「だから絶対見たんです!!信じてください!!」
しつこく話しかけてくるこいつは、八坪中学校(はちつぼちゅうがっこう)図書委員会一年生の斎藤明美(さいとうあけみ)
「あぁ、あぁもうわかったよ、信じる信じる」
適当に返事をし、かわそうと思ったのだが......
「『図書室に謎あるべからず』ですよね委員長? このまま放っておいていいんですか?」
毎回毎回、図書委員会のスローガンを鉾にしやがって。
対する僕は、防ぐ盾もなく。話を聞くしかなかったのである。
「で、どこまで話しましたっけ」
「えとー.......覚えてない、最初から頼む」
「覚えてない、じゃなくて聞いてないんでしょう!もう、委員長はほんとに......」
普通先輩にこうもずかずかとデカい態度を取れるものなのか......? 僕が舐められてるのか、こいつが図太いのか......
「じゃあ最初から話しますよ? あれは昨日のちょうどこのくらいの時間です」
明美は、そう言って自分の体験談を事細かに話し始めた。
要点をまとめるとこうだ。
①昨日の昼休み少し前に図書室一帯が白く輝いた
②彼女はそれを廊下から見ていた
③少し経つとだんだんと光が収まり、何の変哲もない図書室に戻った
自然に起きたことだとするとどうにも不自然だが、人の手によって起きたとなると、動機がさっぱりわからない。
「シャインニングライブラリー事件ですね!」
「その何か起きたときに変な横文字の造語を作る癖を直せ、不愉快だ」
こいつの造語は上げていくときりがない、レッドオーシャン、ファイナルカーバー、ブックインザミステリーボックス...etc
そう思うとこの図書室、やけに不可解な点が多いな......先代が謎のない図書室を目指すのも納得だ。
図書室に謎あるべからず。
居心地のいい図書室の為に、不明瞭な点や不可解な謎などは、極力改善すべき、と言う先代が作ったスローガンである。
白く光る図書室、斎藤明美はこんな頭のおかしい噓をつくような人間じゃない。しかし実際にあったとすると......自然現象か、人為現象か。
自然現象の場合はそんなことあるんだね、で終わるからいい、僕の出るような幕じゃない。調べるべきなのは人為現象だった場合、だれが何のためにしたかだ。
現場検証でもするか、と思っていると。
キーンコーンカーンコーン
大きな鐘の音がスピーカーから響く。
「もう昼休み終わり!?」
「あー、続きは明日だな」
「調べてくれるんですね! ではまた明日!」
調べないという選択肢があったのか......。否、どうあがいても調べることになっていただろう。
奴は、斎藤明美は平然とそういう事をする、口が達者で無駄に優秀な奴だ。
次の日の昼、僕たちは図書室の入り口付近にいた。
「その時私はここにいました、図書室がブワァって白く光っていったんです!」
明美は図書室の入り口のドアの目の前に立ち言った。
図書室入り口付近の情報を整理しよう。
図書室の入り口、入る前にドアのすぐ横にも棚がひとつある。
季節ごとに変わる司書の先生おすすめの本が、今は冬の本が展示されている。
ドアはスライド式で、明り窓がひとつついている。
「そのとき、ドアは空いていた?」
「完全に空いた状態でした、それで図書室全体が光に包まれたんです!」
入口から、図書室へ足を踏み入れる。
にぎわった様子はない、昨日は僕と明美の二人きりだった
今日はちらほらと人がいる、今日の図書当番である國上雷介(くにがみらいすけ)と足立舞(あだちまい)と
他にも本を借りにきたであろう数人。
いつもならもう少しにぎわっているのだが、今は生徒会の企画した冬祭りイベントの準備で人が任意徴収されているため、大多数が吸われ、図書室は人の少ない。
この学校は「コ」の形をしており、上下を北舎と南舎に分けられる南舎の最西に図書室、北舎の最西に生徒会室があり、生徒会室の様子は、図書室内に光をたっぷり取り込み、明るさを保つ役割をしている図書室の壁一面にはめられた大きな窓から、生徒会室の窓を通して見ることができる。
図書室に入ったことで、入り口は出口と化す。出口付近にはカウンターへ入る人を制限するため、ほとんど役割をなしていないようにも思われる苦し紛れの小さなドアが設置されている。簡単に言えばしきりだ。
そこからカウンターが伸び本棚がある、出入り口付近にはとくにたくさん物が置いてあるわけではなく、すっきりとしており、通路としての、出入り口としての機能美を感じる。
「何かわかりましたか?」
「いや、特に変わったことはなさそうだ...少なくとも一昨日までとなにか違うところは見当たらない」
「委員長が言うなら、ほんとに何も変わってないんだろうな...じゃああれはなんなの...?」
明美は落胆に恐怖が混じったような表情を浮かべた。
「ああ、ここには変わった様子はないね、でも僕は見つけたんだ」
「みつけた...?もしかして、謎が解けたっていうの?」
「ああ、まだ仮説段階だがね、さてと」
そう言って僕は物の少ない、すっきりとした通路を通り図書室から出た、やっぱり使いやすい、機能美だな。なんてことを考えながら。
生徒会室の扉を開けると、そこには生徒会長の田中義輝(たなかよしてる)や、冬祭りの準備をもくもく進める人々、演目か何かだろうか、かがみを使って踊りを練習している人々などを確認することができた。
「どうして生徒会室になんて来たんですか?」
生徒会室の入り口で立ち止まる僕に明美は問う。
「確認したいことは確認できた、さて、明日の12:00頃、図書室の入り口に集合だ」
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給食を早々に食べ、私は約束の時間へ間に合うように速足で向かう。
委員長、鶯谷隼人(うぐいすだにはやと)との約束の時刻はもうすぐだ。
私こと斎藤明美は図書室の入り口付近に委員長がいない事確認する、遅刻かよ......言い出しておいて。
委員長のそういうずぼらところは嫌いだ、特に遅刻癖はどうやっても治らないらしい。
そのとき私の目には驚きの光景が映る。
これは......!
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12:00、ジャスト。
生徒会室の前に立ち、光の反射を確認する。
今回の事件の犯人は「鏡」だ。
正午、太陽が最も南に位置し、南側に窓がついている生徒会室には、強烈な日差しが降り注ぐ、たっぷりと日差しを集めるための大きな窓は、若干膨らみを帯びており、俗にいう凸レンズの役割を果たしていた。
強烈な太陽光を鏡が反射し、二枚の凸レンズを通した光は、障害物が少なく、機能美に優れた図書室の出入り口へと降り注ぐ。
この「鏡」がどこから来たかと言うと......そう、冬祭りの準備、ダンスの練習の為に用意されたものだ。
最近始まった冬祭りの準備によって、障害物の少ない出入り口付近に反射した強烈な太陽光が降り注ぐ、それが明美の見た、シャイニングライブラリーの正体だった。
「えー!図書室全体が光り輝いてたわけじゃなかったんですね」
事の顛末を佐藤明美に説明し、生徒会長、田中義輝にも今回の光問題について話、鏡の位置を変えてもらった。
「さすが!よっ名探偵」
「おいおい、それやめろって何回も言ってるだろ?俺は名探偵じゃない」
「いやいや、謎を解決したんですから、立派な名探偵じゃないですか!」
「『図書室に謎あるべからず』。おれは名探偵ではなく、スローガンのもと行動している、ただの一般図書委員長だ」