家族になる白兎と剣姫   作:外山清月

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最新巻ヤバすぎたので投稿です。
それと、11月分の更新ですが、ちょっと忙しくなりそうなので12月にずれ込む可能性があります。申し訳ないです。12月分の更新とは分けて更新するはずなので勘弁して下さい。


修羅場 in 竈火の館

 メレンの片隅でベルとアイズが穏やかな時間を過ごしていた頃から少し時間を巻き戻し朝方の事。オラリオにあるヘスティア・ファミリアの本拠(ホーム)である竈火の館では、此処に暮らす者たちが顔を突き合わせていた。

 

「それで何なんですかこれはああああぁああぁぁあぁ!?!?」

 

 そのうちの一人、リリルカ・アーデが朝っぱらから騒々しい叫び声を上げているのには理由があった。居室(リビング)にあるテーブルに囲っている面々の中心に広げられた新聞。それこそが全ての元凶である。

 

 一面にはデカデカとこう書かれていた。『祝! 最後の英雄(ラスト・ヒーロー)結婚! お相手はあの剣姫!?』と。普段なら、こんな朝方から叫ぶような真似はしない。近所迷惑も甚だしいのはもちろんだが、安全な本拠地(ホーム)に居るのに寝起きから大声を出すなんて労力を払うことなんて馬鹿馬鹿しくてやってられない。迷宮(ダンジョン)ならともかく、せめて地上では、穏やかな朝を送りたいのだ。

 

 そんなリリも、これには血相を変えて叫び散らかしている。というかリリだけじゃなかった。凄まじい混乱を思い思いの形でどうにか解消しようとしている集団が、そこにはいた。

 

「ベル君ベル君ベルくぅ~ん!?僕はこんな話聞いてないぞぉ~!?家にも帰らずに何してるんだ~!?」

 

「ベ、ベル様が、……け、結婚!?」

 

「ベ、ベル殿……何時の間に……!?」

 

「おいおいおい、どうなってやがるんだベル!?」

 

「──ラピ君?そ、そんな。結婚だなんて……!?」

 

「だ、駄目だベル。け、けけけ結婚だなんて、貴方にはまだ早すぎる!?せめて、誰もいない夜の森で、二人の永遠の愛を月に誓わなければいけないのに!?」

 

 壊滅的だった。これまで数々の苦難困難に直面し、それを乗り越えてきたヘスティア・ファミリアだが、この朝刊の一面によって致命的な打撃を被っていた。しかし、それを責められる者が一体、どれだけいるのだろうか。

 

 黒竜との一戦でベルが大活躍をしたことは知っていた。そして、決して少なくない損傷(ダメージ)を負ったことも、意識を失ったままだったことも知っていた。そんなベルを、今のオラリオに返すことに危機感を覚えて、メレンの街に匿うことを了承したのもヘスティア・ファミリアの団員達だった。

 

 全て納得していたはずだった。意識を失ったままのベルの看病をアイズがするというのも、言いたいことは色々あったが了承もした。それはベルと共に黒竜を打倒したアイズが、ベルを置いて単身でオラリオに帰還した時の民衆の反応を考えてのことだった。

 

 恋の好敵手、と思っている数人の少女(と女神)ですら、黒竜討伐という大偉業を前に尊敬と感謝の念を欠くことは出来なかったのだ。だから、渋々ではあったけれどベルに付きっきりの看病をするという、羨ましくて仕方がない立ち位置(ポジション)を譲ったのだ。

 

 その翌日に、コレ。ないわー。というのが正直なところだった。勝負に影響しないとは考えていなかったが、一日で完全勝利(ゲームセット)まで持っていくなんて、想像もしていなかったのだ。

 

 だって、ベルだもの。アイズ側に何かあっても、ベルは何時も通りの鈍感っぷりを発揮していることだろうと、そう思っていたんだもの。全知無能たる神々ですら予期できない早業に、ヘスティア・ファミリアは全員纏めて吹き飛ばされたのだ。

 

 誰が悪かった、という訳ではない。ただ、偶然に偶然が重なった結果としか言う他ないのだ。ベルとアイズの認識の齟齬。お互いに向けている強い想い。そして、そんな二人がひとつ屋根の下で暮らすことになったというアオハル激甘状況(シチュエーション)

 

 結果としてベルとアイズは結婚するに至った訳だが、そんなことはリリ達には関係ない。自分の全く関与できない場所で、勝負を付けられてしまったという絶望的状況に置かれて、叫ばないという方が無理だった。

 

  ベルに対して恋愛感情を抱いていない者もそうだ。例えばヴェルフ。可愛い弟分が寝て起きたら結婚してた。それを本人から聞いたのではなく新聞で知った。動揺は当然だった。例えば命。恩人であり、よき団長として慕っているベルが寝て起きたら結婚してた。そんな素振りも見せなかったのに!ベルとアイズに何があったのかを考えると、混乱も当然だった。

 

「兎に角情報が要ります!ここで叫んでいるだけではどうにもなりませんっ!!」

 

「おいっ!リリスケ!!」

 

「なんですかっ、ヴェルフ様!?」

 

 勢いよく立ち上がり、邪魔しないでくださいと言わんばかりに叫び散らかすリリの肩に手を置いたヴェルフは、静かに首を横に振った。

 

「無理だ。俺たちは本拠(ここ)から出られん!」

 

 そう言われたリリは、全身の力が抜けたように座り込んでしまった。そう、今現在ヘスティア・ファミリアは外出禁止がギルドより言い渡されているのだ。理由は単純。ベルが不在だからである。黒竜の討伐という下界の悲願を成し遂げた最後の英雄の所在をオラリオ市民は知らない。

 

 馬鹿みたいなお祭り騒ぎの中で、ベルの姿が見えないことにも気づいていない訳だが、リリ達ヘスティア・ファミリアの団員が外に出れば話は別だ。オラリオ中から注目されているヘスティア・ファミリアの団員は、それなりに顔が知られている。同業者は言うまでもなく、恩恵を授かっていない一般市民にもだ。

 

 そんなリリ達が今、一歩でも外に出ればどうなるのか。まず間違いなく注目の的となる。下界を救った英雄の仲間だ、と。そして、次の瞬間には、あれ?最後の英雄(ベル・クラネル)、いなくね?となってしまうだろう。

 

 ベルとアイズを事態が落ち着くまで密かに匿うという方針も糞もなくオラリオの内外を問わずに大騒ぎである。それはメレンの街も例外ではなく、必死の計画も全てご破算になりかねない。そんな訳で、大人しくしていろというお達しが下されたのだ。

 

 無論、そんなことはリリとて承知している。しかし、しかしだ。理性(それ)本能(これ)は別なのだ。頭では分かっていても、それを受け入れられるのかといったらそうではない。どうにかしてベルの所へ駆け付けたいという思いを止めることはできないのだ。

 

 そうして沸き上がった思いは、ベルに迷惑を掛けたくないという健気な乙女心を刺激されて、鎮火された。少なくとも一時的には。他の面々に比べて、比較的落ち着いているヴェルフと命はほっと溜息をついた。取り敢えず、直近の問題は抑え込むことに成功したものの、決して少なくない困惑が全員の脳を支配していた。

 

 何せ、情報が無いのだ。ベル本人からも、その他の冒険者やギルド、神々といった黒竜討伐作戦に関係していたあまねく全ての人員から、ベルとアイズの結婚なんていう話は聞いていない。幾ら考えても答えは出ず、このまま日が暮れるまで同じような問答を繰り返すのかと、冷や汗がヴェルフの頬をなぞった時。

 

「何やら大変なことになっているようだ」

 

 なにも無いはずの虚空から聞き覚えのある声が聞こえた。全員が、声がした方向へ反射的に視線をやる。すると、そこには見覚えのある黒衣を羽織った者の姿があった。

 

「フェルズ君!?」

 

「このような形で申し訳ない、神ヘスティア。こうでもしないと入れそうになかったのでね」

 

「この際、そんなことはどうだっていいさ!それより、君何か知ってるのかい?知ってるんだよね!?」

 

「ああ、知っている。だからこそ私が来た訳なんだが……。ふむ、まずはベル・クラネルとアイズ・ヴァレンシュタインの結婚、おめでとう。異なるファミリア同士での結婚で難しいこともあるだろうが、ギルドとしてもある程度の支援はする手筈なので安心して欲しい」

 

「これはご丁寧にどうもありがとう……、ってなるか~~~!?」

 

「ヘスティア様!?お、落ち着いて下さいッ!?だ、駄目ですから!フェルズ様に殴りかかっちゃ駄目ですからぁ!?」

 

 ◇◇◇

 

 突如現れたフェルズからの祝いの言葉で再び混沌の渦に陥った竈火の館に落ち着きが取り戻されるまで幾ばくかの時間が流れた。皆が席に着き、フェルズからの説明を受けたことで、それぞれが状況を認識した。……必死に認識しようとしている者も居たが。

 

「そんな、ベル君が……」

 

「剣姫と同じ家に……」

 

「一晩の間に何があったんだ……?」

 

「申し訳ないが、そこまでは分からない。私が知っているのは、あくまでも客観的な情報だけで、当人同士でどういったやり取りがあったのかは把握していない」

 

 この一年間、幾つもの修羅場を乗り越えてきたヘスティア・ファミリアといえども、この一晩に起こったことの全てに納得できるわけが無かった。それでも、少ないながらも情報を得たことで思考に変化が訪れた者が居た。

 

「で、では、今ベル様は剣姫様とひ、ひとつ屋根の下おられるのですねっ!?」

 

「あ、あぁ。そういうことになる」

 

 わなわなと尾を震わせる狐は、耳まで真っ赤に染め上げていた。怒っているのか、その場に集った者は皆そう思った、のだが、違った。

 

「愛し合う男女がひとつ屋根の下で夜を明かしたのですッ!?それはもうあんなことやこんなことがッ!?」

 

「発情している場合じゃありません春姫殿っ!?」

 

「だ、だって命ちゃん!?ベ、ベル様の貞操がッ!?」

 

「えぇ~~~~い!!処女神(ボク)の眷族であるベル君がそんなことするわけないだろ~~~~!!」

 

「みこっ!?」

 

「ラピ君のベル先輩が英雄願望(アルゴノゥト)聖火の残光(アルゴウェスタ)しちゃったの……??」

 

「まだ婚姻も結んでいないのに、そんな……。い、いや、もう婚姻して……。し、しかし……。」

 

再び燃え上がった女たちの情念の炎に圧倒されるしかない男を置いて、ひたすらに議論(笑)は白熱してゆく。

 

「……賑やかなのは良いことだとは思う」

 

「それ、今言う事か?」

 

 ◇◇◇

 

「へくしっ」

 

「ベル、大丈夫?」

 

 やっぱりまだ体調、良くない?そう続けるアイズに、ベルは小さく首を横に振った。長椅子(ソファー)に腰掛けたベルにの膝に向かい合う形で座っているアイズは、こんな些細なやり取りだけで愛おしさが心の底から湧いてくるのを自覚する。

 

「アイズさん?」

 

 溢れだした愛情のままに眼前の兎を撫でまわし始めた少女に、困惑混じりの問いを投げるも答えは返ってこない。その代わりに撫でまわすのに加えて、頭に鼻を埋めてくんくんと匂いを嗅ぎ始めた少女の様子に少年は少し困ったように笑いながらされるがままになっていた。

 

 オラリオの喧騒とはかけ離れた静かな家で、二人の時は緩やかに過ぎていく。




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