それで私は主にアザゼルの話を聞いていた。実際に私も研究、とはできなかった。そして話の内容も一部で、全てを聞くことはできなかった。それは堕天使側の機密事項というやつだ。まあ、仕方ない。私はすでに悪魔なのだ。
私が侵略行為をする意志がなくてもアザゼルの立場というのもあって、全ては話せない。ちょっと残念だった。こっちもそうだが、やはり恋愛的感情よりも友人としての好きが強い。
う~、そうなるともういないのだ。他にも異性はいるはいるが、そこまで親しくはない。はっきり言ってどんなにがんばっても友人としての好きにも入らない。
「……いない」
「い、いるでしょう!!」
「いや、だってサーゼクスは既婚者だし子どももいる。アザゼルとはどちらかというと友人じゃ。どうがんばっても友人以上にはなれない。他の異性だってそうじゃ。二人以上の関係でもないからな。二人が無理なのに他なんてありえん」
「なんでそれだけなの!!」
「ひゃうっ」
いきなり黒歌が怒ったように言ったので変な声を出してしまった。黒歌は頬を膨らませている。な、なんでそんな顔をしているの? 私、そんな顔をさせるようなことを言ったっけ?
言ってないよね? ただ好きな人になるような人はいないって言っただけ。も、もしかしてそれがダメだったの? でも嘘を言ってもなにもならないし。本当になんで?
「他にもいるでしょう!! ほら!!」
「な、なんでそんなに怒っているのじゃ? な、なにかしたか?」
「してないわよ!! それに怒ってない!!」
「怒っておろう。絶対に怒っているじゃろう」
「怒ってない!! それよりも本当にいないの!?」
「いないって言っておるじゃろう。何度言えば分かる」
絶対に怒っているのに怒っていないという黒歌。本当にわけが分からない。
「ほら、もう一度考えて!! 思いつくまで考えて!!」
無茶だよ。無理だよ。だって本当に思いつかないんだもん。そんなに考えて思いつくならあの二匹について、こんなに思いを引き続けていない。思いつかなかったからこそ、この思いを引きずっているのだ。
私は早く逃げたいなと思う。だが、逃げようとすればさっきのように押さえられるだろう。つまり逃げられない。
「考えて!!」
「考えるのは姉さまのほうです」
そう言ったのは私ではない。そして、もちろん黒歌ではない。言ったのはこの部屋で寝ていたはずの白音だった。いつの間にか上半身を起こし、ジト目で黒歌を見ていた。
「一旦自分の行動を考え直してください」
「し、白音、起きていたの?」
「当たり前です。あんなに大きな声で話されていたら、寝ていたくても寝ていられません」
「い、いつから起きていたの?」
「御魂お姉ちゃんの可愛いに一番などないというすばらしい演説からです」
「最初から!?」
「いえ、途中です。正確には『どうした? 白音が一番なんじゃろう?』からです」
「そんなの最初からじゃん!! どこが途中よ!!」
「それよりも姉さまは自分の行動を考え直してください」
私は助かったのだろうか? いや、助かった。白音が止めてくれたおかげで、私は考えずに済んだ。
「今の姉さまはおかしい人ですよ。何でそんなに必死になるんです?」
「だ、だって御魂ちゃんに想い人がいるって言うんだもん。必死になっちゃうにゃん」
「……それは……分かります」
分かるんだ!? なんで分かるの? というか、何が分かったの?
「でも、姉さまのやり方では分かってもらえませんよ。そのやり方ではさっきと同じです」
「じゃあ……どうすればいいのよ」
なんだか私のことを無視している気がする。気のせいかな?
「簡単です。ストレートに言うんです。姉さまのやり方は何というか分かりにくいんです。分かる人もいるかも知れませんが、それは少人数しかいません」
「じゃあ、どうすればいいのよ」
「ストレートに言えばいいのですよ。ストレートで言えば分かります」
「す、ストレートで? それはちょっと……」
「恥ずかしい、ですか?」
黒歌が無言で頷く。私を無視して二人だけの話が続けられる。私には何の話かは分からない。この話の内容に関係がある私がいる隣で、二人は話していた。いいのだろうか。多分、この話って私も関係あるよね?
「恥ずかしいからと言ってそのままでいいんですか? 取られますよ?」
「それは……で、でもそうなって困るのは白音もでしょ!」
「そう、ですね。でも私は姉さまと一緒のときに言いますから。だから姉さまの責任です」
「一緒にって白音も恥ずかしいってことでしょう。あとなんで私の責任なのよ」
「~~~~~~~~っ!! あ、当たり前です!! でも、私のほうが二つ年下なんです!! 仕方ないじゃないですか!!」
「でも、一緒にということはその場でどちらかが……」
「……わ、分かっています。でも、これは勝負ですから。私と姉さまとの」
「恨みっこなしよ」
「はい。姉さまこそ恨まないでくださいよ」
「分かっているにゃん♪」
その私に関係する話はどうやら二人の勝負事のようだ。しかも恨みが伴うかもしれないものらしい。嫌だな。それで二人の仲が悪くなったら、どうしよう。嫌な雰囲気で過ごすことになるのかな。
仲直りができるものだといい。私はただ居心地悪そうに近くでその話を聞いてた。
「でも、そのタイミングはいつなんですか?」
「そうね。い、今はどう?」
「今ですか!? も、もうちょっと後でいいと思うんですが……」
「だめにゃ。今言わないと絶対に言えなくなるもん。だから今なの。ほら、今日は色々あったでしょう。そして、私たちの血を吸ってもらうって。だからちょうどその何というか、ちゃんと私たちの関係を明確にしようかなって思って」
「だとしても、私の心の準備が……」
「別に白音は今は言わなくていいわよ。私は一人で言っちゃうから」
「そ、そんな~。待ってくださいよ」
白音が黒歌に困った顔で懇願した。
「ふふふ、だめにゃん♪ 私一人だけで言っちゃうもん! 嫌なら今すぐ心の準備をしなさい」
「うう~、姉さまはなんでそうなんですか? 怖くないんですか? だって選ばれるのは一人ですよ。そんなに今すぐなんて……」
「……私だって怖いもん。でも、もう耐えられない。このままうじうじしてたままなんて!」
黒歌が白音の両肩に手を置き、そう言った。やっぱり話に関係しているのに、話には入れていない私には何のことだかさっぱりだった。なんだか寂しくなった私は、和服の隙間から尻尾をだし、弄っていた。
二人に背を向けて。尻尾っていいな。便利だな。だって布団にも枕にもなるし、慣れれば手足になるもん。九本の尻尾を持つ私は計十三本も手足があるのだ。扱うには相当な集中力がいるのだが、私はもう慣れているのでほぼ無意識に本当の手足と同じような感覚で使える。
しかし、尻尾を使うことは日常生活ではあまりない。なぜなら両手だけで事が足りるからである。尻尾をよく使ったのは戦闘に、だった。こっちはよく使った。けど、それもここ数万年で実力も備わったので、戦いで使うこともなくなった。
あるのはフェリたちを鍛えるために使うときくらいだった。フェリたちに色々な相手に対応できるようにとして尻尾も使っている。
「だからここで言うのよ! それに言わなかったせいで、もし私たちのどちらも選ばれなかったら? それは嫌でしょう?」
「嫌です」
「今言って思いっきり攻めればどちらかを選ぶはずよ」
「姉さまは悪い人ですね」
白音がくすりと笑う。
「ふふ、これは勝負なのよ。勝つためにはこれくらいしないとね」
「そうですね。これは私たちだけの勝負ですから。絶対に選んでもらわないと」
「白音も分かっているじゃない」
二人で仲良く怪しく笑う。一方私は未だに尻尾を弄って遊んでいた。今は抱き枕のように抱きつき、寝転んだままぐるぐると動いていた。尻尾の抱き心地はよかった。人の姿になることができたときから今まで、私は時々こうやって尻尾を抱き枕にして寝ていた。
私の尻尾は手足であるとともに寝具でもあるのだった。そういえば、フェリが小さい頃に私の尻尾を抱き枕にしていたなあ。ちょっと抱きしめる力が強すぎて痛かったけど。
「ならどうする? 私が先? それとも白音が先?」
「もちろん姉さまが先です。さっき言ったとおり私は恥ずかしいですから。あと、私たちは姉妹です。その権利で姉さまに先を譲ります」
「なんだかあまりうれしくない」
「そうですか? でも、その言い方だと姉さまは言うのが実は嫌みたいに聞こえます。実は本当は嫌なんですか?」
「違う!! 嫌じゃないもん!! す――――」
「まだ言っちゃダメです! 御魂お姉ちゃんがいるんですよ? 台無しにする気ですか?」
「う~ん、台無しもなにもこの話って御魂ちゃんがいないところで話すものじゃないの? さっきからずっと小声でもなく、普通に話しているんだけど」
「大丈夫だと思いますよ。ほら、話に入れなくて一人で遊んでいます」
白音が尻尾を抱き枕にしている私を指差す。私は未だにごろごろとしていた。まだかな、まだかな。まだ終わらないかな。そう思って二人の話が終わるのを待っていた。私はごろごろとしていたので、白音に指を指されたことに気づかなかった。
私の体に尻尾のぬくもりが伝わってくる。服越しだが、尻尾のぬくもりを感じた。でも、今は夏に近い時期、正直言うと温かさよりも冷たさが欲しかった。なにか冷たいものが食べたい。
冷たいものか。何があるだろうか。やっぱり素麺かな? とにかく冷やしたものかな? あとでこっそりと人間界に戻って食べてこようかな。私の好みとしては和食系なんだけど、洋食のほうにも興味があるのだ。
だけど、味が濃いので和食慣れしている私は滅多には食べない。一年に数回ほどしか。けど、今回は冷たい食べ物を食べよう。ほら、ケーキみたいな甘いやつを。あう、食べ物のことを考えるとなんだかお腹が減ったなあ。
フェリ、早くしてよ。こっちは暇だしお腹が減ったよ。私は尻尾をぎゅっと抱きしめる。
「今すぐなんですよね? でも、なんだか雰囲気なんてありませんね。いいんですか?」
「いいの! それにこれでもいい雰囲気じゃない! 寝室で三人だけ! ほら、それに邪魔者もいないもん! うん、いい雰囲気じゃん。どこに不満があるのよ」
「えっと、私としてはこういうのは夕日や夜景のある場所で、というのがいいかなと」
「くすっ、白音は少女漫画の読みすぎにゃん♪ もうちょっと現実に目を向けたらどう?」
「なっ!? ちょっとひどいじゃないですか!! 私だって年頃の女の子なんですよ!! 絶対に他の人だってそうですよ!! そう思っているはずです!! あと、私は少女漫画なんて読んだことはありません!!」
「あら。そうなの?」
「大体、いつ読む暇があったというんですか!! 読めるときなんてこれからじゃないですか!! 未来です!!」
「……そうね。そうだったわね。昔のことじゃないのに昔のように感じるわ。覚えてる? あの悪魔のところにいたときを」
白音がそれに体を震わせた。白音の頭にそのときの記憶が蘇ったからだ。さっきまでの冗談を言えるような雰囲気はなくなる。空気は一変した。二人にとってあの悪魔の下僕でいるときの生活は幸せではなかった。黒歌が悪魔になる前の生活は、一日に満腹になるほどの食べ物を手に入れることさえ難しかった。
白音はまだ子どもだ。黒歌はこれからの食生活が大事な白音にはお腹いっぱい食べさせたかった。だから運がよかったのだろうか。いや、悪かったのか。そんなときにどこかの悪魔に出会ったのだ。
その悪魔は黒歌を気に入った。性的な意味でも。黒歌は自分たちに主に生活面でのことを取引にその悪魔の下僕となった。その悪魔は黒歌の体を、黒歌と白音は満腹になるほどの食事のできる生活を手に入れた。
その悪魔は早速と思って黒歌の体で自分の欲を満たそうとするが、黒歌のガードは固かった。さて早速黒歌をと思っても、偶然いなかったりだとか、その悪魔に用事が入ったりとした。そう、運という
せっかくの黒歌の体を楽しめなかったその悪魔は怒って、黒歌たちの食事の制限をしようとした。しかし、その悪魔は腐っても悪魔。悪魔が契約を破るわけにはいかず、なにもすることができなかった。
ならばと悪魔は黒歌をあきらめ、次にまだ幼い白音に手を出すことに決めた。だが、それも黒歌がいち早く察して、妨害された。そして激怒した黒歌の手によって殺されたのだった。これが二人の人生の一端。ふむ、なるほど。そうことだったのですか。
黒歌の記憶を読んでいた私は、追われていた事情を詳しく知ることができた。今、私は尻尾を抱き枕にしてごろごろとしているが、ちゃんとそういう深い内容はちゃんと聞いていた? 読んでいた? うん、読んでいた。
私はこの記憶を読んでますます黒歌が好きになった。妹思い、つまり家族思い。それは私も同じものだ。黒歌は妹を守るために手を汚し、妹のために生きる。私は家族を守るために世界を敵に回してでも守り、家族のために生きる。
「あの時は昔と違ってお腹いっぱい食べれたけど、幸せじゃなかったわよね」
「……ええ、幸せじゃなかったです。正直に言って昔の貧しいときのほうが幸せでした」
「じゃあ、今の生活はどう? 幸せ?」
「幸せです。とっても幸せです。本当にいいのかって思ってしまうほどに」
「私も幸せ。だってこうやって白音と一緒にいられるもの」
「ね、姉さま」
黒歌は白音をぎゅっと抱きしめる。白音は恥ずかしかったのか、頬を染める。
「だからかな。私が御魂ちゃんを……」
「多分、私もです。私たちを救ってくれたから、こんな気持ちになるんだと思います」
二人は密着したままで話す。ねえ、何度も言うけど私もいるんだよ? なんで私がいるところで私の話題をするかな。こっちはなんだか恥ずかしいんだけど! それってわざとなの? わざとここでそんな話しているの?
こんなのいじめじゃん! 私はなんだか恥ずかしくなり、頬や体が熱くなるのを感じた。
今、昔の話を書き直しています。
しかし、それが途中なので変な風になっています。
できるだけ早くちゃんとしたいと思います。
ぜひ、アドバイスをお願いします。