「やぁ、戦友。」   作:rantia92

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――D.U外郭地区。シャーレ部室付近。

 

聞きなれた爆発による突風と銃声。

黒煙と空薬莢が舞う。

戦場の空気はどの星でも変わらない。

ACで見る景色と地上で見る景色。

どうとも思うことはない。

ただ、命を削る感覚の前触れを感じる。

 

「なんで私たちが不良たちと戦わなきゃいけないの!」

 

先に自己紹介を済ませた唯一の彼女、早瀬ユウカは

戦場の空気に怯えることもなく吼える。

 

「『サンクトゥムタワー』の制御権を取り戻すためには、あの部室の奪還が必要ですから」

 

その後ろに控えた風紀の腕章の少女は、冷静にその言葉を切るように返した。

 

「それは聞いたけど…!私これでも、ウチの学校では生徒会に所属しててそれなりの扱いなんだけど!」

 

「なんで私が…!」

 

周囲警戒に注力する兵の傍らで、少女たちは気楽な遠足でもするようだった。

緊張感に、ひどくギャップがある。

いつ弾丸が飛んできてもおかしくは無いであろうに。

 

 

 

――瞬間、左斜め前方にあるビルの窓にライフルを構える少女の姿を捉える。

既にトリガーに指がかかっており、銃弾が発砲される手前であることはすぐに分かった。

…間に合わない。

しかし、ここは冷たい戦場。

大声をあげて注目を集めてしまった彼女にも非はある。

だが、それでも反射的に近い速度で私は声を荒げる。

 

「早瀬ッ!」

 

 

「はいぃッ!」

 

名を叫んだ当の彼女は、思わずピンと背筋を伸ばし立ち止まってしまう。

なんて馬鹿なことを。

戦場で立ち止まるなど、撃ってくださいと言うようなものだ。

無情にも弾丸は、既に撃ち込まれていた。

連発するライフルの音に目を閉じる。

判り切った結末を語ることは無い。

かつての同志が物言わぬ骸となる様相。

幻視したのはその未来だった。

 

「ったぁ!痛いってば!」

 

しかし、その未来は来なかった。

既に血を流し倒れている筈の少女は、痛い、とだけ言って

変わらず怒りを抑えられずにいる。

…何故?

その疑問が尽きるよりも前に、防御壁となるコンクリート素材のブロックに彼女を押し倒す。

再び、着弾。

 

「先生?!なにを」

 

「傷は…」

 

「へっ!?はい…私は大丈夫…というか近っ!近いです…!」

 

無事なはずがあるものか、彼女を撃ち抜く4発の弾丸を私は確かに見たのだ。

であるはずなのに、貫通どころか血液の後すら見られない。

まるで、ACにただの歩兵用ライフルを撃ちつけたように。

 

「大丈夫なのか…?」

 

あり得ない。そう思った傍ら

 

「先生はキヴォトスではないところから来た方ですので存じ上げないと思いますが…」

 

語りかけたのは腕章の少女だった。

曰く、ここキヴォトスでは銃弾は致命傷になり得ない。

その頭に浮いているアクセサリー――名をヘイローと言うそうだ――がある限り

弾丸、爆発物、刀剣類。その他諸々。

すべからく、彼女らに致命傷を与えることはないという。

まるでACに乗っている様な…それどころか、彼女ら自身がアーマードコアであるような。

なるほど。

この世界に人型兵器が台頭せず、歩兵同士で戦いを続けているわけだ。

状況把握は済ませた。寝ころんだ体制を立て直し、カバー越しに敵の位置を見る。

 

「あいつら、違法JHP弾を使って…」

 

「伏せてください、ユウカ。それに、ホローポイント弾は違法指定されてはいません」

 

「うちの学校ではこれから違法になるの! 傷跡が残るでしょ!」

 

「ホローポイントを食らって傷跡のみとはな…羨ましい体質だ。」

 

強化された身体と言えど、流石に強度には限界はある。

先の早瀬のように弾丸の雨に晒されるような状況に置かれれば

この身体は間違いなく絶命することになる。

 

「――今は先生が一緒なので、その点に気を付けましょう。」

「先生を守ることが最優先。あの建物の奪還はその次です」

 

「――ハスミさんの言う通りです。先生はキヴォトスではないところから来た方ですので……」

「私たちとは違って、弾丸一つでも生命の危機にさらされる可能性があります。その点ご注意を。」

 

「――分かってるわ。先生、先生は戦場に出ないでください!」

「私たちが戦っている間は、この安全な場所にいてくださいね!」

 

理にかなった冷静な判断と注意掛けに、思わず目を細める。

伊達に銃を持って生きているという訳ではないらしい。

しかしだ。

私にも何か、役割があるはずだ。

私にしかできない役が。

 

 

チラ、と周囲を覗き見る。

南東の自販機の影、ビルの3階の窓ガラス。

正面から突入を始める長いスカートを履いた生徒。

 

戦場とは、人間の本能が剝き出しになる場だ。

敵がどこかに潜んでいたとしても、なかなか気づくのは難しい。

例え、すぐに気づくような簡単な隠れ場所だとしても。

 

この場で、冷静でいられる立場は私しかいない。

 

…まさか、あのハンドラーの真似事を私がすることになるとは。

 

「全員、名は?」

 

「はい?」

 

「君たちの名だ。」

 

短く、そしてハッキリと伝える。

現状この場の人間で、知っている名は早瀬のみだ。

戦術指揮を通すには、判りやすい識別名がなければならない。

腕章の少女は『火宮チナツ』、長い髪をした少女は『羽川ハスミ』。

そして、レディーススーツの『早瀬ユウカ』。

そう名乗った。

 

「君たちの耐久力を信用して――ここからは共働と行こう。」

 

「私が指示を出す。それと、微力ながら援護もな。」

 

「戦術指揮をされるんですか!?」

 

「先に聞いていただろう?元兵士だとな。まさかこんな場で使うことになるとは思わなかったが」

 

「分かりました。これより先生の指揮に従います。」

 

「生徒が先生の言葉に従うのは自然な事、ですね。よろしくお願いします。」

 

「よし!…じゃあ、行ってみましょうか!」

 

「仕事を始めよう。…遅れるなよ。」

 

争いの火蓋が切って落とされる。

私の中で初めての経験である「死なない戦争」。

その言葉は、自分が思っていたよりも。

存外――心を透き通る気持ちにさせた。

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