ハイスクールD×F×C   作:謎の旅人

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第45話 私たちの誤解

 う、うう、なんだろうか。おかしい。こっちは白音の殺すつもりだったのにこうなっている。調子が狂ったみたいだ。

 

「御魂お姉ちゃんがフェリさんたちとキスをしたと言ったからです!!」

「? なぜそれで嫉妬するのじゃ? 親子でのキスじゃぞ」

「それでもです!! だ、だって唇と唇じゃないですか……。誰だって嫉妬します」

 

 なぜだろうか? あとそれと何を言っているのだ?

 

「唇と唇? 頬や額へのキス(・・・・・・・)じゃぞ」

「へ? はい? い、今、何と?」

「いや、じゃから頬や額へのキスじゃと……」

 

 何を当たり前のことを言っているのだろうか。

 私が唇と唇でのキスを娘相手にするわけがないだろう。

 私がするのは額や頬へのキスだ。それ以外の場所、唇にするなど考えられない。唇同士のキスなんて大好きな人へするものだ。その大好きな相手とはやはり恋人だ。

 なのに親である私がしたらダメだろう。

 

「は、ははは、う、嘘ですよね? ちゃ、ちゃんと唇にしていたんですよね?」

「いや、何度も言うが額や頬じゃぞ」

「……お願いです。唇にしたと言ってください」

「そうお願いされても唇にはしておらん。それにそんな嘘を付いてフェリにばれたら怒られるのは私だぞ? すまないが無理じゃな」

「う、うう……これじゃ私たちがバカじゃないですか……」

 

 白音が私の服を掴み、首元に顔を埋めた。

 私の首元に温かい涙が落ち、肌を濡らす。

 私は白音の背中を優しくさすり慰めた。

 それにしても、どうやら先ほどのことは本当に私にそのことを教えるためにやったようだ。それは白音の様子からしても分かる。

 うう、白音には悪いことをした。なにせ本気で殺そうとしたのだから。きっと怖かっただろうに。これはしばらくは白音に付きっ切りで傍にいたほうがいいだろう。これはせめてものの償いだ。

 

「しかし、白音。先ほどのはちょっとやりすぎじゃぞ」

 

 しばらくして落ち着いた白音に互いに寝転び抱き合ったままそう話しかけた。

 

「アレは嫉妬じゃなくて殺意を生み出すものじゃ。私に嫉妬させたかったらもっと穏やかや方法があったじゃろうが」

「……ごめんなさい。でも、分からなかったし意地悪したかったんです……。そうしたら御魂お姉ちゃんが私だけを……」

「そうか」

 

 思えばまだ白音は子どもだ。背伸びをした子どもだ。

 私はそんな子を勘違いで殺そうとしていた。

 はあ、大人気ないな、私は。

 

「決してもうやるなよ。あと少しで私は勘違いで大切なお主を殺していたのじゃから」

「はい、気を付けます……。これからはしません」

「本当にじゃぞ。私はもうお主を殺そうなんて思いたくない」

「その、やっぱり殺すって本気だったんですか? 脅しとかじゃなくて?」

 

 やや不安げな声で白音が聞いてくる。

 正直言って私は答えたくない。だが、私には答えなきゃいけないのだ。そういう義務がある。

 私はゆっくりと口を開く。

 

「……そうじゃな。本気で殺そうとした」

「それは……なぜですか? わ、私のこと、す、好きじゃなかったんですか?」

「好きじゃぞ。じゃが、お主と咲夜、どちらが大切かと思ったときに私は咲夜を選んだ。それだけだ」

 

 それを聞いた白音はやはりショックを受けた顔をした。

 自分よりも大切な相手がいると言われたのだ。それはやはりショックを受けるだろう。しかも言った相手が自分が好意を持っている相手ならなおさら。

 私だってそうだ。そう言われたらショックを受けてしまうだろう。

 

「そうですか……。え、えへへ、ちょっと傷つきましたけど大丈夫ですから」

「大丈夫じゃないだろう」

 

 だって白音の瞳からはどんどん涙が流れているのだ。

 白音はそれを止めようとするが、やはりその感情を抑えるなど生まれてまだわずかな白音には無理だった。

 私はただこうやって背中をさすったり、ギュッと抱きしめるくらいしかない。

 すると白音は声を上げて泣き出した。

 私はさらに強く抱きしめる。

 こうしているとなんだか小さい頃のフェリを思い出す。あの子もこんな風によく泣いていた。もうこんなふうに泣くなんてないから懐かしい。

 私は無意識のうちに白音を恋人ではなく、白音の親として接していた。

 しばらくして白音が泣き止み、私の顔を見る。

 白音の目は赤くなり、鼻からは鼻水を垂らしていた。

 

「ぐすっ……服汚してごめんなさい」

「よい。私が悪かったんじゃからな」

 

 私は部屋の隅に置いてあるティッシュ箱を持ってきて紙を取り出し、白音の鼻に当てた。

 何をすればいいのかを察した白音はチーンと鼻をかんだ。

 

「ズズッ……」

「またするか?」

「いえ、もう大丈夫です」

「そうか」

 

 紙を丸めてゴミ箱へと投げ捨てる。

 

「さて、そろそろ離れてよいか?」

「あっ、も、もうちょっと! もうちょっとこのままで!」

「ふふふ、分かった」

 

 緩めた腕を再び締める。

 白音も腕を回して抱きついてくる。

 

「これでよいか?」

「は、はい」

 

 真夏のこの日に抱き合うなど暑苦しいものなのだが、この部屋にはちゃんとエアコンが付いており、室温はこうして抱き合っても汗をかかないくらい。いや、暖かいと思うほど。つまりちょっと寒いくらい。

 体に悪いがたまにはいいだろう。それにそうじゃないとこうやって抱き合えないし。

 さすがに暑い中で抱き合う気にはなれないからね。

 私たち二人はそうやって抱き合っていた。

 と、そのときこの部屋のドアが勢いよく開けられた。

 この屋敷は襖とドアの二種類の出入り口の部屋で構成されている。この部屋はドアの出入り口だ。

 

「ちょっと!! 咲夜ちゃんに聞いたわよ!! キスって――って、二人とも!? 何仲良く抱きついているの!? なんで!?」

 

 入ってきて早々黒歌は抱き合っている私たちに向かって何かを言っている。

 私は白音のぬくもりと抱き心地を楽しんでいるのでよく聞こえなかった。

 私と白音は一旦離れて体を起こした。

 

「ん? 黒歌か。どうした?」

「どうしたかじゃないわよ!! なんで抱き合っているの!! って、それよりも! 御魂ちゃん!! 咲夜ちゃんに聞いたわよ!! キスって唇じゃなくて頬や額にしていたのね!! う、うう~もう!! なんで言ってくれなかったのよ!!」

「い、いや……」

「もう!! おかげで私、御魂ちゃんにひどいことを……!!」

「気にするな。私のほうこそ言葉足らずじゃった」

 

 全ては私のせいとも言える。私がちゃんと言っていればこうなることはなかったのだ。

 

「でも、謝らせて。叩いてごめんなさい!」

「よい」

「ありがとう」

 

 黒歌はそう言った後、私たちに近づく。

 

「で、なんで二人は抱き合っていたの? しかもただ抱き合うだけじゃなくて力強く」

「それは…………」

 

 横目で白音の顔を確認したとき、白音が言わないでと伝えてきた。

 私はそれに従う。

 

「まあ、よいじゃろう。あまり言いたくはないのじゃ」

「どうしても?」

「どうしてもじゃ。後で同じようにするからそれで我慢してくれ」

「えっ、本当? だ、だったらもう何も聞かないにゃ!」

 

 あっさりと納得してくれた。

 うん、ちょろいね。

 

「うにゃ~! それにしても恥ずかしかった」

「そうか?」

「だ、だってそもそもがキスしてもらいたくてやったことが始まってこうなったんだもん。それにその結果が私たちが勝手に勘違いしただけ! しかも、その勘違いで御魂ちゃんを叩いちゃったし! うう~穴があったら入りたい!」

 

 黒歌が両手で顔を隠し首を左右に振って悶える。

 私の隣の白音も顔を俯かせて恥ずかしがっていた。

 で、私のほうは恥ずかしさよりも白音にあんなことをした後悔と罪悪感が残っている。

 こっちはその後悔と罪悪感で死にたいくらいだ。穴に入るなんてレベルじゃない。

 

「御魂ちゃ~ん、私を慰めて~」

 

 黒歌は這いながら私に近づく。

 

「ダメです」

 

 しかし、きっぱりと断られる。

 私が言ったのではない。白音だ。

 

「私は今から御魂お姉ちゃんに慰めてもらうんです」

「なんでよ。白音は何もしていないじゃん。こっちは御魂ちゃんを叩いちゃったのよ。慰められるほうは私よ」

 

 その叩いた相手に慰めてもらうってどうよ。

 慰めるこっちはとても複雑じゃないか。

 

「残念ですけどそれでも、です。私は御魂お姉ちゃんに慰めてもらう権利があるんです」

「はあ? なんで?」

「教えません」

「どうしても?」

「どうしても」

「そう」

 

 白音からは聞き出せないと判断し、私のほうを向いてきた。

 

「本当なの?」

 

 黒歌が私を見て聞いてくる。

 

「まあ……本当じゃ」

「うそっ!!」

「本当に」

「なんで!」

「言えん」

「まさかさっき抱き合っていたことと?」

「…………」

「関係、あるんだ」

 

 黒歌は目を細めて私と白音を交互に見た。

 思わず私は目を逸らしてしまう。

 

「やっぱり」

 

 それで黒歌が察した。

 しばらく黒歌は私を見続ける。

 

「はあ……もういいわ。聞かない」

 

 黒歌はどうやらあきらめたようでそれ以上は追及はしなかった。

 正直、私個人としてもずるいだろうが、そのことを言いたくはなかった。

 やっぱり白音の姉で白音のことを大切だと思っている黒歌にその大切な存在を殺そうとしていたということを言うのが怖いのだ。言ってしまえば黒歌が離れてしまうのではないかと思って。

 だからずるい。自分のためだけにその事を言わないことが。そして、白音が言わないでと伝えてきてそれを利用することが。

 やはり私は自分勝手だ。

 

「けど後で思いっきり慰めてもらうんだからね! いい?」

「分かった」

 

 そう言うと黒歌は微笑んだ。

 隣の白音は私の腕を掴んで早くしてと訴えていた。

 私は喜んで白音を胸に抱き寄せた。

 

「……にゃん♪」

 

 私の胸の中で白い子猫が鳴いた。

 私は白音をゆっくりと撫でる。まずは頭から撫でて耳へと手を動かした。

 頭を撫でるのもいいが、耳の、なんだろうか。シュルシュル? クシュクシュ? とにかくそんな感触がまたいいのだ。

 自分のを触ってみたこともあるが、やはり自分のを触るよりも他人のを触ったほうが気持ちいい。これは自分で自分のを触るよりも他人に自分のを触られるほうが気持ちいいというやつと同じだ。

 

「ね、ねえ、私もやってもら――」

「ダメです」

 

 黒歌がほんのりと頬を染めて言おうとしたが、途中で白音に遮られた。

 白音……今は自分だけ、というのは分かったからせめて最後まで言わせてあげて!

 

「ちょ、ちょっと!」

「ダメです。今日からしばらくは私だけなんです。ですよね? 御魂お姉ちゃん」

 

 言葉は普通だが謎の脅しのような圧力が私にかけられた。

 こ、これって脅されているの? それとも普通に?

 どちらにせよ、これは白音に合わせたほうがいいだろう。それに先ほどの件もあって否定できない。

 あ、あれ? これって弱みを握られた?

 

「そ、そうじゃな。すまないがしばらくは白音だけじゃ」

「それってそのしばらくが終わるまで私を慰めてくれないって事?」

「そうなる、かな」

「そ、そんな~! それじゃあ、私は誰に慰めてもらえばいいのよ!」

 

 私も黒歌を抱きしめたりとしたいのだが、白音を傷つけてしまったため、それは無理だ。

 

「ならフェリさんに慰めてもらえばいいじゃないですか。フェリさんも大人ですよ」

「あのね! 大人であるかないかは問題じゃないの! 私は御魂ちゃんがいいって言っているの!」

「? でも誰にって……」

「はあ……まだ子どもね。アレは遠まわしに御魂ちゃんに慰めてって言っているようなものなのよ」

「……なるほど」

 

 白音は頷いて理解した。

 

「ていうか、白音だってずっとそのままというわけじゃないんだからそのときはいいでしょう?」

「…………」

「どうなの? まさかそれもダメとか言うんじゃないわよね? そしたらお姉ちゃん、精神的に死んじゃうよ! 本当に!」

「………………………………まあ、そのときだけは」

「……即答しないんだ」

 

 ショックを受けた黒歌はガクリと頭を下げた。

 思わず私も黒歌に同情する。

 私も黒歌の立場だったら白音に即答して欲しかったところだ。

 

「まあ、いいわ。よかった! ふふふ、これで慰めてもらえるにゃ!」

「…………………………まあ、そんな時間は来ないと思いますけど」

「んにゃ? 何か言った?」

「いえ」

 

 接触し隣にいる私にはその白音の声が聞こえていた。

 こ、これってもしかしてずっと私を放さないということなの?

 

「あっ、そうだ。後ででよいからフェリと咲夜を呼んでくれ」

 

 本当は今日は例の作戦に関係して、みんなに言うことがあったのだ。それが白音たちといちゃついたりと色々なことがあって時間が過ぎてしまった。

 ちょうどいい区切りと思ったので言った。

 ここで言わなければまた流れるような気がしたからだ。

 

「分かったにゃん。なら今すぐ行ってくるわ」

 

 そう言って満足した顔で黒歌は部屋を出て行った。

 残ったのは私と白音の二人だ。先ほどと同じだ。

 白音は黒歌がいないのを確認して今度は大胆に正面から抱きついてきた。しかも腕を私の首に回して。

 互いの顔はあとわずかというほど近い。

 こんなに近いと私たちは示し合わせたように互いに目を瞑る。そして、

 

「……ちゅ」

 

 白音が顔を近づけて私の唇と自分のを軽く口付けした。

 した後は私の胸元に顔を埋める。

 

「……私のこと嫌いになりましたか?」

「いきなりじゃな。なぜじゃ?」

「私、さっき御魂お姉ちゃんに命令しました」

「何の?」

「姉さまが御魂お姉ちゃんにくっつかないようにしたことです」

「それがどうして嫌うことに繋がるんじゃ?」

「だって、私嫌な子です。御魂お姉ちゃんは私と姉さまの恋人なのに御魂お姉ちゃんを一人占めしたいって思いました。姉さまには渡さないと思いました。こんな私です。嫌な子です! わ、私は……う、うう……私はこんな心をした子……なんです! 私は私は!」

「もうよい。分かった」

 

 泣き出した白音の背を叩いてあやす。

 しばらく白音を子どものようにあやした。

 

「ぐすっ……嫌いになりましたよね?」

 

 そう言う白音の頬には濡れた涙が跡がある。

 私はそれを袖で拭って消した。

 

「よいか白音。私はそれだけで嫌いになるわけがない。私はお主のことを愛している」

 

 私は白音をじっと目を合わせる。

 

「お主のその心は別に悪いものではない。私にも黒歌にもフェリにもその心はある」

 

 というか私の心の中にはフェリ、咲夜、黒歌、白音は私のものだ、というどす黒いものがある。

 うん、きっと白音の台詞を言うのにふさわしいのは私だよ。私しかいない。自分でも自覚しているけど、もう狂っているのだろう。

 

「だからそれを気にする必要はない。それにお主はまだ子どもじゃろう」

 

 白音の雰囲気が大人びているので忘れがちになるが、白音の歳は十くらいだ。

 しかも、白音は黒歌の昔の主のところで教育などほとんどされずに自主的に勉強するだけであったので大した学力はなく、そういうこともあって白音はより子どもっぽいのだ。ただ雰囲気が大人びているのは周りの環境のせいなのだ。

 さて、そんな白音を実は学校へ通わせるつもりである。

 別に白音を学校へ通わせずに私が教えればいいのだが、そこはフェリとのときと同じく学校生活を楽しんでもらうためだ。

 しかし、白音の学力はまだレベルが低いのでせめて中学入学までには小学校で習う知識を全て叩き込んでおきたい。

 最初からというわけではないにしろ、その教える量は膨大である。それをあと二年ほどで、というのだから白音にはちょっと無理してもらう必要がある。

 

「……こ、子どもじゃないです」

「いや、お主はまだ子どもじゃよ。で、子どもならばもっと貪欲でよい。その思いを思いっきりぶつけてもよい。我がままを言え。遠慮はするな。私ができることは叶える」

「そ、そんなやられてばかりは……」

「それは嫌なのか?」

「嫌です! 御魂お姉ちゃんに迷惑はかけられま――いたっ」

 

 そんなことを言う子にお仕置きだ。

 額にでこピンをした。

 

「な、なんで!?」

「たかが十年ほどしか生きていない子どもが何十倍、何百倍(正確に言えば何万倍)とずっと長く生きてきた私に迷惑をかけるからとか言うな。さっきも言ったように子どもは子どもらしくすればよいのじゃ。迷惑をかけることをたくさん頼め。分かったな?」

「でも――」

「分かったな?」

「私は――」

「もう言わんぞ。分かったな?」

「ぐぅ……わ、分かりました」

 

 白音はちょっと背伸びをしている。無理して大人ぶっているのだ。

 私はそれをぶっ壊してもっと遠慮なくしてほしいのだ。

 これを機にちょっとは年相応に我が侭などを言ってほしい。

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