「失礼します」
そう言って図書室に入る、今日はやけに人が少ない。
最近までは生徒会の冬祭り準備と言う理由があり、沢山の人がそっちに流れたことで図書室ががらんとしていたが、今回は理由がない。
「流石に人いなさすぎじゃないですかね......」
「そうだな、何か理由があるかもしれない」
今回の図書当番は僕と、カウンター前に座っている
それ以外の人は...いない。
まあいいか、と持ってきたミステリ小説を開く。
静かな図書室は読書に集中できていいな、なんて考えながらページをめくる。
すると、駆け足でこちらに向かってくる足音が聞こえた。
「大変っす先輩!この本破れてるっす!」
少年がカウンターの前に現れ、本を差し出し指をさす、そこには確かに破れた本がある......が、破れ方が不自然すぎる。
破れているというより、ナイフで刺したような穴がほんのど真ん中を貫通して開いている。
「おー、暁じゃないの」
どうやら、明美とこの少年は知り合いのようだ。
「あ、
暁と呼ばれた少年は、はっとこちらに気づいたように言う
「ああ、よろしく」
暁、かっこいい名前だな。でも斎藤が二人か、ややこしいな。
そして学年は、明美を先輩と呼んでいるとこを見るに......あれ、明美、こいつ一年じゃなかったっけ?
もしかして小学六年生でも紛れ込んだか?確かに暁の身長は明美より小さく見える。
じゃあほんとに......
「てか先輩っていうのヤメテ、私たち同学年じゃないの」
「いやいや尊敬っす尊敬!先輩と呼ばせてくださいっす!」
いったい何がどうしたら同学年から先輩なんて呼ばれるようになるんだ......!?
まあいい、人の事情を勝手に考えるのはやめておこう。
明美との関係は謎だが、それ以上に暁が持ってきた本の方が謎だ。
刺されたような穴の開いた本、人為的なものとみて間違いないだろう。
本の表紙には『十角館の殺人』と書かれている。
さてと、いろいろ調べることはできそうだ。
『図書室に謎あるべからず』、先代が残した図書委員会のスローガン。図書室で発生した謎は図書委員が調査し解明する。
本が傷つけられているとなればなおさらだ。
「さて暁くん この
「名付けてキルマーダーミステリー事件!」
何回言えばわかるんだ、それ、やめろ。もう意味がよくわからないし。
「かっこいいっす先輩!!」
暁は明美信者か何かなのか?
はぁ......まあいい、別に注意するほどでもないか。
そんなことよりも、早く謎を解いて、この最高に静かな図書室でミステリの続きを読むか。
「さて とりあえず聞こう これはどこにあったんだい?まさか自分で借りてたとかじゃないだろ?」
「いや、おいらが借りてたっす」
じゃあお前が犯人だろ
「昨日までは普通に読んでたんです でも今日朝学校に来ると ロッカーに入れていたはずの本がこの状態で......」
ふむ、下校時間後の犯行の可能性が高いか?
「じゃあ」
と言いかけたところで
「その本を最後に呼んだのはいつ?」
明美が割り込んで質問する、まぁ慕(した)っている明美の方が暁的には話しやすいだろう。
「えーっと たしか帰りの会の前にも読んでた気がするっす」
「じゃあほんとにやられるとしたら放課後くらいね」
放課後やれるとしても、全く動機が思いつかない。衝動でこんなことするか?
「とりあえず 図書室のPCで本の情報を色々調べてみるよ」
そう言ってカウンターのPCに触れる。
本検索のページを開き『十角館の殺人』と検索をかける
手始めに貸し出し履歴を調べる、エンターキーを押すと大量の名前が画面にずらっと表示される。
超人気名作ミステリーはだてじゃない、貸出数も多い。
一番上に斎藤暁、次いで一週間前に
キーンコーンカーンコーン
「昼休みは終わりっすか」
「そうだな、とっとと教室に戻ろう」
「じゃあ明日もここ集合でよろしく!」
「わかったっす先輩!」
そんな話をし、一旦解散と言うことになった。明日にでも二年一組教室に行って、鳴原大から話を聞こう。
昨日とは打って変わって、不快感を覚えるほどうるさい図書室で、一度僕ら三人は集まった。
「うるっさ、いったいどうなってるんすか!」
「私に言われたって知らないわよ......あんたら静かにしなさい!」
明美が騒いでいる一年生に呼びかける。
一年生の集団から発される不快感が途切れることはなかった。
「これは、もう
僕が言う。
「でも......」
明美がくぐもった声を上げる。
「今日の当番は僕らじゃない、無理にいなくてもいいだろう」
「ま、委員長が言うなら」
「わかったっす!」
僕らは図書室から離れ、廊下で精神的疲労からくる息を吐く。
「ま、このまま二年一組教室でもいくか」
「二の一?」
「見てなかったのか?昨日貸し出し履歴を見たとき、直近に借りていた鳴原大、二年一組だ」
「「......」」
僕の「見てなかったのか?」に対する二人の答えは沈黙
ではなかった。
「名前すら覚えてなかったっす......」
「学級までは見てなかったわね」
「それじゃあ行こうか」
僕たちは図書室のある三階から下り、二階へ、二年一組教室へと向かった。
「
二年一組教室の前に立っている生徒に声をかける
「あっ、はいちょっと待っててください」
そこに立ってた生徒は、教室内へ顔を出し「おい!大なんか呼んでるぞ!」と言い放った
そう呼ばれ立ち上がった男がこちらへ向かってくる。
「こんにちは、俺になんか用ですか?」
野球部を彷彿させる坊主頭とガタイの良さ、鳴原大はこちらに向かって問う
「こんにちは、僕は図書委員長の鶯谷隼人、そう、用があってきたんだ」
「まあ図書委員長くらい知ってますけど......で、何の用ですか?」
「君が最近返してくれた本について聞きたくてね」
「え?シャーロックホウムズですか?」
十角館を返したのは一週間前のはずだ、直近で返した本が変わってる......結構な頻度で本読んでるんだな。
それにミステリが好きそう......趣味が合う。この頻度、まあまあな数読んでいると見た。
ふふふ、ミステリについて語り合おうじゃあないか!
鳴原!
「......いいんちょ?」
明美から声をかけられて我に返る、思考が持ってかれた......悪い癖だ。
「あぁすまない、ちょっと考え事をしていた、それで鳴原大くん、好きなミステリ小説は?」
「委員長!?」
ん、何の話をしていたんだっけ......思い出した、十角館の殺人についてだ
「委員長先輩大丈夫っすか......?」
暁は呆れた様子でこちらを見ている、余計なお世話だ。
「えーっと、シャーロックの前に借りていた本だ」
「なんだったっけな......あぁ、十角館の殺人!」
「そうそう十角館、借りて読んでいた時本に違和感なかった?」
鳴原は顎を手に乗せ天井を見上げ、「う~ん......」とうなりごえをあげている
「特に覚えはないですね」
「そうか......まあいい、貴重な休み時間を使ってしまってごめんね、今度ミステリについて語り合おう」
「は、はぁ......ではまた今度」
「委員長、もういいなら行くよ!」
明美が僕の制服を一度ぐっと引っ張った後、ずかずかと進みだした
「待ってくださいっす先輩~」
引っ張られ危うく転びそうになった僕の横を暁が通り過ぎる。
僕は少し思考をまとめたのち、ハッとなって後輩たちの背中を追いかけた。