授業参観から数日後。私は一人で旅をすることに決めた。ただなんとなくしたほうがいいんじゃないのかなと予感したからだ。神様でもある私の予感。それはある意味、私が運命かなにかを察したのかもしれない。
さてさて、では私の旅では何があるというのだろうか。誰かに出会うのかな? 何かとんでもないことがあるのかな? とにかくそれを知るためには旅にでるしかない。それが良いことだろうが、悪いことだろうが。
どちらにしても私の力があればなにもないだろう。私はこの世界ではあらゆる存在を超越している生き物なのだから。
私は決めた当日、二人の私の娘であるフェリと咲夜に話した。私は一人で旅に出ると。
「なぜ私たちを連れて行かずに一人で?」
「そうですよ! 私も行きたいです!」
「私も行きたいのですよ」
早速二人がついて行きたいと言った。まあ、予想はしていたよ。でもごめんね。
「すまんがそれは無理じゃ。お主らはお留守番。これはただの旅ではない。この旅はちょっとした目的があるんじゃよ」
「目的が? それはなんです?」
「なんとなくじゃが、何かあるような気がしてな。だからこれは一人で行きたいんじゃ。それに少し長い旅行じゃ。フェリは学校があるじゃろう。お主に学校を休ませるわけにはいかん」
「そ、そんな。うう、お母様と一緒に旅にしたかったのに……」
耳を倒して落ち込んでいた。ああ、可愛い。まったくなんでフェリはそんなに可愛いの? もう可愛すぎて今すぐギュッて抱きしめたい。もちろん咲夜も。でもこの小さな体じゃ二人一緒は無理だ。
抱きしめるなら二人一緒に抱きしめたい。みんな平等だからね! 一人一人で対応したら、もう一人が嫉妬しちゃうからね。可愛い娘同士が嫉妬し合うなんて見たくないよ。
「なら、私がついて行ってもいいですか? 私は来年まで学校はありません! どうです?」
「ダメじゃ。さっきも言ったがこれは私一人で行きたいんじゃ。それに咲夜までついて行くとなるとフェリが一人で留守番になるじゃろう。姉が一人で留守番でいいのか? きっと私が旅に出ている間、フェリは一人で泣きそうな顔でご飯を食べているぞ」
「それは……嫌です! 姉さまが悲しく留守番するところなんて見たくないです!」
「じゃろう。じゃから残れ」
「う~、分かりました……」
咲夜も落ち込む。そこでフェリは一瞬だけ喜んだように見えた。だが、次の瞬間にはいつもの落ち着いた顔になる。多分、咲夜が残ると言ったからだろう。それがうれしかったから喜んだのだろう。
二人には本当に悪いですが、しかたないです。私だって本音を言えば二人を連れて旅に出たかった。そして、旅を楽しみたかった。その期間は四週間くらいです。うう、約一ヶ月間。その間はフェリたちに会えないし触れられない。
旅から帰ったらその一ヶ月分のフェリたちに会えなかったときの寂しさを一気に消化しないと。私はその翌日、旅に出た。もちろん二人の娘に見送られて。
そして今、私は今日本の山奥にいる。なんとなくで行ってみるとこの山奥に来てしまいました。確かにここには何かありそうな気がする。起こりそうな気がする。ここに何かあるのでしょう。
さてならここで待とうか。ここは自然が多い場所だ。私としてもここで過ごすことにはうれしい限り。今の時代は空気が汚れすぎている。ここはまだマシなほうだった。
とりあえず具現化能力で小さな木でできた小屋を作り出した。その小屋はしっかりとしていた。木と木の隙間もなく隙間風が通ることもない。一時的な家とはいえしっかりとしていないと。
小屋の中には一応棚などがある。ほかにもちゃぶ台やらの家具が。さてとここは自然の多い場所。昔やった薬草でも採ってこよう。
◆ ◆ ◆
二人の少女が木々の間を走りぬく。二人の少女の容姿には人間にはないものがあった。獣の耳と尻尾だった。種族は妖怪で猫又。二人の少女の関係は姉妹だった。だが髪の色は全くことなる。一人は黒髪。もう一人が白髪だった。黒髪の少女は白髪の少女よりも背が高く、そのスタイルは異性を惑わすには十分な体つきであった。
彼女と同年代の他の少女と比べても、特に胸が大きい。しかし、彼女はまだ十代前半なのだ。つまりまだ成長するということ。そうなればますます異性を惑わすだろう。そして、彼女の服装だが、彼女は和服を着崩している。
おかげで胸の上部分が丸見えとなっていた。惑わす体つきがこうやって一部だけ晒されることによって、逆にさらにその魅力が増していた。
対照的に白髪のほうの少女は一言で表すのなら幼い。黒髪の少女とは二つ年下。つまりは白髪の少女は妹だった。だが、幼いスタイルだった。胸はわずかにしかない小さな胸。
同年代と比べても姉とは反対に小さい。その幼さは彼女の年よりも小さな年の少女と比べても違和感がないほどだった。それほどにも彼女の成長は遅かったのだ。白髪の少女は時折自分よりも同年代の少女よりもスタイルのいい姉に自分の分の成長を取られたのではないのかと思っていた。
黒髪の少女の名は黒歌。白髪の少女の名は白音。そんな彼女がなぜこの木々の中を必死に走るのか。それは彼女が追われていたからだ。少女たちの後ろからは何人もの人たちが少女たちを追っていた。ではなぜ追われているのか。
それは黒歌のやったことが原因だった。黒歌は妖怪であったが、白音のためにある悪魔の下僕となり転生悪魔となった。そして、いつの日か黒歌は白音を守るために自らを暴走させ主であったその悪魔を殺した。
結果はこうして追われることとなった。そのとき本当は白音を連れて行かないつもりだった。しかし、白音も来てしまった。白音に黒歌と離れるという選択肢はないからだ。それからは逃亡の生活。
それは大変なものだった。なぜなら主を殺した悪魔ははぐれ悪魔となり、悪魔や他の勢力から狙われることとなるからだ。つまり味方なんてほとんどいないと同じだ。黒歌たちは何度も追ってを全滅させた。
そして、SSランクのはぐれ悪魔となったのだった。ならば今回も全滅させればいいのだが、黒歌はそうしなかった。なぜなら力を使うたびに白音がその姿に怯えたから。黒歌はそんな顔を見たくはなかった。だから逃げているのだ。
「ハッハハハ、SSランクのはぐれと聞いていたがただ逃げるだけかよ。たいしたことは
ないな。つーか、こんな奴らにやられた奴って、どんだけなんだよ」
「言えてるな。どうせ自滅でもしたんだろ。だが、これで大金は俺たちのものだな」
「無駄話はいい。さっさと殺すぞ。だが、顔は残せ。身分証明にはなるだろう」
「ハハハハ、分かった! これでもくらえ!」
追っ手である悪魔は二人を殺すことを楽しんでいた。彼らにとってこれは遊びであり、楽しい狩りなのだ。彼らは賞金首を狙う賞金稼ぎだった。彼らの一人が黒歌たち二人に魔力を放った。
それは二人の近くで爆発した。それが何度も何度も繰り返される。その爆発の余波で少しずつ二人の体力が削られていった。そしてついに白音に向かって魔力が放たれた。そして、爆発。白音の体が宙に舞い上がる。
「白音!!」
黒歌は大切な妹が死んだと思った。黒歌の心が壊れかけた。白音の体は地面に叩きつけられる。黒歌はすぐに駆け寄った。ひどい。白音の体はその言葉がふさわしいほどの傷だった。重傷だ。
助かるか助からないかで言われれば助からない。それほどの傷だ。直撃を食らったと思われる背中は皮膚はすでになく、肉や背骨がむき出しになっている状態。白音はそんな状態でわずかに息をしている状態だった。
思わず黒歌は目を背けたくなるものだった。しかし、追っ手は手加減していた。白音に向かって放った魔力だけは手加減をしていたのだ。
「おいおい、ちゃんと生きてんだろうなあ? せっかくの二匹の獲物だぞ。あとでゆっくりといたぶるつもりだったんだ」
「ちっ、失敗したぜ。だが、あと一人だ。それでいいだろう?」
「そうだな。それでいい。あとで罰ゲームだからな」
「まじっすか」
追っ手たちはそんな話をしていた。
(ふざけるな!! 私たちはおもちゃじゃない!! こんなおもちゃみたいな扱いで白音は……!!)
大切な妹を死という未来にされた。だから許せなかった。まだ白音が生きているということで黒歌の心はまだ壊れていない。白音が死ねば黒歌は壊れるだろう。そして、破壊だけを目的したただの化け物となるだろう。
黒歌は壊れはしなかったが、心は闇に染まる。今はただ白音が怯えるこの力を使うだけだった。
……………
……………………………
黒歌は力を使い追っ手たちを全滅させた。死体は残っていない。黒歌は自分たちで遊ぼうとしていた追っ手を逆に動けなくして、散々にいたぶりじわじわと殺していた。そして、最後は死体を塵に。
黒歌の闇はそれで治まった。黒歌はだがまだ心に追っ手のしたことについての許せないという気持ちが残っている。なぜなら白音は死ぬからだ。黒歌は白音を背負って歩く。せめてはきれいな場所でと思って。
そこへ着くまでの延命処置として黒歌は治癒を使っていた。治癒は人の持つ自己再生能力を上げることによって傷を塞ぐものだ。これは仙術の一つだ。
「ねえ、白音。私はあなたといることができて幸せだったのよ。そして、ずっといたかった。だからあのとき、私はあなたを捨てて行くつもりだったのよ。だって、そうすればあなただけは生きてくれると思ったから。そして、いつか会えると思ったから」
黒歌は意識のない白音に独り言のようにしゃべった。告白のように自分の心の内をしゃべっていく。
「でも、そうだったとしてもあなたは私のことを恨んでいたんでしょうね。だって、あなたからしたら私は、あなたを置いて逃げたんだから。でも、お姉ちゃんは白音のことを愛しているから。これはどんなことがあっても変わらないから。だから私はあなたがいなくなったら壊れちゃう」
黒歌は白音が死んだら自分が壊れることを自覚していた。だから、白音が死んだとき、黒歌もまたその場で死ぬと決めてた。黒歌は背負っている白音の体温を感じる。体温はどんどん冷たくなっていく。
そのたびに黒歌の心はゆっくりとボロボロと壊れていく。そして、涙を流す。悲しい。自分以外のたった一人の家族がいなくなるのだから。涙を止めようとするが、それとは反対にどんどん涙が流れた。
そして、声を上げて泣きたくなった。だが、黒歌はあげなかった。最後の姉としての意地だった。もしも最後に白音が起きてそんな姉を見たら、白音が不安になるだろう。姉が自分の前で見たこともないほど泣いて、その原因が自分にあったら白音は後悔をして死んでいく。
だからせめてはそんな後悔をさせないように死んでほしいと思ったのだ。これが黒歌の最後の白音にしてやれることだった。
「白音、あなたから先に逝っちゃうけど、安心してね。私もすぐに逝くから。あの世ではもっと一緒に幸せに暮らしましょう。そして、来世でも一緒にね。来世は人間かな? 動物かな? でも……なんでもいい。白音と一緒にいられるなら」
白音はずっと死んだように眠る。いや、もしかして実は死んでいるのかもしれない。だが、黒歌はたとえ白音が死んでいたとしても、確かめる気にはならなかった。確かめたくはなかった。だから、信じて歩き続ける。白音と自分にふさわしい最後の死に場所を探すために。
それが今の黒歌の目的だった。そして、何時間。本来なら白音は出血多量やその怪我で死んでいるはずだが、黒歌の治癒によってなんとかわずかに生きていられた。だが、もうこれ以上は無理だった。
確実に死への時間は近づいていた。いつまでも死に場所が見つからなかった。だが、別の場所が見つかった。ある小屋だった。どう見てもまだ新しいものだった。
(これは……夢?)
こんな山奥に真新しい小屋。どれだけ新しいのかは専門家ではない黒歌には分からなかった。人里からも離れている。どう考えても便利ではない場所にある。しかし、好都合。黒歌はこのまま歩き続けてもきっと自分が望む死に場所は見つからないと判断した。だから、この場所で死のうと。
しかし、もしこの小屋が古いものだったら歩き続けただろう。新しかったからこの小屋を死に場所に選んだ。さっそくドアに手をかける。ドアは鍵がかかっていないらしく、キィッという音を立てて開いた。
中に誰もいないということはすでに確認済み。中に入る。中はやはりまだ誰かが住んでいることを証明する生活観があった。まだ新しい何かの草、敷きっぱなしの布団、そして洗い忘れた食器。それも昨日今日にも生活していた様子。
ただの小屋ではなく家としてここに住んでいるらしい。
(いつ帰ってくるのだろうか?)
疑問に思った。だが、別に黒歌は見つかって小屋の主に通報されるということを危惧はしていなかった。相手は人間。そして黒歌はSSランクの悪魔。その実力は最上級悪魔に匹敵するほどの力を持つ。
今更人一人を殺したところでどうにでもならない。どうせ同じだと考えていた。邪魔をするならただ殺すだけだ。黒歌は白音を布団に寝かせた。じわっと布団に血がにじむ。
「ね……え、さま」
意識を取り戻した白音が黒歌を呼ぶ。その声は弱弱しい。黒歌は自分の心を落ち着かせる。
「どうしたの?」
「私……は、どうなるん、です……か?」
白音はほとんど回らない頭でぼんやりと自分のことを感じていた。
「だ、大丈夫にゃん。今はお姉ちゃんの治癒で治しているところだから」
白音を安心させるために少々テンションをいつもどおりにしてしゃべった。なにも違和感はないはず。しかし、
「無理……していません? なんだか……いつも、と……違います、よ」
「気のせいよ。ほら、まだ白音の傷は塞がっていないんだからもう寝なさい。私はずっと一緒にいるから」
「やっぱり……無理してませんか?」
「もう! 怒るわよ。寝なさい」
「分かりました。……おやすみ……です」
「うん、おやすみ」
そして、ゆっくりと白音は目を瞑った。まだ死んでいない。ただ眠っただけ。弱弱しい寝息が聞こえると黒歌は再び声を出さずに泣いた。これが最後の会話。こんな短い会話だったが、黒歌は満足だった。
なぜなら白音の傷は深く、本来なら意識なんて戻らずに死んでいたのだから。だが、白音が目を覚まし、短かったが話すことができたのだ。だからもう……。黒歌は小屋にあった包丁を手に取る。
黒歌はすでに死ぬ準備を始めていた。黒歌は白音が死んだ後、この家に火を放つつもりだ。そして、最後に黒歌は手に持つ包丁で自殺するつもりだった。黒歌はひとまず包丁を一旦置き、白音の寝る布団に入った。
今日は何もかもが最後となる。黒歌は弱弱しく息をする白音の頭を撫でた。やはり肌は冷たい。黒歌はまた泣きたくなった。と、そのとき、突然いきなり人の気配がした。
「誰じゃ? 私の家に入っておるのは?」
すぐさま起き上がって出入り口を見ると、そこには金髪の髪を持つ巫女服を着た小さな少女が立っていた。
◆ ◆ ◆
さて、今日も外で薬草探しです。ここは自然の中。多くの植物があった。私はこの山に来てからは毎日、薬になる植物を探していた。これが一日のやることだ。太陽の昇っているうちに植物を探し、夜にはこれらを粉やらにして薬とした。
もちろん一日でできるわけではない。何日もかかるものもある。だが、私は何日もかかるこの作業が好きだった。このゆっくりとじっくりとが。まるで子どもを育てるようだから。
やはり私は世話好きなのだろうか。妖怪の集落にいたときもよく子どもたちの世話をしていた。そう思うとやはり世話好きなのだ。
なぜこういった薬草を使った原始的なやり方なのか。それは力に頼らないためだ。私の力は使えばなんとも便利なものだ。山を平らにしようと思えば平らにできるし、世界を凍らせようとすれば凍らすことができるのだ。
それほどの力。だが、もしも力を使えなくなったときどうなるのか。私はただの女の子にしかならない。無力はいやだ。だから私は力に頼らない技術を多くしっている。だから薬を作るのだ。
しかし、その薬もさすがに癌などを治すことはできない。治せるのはせいぜい風邪などの小さな症状だけだ。それにそういう薬は薬局という便利な店がある。つまり自分のこの作業は全くの無意味と言っていい。店に行けば簡単に買えるのだから。
だが、それでも今もやっている。もう今は趣味みたいなものになっている。
「ふむ。これでいいか」
籠には籠いっぱいある薬草があった。これだけあれば十分だろう。
「しかし、この姿はあまり慣れんな」
私はちらりとお尻部分を見る。そこにはなにもない。尻尾がないのだ。これは私が作った私やフェリのような獣耳や尻尾のある者が、人間の姿になるため札の効果だ。ここは山奥とはいえ、人に出会う可能性がある。
記憶を消してもいいが、そんな面倒なことはしたくはないのでこうしている。だが、とてつもなく違和感があった。いつもは自分の感情で無意識に動く尻尾がないのだから。尻尾はとても便利なのだ。
時には私の手になり時には武器となり、またある時は盾となる。そんな万能とも呼べる尻尾が。私は元人間だけど今はもう心は完全に妖怪だった。
「やっぱり妖怪の姿のほうがよいな」
私は人間の姿に愚痴を言いながら自分の仮の家へと帰った。私は帰る道中思い出していた。そういえば数時間前、魔力の反応があったなと。なんとも面白いものだった。複数人が二人を追いかけるという構図から、二人のうち一人の魔力が消えかかったときを境に立場が逆転していた。
狩るほうだったはずなのに逆に狩られるほうになっていた。まるで逆転だった。面白すぎて採取していた雑草を台無しにしてしまった。二人のうちの一人の魔力は戦闘が終わったのか消えてしまった。
どこへ行ったのかは分からなかった。もしかして、その二人が私の予感だったのだろうか。まだ分からない。まあいい。もしも本当にそうなら再び会うことがあるだろうから。会わなければ違うということだ。
そして、仮の家へと帰り着いた。ん? 私の家に誰かいる? 誰だろうか。もしかしたら迷ったのかもしれない。それでこの家に来たのかも。私は中へと入った。
「誰じゃ? 私の家に入っておるのは?」
いたのは二人だった。人間ではない。二人は獣耳を持っていた。妖怪、か。二人は布団に入っていた。そのうち一人、白髪の少女はほとんど生気を感じない。血の臭いがする。おそらく死に掛けているのだろう。命の灯火はあとわずかといったところ。
私が入ったことにもう一人、黒髪の少女が起き上がった。黒髪の少女が私に一瞬警戒したが、私の姿を確認したあとその警戒を解いた。おや、警戒を解くのか。多分私の見た目でそうしたんだろう。まだ甘いね。私が敵だったらどうするつもりだろう。
「え、えっとごめんね。ちょっとだけお布団借りているの。妹がちょっと怪我したから」
黒髪の少女は私を怖がらせないようにと丁寧に言った。やっぱり私をただの子どもだと思っているのだ。
「ほう。怪我、ねえ。そやつは死にそうじゃが? もしやさきほどの戦闘はお主らか?」
「っ!? あ、あなた、何者? ただの子どもじゃないわね」
「ただのこの小屋の主じゃ。敵ではない。お主が攻撃しない限りじゃがな」
「そう……」
「じゃがそうは言ったが別に私はお主らをここに留まらせる理由はない」
「ちょっと待って!! お願い!! 私たちを留まらせて!!」
「なぜ? お主らは見たところ妖怪じゃな。人間である私には救う義務はない」
黒髪の少女は私をまだ人間だと思っている。それを利用して私は今、黒髪の少女を試していた。
「でも、でも!! お願い!! この子はもう死ぬの!! この子が生きている間だけでいいからここに居させて!! あなたが望みを聞くから!!」
「私の望みを? なんでもか?」
私は目を細める。
「そ、そうよ。何でもするわ」
「よかろう。しかし、その子はもう死ぬのか? 助からぬのか?」
黒髪の少女は白髪の少女を見る。私も釣られて見た。血の気がない白い肌。そして弱弱しい息。すでに死にかけだと分かる。
「助からないわ。私の力じゃこの傷を治せない」
「あきらめるのか? お主はもっとその子といたいのじゃないか? このままでよいのか?」
「よくない!! 私は白音ともっと生きたい!! そして幸せになりたい!! でも、でも!! 白音は……」
黒髪の少女は涙を流した。それがどれだけ白髪の少女のことを思っているのかが分かった。その思いは私と似ていた。家族のためを思うその思いは。私はこの黒髪の少女を気に入った。
「ではお主はその子がもしも助かるなら何を差し出す?」
「命を……命を差し出すわ」
「よいのか? お主はその娘と生きたいのではなかったのか? それでは幸せにはなれんぞ」
「いいわ。どうせ白音が死んだら私も死ぬつもりだったんだもん」
黒髪の少女はそばにあった包丁に触れる。あれ? なんでそんなところに? ああ、なるほど。それを使って死ぬつもりだったのか。それは嫌だな。こんなにいい子が死んでしまうのが。
さてとこの子たちが運命と分かったし、それ以外でも私はこの子を気に入った。捨てる命なら私がもらっちゃおう。
「そうか。ならばその命、私のものじゃ」
「な、何を言っているの? 別に私はあなたにそんなことを言った覚えはないわよ」
「お主は言ったじゃろう。その娘が助かるなら自分の命を差し出すと」
「でも白音は助からない。もうどんなことをしても……。それは私がよく分かっているから」
「じゃから言っておろう。私はお主の命をもらうと。つまりその娘を助けてやると言ったんじゃよ」
「た、助かるの!?」
それに頷く。
「じゃが、やっぱり命はいらん」
ついさっきと変わってそう答えたのはそういうことにすると、なんだか相手を強制的にさせているような気がしたからだ。私のものにするならやっぱり向こうも納得してもらいたい。
「じゃ、じゃあ、何が必要? わ、私の体?」
「なんでじゃ! 私は女じゃぞ!! お主の目には私が男に見えるのか!?」
「ち、違うけど私が出せるものなんてあまりないから」
「とにかくいらん」
「ほ、本当?」
「本当じゃ」
「でもさっきは私の命が欲しいって……」
「とにかくいらん! 気が変わったんじゃ!」
私は白音と呼ばれた寝ている少女のもとへ行き、神力を使う。私の手の平が傷付近に当てられ、私の手が光り輝いた。白音の身体の傷はどんどん治っていった。体力も回復するので大丈夫でしょう。でも目が覚めるのはまだかな。
精神的にも消耗しているから明日かな。そしたら元気になって普通に走れるだろう。私の力はそういう力だからね。でも実はこの力をまだ使いこなせていない。本当の神力はもっと多くのことができるのだろう。そのことを精神の世界で知った。神の私と化け物の私の戦いで。
「す、すごい! あなた何者なの?」
「それは内緒じゃ。そういえば名は?」
「黒歌。この子は妹の白音」
「私は
「いいの?」
「よい」
「ありがとうございます!」
といっても、あと三週間で私はフェリたちのもとへ帰らなくてはなりませんがね。それまでは一緒に居ましょう。でもこの子たちは欲しいから三週間後に聞こう。私と来ないか、とね。きっとその答えが二人の人生の選択肢になるだろう。
もし私と来ると答えたらその先の未来が楽しみだ。私の家族が二人増えて新たなる生活が生まれるだろう。それが欲しいなら白音を救う代わりとすればよかったのだが、あの時、つまり「やっぱり命はいらん」と言ったちょっと前、私はこれじゃきっとその未来が来ないと思った。
だってそれは強制だもん。例え幸せでも本当の幸せじゃない。だからいらないと言った。そして黒歌たちの選択肢に頼ってその未来を取りたいのだ。
それから翌日。黒歌の妹である白音が目を覚ましました。黒歌はずっと夜通しで看病をしていたみたいで、頭がふらふらとしていた。だが、白音が起きたときはそんななんて忘れたかのように声を出して泣き、白音に抱きついた。
抱きつかれた本人は当初はよく事態を飲み込めなかったようだが、何を察したのか泣きじゃくる姉の慰めていた。
「……姉さま、そちらの方は?」
「この人は白音を助けてくれた人にゃん!」
黒歌がうれしそうに言った。白音はそれを聞いて私を向いた。
「……助けていただきありがとうございます」
「よい。全ては私がやりたかったことをしただけじゃ。礼はいらん」
「……いえ、それでもです。本当にありがとうございます」
この話で分かったことだが、白音はあまり感情を見せないみたい。私と話すとき、無表情だった。そして黒歌との会話ではちょっと微笑んでいたように見えた。人見知りなのかな? そうじゃなくても初対面だからね。そう簡単には素の表情を見せないか。
白音は布団から出た。布団と白音の服は血で赤黒くなっていた。布団と服はもうダメかな。新しくしたほうがいいね。早速私は布団を外へ出した。これは……もう処分しようか。私はマッチを取り出し火を付ける。火は布団に付き、小さかった火を大きくする。
火は布団を飲み込んで数分で灰にした。もちろんただの火が布団を数分で灰にするわけがない。私の魔力を使ったのだ。私が得意の魔力は火だからね。火力には自身がある。その気になれば灰なんて残さない。
処分し終わった私は小屋の中へと入る。中ではすでに着替え終わった白音がいた。服は一応畳まれていた。穴が開いているのでもう使わないだろう。
「……姉さま、これからどうするんですか?」
「しばらくはここで暮らすにゃん」
「……いいんですか?」
「うん、大丈夫にゃん。許可はちゃんともらったもん」
白音が私を見る。私は頷く。
「……でも私たちは人間じゃないです。見ての通り妖怪です」
「問題ない。なぜなら」
私は札を剥がす。札は見えなくなっているので二人には何も掴んでいないように見えるだろう。すぐに耳と尻尾が現れた。尻尾は一本だけ。
「!! ……あなたも妖怪でしたか」
「私も初めて知ったにゃん。狐?」
頷く。
「さて二人とも、聞きたいことがまだあるだろうが腹が減っておろう。朝食にするぞ」
私は朝食を用意して三人で食べる。ここは山奥なのであまり豪華な朝食を用意できなかった。仕方ないね。でも、二人は不満もなく幸せそうだったのでよかった。その後は三人で山へ向かった。もちろん薬草集めである。
二人は昔、山で暮らしていたこともあったようで、ほとんど私が教えることがなく順調に集めることができた。
「ふう、今日はこれで十分じゃな。そろそろ帰るぞ」
もうすでに日は落ちかけ茜色に染まっていた。そして、三人が持つ籠にはすでにいっぱいの薬草。その中には薬草だけではなく、食べられる草もある。これは夕食に使うためだ。お店なんてここにはないからね。
自給自足だ。ただ米だけはある。米は私の好きな和食の主食だからね。これがないと始まらない! なので集めるのは食べられる草などでいい。こういう生活では主食と副菜だけで十分だよ! それ以外なんていらないね!
「ねえ、御魂ちゃん。あそこにウサギがいるんだけどどうする?」
訂正。やっぱり主菜もないとね! 肉も大事! そのすぐ後、私の手には傷が全くない絶命したウサギがあった。
食料も十分に集めた私たちは小屋へと帰った。ウサギはすでに近くを流れる川で洗われている。さらに毛皮と頭と内臓も川で取り除いたので、店にパックで置いてある鶏肉みたいになっていた。あとは焼くだけかな。ああ、もちろん調味料も持ってきたよ。調味料は米とかには入らないからね。
なので美味しくできる。さすがにただ肉を焼くだけというのは色々と物足りないからね。小屋で早速作られる。私は何もしていない。二人が命を救ってくれたお礼として自分たちが作ると申し出たのだ。私はその言葉に甘えて作ってもらうことに。
その間に私は薬草で薬を作る。もちろん乾燥させるものがあるが、今作っているのは薬草を乾燥させなくていいものだ。なので薬は薬草の水分によってドロドロとしたものになる。見た目だけではなく味も悪い。苦いのだ。とても苦い。正直言って作った私も飲みたくないほど。
だが、効果はある。ちゃんとあるからね。これでも昔は妖怪専門の医者だったんだからね。効果があるって評判だったんだから。薬がちょうど出来たとき二人のほうも出来たようだ。
「出来たよ」
「そうか。こちらもちょうど終わった。すぐに片付ける」
私はすぐにちゃぶ台の上を片付ける。作り終わった薬は透明のビンの中に入れた。ビンに入れるのは薬の水分が蒸発し感想を防ぐためだ。まあ、保てるのは数日だけだけどね。で、それなのに作ったわけは私の薬作りの腕を鈍らせないためである。
それ以外に理由はない。だって今の時代、これよりも効果のある薬が流通しているし、簡単に手に入る。私の薬は今の時代では必要のないものとなっているのだ。だけど、ね。せっかくの技術を衰えさせたくはない。ちゃぶ台の上を片付け終わるとそこに二人が作った料理が運ばれる。
どれを見てもちゃんとした料理だ、慣れない材料なのに。これは味にも期待できるね。二人は私の対面に座る。
「では食べようかの」
私たち三人は手を合わせる。こういう礼儀は大切だ。
「「「いただきます」」」
声が揃う。私は早速箸を持ち、料理に手をつける。そして、口に含み、よく噛んで飲み込んだ。その光景を猫たち二人は見ていた。二人は全く手を付けていない。どうしたのだろうか? 実はお腹空いていない? でももう夜だよ。昼から結構経っているよ。お腹が空いていないはずがない。そう思っていると、
「ど、どうかにゃ? 美味しい?」
「…………………………」
黒歌が不安げに訊ねて、白音がほぼ無表情でじーっと見てくる。ああ、それが聞きたかったのか。思わず笑みがこぼれる。
「もちろんじゃ。美味しい」
私は美食家じゃないのでなにか味がなんとか~などは言えないが、まずくはなく美味しかった。とにかく私は満足した。黒歌たちはそれを聞いてほっとした。
「よ、よかった~」
「…………………………」
黒歌は安堵を表す。白音もさっきと変わらない表情に見えるが、口元を見ると口端を小さく上げて笑みを浮かばせていた。
「ほらお主らも食べよ。冷めてしまうぞ」
「うん。食べるわね」
二人はすぐに手を付けた。食事中にはちょっとした会話を楽しむ。主に二人の質問に答えるという会話だ。そういう会話だが楽しかった。食べ終わると二人は三人分の食器も洗ってくれた。これもお礼だそうだ。さすがにと思ってこの食事でもう十分と言ったが、二人はまだ感謝しきれないというのでもう彼女らが満足するまでさせることにした。
「さて、そろそろ風呂に入ろうか」
「えっ? 風呂なんてあるの?」
「ん? そうか。昨日は白音のことで入らなかったか。ここに風呂はあるぞ」
風呂は小屋の裏にあるので、気づきにくい。風呂は一人用で小さいが、肩まで浸かるとなると大量の水が必要になる。しかし魔力を水に変化させることによりその場で出すことができる。わざわざ川から何往復もして水を汲まなくて済む。
ただ今の状態は魔力が少ないので水に変化させた後はとてつもなく疲労するけどね。それほど今の私の魔力は少ないのだ。まあ、別に魔力が少なくて不便になったことはない。なにせさっきの薬のようにできるだけ魔力などの力を使わずに生活してきたからね。そんな生活を何十万年とやってきたのだ。不便になるはずもない。
「では用意してくる」
「私も手伝おうか?」
「できるか? 魔力で水ではなくお湯に変化させるのじゃぞ?」
「お、お湯?」
「そうじゃ。できるか?」
「む、無理。やったことはないけどそれが難しいことが分かっているもん」
そう。水ではなくお湯を出すのは難しい。私がどうやってお湯を出しているかだが、それは魔力を変化させた水と火をちょうどいい具合に混ぜ合わせているからだ。これによりお湯ができる。簡単そうに思えるが比率が大事だし、何より魔力を別々に、つまり火と水を同時に変化させなければならない。
私はただ暇だったとか莫大な量の魔力を制御しなければということでこれを練習をした。けど、昔のリアスなどを見るに多くの者は自分の得意の魔力を伸ばすことを中心にしているようだ。リアスなら滅びの力かな。
私は小屋を出て裏にある風呂へと向かった。そこには円筒の形をした成人男性一人が入るとギリギリの風呂があった。正直これを風呂と呼んでいいか迷う物だ。それほど風呂には見えないものなのだ。でも我慢しようか。風呂に入られるだけマシと言うものだ。
私は風呂の上で手を合わせるようにする。そして手と手の間に魔力を込めた。魔力はそこから湯へと変化していく。その湯は手と手の間から風呂の中へと落ちていく。湯がどんどんこぼれて風呂に湯が溜まっていった。本当はもっと早くためることができるのだが、うん、魔力が少ないから無理だ。
どんなものにも効率というものがある。一気にやるとそれだけ魔力も多く消費する。ただでさえ少ない魔力を早く湯を溜めたいだけに消費することはできない。よってこうやってちまちまと変化させるしかできない。
「そういえばフェリたちはどうしているだろうかのう。元気でいるとよいのじゃが……」
まだここに来てからちょっとだが、私がいなくて寂しい思いをしているのではないかと思ってしまう。でも、そう思う一方であの子もいい歳だし私から離れて誰かと共になってほしいなと思う。フェリが私から離れないのはフェリ自身は私から離れたくないようだが、それでも私も離れてほしくないという思いがあるせいかもしれない。だから実は寂しい思いをしているのはフェリたちが、ではなく私のほうなのかもね。
フェリたちのことを考えている間に湯は完全に溜まった。溜まった風呂からはその中身の温度を表す湯気が立ちのぼる。私は手を湯に入れて体感で確かめた。
「う~ん、このぐらいか?」
湯は私にとってはちょうどいいくらいであった。ただ心配なのは二人にとってこの温度が低くないかということだ。そこは我慢してもらうしかないだろう。それにこの風呂は下から火を焚くこともできない。ただ温度を保つ術式がされているだけだ。温度を上げるには私と同じようにするしかない。溜め終わったため私は小屋へと帰った。
「風呂の準備はできたがどうする? 風呂の大きさの関係上一人ずつじゃ」
誰が先に入るか聞く。
「う~ん、そうね。私が入るわ。白音もいい?」
白音はこくりと小さく頷く。私もそれでいい。
「決まりじゃな。なら私は最後としようか。ところで白音は一人で風呂に入れるのか?」
「……入れます」
私の発言にムカッと来たのか、白音の言葉には刺々しいものがあった。どうやら子ども扱いしたことに怒ったのだろう。
「え? いつの間に一人で入れるようになったの?」
黒歌が白音の発言に目を見開き驚いてそう言った。
「!! ね、姉さま!!」
どうやらさっきの発言は嘘だったようだ。ふふふ、背伸びするなんて可愛らしいじゃない。
「なんで言っちゃうんですか!!」
「だって嘘言ってもしょうがないでしょう。それともいきなり一人で入れるの?」
「うっ……は、入れません」
「でしょ?」
ではどうするのか。あの風呂は成人男性一人ではもうギリギリだ。でも、
「ならば私と入るか?」
「「え?」」
私の発言に二人の声が重なった。
「見ての通り私と白音の体は小さい。黒歌も小柄じゃがさすがに無理じゃろうな。じゃが、私となら大丈夫だろう。どうする?」
「私はそれで構わないわ。白音はどう?」
白音は眉を寄せて気が進まないということを示していた。や、やっぱりまだ会ったばかりだからね。色々とあるんだよね。そうだよね? 別に嫌いとかじゃないよね。
「大丈夫。御魂ちゃんは命の恩人だしなんとなくだけど、御魂ちゃんのことを信頼できるって感じるのよ」
「……分かりました。一緒に入ります」
その返事はなんだか嫌そうにも聞こえ、これから罰ゲームでも受けるようだ。正直に言ってショックを受けた。ぐすっなんだか泣きそう。
「じゃあ白音をお願いね。シャンプーとかはないと思うからただ湯を頭からかけるだけでいいから」
「ん、分かった」
「それじゃ私はお先に入っちゃうにゃん♪」
黒歌がニコッと笑って小屋を出て行った。残ったのは私と白音のみとなった。この小屋という空間にどんよりとしたものが漂う。こんな空間で白音は膝を抱えていた。ど、どうしよう。この気まずい空気と白音をどうにかしたい。
けど、どうすればいい? 思い切って抱きついてみる? いやいやいや、それだとただの変態じゃない。確かに白音も気に入っているけど、こんな雰囲気だよ。逆にもっと悪くする。だとすると会話がもっとも適している。あとは何を話すか。これはなんでもいい。
「の、のう白音。黒歌はどういう姉なんじゃ?」
「……優しい姉です。いつも先ほどのようににゃんにゃん言っていますが、私を守ってくれるときや叱るときなどは真剣で心強いです。きっと私は姉さまがいないと生きて行けません」
「そうか。いい姉じゃな」
「はい。あっ、こ、これ! 言っちゃダメですからね!」
「分かっておるよ。言わん」
やっぱり姉というのはいいな。もちろん兄もだ。話を聞いたら恋しくなった。でも会えない。殺されてしまったしそもそも寿命があったから。だけど、もし最初から自分が吸血鬼の能力をあのときに使えていたら? そしたらきっと二匹とも、いや三匹とも私と一緒に暮らしていたのではないか。
そう思うことが何度もあった。今でも思う。全くもう本当に私は弱いな。こんなんで大丈夫かな。最近は特にひどい気がする。こんな気持ちになるのも色々とあったせいかな。私に妹もできたし咲夜という娘もできたし悪魔と堕天使とも交流を持った。
あと、私の精神の分裂もあったか。こんなに大きな出来事がこの数年で起きた。だからだろうか、こんなに昔のことを何度も思い出すのは。
「? どうしました?」
「な、なんでもない」
どうやら顔に出ていたのか、心配そうな顔をして私を見た。これじゃダメだ。
「……あ、あの」
「ん?」
白音が体をこっちへと向き直し、正座をする。何かを言い出したいようだった。しばらく白音は何も言わない。沈黙が続く。私は待つ。だって白音は無表情ではなく、感情を表していたからだ。それを待たなくてどうする。
まだ時間はある。ゆっくり待とう。私は何かを言おうとする白音をじっと見る。ああ、やっぱり白音は可愛いね。ぱっと見るだけでもそれが分かるけど、こうしてじっくりと見ると幼いながらも将来が見えてくる。私が襲っちゃいた―――ごほん! そんなことより向こうは真剣なんだ。こっちもしっかりしないと。
「わ、私の命を助けていただきありがとうございます!」
「それはさっきも言ったじゃろう。それにその礼として色々とやってもらっておる。それだけでよい」
「い、いえ! そういうわけにはいきません!! 私を救っておそらく私が死んだ後、死のうとした姉さまも救ったんです! それに前の礼は……な、なんというか、色々と失礼がありましたから」
失礼? あっただろうか? 私が思い当たるところはない。うん、何度思い返してもどこにもないね。とてもいい子だった。色々と手伝ってもらったが最初に手伝うと言い出したのは、実は白音だったりする。ほら、失礼なんてあるどころか、むしろ役に立ってくれている。
でも、この子自身にはあったんだ、その中に失礼が。まあ、私はあってもあんまり気にしないんだけどね。だってこんなに可愛いんだもん! 気になんてしないよ。それにしてもなんだか急に私に対しても黒歌と同じように表情を表してくれたなあ。そのことに疑問を抱いているとそれに白音が気が付く。
「す、すみません。さ、さっきと対応が違いますよね」
「そうじゃな。なぜじゃ?」
「は、恥ずかしかったからです」
「恥ずかしかったからか」
「……はい。元々人見知りなんです。初めての人と話したりするのは苦手で」
「そうなのか? その割には今、話しているではないか」
「そうなんですけどそれは御魂さんがなんというか、すんなりと受け入れられるからです。言葉にするのはちょっと難しいけどとにかく、御魂さんは大丈夫なんです」
「そ、そう面と向かって言われると照れるな」
なんだか私が白音にとって特別みたいだから。そのことはとてもうれしかった。あ、あれ? お、おかしいな。私は一瞬鼓動が大きく鳴った気がした。それに体も熱いような……。でもそれは気のせいだったかのようにすぐにいつもどおりになる。なんだったのだろうか? まあいっか。何か異常があってもそれが身体的なことなら私の呪いと再生能力で正常になるから。
「ち、近寄ってもいいですか?」
恥ずかしいのかちょっと頬を染めた顔でそう言ってきた。よく見れば髪と同じ白の獣耳もぴくぴくと動き、尻尾もその恥ずかしさを表すかのように激しく揺れていた。そんな可愛らしい反応をする白音を断る理由もない。私は頷いてそれを承諾した。
白音は恐る恐るといった感じでゆっくりと近づいてきた。そして、私のすぐ隣に。私と白音の間の隙間はわずかだ。そのため激しく揺れる白音の尻尾が私の尻尾にぶつかる。
「す、すみません。尻尾が勝手に……」
「大丈夫じゃ。痛くないからな」
むしろ気持ちいいし、心地よい。けどそんな中、私は白音との僅かな隙間が気になり、それをを埋めるべく手を白音の肩に回して抱き寄せた。それはまるで恋人のように。もちろん私にはそういう関係になりたいなんて意図はない。
ただこのやり方が一番やりやすかったからやっただけだ。白音は嫌がる様子もなく受け入れてくれた。
「こうやってくっつくのは嫌か?」
「いえ、好きです。なんだか姉さまにされているみたいです」
「そうか。それはよかった」
本心からそう思ってくれているようだった。よかった。
「そういえば御魂さんは何歳なんですか?」
「聞きたいか?」
「はい。見た目は私くらいかそれ以上なのに、雰囲気が大人なんです。だから、何歳か聞きたくて」
まあ、そうだろう。この姿は偽物というわけではないが、本来の姿ではない。でも、例え本来の姿でもそう思われたかもしれないね。なにせ本来の姿は十代後半のお姉さんだからね。大人には見えない。
このような日々が私が帰る日まで続きました。
今日は二人にそれを言います。ですが、私個人としてはこの二人を気に入りました。
手放したくはないですね。
「御魂ちゃん、話って何にゃん?」
「私はここから去る」
「・・・・なぜですか?」
「私はもともとここで暮らそうとしていたわけじゃない。ただ旅をしていただけじゃ」
「・・・・居なくなるんですね」
「それは悲しいにゃん。私はこの暮らしが気に入ってた。ずっとこの暮らしが続けばいいと思ったにゃ」
二人の顔には心から悲しい、さびしいなどの感情が見えています。
だから、提案します。
「私が居なくなるのは嫌か?」
「「はい」」
「そうか。なら私とともに来るか?いや、違うな。私の家に来るかじゃな」
「・・・・それはまさか」
「そう。私の家族にならないかということじゃ」
「いいの?」
「もちろん。私はお主らを気に入っておるからな」
「・・・・よろしくお願いします」
「よろしくにゃん」
二人は笑みをこぼしながら言いました。
私は今、二人を連れて家に帰っています。
ですが、二人はなぜか暗い表情です。どうかしたんでしょうか?
「どうしたんじゃ?なんか暗いぞ?」
「ごめん。やっぱり行けないわ。私は御魂ちゃんに言ってないことがある。
私は悪魔なの。白音は違うわ」
「私はそんなことは気にせん」
「それだけじゃないわ。私ははぐれ悪魔と呼ばれているの。それもSSランクのはぐれ。
きっとあなたにも迷惑がかかる」
「・・・・すみません。騙したみたいになりました」
はぐれだったんですか。それもSSランクの。
まあ、本当なら殺すところなんでしょうけど、あいにくこの子たちは私の家族になりました。
そんなことはしませんし、気にもしません。
「問題ない。私は強いからな」
「そうかもしれないけど、私を殺してくる悪魔は強いわ。一緒に殺される!」
しょうがないです。私がこの子たちを守れる証明をするためにこの方法を使いましょう。
これは傷つけるのであまりしたくはないんですけどね。
「なら、私を倒してみよ。私が勝てばお主らは去らず、私の家族に。私が負ければ去ってよい」
「分かった」
「白音。合図を頼む」
「・・・分かりました」
私と黒歌は構えます。傷つけないため一行で終わらせます。
「・・・始めてください」
私は一瞬で黒歌の背後に回り首筋に手刀を打ち込みます。それにより黒歌は気絶します。
はい。一行で傷つけずに終わらせました。
白音は驚いた表情をしています。
「これでよいじゃろう?」
「・・・・・は、はい。そ、そうですね」
「なら、私の家に行くぞ」
「・・・・はい。改めてよろしくお願いします」
私は黒歌を背負い、帰ります。むむ、風呂に入っていたときも思いましたが、黒歌は
スタイルがいいですね。私くらいでしょうか。
そんなことを考えながら、家へ向かいます。
数時間後。家に着きます。約1ヶ月くらいでしょうか。久しぶりです。
「・・・ここが御魂さんの家ですか。大きいですね」
「ここらの家に比べたら、そうじゃろうな」
「・・・・・姉さまはまだ起きませんか?」
「まだ気絶しておる。まあ、少々きつめにしたからのう」
とりあえず門を開け、敷地に入ります。
すると
「母様ーーーーー!!久しぶりでーーーーす!!」
超テンション高めの咲夜が私に向かってきます。私は横にいる白音を抱え、避けます。
咲夜はそのまま壁にぶつかります。そのままぶつかった箇所を手で押さえながら
私を見ます。
「母様!どうして避けるんですか!」
「見て分からんか?私のほかに人がおるのが見えんか?」
「本当ですね!ちょっと待ってください!」
そういうと咲夜は家に入って行きます。数分後、フェリを連れてきました。
「お母様!お久しぶりです!」
フェリもテンションが高いですね。
「そちらの方々は?」
「客人ですか?」
「いや違う。こやつらは私たちの新たな家族じゃ」
「「か、家族!?」」
やっぱり驚いていますね。誰だって驚きます。
例えるなら、長期間出張に行っていた父親が新たな実の娘を連れてきたものですからね。
例えどころか今の登場人物を身近な人間にしただけですけどね。
「お、おおお、お母様!?それは本当ですか?」
「私たちを捨てたんですか!?」
「お主ら、落ち着け。こやつらは私が言った予感じゃよ」
「・・・・・危険な予感じゃなかったんですか?」
「私がいつそう言った?私は何かあるとしか言っておらんはずじゃぞ」
「そういえばそうでしたね」
「母様!誰だって悪い予感だって思います!なら、私を連れて行ってもよかったじゃないですか!」
「すまんな。じゃが、そうなるとフェリがかわいそうじゃろ?」
「う、うう、そういわれると何も言えません」
私の横にいる白音はポカーンとしています。まあ、そうですよね。
何せ私を「母親」と呼ぶ女の子が居るんですから。
「・・・・御魂さん。これは?」
「それは黒歌が起きたときに一緒に話そう。それに早く中に入ろう」
「・・・・そうですね」
数十分後、黒歌が起きました。
「ここはどこ?」
「私の家じゃ」
「そう。私は負けちゃったのか」
「そうじゃ」
「なら、これからよろしくね、御魂ちゃん」
さてと黒歌も起きたことですし、説明しましょう。
「むむ!母様をちゃん呼ばわりですか!小娘のくせに~!っ痛!」
私は咲夜の頭に拳骨を落とします。
全くこの子は。私は白音と黒歌のほうを向きます。
「お主らがはぐれということを私に隠していたように、私もお主らに隠してあることが
いくつかある」
「・・・・・隠していたこと」
「それは?」
「私には娘がおる。この二人じゃ」
私はフェリたちを前に出します。
「どうも、長女のフェリです」
「次女の咲夜です!」
「私は黒歌」
「・・・・妹の白音です」
「自己紹介が終わったようじゃな。ちなみにフェリは私の実の娘じゃない。
咲夜は少々特別じゃ。血は私の血じゃ。それについては後に話そう。
私たちは黒歌と同じ悪魔じゃ」
「「!!」」
驚きますね。こんなに近くにいたのに悪魔だとは気づかなかったんですから。
「そして私たちは吸血鬼じゃ。私は生まれつきの妖怪で吸血鬼じゃ。
吸血鬼でも真祖じゃがな。そして私のこの姿は本当の姿でもあり、偽者の姿じゃ」
私は封印を解きます。そしてお姉さん状態になります。
「これが私の本当の姿。あの姿は私の力を封印した副作用じゃ」
「・・・・・どうして封印を?」
「私の力は大きすぎる。私の意識があるときは問題ないが、ないときにたまに力が
具現化し、周りに影響を与えるんじゃよ」
「「・・・・・・」」
二人はただポカーンと聞いています。こんな話をされたら当然の反応です。
「話は変わるがお主らは私の眷属にならぬか?黒歌はともかく白音は妖怪じゃなかろう。
私個人の意見としては家族と一緒にずっと過ごしたいという願いのためじゃがな。
どうじゃ?」
「・・・・・私は御魂さんの眷属になります。御魂さんの隠していた話には驚きましたが、そんなのは
関係なしで家族になりたいです」
「私もにゃ。けど私はどうするの?」
「黒歌の主は死んでおるから、駒のトレードはできんな。じゃが、私なら問題ない。
私は今からお主の駒を破壊し、私の駒と取り替える。まあ、これを作ったあやつなら
他に何か知っておるじゃろうが、私のやり方でやらせてもらう」
「それ問題ない?」
「問題はない・・・はずじゃ」
「問題だらけのような気がするのは気のせいかしら?」
「お母様ならきっと、そう、きっとできますから、安心してください」
「なんできっとの部分を強調したの!余計安心できない!」
「・・・・・姉さま、信じましょう」
「白音も!?」
私は両手に神力を込めます。今、この両手は神の手に近いものになります。
私の神の力は治癒などのことしか使えませんでしたが、神の存在が大きくなり再び一つになった
とき神の力が大きくなりました。これにより治癒以外の力を使えるようになりました。
神はあらゆるものの頂点に立つ存在です。そんな私の今の両手はすべてに干渉できます。
つまりこの手を使えば駒を交換することは簡単です。
私は右手を黒歌の体に突き刺します。
「「「「!!」」」」
これには皆驚いたようです。特に話していませんでしたからね。
私は黒歌の体に物理的に突き刺したわけじゃありません。神の手によって身体に干渉したのです。
う~ん、どこですに駒があるんでしょうか?
私は探ります。
「お、お母様?」
「み、御魂ちゃん?な、何をしてるの?」
「ちょっと静かにせい。今駒を探っておる」
ここか?いえ、こっちだ!はずれですか。なかなか見つかりません。
「御魂ちゃん、遊んでない?」
「いや、遊んでおらん」
ええ、私は遊んでません。真剣です。
ん!見つけました!駒は二つです。
私は左手で
駒を取り出した瞬間、黒歌の身体がどうなるか分かりません。
なので身体に影響が及ぶ前に取り出し、私のと入れ替えます。
私は体の身体能力をすべての力で強化します。かつてここまで強化したことはありません。
これからもこんなに強化することはないでしょう。
「ふっ!」
私の右手には粉々になった駒があります。そして左手は黒歌の身体に刺さっています。
その速さは目に止まらぬ速さどころではなく、見ていた人間すらも気づかない速さです。
手がいつのまにか換わっていたように見えたでしょう。私はゆっくり手を引き抜きます。
「終わったぞ」
「本当に終わったの?」
「うむ」
「・・・・・何をやったんですか?」
「駒を取り出した影響が分からんかったから、影響が及ぶ前に入れ替えた」
「・・・・・私のときはどうするんです?」
「お主は悪魔じゃないから、通常の手順でよい」
それから私は白音も