――洋上都市、ザイレム。
独立傭兵「レイヴン」の声明を受け、ルビコン解放戦線全体が武装蜂起を開始。
地上では解放戦線とアーキバスの軍勢での衝突が発生。
そしてこの空の上では、独立傭兵レイヴン。そしてもう一人の男の姿があった。
「識別は…」
「V.IV...ラスティだと?」
要撃艦内部で、レーダーを用いて識別信号を確認した船員は吼える。
その声が聞こえたと同時に艦橋に杭が撃ち込まれ、船は黒煙を上げて高度を下げてゆく。
「悪いな。」
「私を捕まえられるのは、一人しか知らない。」
空気抵抗に耐え切れず、真っ二つに折れて堕ちてゆくそれをしかと見届けながら
男――ラスティはそう呟いた。
男の手によって陥落した要撃艦隊は延べ5隻。たった1機のACによって起こされた戦火だった。
「終わったか、戦友。」
軽い一息をつき、共同戦線を張る友である傭兵、レイヴンに通信を送る。
「こちらも、どうにか片付い――」
それと同時に周囲にスキャンを掛けていく。そのタイミングだった。
全身を鈍い赤で光らせるACが、その手に握るライフルを男に向けていたのは。
「…ッ」
瞬間、後ろに下がるようにブースターを吹かす。
先まで自分が居たその場を、赫が通り過ぎる。
――コーラルライフル。この攻撃は…
その光景を見ると同じくして、HUDから警告音が鳴り響いた。
目を見張る。ライフルを撃った例のACは、すでに目と鼻の先まで到達している。
ブレードによる薙ぎ払うような動きは、スローモーションのように揺れて見えた。
回避など、まったく間に合うはずもない。
――戦友。あとは託したぞ。
ただ心の内。男は呟き、そして目を閉じた。
――シッテムの箱へようこそ。■■先生。
「私の、ミスでした――」
「私の選択。そしてそれによって招かれた――」
君は、誰だ。ここは。
ひどい傷。解放戦線がすぐ近くにいる筈。すぐに手当てを…。
「何も思い出せなくても、おそらくあなたは同じ状況で――」
「――同じ選択をされるでしょうから。」
なぜ、なぜだ。どうして
「私が信じられる大人である、あなたになら、この捻れて歪んだ終着点とは、また別の結果を――。」
「大人としての、責任と義務。そして、その延長線上にあった、貴方の選択。」
ダメだ、帰ってくるんだ。『戦友』。君も。共に――
「それが意味する――」
「――心延えも。」
――空は、変わらず青かった。
ハッと、目を覚まし思わず上体を叩き起こす。
ひどい汗の感覚と、外界の冷える空気に思わず身震いをした。
あのACに撃墜されて、それからどうなった。
レイヴンは、そして私は――。
――ルビコン解放を、成すことができたのか。
ドアの外から足音が聞こえる。
コツコツというヒール靴特有の音から察するに、女性であろう。
「先生、既にお目覚めでしたか。」
扉を開きながら、長い髪をした少女は鋭い声でそう言った。
「ここは…ルビコンは、ザイレムはどうなった…?」
思わず少女に問いかける。だが少女は肩を竦め、薄く目を細めだけだった。
「…夢でも見られていたようですね。ちゃんと目を覚まして、集中してください。」
軽く眼鏡をかけなおしながら、ぴしゃりと断じる。
夢、だと。彼女は確かにそう言った。
あれが、ルビコンの解放が、夢であると。
「…君は、どこの人間だ?」
夢から醒める。つまりは、あの戦いにおいてアーキバスに軍配が上がったという事だろう。
であれば私はアーキバスの捕虜になり下がったか。
ヴェスパー部隊の人間が裏切ったとなれば、あのスネイルが黙っていようこともない。
であれば、ここは話に聞く再教育センターであろうか。
ヴェスパー部隊の内部で、何度か話題になりはしたが、実物を見た試しはない。
そうすれば、彼女の見覚えのない真っ白な制服にも納得がいく。
「…もう一度、改めて状況をお伝えします。」
ハッキリと、強い口調でそう言った。
今後の境遇についてであろうが、想像は難くない。
記憶処理、洗脳で脳を焼き、企業の傀儡として
解放戦線の仇となれと。
死刑宣告にも似たそれを、その口で行おうというのか。
思わず、彼女を見る目が鋭くなる。
「私は、七神リン。学園都市「キヴォトス」の連邦生徒会所属の幹部です。」
だが伝えられた情報は、予想と大きく異なった。
学園都市、という響きも、キヴォトスという地名も。
全く耳なじみのない言葉だったからだ。
「なんだって…?」
「そしてあなたはおそらく、私たちがここに呼び出した先生…のようですが。」
「…そう、か。」
「…先生…?」
思わず目を閉じ、薄く笑みを浮かべる。
「すまない、続けてくれ。」
彼女は、アーキバスの人間ではない。
つまり――あの戦いの勝者はまだアーキバスと決まったわけではない。
ましてやここは再教育センターでもない。
彼女がここにいるという事は、その証明に他ならなかった。
「こんな状況になってしまったこと、遺憾に思います。」
「そうだな…戦友に事を託し、空に上がる翼を失った。アレは私のミスだ。」
戦いについてゆけず、あの赤いACに墜とされた。おかげで企業の技術の髄をつぎ込んだ最先端のACを失った。
解放戦線にとっての大きな赤字は免れないだろう。
この状況は間違いなく自分のミス故の事態だった。
「…まあいいです。」
…てっきり、解放戦線に痛手を与えたことを非難されているものかと思っていたのだが
存外彼女からの反応は芳しくはない。
何の話をしているのか、と言っているような。
「今はとりあえず、私についてきてください。」
どこか投げやりなまでの反応に違和感を覚えるが。
しかしまだやることはある。
独立傭兵にやることといえばそういう事だろう。
未だ、争いは絶えていない。きっと。
「どうしても、先生にやっていただかなくてはならないことがあります。」
男は歩く。未だに聞きなじみのない『先生』という呼び名に違和感を覚えながら。