持っている。かつての英雄にも並ぶであろう戦士たち。それでも届かない。自身の手でこの竜を討ち滅ぼすことが出来ないという確信がある。これでは足りない。自分では足りない
だから何だ。知ったことか。俺は私は僕は、負けない。
だってほら、鐘の音が聞こえる。これは勇気の音だ。これは英雄の音だ。彼の音だ。
冒険者になって僅か一年。この世界の誰よりも速く英雄の階段を駆け上った下界の神秘。あの少年にすべてを託すなど御免だ。彼らには自負がある。自分たちは強い。自分たちがあの二人を守らないといけない。自分たちしか
自分たちの中心に居るのはあの少年だ。無茶苦茶で、お人好しで、訳が分からないくらい面倒ごとに巻き込まれる。そうして、気づけば誰かを救っている、そんな最新の英雄。
そんな少年が動かずにただ待っている。自分が切り札だと、ここで動いては全てが無駄になると理解して待っている。本当は、今すぐにでも駆けだしたいはずだ。彼の目の前で彼を守るために見知った者たちが切り裂かれ、吹き飛ばされ、ぐしゃぐしゃにされている。目の前の惨劇をただ我慢するしかできない苦痛を少年は、必死になって耐えている。そんな彼を守ることすら出来なければ、それはいったいどれだけの屈辱だろうか。
無論、全員が立ったままでは居られない。次々に地に倒れ伏していく。泥と鮮血に塗れ、それでもなお眼前の災厄に立ち向かおうとした戦士が、次の瞬間には四肢をもがれ意識を失っていく。
地獄があった。戦士たちは地獄に居ながら、響き続ける鐘の音と、吹き荒れる風を背にして戦い続けた。
六分後。周囲に立っているものは既に数える程しかいない。それでも、彼らは守り抜いた。彼らの希望が、ここに立っている。空へ飛び立った黒竜との距離は幾らだろうか。少なくと剣が届く距離ではなかった。
ただ、彼にとって
ナイフを握る少年の手に重ねられた少女の手。偶然から始まった出会いは、巡り巡って此処に二人を導いた。あの出会いはきっと間違いじゃなかった。二人はふとそんなことを思った。そして、互いに顔を見合わせ、軽く頷く。中段に構えていた炎雷と風で拡張され大剣と化した短刀を振り上げ、叫んだ。
「「
瞬間。世界は輝きに満ちた。音すらも消えた世界で、感じるのは熱と風。一体どれだけの時が経ったのか。倒れ伏していた戦士たちが目を開けると、そこには空が広がっていた。黒竜と共に現れた暗雲の影もない快晴。先程まで感じていた身の毛もよだつような気配は微塵も感じなかった。そして
英雄の一撃が放たれた先に、黒竜は
一瞬の静寂の後、
「……やっ、た」
誰かが呟いた。これを皮切りに戦場には戦士たちの雄叫びが鳴り響いた。
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ───────ッッ!?!?』
種族や派閥を問わず、彼らは共に勝利を叫んだ。中には死にかけている者も居たが、構わず叫んだ。叫んで血を吐いてヒーラに怒鳴られていたが、そのヒーラーすらも抑えきれない笑みを浮かべている。
何もかもが上手くいった訳ではない。失ったものもあっただろう。それでも、彼らは叫んだ。遂に果たされた
そんな新たに誕生した英雄はというと、体力と魔力を使い果たして気絶していた。何だか締まらないけれど、それも君らしいね、とこちらも諸々の限界故のアイズが消え入りそうな声を出しながら、頭を抱きしめて横になった。その口元は確かに笑っていた。
◇◇◇
あれからしばらく経って、彼らも落ち着きを取り戻していた。怪我人には治療を与え(怪我をしていない者など一人も居なかったが)、野営用の
『眼晶』を通じて黒竜討伐の知らせは、既にオラリオに届けていた。余裕のある者は、オラリオやそれぞれの国に帰っていったが、大半の者は
そんな中、一つの
「さて、これからどうしたものかな」
「どうもこうもあるまいフィンよ、こんな所に置いておく訳にもいかんだろう」
「それはそうなんだけどね、じゃあどうするのかと言うと難しいのが現状だ」
そういってため息を吐くフィンから視線を外したガレスは、苦笑を浮かべる。
「うーむ、そうは言うがなフィン。今後どうするにせよ、この
それに、と続けながらガレスは、先程から無言を貫くリヴェリアを見やる。
「このままだと、このお転婆が何をしでかすか分からんぞ」
ガハハハッと楽しそうに笑うガレスに、半ば呆れた視線を向けてリヴェリアも漸く口を開いた。
「心外だぞガレス。私を何だと思っている」
「愛娘の初恋に感極まっている母親以外に何があるというのだ」
「なっ、何を言っている!?フィン、お前も黙っていないで何か言え!」
「うーん、リヴェリア、それは無理だよ。何せ今の君は紛れもなく娘の恋路に気をもんでいる母親そのものだ」
思いもしなかった挟撃を受けたリヴェリアは、まったく、と文句を漏らしながらも笑みを浮かべて、傍に眠るアイズの頭を優しく撫でた。
「まあ、そうかもしれんな。まさかこの
「ここ一年でこの
そういったフィンは、アイズに抱きしめられたまま眠っているベルを見ながらリヴェリアのものに似た笑みを浮かべる。
「母親としてはどうなんじゃ、リヴェリア。アイズの相手としてベル・クラネルは相応しいと思うのか?」
浮かべていた苦笑から一変、揶揄うようにガレスはリヴェリアに問いかける。
「ふん。そもそも、私はアイズが決めた相手なら文句を言うつもりなど無い。以前も言った気がするが、最低限の品性と高い人格。加えてアイズと同等の実力があればそれで構わない。ベル・クラネルなら問題あるまい」
「いやそれ、彼は大丈夫だけど相当だよ、リヴェリア」
「本気で大したことでないと思っとるなら、その認識はどうにかせんと不味いくないかの……」
「何か言ったか」
「「いや、何も」」
血生臭い方向に突き進んでいた愛娘の、突如訪れた初恋に浮かれている
「まぁ、そうだね。現状維持という訳には行かないのは確かだ」
脱線していた話を戻すべく口を開いたフィンに、リヴェリアが続いた。
「しかし、すぐさまオラリオに帰還することも難しいだろうな。何せ黒竜を打倒したのはこの二人だ。オラリオに帰ったら静養することは不可能に近い」
「それが問題だね。此処に居る訳にはいかないけど、かと言ってオラリオに戻る訳にもいかない。となれば、」
「どこか別の街か村でほとぼりが収まるまで隠れる、じゃな」
正解。そう言ったフィンは、立ち上がって外へ向かって歩き出す。
「どこに行く、フィン」
「フェルズに会いに行ってくる。彼ならオラリオ外にも隠れ家を持っているかもしれない」
「成程。それなら、もし隠れ家を選べるようならオラリオの近く、そうだな、
「ほう、その心は?」
「あそこならオラリオに帰った後でも通いやすいだろう。正直、この状態の二人をそのままにはできん」
「……何処までも母親じゃのう、お主」
キッと睨まれたガレスは、居心地が悪そうに辺りを見回した後、フィンに続いて外へ向かった。
「儂は挨拶回りでもしてくるかの……」
眠り続ける二人とリヴェリアのみとなった
「あんなことを言い出した時は、何が起こったのかとそれはもう驚いたが……」
「お前がお前の幸せを見つけたのなら、それに勝る喜びはないよ、アイズ」
アイズの頭を撫でながら、リヴェリアは数日前の大事件を思い出した。
◇◇◇
『黄昏の館』のリヴェリアの私室に、アイズとリヴェリアは居た。既に日は暮れ、来る決戦に向けて準備を進めていた最中にリヴェリアの私室にやってきたアイズは、何だかもじもじとしていて、普通の町娘のようだった。
「どうしたんだ、アイズ。何か問題でも起こったのか?」
そう言ってリヴェリアは、
「まぁ、座りなさい。立って話をすることもないだろう」
「うん」
リヴェリアは、自らの隣に腰を下ろしたアイズを何ともなしに眺めると、違和感を覚えた。……耳が赤い。これは、また何かあったなと察した
「それで、何かあったようだが、そうだな、ベル・クラネル辺りか?」
「な、何で……。リヴェリア、分かった、の?」
やはりな、とリヴェリアは納得した。この一年、オラリオの中心に居た少年とアイズは、何かと関りがあった。そして、そうしている内に、アイズがどんどんと感情を顔に出すようになっていった。幼い頃のアイズを知る者としては、好ましい変化だったし、これが何処の馬の骨とも知れぬ者であったなら話は変わっていたかもしれないが、彼は極めて善良だった。主神も神徳のある女神だし、ファミリア内外問わず構築された人間関係からも、ベル・クラネルの人間性に文句は無かった。ただ、少し厄介ごとに巻き込まれすぎではないかという懸念事項はあったものの、派閥の幹部であるアイズが、他派閥の団長と懇意にしていても、見逃すくらいにはリヴェリアはベルを気に入っていた。故に、アイズに何か変化をもたらすとしたら、彼ではないかと思っていたのだ。
「あまり舐めるな。私はお前が小さい頃から一緒に居たのだぞ。これくらいは当然だ」
思いの外慌てるアイズを尻目に、リヴェリアは得意げに笑った。さて、それでは一体何があったのかと思考を巡らせ始めたリヴェリアに向かって、アイズは声を震わせながら特大の爆弾を放り投げた。
「私……ベルと結婚する」
「─────────は?」
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