【私は梔子ユメの死体をいただく、そしてその代償としてアビドスから去る。お互い、どうしてもそうしてほしいんだ。なら、交渉としては成立してるでしょ?それに、私の仮説が正しければ――】
彼は言っていた、実験が成功する可能性は低いこと、失敗すればもしかしたらキヴォトスが滅ぶかもしれないこと。だけど、その先の言葉は私にとってあまりにも魅力的過ぎた。
【――梔子ユメを、自由意志と記憶をもったまま復活できる】
結果私は彼に、ゲマトリアの悪い大人に
「……成功させなきゃ、許さないからね」
私は誰もいない空き教室で独り、空気に霧散し誰にも届かない声を溢す。
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ゴルコンダを連れて研究室に向かっているヴェルチュは、独り言のように言葉を発す。
「多分、もうすぐのはずなんだけど」
「確かに、梔子ユメさんの身体はミイラだったとは思えないほど生前の姿と瓜二つとなっていますが……死者蘇生など本当に成功するのでしょうか?」
「だーかーら、何度も言ってるけど、私の仮説が合ってれば成功するの。恐怖が強すぎると神秘が反転した後も恐怖が増幅されて、『色彩』を呼ぶ可能性はあるけど」
「そもそも、神秘を反転させる、というのはどうすれば?」
ゴルコンダの疑問に、先導しているヴェルチュはゴルコンダの方を向きながら説明する。
「残留した神秘と同量の恐怖を注入すればいいんだよ。そうすると互いを打ち消し合ってヘイローを持たないただの人間になる。生きてる生徒に注入する場合はその過程で生命力……魂って言えばわかりやすいかな。実際魂ではないんだけど、それが邪魔をして恐怖が上手く身体を廻らないんだよ。話を戻して、神秘と恐怖が互いを打ち消し合った後、元々ある神秘の量と同程度の恐怖があれば神秘が『反転している』状態になる、私の理論だとね。逆に言えば、その一定量を過ぎてしまえばいつ『色彩』や『無名の司祭』に見つかるかわからない。さらに逆に言えば、一定量より少ない量で注入を止めてしまうとその時点での恐怖しか廻らないし、そこから恐怖を追加で注入することもできない。液体で表すのなら、許される誤差は0.1cm^3くらいの量。それ以上もそれ以下も許されない正に背水の陣さ。スリル満点で面白いとは思わない?」
「それを面白いと思えるのは貴方だけかと」
「そう?」
そう対話をしながら、ヴェルチュは自身の研究室の扉を開ける。キィという音共に開かれたその扉の先には、
「あっ!」
「えっ?」
「おや」
バッシャーンと、液体が勢いよく流れる音と同時に、音源である倒れたガラスの容器から少しはみ出るように、頭上にひよこが三羽ほど飛んでいそうな裸体のユメがいた。
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「……なるほど、そういうことですか」
「ゴルコンダ、どうなってるかわかった?」
「ええ、ある程度は」
「あ、あの……ここは一体……?」
一旦ユメに服を着させたヴェルチュとゴルコンダ。ゴルコンダはユメのテクストがどう変化しているかを観察していた。部屋にはホルマリン特有の梅酒のような匂いが充満している。
「ごめん、その話は後で折り入って……それで、どう変化してるの?」
「私が昨日まで見ていた梔子ユメさんのテクストは、いつ、どこで使用されるのかはわかりませんが『舞台装置』でした。恐らく、物語を円滑に進めるためのものだったのでしょう。ですが今は……二つのテクストが混合しています」
「というと?かなり凄い現象?」
「ええ、私は今までテクストが混合した存在は見たことがありません……いつぞやか話しましたが、テクストは世界を織りなす記号、その解釈によって導き出されるものです。基本、一存在に一つしか含まれません。ですが梔子ユメさんには現在、『テラー』と『生徒』、二つのテクストが含まれています。実際、ユメさんのヘイローは他の生徒さんとは違い、少し黒みを帯びていてかつ、少量のヒビもありますし」
「……ホントだ」
「ですが今言った通り一存在に在るべきテクストは一つのみ、ですのでユメさんのテクストもいずれどちらかに収束するかと思われます」
「なるほどね、だったら定期的に診たほうがいい感じかな」
「ええ、そうした方が本人や周りの生徒さんのためにもなるでしょう」
「よし、ゴルコンダ。君アビドスに居座ってくれない?梔子ユメのテクストが安定するまででいいからさ」
「問題ありませんよ」
「じゃあそういうことで、黒服には私の方から連絡入れるから、荷物あればまとめといて。……で、梔子ユメ。おはよう、身体の調子はどう?」
「え、っと……?その、私は……」
ヴェルチュの質問に口籠るユメ。それを見て何かを察したのか、ヴェルチュは続いて放つ言葉を予測して返す。
「うん、君はアビドス砂漠で脱水症状に陥り亡くなった。その件は残念だったね」
「そ、そうですよね?で、でも私、今生きて――」
「そうだ、私は実験に成功し、君を生き返らせることに成功した。君が亡くなってから二年が経過してるよ」
「二年……ホシノちゃんは!?」
「落ち着いて、ホシノはアビドスで元気にしてるよ。多分、会いに行ったら後輩たちが見てられないくらい泣きじゃくると思うけど」
「え、ホシノちゃんに後輩がいるんですか!?」
「二年生が二人と、一年生も二人。三年生は相変わらずホシノ一人だけどね」
「……そう、なんだ……アビドスに新入「感慨に浸っているところ申し訳ないけれど。前提として私は君を自由にさせるわけにはいかない」
ヴェルチュのその言葉に、ユメは表情を曇らせる。
「なぜなら私は子供を騙す『悪い大人』の一人だからね。君がどう生き返ったのか、その理由が本当に私の仮説と合致しているかどうか調べないといけない――普段の私なら、そう言うだろうね」
「えっ?」
「君を安全かつ速やかにアビドスへ送り返した後、君はその後を自由に生きるんだ。アビドス高校へと戻りしっかり卒業するもよし。柴大将の元で働くのもよし。起業するのもいいだろうね。まあ、とにかく自由にするといいよ」
「……ほう?貴方らしくはないですね」
「自分の欲求よりも、子どもの幸せを優先したまでだよ」
ゴルコンダの言葉にそう返すヴェルチュの顔こそ感情は読み取れないが、その声色はかのシャーレの先生を彷彿とさせるほど優しく、そして決意に満ちたものだった。
「……それに、軟禁してたらホシノに殺されるかもだし」
「主体の理由それですよね」
「チガウヨ」
兎にも角にも、ヴェルチュとゴルコンダは、ユメを連れてアビドスへと向かうことにした……前に。
「ヴェルチュ、あなたに伝えるべきことがあります」
「……そうか」
最悪な知らせが、待ち構えていた。
次の投稿も大分後になるかと思われ
なぜなら大会があるのとリプレイ動画を作らんといけんからですね
1h分のセッションと2hちょっとのセッションが一つずつあるので
筆が乗れば書きます、経過報告とかは多分Twitterでやるので「いつ投稿すんねんコイツ」と思ったらTwitter覗いてください。アカウントはプロフに貼ってあります