図書委員長は名探偵にはなれない   作:ダチョウ団長

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キルマーダーミステリー(後編)

貴重な昼休み、斎藤明美(さいとうあけみ)斎藤暁(さいとうあかつき)鶯谷隼人(うぐいすだにはやと)の三人は昼間の明るさが窓からさんさんと降り注ぐ廊下を歩いていた。

「そういえば、暁くん何組?」

陽気につられて会話が弾む、沈黙のない楽な歩き道。聞いといて何だがこいつは多分二組だろう。

 

「おいらは三組っす!」

 

「ちなみに私は二組」

 

斎藤暁(さいとうあかつき)斎藤明美(さいとうあけみ)は一年生である。

 

「えっ、暁と明美クラスちげぇの!?」

 

暁はなぜか明美のことを先輩と呼ぶ。そこから勝手に考えていた仮説、クラスが同じだという説が否定された。

 

「まあそうだけど......それがどうしたの?」

 

「いやどうもしない、推定殺本(さつほん)現場、三組向かうぞ」

 

「殺本......私にとやかく言うけどあんたのワードセンスもたいがいどうかしてるわよ?」

 

どうかしてない。僕は普通だ。

中身のない会話をしながら一階へ下っているとき、ふと、明美が思い出したようにつぶやく。

 

「そういえば、鳴原大(なるはらだい)のところ行く意味あった?」

 

「そう言われると、確かに委員長ほぼ何も聞いてないっすよね......。」

 

「いや、重要なことが分かったから質問は色々用意していたが聞くのをやめたんだ」

質問を用意していたというのは本当だ。アリバイの調査とかいろいろしたいこともあったし。

だがそれよりも重要なことを大が口走ったので、意味がなくなってしまったんだ。

 

「「重要なこと?」」

ほぼ同タイミングで明美と暁が問う。

斎藤どうしあって仲がよろしい事。

 

「ミステリ好きに悪いやつはいない」

 

「「......」」

 

答えは沈黙。

落胆し、呆れ、理解不能と言う表情を浮かべた斎藤二人、先に口を開いたのは明美だった。

 

「ミステリを読む人の方が......謎を起こしそうじゃない?」

 

そんなことを言っているうちに目的地へたどり着く。

 

盛大にため息をつく明美とまだぽかんとしている暁を無視し、少しうるさくも、大多数の人が出払っていそうな、担任もいないスカスカな、三組教室へ入った

 

「失礼しまーす」

 

なぜだろうか、図書委員長になってからほかの学年の教室に入室することになれた。

まあ単純に機会が増えたからとかだと思うが。

 

暁が持ってきた本"十角館の殺人"は、中央がナイフに突き刺されたような穴がざっくりと開いていた。

 

ここ一年三組教室は現場である可能性が一番高い。

"凶器"に(あたい)するナイフが何処かに落ちているといいんだが......。

斎藤暁、斎藤暁......あった。

斎藤暁と書かれたロッカーを見つけ、覗く。

 

「もともとここに本があったんだよな?」

 

そこには暁が借りているであろうもう一冊の本

"あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら"が真ん中くらいまでしおりが挟まった状態で置かれたいた。

恋愛小説か......色々読むんだなこいつ。

この隣に十角館の殺人があったはずだ、ちなみに今は図書室にある。終わったら取りに行こう。

 

「そうっす、一昨日までは普通に読んでたんすけどね。」

 

なるほどな......凶器は見つからなかった。

本が傷つけられた、この謎は絶対に解決しなければならないのだが。

 

「とくになにもないな」

 

まあ、仮説はたった。

仮説の立証のため、証拠集めと行くか......。これは、本を傷つけられたじゃすまなくなる可能性がある。

 

その時、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。

僕は、慌てて一旦図書室の方へ駆ける。

 

「終わりか......暁、十角館だけ借りるぞ!」

 

「あ、はいっす!」

 

「また明日図書室集合?うるさいからあんまり行きたくないなぁ......。」

 

「まあ図書室で頼む、明日は何曜日だっけ」

 

「木曜日っす!」

 

「了解、じゃあまた図書室で」

 

明美のため息が聞こえた気がしたが無視だ無視。

図書室じゃないといけないからな。

二人と別れ、一階から二階、三階へと駆けあがり図書室へと向かう

 

一度振り向いて。伝え忘れたことを伝える

 

「あ、明美!今日図書室の日だからよろしく!」

 

手を挙げて「じゃ」とその場を去った。

 

   ✻✻✻

 

図書委員長が去った後、少し立ち尽くし思考を、めぐらせた。今日は図書室の日か......。図書委員長、鶯谷隼人はよくたまに図書室で居残りをする、図書委員長の業務と言う建前で、読書時間を確保、謎がある時は基本的にその推理している。「家でやったら?」と聞いてみると、「家に変えたら親がうるさいんだ」と言っていた。一緒に帰る人もいないし、夏休み明けたくらいから基本下校は委員長(こいつ)と一緒。せっかくならと私もその建前を使って一緒に読書をしている。今日も放課後図書室に向かおうと思ったのだが......。

 

「先輩、今日一緒に帰らないっすか?」

暁がいきなり言ってきた。

 

「うーん......委員長に一報入れないとな」

 

「委員長?なんでそこで隼人さんがでてくるんすか?もしかして......」

 

「そういうんじゃないわよ、ただ最近一緒に帰ってるだけ、さっき言ってた通り、"図書室の日"だしね」

最近(半年ほぼ毎日)

 

「?、ふぅん......まあいいっす、じゃあまた帰りに!」

 

「うん、じゃあまたね」

 

 

放課後、図書室へ寄って委員長に暁と帰ることを言ったら、「ぼっちはいやだ」と言って三人で帰ろうということになったのだが、暁が拒否、委員長は「じゃあいいよ......今日は謎もあるし」と、渋々といった感じで、言い訳のような、捨て台詞のような感じで、俯き、目を閉じ、推理を始めた。

 

私と帰る<推理。なんだろうこの敗北感......。この人はたしか読書<推理だ。謎が無かったら無理やり来ていた気がする。

冬は日が落ちるのが早い。日差しがないというだけで、割と暗く憂鬱な気分にさせてくる。

下校時刻に余裕を持ち、ほぼ一番乗りで校門から出る。暁がとんでもない速さで呼びに来たためだ。

 

「先輩、一緒に帰るなんて久々っすね」

 

「そうねー、冬は部活ないしね」

 

暁と一緒に帰るのは、部活動があった冬休み前以来だ。

 

「あの事件難しいですね......」

 

「あーキルマダミス?」

 

「どういう略し方っすか!?」

 

私たちは吹奏楽部に所属している。

暁が、私のことを先輩と呼ぶのもそこが始まりだ。

 

あれはそう、夏休みの前の話。もうずいぶん、昔の話。

 

吹奏楽部は基本的に女が集まる、そんな中祐逸の男、斎藤暁。彼は、いじめを受けていた。

それを助けたのが私、斎藤明美.......とかならよかったんだけどね。

 

二、三年の先輩方に気に入られて、輪に入れて、入部数日にして、私は、暁をいじめ始めた。

 

命令されたことは、上履きを隠すとか、そういったありきたりなこと。

けどよく考えなくたって、中学校に入ったばかりで、いきなりそんないじめにあう。

絶対に辛く、悲しく、孤独を感じるものだっただろう。

 

でもやめるわけにはいかなかった、いじめの対象に、なりたくなかったから......せっかく入った輪から出たくなかったから。

 

問題は、先生に取り合ってもらって解決した。

私と、暁二人が呼ばれ開かれた、話し合いと言う名目の謝罪場。夏至(夏至)なのに背筋が凍るほどの冷たい空間を、時間を、そして暁からの......視線を、私は一瞬たりとも忘れたことはなかった。

脳にべっとりと張り付きはがれない、忘れられない。

 

冬の暗さのせいで心まで憂鬱になる......思い出したくないことを思い出してしまう。湿度が低いはずなのに、じめじめとした空気がまとわりつくようだ。

 

「先輩?どうしたんすか?そんな思いつめたような顔して」

 

暁は、問題が解決して、夏休みが終わってからすぐ私を"先輩"と呼び始めた。

たっぷりの皮肉がこもっているのは、なんとなくわかっている。

 

「いや、なんでもないよ?ほんと、何でもない」

 

「それならよかったっす!話したいことがあるんすよね」

何か話すために一緒に帰ろうなんて言い出したんだろう。今更何を......?

 

「キルマーダーミステリー。本の真ん中にナイフを突き刺したような穴、不可解な謎っすよね」

 

「それについての話......?」

今だからこその、昨日から始まった、まだ新鮮な話題だった。さっき私が思い出しただけで、相手も同じことを考えているとは限らない。問題が解決してからはなんとか仲良くやっているし(先輩呼びはされるたび心が痛むけど)、考え過ぎだったか。

にしても、暁、結構首突っ込むのね。まあ委員長に任せておけば何とかなると思うんだけど。

 

 

「あれ、犯人おいらっす」

 

 

え......?

 

 

暁の手には、銀色に輝く"凶器"が握られていた

 

「明美、お前がにこにこしてるのがむかつくんだよ......昨日言ったなお前『先輩っていうのヤメテ』って、何様だよお前、仲が直ったなんて勘違いしてるんじゃないだろうな?ふざけるな、お前のことは、今ここで、殺したいくらいには恨んでる」

 

私の判断は正しかったのだろうか、それはわからない。私がとった行動は、全力で道を引き返すことだった。

ここから走れば、すぐにたどり着けるだろう、まだ学校からそれほど離れてないはずだ。

 

「せっかくここまで来たんだ......」

 

迫る悪魔から全力で逃げる、火事場の馬鹿力と言うのだろうか、相手は男、運動部にいるわけでもなく走力に自信はないのだが、追い付かれることはなかった。

それとも、"投げた"せいで減速して追いつかれなかったのだろうか。

 

 

   ✻✻✻

 

 

「はあ......はあ......」

 

思考をまとめ、ある結論にたどり着いたところで。図書室の扉が開く。

 

「やあ、明美。もう最終下校時刻ギリッギリのはずだけど、どうしてここに?暁と帰ったんじゃないのか?」

 

僕は先生に言い訳してたまに図書室に居残りをする。家に帰ると親が勉強勉強ってどこかの塾講師くらいにはうるさい。委員長になった理由の5割ほどがそこにある......5割は盛った。

まあそんなことはいいのだ。なぜ明美がここに?

 

いや、もはやそんなことももう、いいのだ。あることに気づいてしまった僕は、一息ついて話し始める。

 

「僕はある結論にたどり着いた。犯人は斎藤暁だ」

「......うん」呼吸を整えたらしい明美が相槌をうつ。

 

「今はゆっくりと推理を発表している時間はなさそうだね......。よし、まだ読みかけだし、少しもったいないが下校しよう」

せっかくの図書室でゆっくりしようとしていたのに......まあいい。明美は頷いた。急いで玄関まで下る。

 

最終下校時刻2分過ぎ、校門をくぐる。

 

帰路につき、歩きながら、明美から話を聞く。

断片的だった情報が明確になっていき、推理が裏図けられていく。

 

「まあ、もうお前に皆まで言う必要はないな」

 

明美はコクリと、首のみで返事をする。

 

 

この事件は、"キルマーダーミステリー"は、簡単に言えば斎藤暁による復讐劇だった。

 

(ナゾ)で僕を明美から引きはがし(俺が勝手に離れた)、二人きりになった下校時に、明美を襲う。

 

粗く、単純。しかし僕を欺くには十分。

 

十角館の殺人に穴をあけたナイフ、あれで襲うつもりだったんだろう。

というか襲った、さっき明美の背中から血が出ていることに気づいた。でもナイフで突き刺さされているとか、そういうことではなく、投げつけられて当たった、というような感じだろう。

 

 

色々考えながら歩いていると、目の前に、少年の姿。

暁......。

 

 

  ✻✻✻

 

 

あれから数日がたった。

斉藤暁は、逮捕された。法律についての知識は微塵もないが、傷害罪と言ったところだろうか。そもそも暁は復讐する相手を間違えている......。吹奏楽部、去年の図書委員長が腐った実態を治したはずなんだが......なぜまたこんなことが......。

 

今回の(ナゾ)解いたところで何の意味もなかった。何もかもが粗々しい犯行だったが、僕は事件の舞台装置であり、成功のための立役者。名探偵役とは名ばかりで、用意された謎に操られ、謎を解いたところで何も解決しない。すべてが遅すぎた。

 

『図書室に謎あるべからず』......ね。こんなスローガンを残したって、僕は、あなたのような名探偵にはなれないんですよ、(からす)先輩。真相を解決し、根本から治す。すべてを解決する、先代図書委員長(めいたんてい)にはね......。

 

はぁ、事件の解決に僕が何かしたことはない、ちょっと明美をかばってナイフを刺されたくらいだ。

 

『図書室に謎あるべからず』、図書室外のことはやれって言われても無理だ。僕は名探偵じゃない、ただの、無力な、図書委員長(としょいいんちょう)だ......。




これってミステリじゃなくね...????
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