家族になる白兎と剣姫   作:外山清月

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何でか分かりませんが筆が進んだので更新です。
またもやランキングに載ったようで、皆さんには感謝しかありません。次は何時になるかな……?もしかすると、六月中にもう一回とか更新できるかもしれませんが、まぁそうなったら私がえらい頑張れたということなので、あまり期待せずにお待ちください。月一更新は守っていく所存ですので、ご容赦を。


二人を知る者たち②

 いや、いやいやいや、いかにアイズとは言え流石にないだろう。いきなり結婚?それも他派閥の団長と?聞き間違いかもしれん。というかそうであって欲しい。こちらが想定していたのは、こう、アイズに初恋が訪れたとか、一番進んでいたとしても付き合うことになったとか、そういうものだ。それであれば、アイズを素直に祝福することが出来たし、そうするつもりだった。無論、派閥違いの恋愛には多くの障害が立ちはだかるが、それらも何とかしてやりたいとも思っていた。というか、ぶっちゃけそういった先に結婚まで行ってくれればとすら思っていた。

 

 だというのに、それらの段階をすっ飛ばしての結婚報告は、何かの間違いではないだろうか。……いや?もしかすると、私が気付かなかっただけで既に、二人は交際していたのではないか?それならば、まぁギリのギリで納得は出来る。これまでこっそりと交際していて、それを他人に隠すというのは、それ程おかしくはない。そして、黒竜との決戦を目前にして、若い男女が結婚の約束をするというのも、うむ。まあ、無くは無い……のかもしれん。しかし、あのアイズだぞ……?大丈夫なのか?

 

「……アイズ。お前とベル・クラネルは、交際していたのか?」

 

「なんで?」

 

「はあ、馬鹿者め。いきなり結婚と言われたからだ。これまでに関係を深めていることを知っていたのなら疑問も無いが、余りにも急すぎるだろう」

 

「うん。関係は、深めてきた、かな。……こっそりと」

 

「……そう、だったか。お前がベル・クラネルのことを気にかけていたのは知っていたが、まさか、そんなことになっていたとはな……」

 

 真剣(マジ)か。真剣(マジ)なのか。噓だろう。何で誰も気づいていないんだ。アイズのことを考えると、この関係が世間に露呈しなかったのは奇跡に近い。しかも相手が、あのベル・クラネルだと!?この一年オラリオを騒がせた少年を、アイズが気にかけていたのは知っているが、何時の間にそんなことになっていたんだ!いや、正直彼以外にアイズが関心を向けている男が居ないのだから、ある意味当然のことではあるが!

 

 とはいえ、何とか、ぎりっぎりだが納得できる答えだ。落ち着いて考えてみれば、まぁ、アイズも年頃の娘だ。これまで、ダンジョンと剣とジャガ丸くん以外に関心を向けることの方が少ないという、保護者としては果てしなく不安になる状態だった。それから考えると、予想外も予想外の告白ではあったが、決戦の前に知ることが出来て良かったのかも知れん。

 

「派閥の幹部であるお前が、他派閥の団長と交際していたことは、褒められたことではない」

 

「……うん」

 

「が、私は一人の家族としてお前の幸せを祝福するよ。……良かったなアイズ」

 

「うん!ありがとう、リヴェリア!」

 

 そう言って笑ったアイズを、見ることが出来たのだから。

 

 この時リヴェリアは、すっかり安心しきっていた。いかに恋愛経験のないアイズといえど、真っ当に交際をし、その果てに結婚に至ったのだと、そう思ったのだ。加えて、その相手は、ベル・クラネルである。リヴェリアはあの少年が、アイズをだまくらかすようなことをするはずがないと理解していた。直接会話を交わしたことこそ少ないが、これまでの軌跡や、ティオナやレフィーヤを始めとした団員達との関係性。そしてフィンが痛く気に入っていることからも、リヴェリアのベルに対する評価は非常に高かった。

 

 それ故にリヴェリアは失念していた。アイズのとんでもないポンコツっぷりを。

 

 ◇◇◇

 

 黒竜との決戦の直前。リヴェリアは、ベルと会っていた。これから挑む存在のことを考えれば、闘いが勝利に終わる確信もなければ、勝ったとしてもどちらも生存している確信もなかった。だからこそ、娘の想い人と会話する機会を求めたのだ。

 

「すまないな、こんな時に」

 

 オラリオから出立して暫く。黒竜に感知されないギリギリの距離に設営された野営地の中の一つの天幕(テント)に、リヴェリアとベルは居た。既に日は暮れ、夜の帳が下ろされている。翌日に控えた決戦に向けて、英気を養う者たちの酒盛りの音頭が聞こえてくる中、リヴェリアとベルは折り畳み式の椅子に腰をかけて机越しに向かい合っていた。

 

「い、いえ。全然大丈夫です!」

 

 緊張の抜けきらない様子のベルに、リヴェリアは微笑みが零れる。

 

「そう緊張してくれるな。なに、これまで真面に話しをしたことも無かったのでな。ベル・クラネルという少年には、一人の冒険者としても、ロキ・ファミリアの副団長としても興味がある」

 

「そういうことでしたら……。えっと、リヴェリア様」

 

「様は止めてくれ。そんな他人行儀をされては話しにくくて敵わん。なにより、アイズにどんな顔をされるか分かったものじゃない」

 

 そういって笑い出すリヴェリアに、ベルはどう反応していいのか分からなかった。もしかして、アイズさんとの特訓のこととか知ってるんだろうか、などと考えつつも、ベルは何とか平静を取り戻した。

 

「そ、それじゃあ、リヴェリアさん、でどうでしょうか」

 

「うむ、まあ一先ずはそれでいい。……そうだな、こちらはベルと呼んでも構わないかな」

 

「は、はい!」

 

 既に第一級冒険者であるにも関わらず、未だに初々しさの残ったベルが、リヴェリアには可笑しくて仕方がなかった。それと同時に、こんな少年だからこそ、常識外の飛躍を遂げたのかとも納得していた。

 

「さて、あまり時間もないのでな、早速本題といこう」

 

 こう切り出したリヴェリアに、ベルは更なる緊張を覚える。何せ相手は、オラリオでも名高い九魔姫(ナインヘル)。紛れもない現代の英雄の一人にして、想い人の育ての親的な立ち位置(ポジション)王族(ハイエルフ)なのだから当然である。ベルは引きつりそうになる顔を、なんとか抑えながらリヴェリアの声を待つ。

 

「ベル、お前とアイズがこの作戦の中心になるのは分かっているな?」

 

「は、はい!」

 

「よし、その事情を受け止め、待ち続けろ」

 

 突然の指導にベルは躊躇いながらも頷いた。それを見て、リヴェリアも言葉を続ける。

 

「いいか、ベル。私たちは、お前とアイズの一撃を決める為に、お前たちを守る」

 

 ベルは、ハッと息を呑んだ。それは、ベルの誰にも明かしていない苦悩だった。ベルはこの作戦を聞いた時から、状況を正しく理解していた。自身の一撃が切り札であることも、それを発動させるのに六分という蓄力(チャージ)時間が必要なことも、それを達成するために、多くの人が傷つくことも。

 

 理解はしていても、ベルにとって、この事実はとても重かった。誰かが、自分の為に傷つき、自分はそれを見ていることしかできない。心優しい少年には、必要なことだと分かっていても、割り切ることが難しい事柄だった。

 

 それに、リヴェリアは踏み込んできた。これまで、まともに話したこともないにも関わらず、他の誰もが触れなかったベルの苦しみに、躊躇うことなく向き合った。それは、何でなのかベルには分からなかった。

 

「お前の悩みは、私も経験している。というのは適切ではないな」

 

 何しろ、此処までの規模のものではないのでなと、続けたリヴェリアの突然の告白に、ベルは驚きを隠せなかった。少し時間を置き、ベルが落ち着くのを待ってから、リヴェリアはゆっくりと語り掛ける。

 

「私は魔導士だ。基本的には後衛にいる。前線で戦う者たちの背中を見て焦ることなど、数え切れん程経験している」

 

 それは、至極当然のことだった。オラリオにおいて、最強の魔導士であるリヴェリアは、立ち位置で考えれば、今回のベルと似通った存在だ。ベルは自身の疑問が全くの的外れだったことを悟って、恥ずかしくなった。

 

「だから、焦るなとは言わん。苦しむなとも言わん。ただ、前衛を信じて、待て。アイズと一緒にな。それが、お前たちに出来る最大の貢献だ。分かったな?」

 

「……はい。ありがとうございます、リヴェリアさん」

 

 ベルは漸く理解した。この女性(ヒト)は、自分のことを心配して、気に掛けてくれたのだと。それはとても嬉しいことだ。そう感じたベルは、そう感じた理由を考える。誰かに思ってもらうということは、多くの場合嬉しいものだが、リヴェリアのそれは少し違った。そうして、ベルは気づいた。彼女の気遣いは、何処かヘスティアに似ていると。友愛でも、恋愛でもない(ヘスティアが知れば機嫌を損ねるだろうが)。それは、紛れもない親愛から来るものだった。ベルが、リヴェリアの顔をぼんやりと眺めると、そこに浮かんでいた表情は、息子を見守る母親のそれのように感じて、少し恥ずかしくなった。

 

「うむ。まあ一先ずはこれで良しとするか。夜分遅くに邪魔をしたな。私ももう休むとしよう。」

 

 言外にベルにも、もう寝ろと告げながら立ちあがる。

 

「リヴェリアさん、本当にありがとうございました!」

 

 ベルは、照れ隠しからか、少し大きな声で礼を言った。可愛らしいものを見たリヴェリアは、微笑みを浮かべながら歩き出す。リヴェリアを見送ろう立ちあがったベルに、天幕(テント)の外に出る寸前、大事なことを思い出したように振り返ったリヴェリアは、こう言った。

 

「そうだベル。アイズとお前の話を今度聞かせてくれ。色々と聞かなくてはいけないことがあるようなのでな」

 

「」

 

「では、明日はよろしく頼んだぞ、ベル」

 

「」

 

 そう言って颯爽と自身の天幕(テント)へ帰っていくリヴェリアの後ろ姿を眺めながら、ベルは硬直していた。先程まで感じていた照れくささなど、既に微塵も残っていなかった。それから数分。真っ白だったベルの顔が、面白いぐらいに赤に染まった。

 

「ば、バレてる……!?リヴェリアさんに、バレて……!?」

 

 蚊の鳴くような声を上げながら、天幕(テント)に入ったベルは、そのまま蹲って呻き声を上げた。ベルはアイズへ向ける自分の好意が、多少分かりやすいものだということは、何となく察していた。

 

 とはいえ、これは全くの想定外。意識外からの一撃は、的確にベルに致命傷を与えていた。流石に恥ずかしすぎる。アイズ本人に気づかれるのですらなく、その育ての親であるリヴェリアに気づかれたのだ。一般的な視点からすれば、耐えがたい拷問と言っても差し支えないだろう。

 

 最後の最後にとんでもない爆弾を貰ったベルは、恥ずかしさに身もだえしながらも、翌日に控えている黒竜戦に向けてなんとか、睡眠をとることに成功した。が、これまた口に出すのが憚られる夢に、うなされることになったのだった。

 

 ◇◇◇

 

 一方、リヴェリアは、未来の義理息子(むすこ)との会話に浮かれていて、事態の深刻さにまるで気がついていなかった。リヴェリアは、冒険者にしては珍しい素直さと可愛らしさを持ったベルのことを、この短いやり取りの中で既に気に入っており、最後のアレも二人の結婚に対する賛同の意思表示のつもりだったし、ベルもその意図を正しく受け取っているものだと思っていた。何なら、自分は死ぬつもりはないし、ベルにもアイズと生き残って幸せを掴んでほしいということを伝えるという、リヴェリアなりの計らいだったのだが、ベルには全く伝わっていなかった。

 

 アイズによって引き起こされたこの二人のすれ違いは、ベルがメレンの家で目覚めた翌日になって、漸く解消されることになるのだが、現時点でこの致命的な事実を知る者は、全知無能の神々の中にもいないのだった。




原作でベル君が知っているのかは分かりませんが、この世界線のベル君はアイズさんとリヴェリアママの関係をある程度知っています。きっと深層からの救出時にでも聞いたんじゃないですかね?

最後にですが、前回から引き続き、お気に入り登録や、評価、感想など励みになっております。
本当にありがとうございます。まだの方も、良ければお願いします。
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