がんばって早く本編へいきたいです。
ちなみにここから数話は会話はほとんどありません。
第1話 私は狐になったの?
新たなる世界で私は目を開ける。
最初に見たのは大きな狐の姿だった。人間以上の大きさを持ち、なぜか茶色ではなく金色の毛並みをもつ狐だ。しかも見事な金色である。光が反射し、きらきらと輝いているのだ。
あれ? ちょっと待って。何でこんなに大きな狐がいるの?
少々恐怖して周りを見渡すとすぐそばに子狐の姿が二つあった。ただし、人間くらいのサイズ(今の私と同じサイズ)だが。
頭を回転させるが前世の知識の中に人間大の狐やそれ以上の狐がいるなんて聞いたことがない。
ま、まさかこういう世界に転生したの? でも、いきなり狐の餌という状況で転生なんてどうなのよ。普通こういうのってまずは安全地帯から普通に生きていくんじゃないの? なのにこんなのって……。もしかしてここからがんばれってことなの? だとしたら無理ゲーだよ!!
私に知識はあっても記憶はない。記憶がなければどんな知識があるかなんて分からない。故にすぐさま対処できることは少ないということだ。
けど、よかった。狐たちは今、寝ている。つまりうまく逃げたら私は助かるということだ。
ふと見上げると月明かりが葉の隙間から周りを照らす。照らされた周りの木や草が大きく見えるのは気のせいなのだろうか。
とりあえず、ここから脱出しようか。まずは、立ち上がって……ってあれ立てない。
足で立とうとすればうまくバランスが取れずに前倒れになる。わけがわらないがとりあえず四つん這いになる。すると、なぜかしっくりとくた。まるでこっちのほうが自然のようであった。
この状態で歩けば安定感があるのは当たり前だが、それ以上に歩いているという感覚になるのだ。
そういえばなんか他にも色々と体の感覚がおかしい。
まあ、とりあえず四つん這いでもいいからここを出ようか。そう思い何歩か歩いてみる。そして止まる。
う~ん、やっぱりなにか違う。なんだろうか。初めての感覚で言葉で表すことができない。
とりあえず、感覚だけじゃなくておかしいと思うところを見てみるか。もしかしたら私の体に異常が起こっているのかもしれない。そう考えればこの感覚は納得できる。
では早速と下を見てみた。四つん這いなので手が見える。だけど、私が見たのは獣の足。人間の手ではない。
あ……れ? 私が見ているのは何? どう見ても獣の足じゃないか。これは夢なの?
そう思って自分の手を動かすとなぜかその獣の足が動く。私は冷や汗をかく。
だって、もう……ここま、で……くれば、分かる、でしょ?
どう考えても私の体が何かの獣の体になっているということだ。その証拠にお尻部分の何かを動かすとそれにあわせてパタパタと音を立てるのだ。ためしに後ろを見ると何かが左右に音に合わせて動くのだ。獣ではない限りないはずの尻尾が私の思ったとおりに動いていた。何回体を動かしてもその部分が自分の意思通りに動く。
しばらく私の体を観察していると、私は狐になっているということが分かった。
はあ……狐、か。人間じゃなかったけど狐ってよく見ると可愛いからいいか。変な可愛くない生き物にならなかったと思うだけで良しとしよう。
なんとか前向きに考えることができた。
ところで目の前の寝ている大きな狐は母親、私と同じの子狐は私の兄妹であるようだ。こちらも母狐と同じく金色の毛並みを持っていた。もちろん私も持っている。
とりあえず、自分が狐で他の狐たちは私の家族ということで逃げる必要はなくなった。私もこの母狐の子どもなら私を殺すということはないはずだ。
しばらくの間、私は育ててもらおう。そう私は思った。
しばらくぼーっとしていると子供の体のせいかとてつもない眠気に誘われ、そのまま眠りについていた。
いい夢を見られるといいな。というか私が狐ということが夢だといいな。
◆ ◆ ◆
誰かが私を呼んでいる。ただそんな気がする。
私は意識をゆっくりと覚醒していき、目を開けた。開けた瞬間、目に太陽の眩い光が入って来る。
まぶしい……。でも、暖かい光だ。心地よい。それは今が朝だと示す太陽の光だ。今はもう朝か。
そんな光を何かのシルエットが遮った。
むう、せっかく太陽の光を楽しんでいたのに。
そのシルエットは三角の耳をした獣、狐であった。おそらくこれは昨日の夢に出てきた狐だろう。大きさからして母狐だ。
母狐の持つ金色の毛が太陽の光を反射させてキラキラと輝かせていた。
私はその光景に見惚れる。
き、きれい……。こんなにきれいなの見たことない……。これならいつ見ても飽きないかも。これはもう一種の芸術品! 生きた芸術品だ!
私がボーっと見ていると母狐はゆっくりと私に近づいてきた。そして私の顔をペロペロと舐めてきた。
うひゃっ!?
私は思わず跳ね起きて一気に後ろへと下がった。
な、なに!? なんで夢なのにこんなぬるりとした感触があるの!? ま、まさか夢じゃない!? 現実!?
これでようやく私は自分が狐になったことが現実だと理解した。いや、させられた。
う、うう、やっぱり狐に転生しちゃったのか……。ならえっとつまりこの母狐が私のお母さん、か。
人間だった私は家族になれるかどうか不安になる。
あっ、でも、そういえば私はこの母狐の子どもなんだよね。つまり私にもあの金色に輝く毛を持っているということだ。人間だったら手に入れられないものだ! 狐でよかった!
私は自分が狐になったことをなんとか自分を誤魔化して受け入れた。
私がそのままじっとしていると母狐、いや、お母さんが私の首元に噛み付いてきた。
うわっ、い、痛っ―――くない? いや、ちょっと痛い。
ああ、どうやら私は運ばれているようだ。そして、ある場所へと運ばれる。私の兄弟がいる場所だ。
あれ? なんで離れているのかな? ちょっと離れたけどそんな移動させられるほど動いていないんだけど。きっと私の寝相が悪かったんだ。その証拠に私の体には草や土が付着している。多分、転生したということもあって寝相が悪かったんだ。
ちょっと恥ずかしくなる。
兄妹がいる場所に着くと私は優しく置かれた。
兄妹も起きていて私を迎えてくれる。
で、分かったことだがどうやら二匹の子狐は私の兄と姉のようだった。私が三番目に産まれたらしい。
そっか。じゃあ、お兄ちゃんとお姉ちゃんなのか。そして、私は二匹の妹。
なんだかうれしい。そんな気持ちが溢れる。
二匹の子狐、お兄ちゃんとお姉ちゃんが私に近づき、私をペロリと舐めてきた。驚きそうになるが、二回目ということもありなんとか驚かずに済んだ。
え、えっとずっと舐めてきているけどこれってスキンシップだよね? なら私も舐め帰したほうがいいのかな? で、でも、な、舐めるのか。
獣たちが行うスキンシップは人間だった私からすると結構抵抗のあるものだった。
なにせ獣は服も着ないし、そう頻繁に水浴びなんてしない。つまり言っては悪いけどちょっと汚いのだ。
ど、どうしよう。ここでやらなかったら絶対に捨てられる! それだけは嫌だ。捨てられたくない!
私はどうしてか家族(狐だけど)に捨てられることを恐れていた。まだ家族になったばかりだったのに私はそれを恐れていた。特に『私を捨てる』『私の前からいなくなる』ということを恐れていた。
どうやら私はこの三匹を家族と無意識に認識しているらしい。だからそう感じているようだ。この感情もきっと前世の私が関係しているのだろう。私の前世で家族に関して何があったのだ。それが気になる。記憶が戻ればそれもすぐに分かるのだろうが、まだ時間がかかると推測している。
とにかく私は捨てられたくないという一心でお兄ちゃんたちと同じように二匹の体を舐めた。
そのときの味はがむしゃらでやったので覚えていない。だが、スキンシップはすることができた。うまくできたと思う。
お兄ちゃん、お姉ちゃん、私の三匹はお母さんが見守る中、互いの体を舐め続けた。
そうしたあと、私たちはご飯を食べる。
私たち三匹はまだ小さいので、三匹並んで仲良くお母さんの母乳を飲んだ。
やはり最初は戸惑ったもののお母さんに怒られて大人しく飲んだ。その母乳は思ったよりも美味しかった。もう次からは戸惑わずに飲むだろう。それくらい美味しかった。
案外、私も狐で生活できるかも知れない。いや、僅かな時間だというのにもうすでに狐の生活に慣れてきている。
うん、適応力ってすごい。人間だったからかな? それとも心が狐になりかけているのかな? どっちでもいいや。人間だろうが狐だろうが私は私のなのだから。
時間はあっという間に過ぎて、夜となる。
私は私を守るかのように左右で寝るお兄ちゃんとお姉ちゃんのぬくもりを感じながら寝た。
その日、つまり転生をした日から翌日の夜。私は夢を見た。
その夢の私は人間の少女で薄暗く機械だらけの汚い部屋の隅で泣いていた。
どうして泣いているのかは私には分からない。その人間が前世の私とは限らなかったからだ。だがきっと前世の私だろう。なのに分からないのは記憶がないからだ。
記憶さえあれば分かったのに……。
それで夢の中のその少女はずっと泣いていた。夢の中で一日が経ったが、少女の行動は泣くか画面に向かってキーボードをカタカタと押すだけであった。
少女は先ほどとは違いうきうきとした表情で画面に向かっていた。
なぜなのかは私に分かった。
この作業が少女の願いへと繋がるからだ。膨大な時間がかかるがそれでも自分の願いが叶うから。だからこうしてうきうきできて、それ以外の時間はその願いが恋しくて泣くのだ。
でも、分かるのはそれだけだ。その願いが何なのかは全く分からなかった。それが何かを知りたかった。それが気になった。
そう思っていたとき、私は部屋の中で泣く少女の呟きを聞き、願いを知ってしまった。
「う、うう……ぐすっ……家族が……欲しい、よ……。ぬく、もりが……欲しい……」
確かに少女は今にも消えそうな小さな声で呟いたのだ。
そこで私の夢は終わった……。
起きてからゆっくりと周りを見回せばそこには私の家族がいた。
私たち兄妹は並んで寝て、お母さんは私たちを守るかのように私たちの周りをでかい体で囲んでいた。
うん、とても暖かい。ぬくもりがある。
それを感じて私は夢の中の少女が何を欲しかったものをよく理解した。そして、自分がなぜあの時、捨てられるということを怖がったのかを。
少女は、私は家族とそのぬくもりが欲しかった。それで私は転生したことによって家族とそのぬくもりを手に入れたのだ。それがなくなるのだから怖がって当たり前であった。
前世の私に何があったのか知らないが、私は家族を失ってはいけないのだ。それが分かった。
◆ ◆ ◆
あれから数ヶ月が経った。
私は狐として立派に成長していった。狩りも立派もできるようになった。
この土地は少し不思議。見たことのない植物がたくさんあったのだ。けれど、それらは全てお母さんが教えてくれた。
おかげで今では食べていい植物がどれか分かるようになった(狐も植物を食べるみたい)。
前に一度毒草を食べてお腹を壊したときはとても後悔した。もうあんなことにはなりたくはない。だからそれ以来、慎重になった。私もバカだったな。
お兄ちゃんとお姉ちゃんだが二匹は私をとても可愛がってくれる。特に体が大きくなってからはそうだ。体が大きくなったということはある程度考えるということが身に付く。なので、二匹よりも体が小さい私を守るようにいつもそばにいてくれるのだ。
前に小さな傷を負ったときには二匹は大げさに心配して、まるで私が死んでしまうのではないかとでも思っているではと思うほどだった。お母さんはそんな二匹の姿を見て笑っていた。私も思わず笑ってしまったが。
二匹の私への心配はとても愛を感じるものであった。私はそれがとてもうれしいのだ。私の前世を覚えているわけではないが、前世で得ることのできなかった温かさが心を埋めていくのを感じている。
人間ではなく狐に転生したのだが、狐の生活というのは案外悪いものではなかった。むしろ狐の生活だからこそ幸せになれたと言っていい。
誰にも襲われないこの日々は私の特典によるものだろうが、そのおかげで私たちは幸せな日々を過ごせている。やっぱりこの特典を望んで正解だった。
でも、もう一個の特典は無駄になっちゃったなあ。狐だったら人間用の道具なんて使えないから。
まあ、いいや。私が前世で望んだものは手に入ったのだ。それでよしとしよう。今度こそ私は幸せになる。そして死ぬ。私は狐の短い人生を幸せでいっぱいにして死にたいのだ。前世の記憶はないけど、前世の私もそれを望んでいるはずだ。
私はそう全く知らない前世の自分に対してそう思う。
私は私。前世の私も私。私は前世の私。とにかく全部私なのだ。決して間違いはないはずだ。
それも全て記憶が戻れば分かる。
ああ、でも狐の人生は短いのでその間に思い出すだろうか? ちょっと不安だ。
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