「やぁ、戦友。」   作:rantia92

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「あれは――クルセイダーI型…学園の制式戦車と同じ型です。」

 

「不法に流通された物に違いないわ!PMCに流れた払い下げを不良たちが買い入れたのね…」

 

「――つまりガラクタってことだから壊しても構わないわ!行くわよ!」

 

最初は苦言を呈し戦闘に消極的でいた早瀬は

気づけば戦場の熱気に充てられて士気も上がり切っている様相だ。

真っ先に一番槍を買って出た。

彼女の二挺のカービンから、毎分850発の連射が火を噴き上げ。

そして後を追うように守月のアサルトカービン、羽川のライフルも猛攻を加える。

 

 

「手榴弾、投擲!」

 

 

マガジン内の弾丸を撃ち切ったらしい守月は

即座にサポートハンドで銃を支え

口でピンを引き抜いたフラグ・グレネードを戦車に投げつける。

大きな爆発音の後、幾つかの欠片が飛び散るのが見えた。

 

「…終わった?」

 

――ところで、戦車の恐ろしいところはまず砲弾だ。

同じ戦車を撃墜せんとするその砲は、建造物すら容易に砕く。

相手が人間となれば、語るるに足るであろう。

そして、戦車の恐ろしいのはそれだけではない。

元は対人目的ではなく、同じ砲を持つ戦車に対抗するために生み出された物。

当然。

――建造物すら砕く砲に耐える、堅牢な装甲も持ち合わせる。

 

迷彩塗装で仕上げられた重戦車が、爆煙の中から現れ。

轟音を一つ吐き出した。

 

腹の奥底が震えるほどの重低音と、排出される薬莢。

ドシン、と鳴り響く地震のようなそれ。

 

「ッ――流石に、グレネード一つで落ちるほど柔ではないか。」

 

目を細め、即座にカバーを探す守月を視認。

一番近い隠れ場所は、私の居る此処だ。

スライディングで滑り込んでくる彼女の体を抱き留めながら

必要なものを組み立ててゆく。

グレネードでは戦車の外壁は破れまい。

考えるのは内部への攻撃。

操縦席にグレネードを押し込めれば、内部の人間を一網打尽にできる筈だ。

 

「守月」

 

「なんでしょう、先生!」

 

「投擲兵器は後何が残っている?」

 

「手榴弾が2つ、閃光弾が一つです。」

 

…なるほど。

安心した。私には運が味方している。

それだけあれば、作戦を実行に移すことができる。

 

「少しそれを拝借してもいいかね、守月。」

 

「構いませんが…なにをするおつもりで」

 

「なに、少し妙案をな。」

 

「君たちには、あの戦車を引き付けていて貰いたい。」

 

「さっきまでと変わらない。極力被弾に気を付けて、銃撃を重ねてくれればいい。」

 

「しかし、それではじり貧では?」

 

「そうなる前にカタを付けるさ。」

 

言い切ると同時、男は弾除けにしていたコンクリートブロックを飛び跳ね

銃弾飛び交う戦場に躍り出る。

 

 

――強化人間はACに乗り込めるよう、幾つかの処理を受ける。

一つは身体能力の向上。戦闘機など相手にならないほどの

速度を持ってブーストを繰り返すACは常人には耐えきれない重力を発生させる。

それから身を守るための措置として骨格類の金属化、ナノマシンの注入を行う。

 

 

そしてもう一つは。

高速戦闘の多いAC戦に置いて重要視される反射神経。その向上。

脊髄から脳にかけて取りつけられた強化コンピューター。

それにより、我々強化人間は――

 

――己の意思で自在に  脳内物質を引き起こす事ができる。

 

 

アドレナリンの過剰分泌で、再び鋭く暴走した神経が

景色をスローモーションに見せる。

此方を向く戦車砲台と宙を舞う閃光手榴弾が、ちょうど同じ位置に重なる。

 

 

「外しは、しない。」

 

 

ハンドガンから、一発の9㎜弾が発射され

先に投げ込んだ閃光手榴弾に吸い込まれるように消えてゆく。

――光れ…!

 

目を瞑り、耳を塞ぐ。

大きな破裂音と、瞼の裏すら白く濁らせる光が残る。

 

だが、仕事は終わりではない。

沈黙した戦車の足元から飛び乗り

操縦席をこじ開ける。

 

「な、何なんだお前はッ!」

 

鉄の板を剥がした先には、強く目を見開く少女の姿があった。

その怯えも当然だろう。

戦車をたった5人の歩兵で潰すなど。コミックでもやらないような無茶苦茶だ。

だが――

 

「――悪いな。」

 

此方も、そう簡単にやられるわけにはいかない。

 

手榴弾を投げ込み、戦車の爆発に巻き込まれないようコンクリートを壁に伏せる。

あっという間の内に戦車は爆破炎上を起こし、炎の海に飲まれた。

なんとか...なったか。かなりの賭けになったが。

 

「なんだか…戦闘が、普段よりやりやすかった気がします」

 

「やっぱりそうよね…?」

 

「先生のおかげで、普段よりずっと戦いやすかったです」

 

「指揮をする者が居れば、戦闘員はそれだけ戦闘以外に意識を割かなくていい」

 

「とは言え、君たちの技術も見事だった。私も見習わなくてはな。」

 

「あれだけの大立ち回りをして、まだ戦闘に伸ばす余地が…さすが大人…」

 

コール音。七神からだ。

 

連邦生徒会の戦力により、『シャーレ』の部室の奪還を完了。

どうやら件の首謀者は顔を見せなかったらしく

短時間で制圧を完了したらしい。

 

「「私も、じきに到着する予定です。地下でお会いしましょう。」」

 

ここからは連邦生徒会の仕事、か。

 

「我々はどうしますか?」

 

「10分間ほど、ここで待機してもらいたい。それまでに連絡がなければ突入を。」

 

あそこまで詳細を秘匿するという事は、恐らく情報を漏らせない何かがあるのだろう。

開示するのであれば、せめて私が倒れてからでも遅くはない筈だ。

 

「大丈夫なのですか?」

 

「問題はないさ。単独での潜入は初めてではないのでね。」

 

「そう、ですか…了解しました、お気をつけて。」

 

ここからは、私の仕事だ。

これは直感だが…見つからなかった例の狐面の首謀者は

恐らくこれから向かう地下にいる。

気配は極力消して向かうのが適切だろう。

 

自動ドアを開き、神経質に音を出さないよう気を張り続ける。

薄暗い地下へつながる鉄骨階段を降り続ければ

幾つかのファイル文書に、PCデスク。

詳細は不明瞭だが、データが纏めて表示された複数の液晶。

そして――タブレット端末を手にする狐の面の姿。

 

「――これはいったい何なのか…これでは壊そうにも…」

 

手元に集中していることからこちらの存在には気づかれていないと踏んだ。

――先手を打つべきか。しかし拳銃で狙い撃つには無理がある距離感。

相手の命中力を知っている以上、余計なヘマはできない。

ならばいっそ――

鉄骨階段の手すりを飛び降り

ガンッ、と鉄で出来た地面に力強く着地する。

その地点は、丁度例の彼女の真後ろ。

 

「ッ!?」

 

急いでライフルを構えようとする彼女のその動きよりも

既に片手に持った拳銃で膝の裏に2発撃ちこむ私の方が早い。

急激に力を加えられた関節部は、主人の言う事を聞かずに崩れ落ち――

倒れこむ直前で抱き留めた。

 

「悪くない反応速度だった。しかし、まだ経験が足りないな。」

 

彼女の顔に掛けられた面に手を掛ける。

 

「…」

 

なぜか彼女は返事もせずされるがままだ。

もっと何かしら反応があってもいいだろうに。

ゆっくりとその仮面を剥がせば――

なぜか赤面する少女が居た。

…何故?

さっきまでの戦いは何だったのだ、と思わず気が抜ける。

 

「あぁ、その…ええと…し、失礼しました!」

 

思うよりも余程強い力で剥がした仮面を掴み取り

目で追えるかすら怪しいほどの速度で走り抜け逃げてゆく首謀者。

思わぬ情報の洪水に、私の頭脳は思案を放棄した。

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