あ、今回閑話です
1.父と研究者の狭間
【……この子たちは?】
【アリウスの孤児ですよ】
ヴェルチュの質問に、ベアトリーチェは答える。
【マダム、貴方は、この子たちをどうしたいのかな】
【興味がありません、ですがその紫髪はロイヤルブラッドの血筋です】
【……なるほど、続けて】
【私は彼女を生贄に捧げます】
【なっ……!?】
ベアトリーチェの言葉に、ヴェルチュは言葉が出ないほどに絶句してしまう。
【そして、私はより崇高な存在となるのです。彼女の神秘と、キヴォトスの外の存在……『色彩』の力を借りて】
【……】
【より高位な存在になること――それを通じて全てを救うことが大人の義務なのです】
重々しい空気の中、ゆっくりとヴェルチュは口を開く。
【マダム……貴方のしようとしていることは紛れもなく悪だ、私が今まで出会ってきた人間の中でも、断然】
【ではヴェルチュ、あなたは私の計画を邪魔すると?】
ベアトリーチェの言葉に、ヴェルチュは首を振る。
【いや……貴方のやろうとしていることは悪だ、だけど私に興味がないわけじゃない】
【ほう?】
【貴方が崇高へと至った姿、そして貴方によって救済された世界……私はそれに興味がある。だからこそ、私は貴方のその行動に何も関与しない……と思っていたんだけどね。貴方に要望がある】
【なんでしょうか?】
ベアトリーチェが聞くと、ヴェルチュは一拍をおいて願う。
【この子たちの、世話をさせてほしい】
【……理由をお聞きしても?】
【単に、この子たちが私からして見るに堪えないからだよ。ああもちろん、貴方が儀式を行う際にはロイヤルブラッドは貴方に託す。といっても、私が貴方に託すのは少々心が痛むからね、貴方が誘拐するという形の方が私としてはありがたいのだけど……どうかな】
ヴェルチュの要望に、ベアトリーチェは考えるような素振りを見せる。
【その時になればロイヤルブラッドを託す……かつ、失敗すれば錠前サオリ――そこの青髪を託す。もちろん、あなたが直接、手渡しで託すこと。そして、もしこの子供たち、又はあなたが私と敵対すると言うのならば、あなたたちをこの私が直々に始末する。それであれば問題はありません。所詮、敵対されたとしても数で圧倒できるただの駒ですから】
ヴェルチュは腑が煮え繰り返るが、これはあくまでも自身で持ちかけた取引であり、自身が彼女の行いに対して興味を持っているのも事実である。故に、このようなことを言われても、話を切り出した自分自身が悪いとしか言いようがなかった。
【じゃあ、交渉成立……で、いいね】
【ええ、構いませんよ】
契約書を取り出したヴェルチュは、さらさらと契約内容を書き、相互に内容を確かめた後、ベアトリーチェからのサインをもらう。
【では、せいぜい気をつけて生活するように】
ベアトリーチェはそう言い残し、その場から離れる。残されたヴェルチュとアリウスの孤児――後のアリウススクワッド――の間に沈黙が走る。
ヴェルチュは孤児達に近づくと、皆を庇うように一人で前に出る者を見る。
【……へえ】
青髪の少女は、手を広げつつヴェルチュに銃口を向け一人で立ち向かっている。大切な人を守るためだろう、と推測したヴェルチュはそのままスクワッドに近づき、青髪の少女の目の前でかがみ込む。
【……私が相手になる】
そう、威嚇するように言う青髪の少女の頭を、ヴェルチュは優しく撫でた。
【っ⁉︎】
【大丈夫だよ】
ゆっくりと、赤子をあやすように。ヴェルチュは頭を撫でながら、言葉を続ける。
【私は、何があっても君たちの味方でいるから】
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「…………ベアトリーチェ……」
朝から嫌なものを見た、とでも言うような声色で、寝起きのヴェルチュはその名を呟く。
(
「おはよ、お父さん。朝ごはんできてるよ」
ヴェルチュの思考を遮るように、アツコが寝室の扉を開けて言う。
「おはようアツコ、今行くよ」
ヴェルチュは明るめにそう返すと、ベッドから降りてまた思考する。
(その時になったら、私は研究者としての自分と父としての自分、どちらを優先するだろうか)