ハイスクールD×F×C   作:謎の旅人

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第20話 私の娘が旅に出ます

「もう……行かないと」

 

 燐を待たせていると思い出して、居間へと向かった。

 居間には隅で姿勢を正して直立している燐。

 フェリは燐に遅れてすみませんと謝ったあと、燐が用意してくれた夕食を食べた。

 その夕食はとても静かなものだった。

 

(お母様がいたからよかったのに)

 

 いればもっと賑やかな食事となっていたはずだ。

 この部屋にはフェリの他に燐もいるのだが、燐はフェリにとってもう一人の保護者で寡黙な式紙なのだ。御魂がいたときのような明るい食事など作ることなど無理なのだ。

 そもそもあの明るい食事を作り出していたのは御魂なのだ。言ってみれば御魂がいるから作り出されたものだと言っていい。

 

(はあ……相変わらず燐さんのは美味しいけど……)

 

 やはり御魂がいないということが食事という楽しさを減らす。

 いなくなって分かるというがこれもそうなのだろう。フェリは一層に母という存在が大きいと感じ、より依存することとなった。

 食べ終わると燐がそれをすばやく片付け、フェリに風呂に入るように言った。

 この家には風呂がある。だが蛇口を捻って水やお湯が出るわけではない。この家には温泉があるのだ。そこから風呂へと持ってきている。そして、水もまたそうだ。フェリは知らないことだが、この家には未来の技術があり、それにお湯を通すことで水にしているのだ。これによって水を作り出している。

 フェリは一人で風呂に入る。

 いつもは御魂も一緒に入るのが、御魂がいなくなって以来ずっと一人だ。

 体を一通り洗い終わり、湯に浸かった後は自室へ戻り、すぐに布団へと潜り込んだ。

 ここでも一人だ。いつもは御魂と一緒に布団に入って自分よりも小さい体の御魂に抱きしめられたりしながら寝るのだ。

 フェリは泣きながら眠りに付いた。

 こうして御魂がいなくなってからの一ヶ月後のある日が過ぎたのだが、フェリのほとんどは御魂の傍での生活だった。どれだけフェリが御魂に依存しているのかが分かる。

 

 

 そんな生活が続いてどれだけが経っただろうか。

 それはフェリ自身にも分からなかった。

 なぜならばフェリは時間を数えて、どれだけ御魂と離れているのかを知るのが怖かったからだ。

 なにせ御魂がいなくなった時間はすでに二百年だからだ。

 二百年という時間はとても長い。人間の人生が数回分詰まっている時間だ。

 それほど長い時間をフェリは過ごしたのだ。しかも依存している相手である御魂がいない状態で。

 故にフェリは数えなかった。それだけ御魂が帰ってこないと理解すればフェリは分かっていても御魂が自分を捨てたと思ってしまうからだ。

 そして、ある日。

 フェリは待つのではなく、自ら探しに行くことを決めた。

 それは実は心の底ではその長い時間を理解していたからだろう。だからそう決めたのだ。

 

「それでフェリ様。本当に行かれるのですか?」

「行きます。私はお母様を探しに行きます!」

「そう、ですか」

 

 現在、二人は居間にいた。

 二人は座卓を挟んで座っていた。

 

「でも、フェリ様はまだ外をよく理解していません。危険です」

 

 フェリが御魂を探し出すとつい先ほど言い出したので、フェリのことを密かに大切に思っている燐が説得してるところだ。

 フェリを外へ行かす訳にはいかない。ずっとこの家に留まってもらいたいと思う。それにフェリは一人で外の世界へ行ったことなど少ない。行ったとしても全て近場だった。いわゆる箱入り娘というやつだ。

 

「そんなことは分かっています。ですがお母様を探しに行きたいのです。それに外のことはお母様に聞いています」

「本当にですか? 外の者たちは性別関係なく人を攫います。そしてどうするか分かりますか?」

「もちろんです。主に攫うのは女子どもで、子どもは売るために、女性は、そ、その、い、色々と……」

 

 フェリは細かくは言えず、頬を染めて恥ずかしがる。

 御魂のフェリへの教育はそういう知識も含まれる。

 なのでそういう知識をフェリは有していた。

 

「ええ。そうです。その通りです。で、フェリ様は女性です。つまりは攫われたりするとその身を汚されるのです」

「ですが、相手は人間ですよ」

「違います! 私が言っているのは妖怪のことです! 人間に対して油断していいとは言いませんが、それよりも危険なのは妖怪なのです! 人間と違いフェリ様と同じく妖怪たちはその身に妖力を宿しています。だから気をつけなさいと言っているのです」

 

 妖怪は人間よりも長い歴史を持つ。

 しかも、御魂が生まれたときの妖怪の文明は現在の人間たちと同じくらいだったのだ。そして、その頃から盗みや人身売買などがあった。それは現在まで続いている。

 で、もちろんのことフェリは対称に入る。

 しかもフェリの容姿は整っており、美人という言葉が似合うほど。そしてスタイルもいい。

 商品として扱うにも自分の欲を満たすにもフェリは最高の一級品なのだ。

 

「しかも、攫おうとする者は女性ということもあります。それも知っていますか?」

「なぜですか?」

「……やっぱり知らないようですね」

「……すみません」

「なぜ女性なのかですが、それは女性だということが相手を油断させるからです。フェリ様は男性から声をかけられるのと女性から声をかけられるのではどちらを警戒しますか?」

「そ、それは男性です」

 

 御魂とほとんどいるフェリとはいえど、一応他人との関わりは妖怪や人間問わずあった。なので男女の違いなどを理解している。

 それに御魂からは珍しく顔をむすっとさせて異性なんて信じるなと言われていた。

 そういうのもあってフェリはそう答えたのだ。

 

「フェリ様がそう答えたようにどちらかといえば女性のほうがあまり警戒はしないで、油断をするのです。そうして油断した相手を眠らせるなどして攫うのです」

「つまり誰も信じるなと?」

「私個人としてはそう言いたいですが、要は油断するなということです。分かりましたか?」

「……はい、分かりました」

 

 フェリは話を聞いてどれだけ燐が自分のことを心配していること理解した。そして、どれだけ大切に思っているかということも理解した。

 御魂がいなくなっての燐とフェリの二人のみ(ほかの式紙は含まない)の生活が続き、フェリは燐のことをわずかにだがもう一人の母親として見ていた。

 だからそれをうれしく思っていた。

 

「あ、あの燐さん。それでやっぱりダメでしょうか?」

 

 フェリは聞く。

 おそらくはダメと言うだろう。

 自分で言っておいてそう思った。

 フェリがもし燐の立場なら大切に思っている相手を危険なことに合わせないようにするためにダメと言う。

 だが……、

 

「いいえ、いいです」

「やっぱり……って、ええっ!? 今、何と?」

「いい、と言ったんです」

「ほ、本当に?」

「ええ、言いました」

 

 自分が燐の立場ならダメという場面で燐は良いと言った。燐はそれを許可すると言った。

 それは喜ばしいはずなのにどういうわけかショックを受けていた。

 理由は大切な存在ならばそこではダメというはずなのに良いと言ったからだ。

 大切な存在で許可しない。ならばそうでない存在は許可する、だ。

 だからショックを受けた。

 つまり、燐にとって自分は大切ではないということ。

 そう結論付けたのだ。

 

(大切にされていると思ったのは……私の勘違い……)

 

 思わず涙を流す。

 暖かいソレは頬を伝い、握り締める両の手の甲にポツリと落ち次々に落ちてゆく。甲に落ちた涙は次に布を濡らした。

 

「ふぇ、フェリ様!? どうかなさったのですか!?」

 

 いきなり泣き出したフェリに燐は慌てて近寄り、背中をさする。

 燐にはフェリが泣き出した理由が分からなかった。

 当たり前だ。

 燐が言ったのはフェリが望んでいるはずの答えだったからだ。それを言ったはずなのに泣かれては、燐だって分からない。

 一先ずはフェリが泣き止むまでこうするしかない。

 そう決定し、そうした。

 約十五分後、フェリは泣き止んだ。

 それから燐は机を挟まずに至近距離から向き合った。

 

「で、フェリ様。なぜ泣いたのですか?」

「だ、だって……燐さんが私のこと大切じゃないって……言ったから……」

「…………。私がいつそう言いましたか? 言っておきますが、私はフェリ様のことを大切に思っておりますよ」

「ならなんでダメって言ってくれなかったんですか!! 大切ならダメって言ってください!!」

 

 フェリの矛盾に燐は思わず頭が痛くなり手を額に置いた。

 

(この子は……何を言っているのでしょうか? まあ、それは置いといてまずはこの子に大切だということを示しましょうか)

 

 言葉では大切だと伝わらなかったので、次は行動でそれを示そうと思った。

 だから燐は正面から抱きしめた。

 

「ふえぇ?」

 

 いきなりのことでフェリはびっくりし、変な声を出す。

 

「な、なんで?」

「私がフェリ様を大切だと思っているということを証明するためです。いいですか、私が良いと言ったのは決してフェリ様のことが大切ではないとかではないのです。そう言ったのはそろそろ自分だけで世界を見るにいい機会だと思ったからです。大切ではないと思うならばご主人様がいなくなってからの生活で、フェリ様に意地悪でもしていました。でもしてません。それに私はご主人様と同じよう頃からフェリ様の世話をしてきたのです。ご主人様の前では言えませんが、私もフェリ様のことは娘のようなものと思っているのです」

「娘、の……? 本当、ですか?」

「ええ、本当です。こんなときに嘘なんてつきません」

 

 燐がフェリに向かって微笑む。

 フェリはうれしく思った。

 フェリは燐のことを少しだが母と見ているのだ。うれしくないはずがない。

 しかし、それでもフェリは燐を『母』とは呼ばずに『燐さん』と呼び続ける。あくまで自分の母は一人だからだ。

 抱きしめられているフェリもまた燐の体に腕を回し、抱き返した。

 

「うれしいです」

 

 フェリは思いを口に出した。

 しばらくそうやって抱き合ったままでいる。

 

「さあ、フェリ様。お母様を探しに行くのですよね?」

 

 離れたあと燐が話し出す。

 

「はい、探しに行きます。もう待っているのは嫌です」

「分かりました。出発はいつにするつもりですか?」

「三日後を予定しています」

 

 準備はすでに終わっている。

 昔、御魂に言われたことを参考にして用意した。少々不安があるが。

 

「そうですか。なら一ヵ月後にしなさい」

「えっ? なぜですか?」

 

 フェリは今すぐにでも行きたかった。それを我慢しての三日。

 なのに十倍の一ヶ月我慢しろと言われた。

 フェリはなぜだと怒ることはなかった。

 それは燐に何かちゃんとした考えがあると知っているからだ。それにフェリも大人である。怒りに任せて自分の我がままを通そうとはしない。

 

「私がこれから一ヶ月間、フェリ様に外の知識の全てを叩き込みます」

「それはお母様から……」

「そうですが、それは昔のことでしょう。つまりは復習ということです。フェリ様は一人での旅は初めてでしょう。だからやるのです」

「分かりました」

 

 フェリは大人しく従うことにした。

 それはやはり初めての一人旅ということもあるし、あまり勉強が好きだったわけではないため、大切なことを忘れているかもしれないからだ。それに母に会わずして命を散らしたくはない。

 そういうわけで今日から一ヶ月間、フェリは燐から様々な知識から技術を習得させらられた。

 しかもそれら全てわずか一ヶ月で学ぶなど常人では不可能ではあったのだが、それを御魂に会いたいという気持ちだけですべてを習得したのだ。

 これについては燐は驚いた。

 

「フェリ様、いよいよそのときですね。心の準備のほうがいいですか?」

「どちらかというと心の準備よりも荷物の準備のほうが不安です」

「ふふふ、そうですか」

 

 燐は服の裾で口元を隠しながら笑う。

 

「でも、大丈夫ですよ。私がちゃんと確認しました。すべての荷物に異常はありませんでしたし、不備はありません。そこは心配しなくて大丈夫です。それよりも不備の心配ならフェリ様の知識に不備がないか、ですね。ちゃんと覚えていますか?」

「覚えています。大丈夫です」

 

 フェリは荷物を背負う。

 ソレは荷物が多く入るリュックサックだ。約十五キロという重量だが、妖怪であり吸血鬼であるフェリにはあまり重さを感じるものではなかった。

 そして、服装だがこちらはフェリの私服である巫女服、もしくは和服ではない。着ているのは未来の服である。

 きちんと肘や膝をアーマーで覆い、服の生地自体も柔らかいものでありながら、傷付かないという優れものだ。

 もちろんのことこれらの服とリュックサックは御魂が暇つぶしで作ったものである。

 

「ならよかったです。それでもう一度言います」

 

 燐はフェリに注意事項をもう一度伝える。

 

「フェリ様の母であるご主人様はどこへ跳ばされたのかということは全く分かっていません。見つからないこともあります。それは別空間へ飛ばされたという可能性があり、ご主人様自身でも脱出が困難ということです。その場合、フェリ様が探してもご主人様が脱出しないとずっと見つからないということです」

 

 燐は鋭い目つきでフェリを見つめる。その目は睨んでいるかのようにも見えた。

 

「もしくはご主人様は跳ばされた影響で記憶を無くしている可能性もあります。それでフェリ様がご主人様に会っても分からない場合もあります。そういう様々なことがありますが、それでも……行きますか?」

 

 目は鋭いがその中には行かないでほしいという感情が込められていた。

 燐にとってフェリは御魂がフェリに抱くような母としての感情を向ける相手である。大切な娘のような存在である。

 そんなフェリを一人危険な旅へ行かせるのはとてもつらいことだった。

 世界は広くフェリよりも強い存在はいくらだっている。命を落とす危険は山ほどあるのだ。

 本当は燐も一緒に行きたかったのだが、それは無理だった。

 燐は確かに生き物(妖怪や人間)が持つ感情と表情を完全に持つ成功作ではあるが、その根本はあくまでご主人様である御魂の命令を忠実にこなす式紙だ。

 現在、燐に与えられている命令はほかの式紙と同様に『家を守ること』『家事をすること』『御魂とフェリの身の回りの世話をすること』の大きく三つである。そのうちの二つが家という場所に関する命令で、それによって燐は家に縛られているのだ。そのせいで離れることはできない。さらに三つ目は式紙の主である御魂がいなくなり、あやふやになっていることも関係している。

 燐は成功作ではあるので、これらの命令を自らの意思で背くことはできる。

 だが、そもそも式紙は命令があってこその存在で、それに背くことは自分の存在を否定するということに繋がり、燐の命に関わることなのだ。だからフェリに付いて行くことができない。

 

「はい、行きます」

 

 フェリは燐のその目に潜んでいる気持ちを分かっていた。でもそれでも、フェリは御魂を探しに行くことを優先した。

 

「そうですか。ならもう何も言いません。ですが、絶対に生きて帰ってきてください。いいですね?」

「はい。分かっています。絶対に生きて帰ってきます」

 

 今から始まる旅は御魂を見つけるまでという運命に身を任せる旅になる。

 数年後? 数十年後? 数百年後? もしくは永久に、か。帰ってくるのはいつなのか全く分からない旅だ。

 しかも、御魂の大体の位置さえも掴めないもので、相当に難しいものだ。余計にいつ帰られるのか分からない。

 

「あと、フェリ様。ちょっと寄ってください」

「? はい」

 

 フェリは燐のすぐ傍まで寄った。

 すると首に腕を回されて抱きつかれた。

 

「えっ?」

「旅の前の、何でしょうね? まあ、私自身がフェリ様のぬくもりを味わいたかった、ということです。すみません」

「いえ、うれしいですから」

 

 フェリはちょっと頬を染めた。

 しばらくして二人は離れる。

 

「ごほん、ありがとうございます。色々と満足しました。さあ、行ってらっしゃいませ。私はずっとこの家で待っていますから。ご主人様とフェリ様の帰りを待っています」

「はい、では行って参ります」

 

 フェリは燐に深く頭を下げた後、ついに旅に出た。

 

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