「ねえ、なんでこの子は髪の色が違うの?」
「ああ、それはちょっとわけありなのよ。ごめんけど言えないわ」
母親は淡々と言ったがその目は私から逸らしていた。わけありはわけありでも何かあるらしい。私は女の子のほうを中心に撫でていた。それには理由がある。
この子から感じる私の力はどこかにあった私の力を宿したわけではない。最初からこの子のものなのだ。それはなぜか。この子の魂は私の魂の一部だからです。だからこの子は私の半身なので双子、いえ、一部だけなので妹かな?
やはり妹となるとこうやって優しくしたくなる。私は家族には優しいですからね。それでなぜこのようになったのか。その原因は次元の狭間で私の体と魂の接続が不安定のまま戻ったからです。
その時に私の体の一部と魂の一部が切り離された。私の力は魂に宿っている。だから私の力はなくなったのだ。よくよく調べるとこの子は私の存在も一部受け継いでいる。なのでこの子も吸血鬼の再生能力がある。
しかし、子どもの姿になったのはどうやら魂が一部だけだったことが関係あるのかもしれない。それに体も一部なので吸血鬼の血も薄くなっている。そして、妖怪の血はそれ以上に薄くなっているようだ。
その代わりあるはずのない人間の血が濃かった。私は人間という存在を持っていないため人間の血はない。どういうことだろうか。うーん、分からない。とりあえず保留ですね。
今、この子には『眷獣』と『あらゆるものを作り出す程度の能力』が宿っている。さらに体の一部も私から切り離されたので気や魔力も持っている。しかし、存在の大半が人間を占めて幼いこの体では気や魔力には耐えられない。
「本当はね、君には耐えられないとか、そういう理由だけじゃない。もう君は私から離れた存在。この人生は君のもの。だから、もし君が大きくなって自分の存在を知ったとき、人間でいたいか聞かせてね」
「??」
「あはは、まだ分からないよね。それでいいよ。今は幸せに暮らしなさい」
「ん?」
私は人差し指を女の子の額に当てた。一瞬だけ指先が青白く光った。
「!!」
「ああ、大丈夫。心配ないよ」
私がしたのは魔力と気の封印。いつもは札を使っていたが、この程度の封印なら札を使わずに術式を作ることができる。私は腰を上げ母親のほうへと向き直る。
「この子達の名前はなに?」
「えっとね。男の子のほうは一誠で、女の子のほうは信乃よ」
「へー」
ふむ。おそらくだが『しの』という名は私の『薬信』から来ているような気がする。これもよく分からない。
「お母様、どうするんですか?」
フェリが私の背に合わせ腰を下げ小さく言う。
「力は奪わん。このまま放置じゃ」
「なぜです?」
「理由はあとじゃ」
「分かりました。ではそろそろ帰りましょう」
「そうじゃな。家をまだ見ておらんしな」
家は私が設計したものを作ってもらった。信乃が持っているあらゆるものを作り出す程度の能力があれば、私がすぐにでも好きなように家を作り出せたのに。
「み、御魂。そろそろ帰りますよ」
「はーい!」
私は子どもらしく元気に返事をした。うう、こんな元気に返事をする私なんて、なにか嫌だ。いつもはもっとクール系なのに。
「では、私たちはこれで失礼しますね」
「はい、分かりました。それにしても御魂ちゃんでしたっけ? あの子は不思議な子ですね。信乃は勝手に人に触られるのを嫌がるんですけど、御魂ちゃんに触られても嫌がりませんでした」
最後のそう言って信乃たちは家の中へと入っていった。
◆ ◆ ◆
家は寝殿造の家をモデルとしているため、二階はなく中央には大きな庭がある。しかし、池はない。あればよかったのだが、管理が大変になるので作られていない。代わりに桜の木が植えられている。
それらは木の苗ではない。すでに成長した木を植えてもらっている。だから春になればすぐに桜の花で溢れる。おそらく家の中から見る桜は絶景ともいえるものになるだろう。そこで私は茶を飲みつつくつろぐ。
それらを眺めていた私は春の妄想に浸かっていた。とてもおばあちゃんくさいが長生きすればそうなってしまう。そうなりつつも私は家の中を一通り見て満足した。全てが私の思ったとおりのものだった。
あとでサーゼクスにお礼を言っておかないと。そう思うが後ろで、
「あはははははっ! さっきの母様、可笑しかった~! はは、思い出しただけで笑っちゃいます!」
「わ、笑っちゃいけま……くすくす……せんっ」
思いっきり笑われました。私だってやりたくはなかったよ! でも、いくらこっちが年上でもこの姿じゃ人間には通用しないもん! それでプライドなんて関係ないと思ってがんばったのに、二人は笑うなんて!
なんだか腹が立ってきた。これは怒っていい場面だよね? そうだよね。うん、怒っていい場面だ。私はゆっくりと振り向く。その私の顔は下を向き長い髪のせいで二人からは見えない。
「!! さ、咲夜。もう、笑うのは止めたほうが……」
「はははは! なんでですか? だっておもしろかったじゃないですか! 姉さまだって同じくせに!」
「いえ、そうじゃなくて本当に……」
「はははははは!」
フェリは咲夜の身の安全のためにと思い、咲夜を止めようとするが咲夜は笑い続けます。ふふふ、咲夜はフェリに愛されていますね。私は一瞬で咲夜の後ろに立ち、後頭部を掴む。
「ははは、へ?」
咲夜は掴まれたことに気づく。だが咲夜に抵抗などさせる前にそのまま家の四方を囲む築地塀へと投げ飛ばした。咲夜は築地塀に頭からぶつかった。そして、地面に顔面からぶつかった。
落ちた咲夜は主に頭を抑えてもだえた。どうやら落ちたときの衝撃よりも投げられたほうの衝撃が痛かったようだ。
「いったい! 母様! なにを……す………るん……………です…………………………か?」
「ふふふ、お前たちにはお仕置きが必要なようだな」
私は不適な笑みを浮かべた。まだ怒られたことのない咲夜は私の怖さを知らない。そしてフェリは私の怖さを知っている。だから、
「お母様、私は笑っていません! なので見逃してください!」
「姉さま!? 私を見捨てるんですか!? 姉さまは嘘をついていますよ!!」
こうなる。フェリは咲夜を見捨てて逃げようとした。さっきまでは咲夜を守ろうとしたが、やはり最後は自分の身が大事なようだ。
「咲夜だってお母様のお仕置きをされたら同じように言います!」
「ふふふ、心配するな。二人ともちゃんと怒ってやるから」
「そんな!?」
その後、二人の声が響いた。
◆ ◆ ◆
「フェリ、お主は信乃について調べてくれ」
「分かりました」
「咲夜はフェリの手伝いを」
「はい!」
ある日私は二人に信乃のことについて調べるように指示をした。私はなぜああなったのかを知らないといけない。私にはそうしないといけない責任がある。あの子はすでに私とは別々の存在だ。
私が娘を心配して不安定なまま戻ったせいで生まれた存在。ただそれだけならよかった。それが故にあの子はとても不安定な存在だ。その不安定な存在だから何が起こるか分からない。
だから何があったのかを知るべきなのだ。知っているのと知らないのではぜんぜん違う。その対処だって違う。
「それで聞かせてもらえますか? あの子を殺さなかった理由を」
「うむ、説明しようか。あの子が私の妹だからだ」
「「はいっ!?」」
その衝撃的な発言に二人は声を上げた。
「う、嘘ですよね!? 私、お母様に妹がいるなんて聞いてませんよ!! というか、それが事実としてなんでその妹にお母様の力があるんですか!! というか、妹ならなんであんな姿になっているんですか!!」
「ちょっと落ち着け。ちゃんと説明するから」
「そうしてください!!」
私はあの子のことを二人に説明した。
「そうでしたか。あの子はお母様の一部ですか」
「ならどうしますか? 殺さないと無理ですよ!」
「ええ、そうですね。咲夜の言う通りです。力を得るためにはそうしないとダメです」
私の答えは決まっている。
「言ったじゃろう。信乃は私の妹。力はもうあの子のものじゃ」
「あきらめるんですか? お母様の力は強力なんですよね? それをまだ幼いあの子に。危険では?」
「問題ないじゃろう。持っている魔力も気も封印しておるし、力をうまく制御するにはまだ無理じゃ。それにきっと悪用はせんじゃろう」
「自信満々ですね。どうしてそんな自身が?」
「あの子は私とはもう別々の個体じゃが、それでもやはり私なのじゃ。だから悪用はせんじゃろう」
「……不安の残る自身ですね。でもそれでもあの子が力を悪用したらどうするんですか? お母様ならどうにでもできますが、あの子は人間に縛られています。捕まればきっとその後の人生は実験動物ですよ」
人間はいつでも力を欲す。もしも人間が不思議な力があると知れば、それはみんな欲しがるだろう。不思議な力は、特に私の力は使いようには世界の軍事バランスさえも変えてしまう。その力を得るために信乃を実験される。
それは信乃だって嫌だろう。それはもう幸せではない人生だ。ならばどうするか。
「そうなれば信乃を殺すだけじゃ。もし実験動物にされなくてもな」
「なぜです? 人間を止めさせればよいのでは?」
「力を悪用するような子を人間でなくすれば、きっと私たちに害をなすだろう。じゃが、もちろん悪用せずに善のために力を使いばれたのなら私が手助けをするさ」
「やっぱりやさしいですね」
「どういう意味じゃ? 私は家族には優しいぞ」
「そうですね。お母様は家族には優しいですね。でも他の人には容赦しませんね」
「当たり前じゃ。私は他人には興味ないからな」
家族や友人ではない限り私は興味がない。私は二人に近づきその頭を撫でる。二人の髪はするりと最後まで流れた。撫でられている咲夜はいつの間にかフェリの肩を枕にして眠っていた。さっきまでは眠そうな雰囲気はなかったのに。
まあ、仕方ない。まだ子どもですからね。刀のときから意思があったとはいえ、人型ではまだ2歳くらい。まだ幼い。子どもはよく寝るからまだ寝かせよう。肩を枕にされているフェリはそのまま枕になっていた。
まだ咲夜が妹となってわずかだが、どうやら仲はいいようだ。母親としてはそれはいいことだ。とても微笑ましい。ああ、写真がなにのがもどかしすぎる! 今度買わないといけない。
娘の成長記録…………はもう無理だけど、こういう二人の仲のいい姿を撮るのはまだ大丈夫だろう。ああ、やっぱりあの力だけでも返してもらいたかった。あればカメラなんて……。
「咲夜は可愛いですね。とてもいい子です。私はこの子が妹でよかったです」
フェリは自分の尻尾で咲夜を包み込む。春に近い今、まだ春の暖かさはなく寒い。咲夜は無意識にその尻尾を布団にしようとした。ああ、愛くるしい! 抱きしめたくなる! でもそうしたら起こしてしまう。
起こしてはダメだ。起きているときがダメだというわけではないが、起きているときなんてさっきまで見ていた。今見たいのはこの無防備なこの姿だ。起きているときと寝ているときでは全く違う愛くるしさがある。
「お母様はどう思います?」
「うむ。可愛いな。じゃが、お主も可愛いぞ」
「そういうお母様だって可愛いですよ」
「それはこの姿のことじゃろう。あまりいい気持ちではないな」
「そうですか? でも、本当のことを言うと私がお母様で思いつく姿はその姿です。あの姿はどうも慣れなくて」
それはそうだ。フェリの前であの姿になったことなんて滅多になかった。フェリにとって私といったらこの姿なのだ。あの姿はフェリにとって別の人と同じだ。そういえばフェリを娘にしてからはあまりあの姿にこだわることはなくなった。
いや、気にすることがなくなったのかな。子育てに忙しかったからそのせいだろう。昔は、特に封印に成功してすぐのときは一番こだわっていた。私も変わったんですね。
「話を最初に戻しますが、明日から信乃という子を調べます。けど、どうすればよいのですか? こういうことは初めてなんですが」
「なに簡単じゃよ。一誠という子がおったじゃろう。あの子に聞け」
「子どもですよ? 4、5歳ですから分からないのでは?」
「いや、分かるだろう。おそらくだが、信乃があの家の子になったのはあの子が関係している」
「なぜです?」
「勘じゃよ。ん? 信じられないという顔じゃな。まあ、調べてみよ。もし外れていたらそのときじゃよ。あの母親に聞けばよい」
「分かりました」
私はゆっくりと立ち上がる。