「やぁ、戦友。」   作:rantia92

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「お待たせいたしました、先生…先生?」

 

「…いや、大丈夫だ。此方もなんとか無事だ。」

 

本当に無事だっただろうかなどと

半ば現実逃避気味に自問自答を繰り返しながら言葉を返す。

兎角、血を流すことなく目的の品を手に入れる事ができたのは

素直に喜べる結果だ。

 

「これが、件の連邦生徒会長の忘れ形見。で合っていたか?」

 

「そうです。幸い傷一つなく無事ですね。」

 

「無事…」

 

「何か?」

 

「…すまない、続けてくれ。」

 

「?」

 

挙動不審なこちらの様子を伺いながらも

七神は解説を続ける。

 

 

――通称『シッテムの箱』。

見てくれこそただの端末だが

製造した企業、OS、システム構造。

動作の仕組みすべてが闇に包まれており

連邦生徒会長は、この端末は先生の所有物であり

先生が到着次第返還するよう要求した。

そういう流れだそうだ。

 

「私たちには起動すらできなかった代物ですが…

先生なら起動できる、のでしょうか。」

 

「それなりに機械には精通しているつもりだがな

どうなるかは神のみぞ知る所さ」

 

「邪魔にならないよう、離れています。」

 

「あぁ。」

 

端末の外周をなぞる。

液晶にはただ一面の黒があり、自分の顔を反射して映している。

 

充電用のポートが下部に一つ。その隣には、違和感のある接続モジュール。

強化人間がACや機械類にアプローチを行う際に使用する物だ。

ACや企業のレーダー類など、基本は武装関連の物で使われる技術。

ただのタブレット端末にこれを使うことはない筈。

いや、それよりもだ。

連邦生徒会長は、これを先生の――私の所有物であると言った。

当然、この端末は私の記憶にない見知らぬ物。

生徒会長は、いったいこれをどこで。

 

画面に触れれば、その端末はすぐに反応を起こした。

パスワードの要求。私には覚えがない物。開くことは叶わない。

であれば、アプローチを変更する。

機械化された腕から、ずるりとコードを引き延ばす。

要領はデスクコンピューターにハックするときと変わりない。

目を閉じ切り、ログインを試みる。

 

 

 

――意識が解ける。

 

 

 

 

 

Connecting to the ”Crate of Shittim”.(”シッテムの箱”に接続中。)

 

私のミスでした。

 

…Send your password (パスワードを入力ください。)

 

ですが、私の信じられる『大人』の貴方なら

 

We desire, a seven laments.(我々は望む、七つの嘆きを。)

 

この『捩れて歪んだ終着点』とはまた別の結果を

 

We remember, the old rules of Jericho.(我々は覚えている、ジェリコの古則を。)

 

――そこへ繋がる選択肢は、きっと見つかるはずです。

 

 

 

 

 

視界が、透明な景色に染まる。すべてを手放すような感覚。

穏やかな、それでいてどこか恐ろしい気分。

 

 

 

 

 

 

眩い光に目を細め、そして――

見覚えのない、崩壊した教壇に立っていた。

地面を浸す透明な水。

蒼の、美しい空。

山のように乱雑に積まれた学校机。

呆気にとられた。ここは。

 

「…カステラにはぁ…イチゴミルクより…バナナミルクの方が…」

 

眼前、置かれた机の上でその少女は眠っていた。

見覚えのない制服、それに顔だった。

今まで会った生徒の子供より、二回りほど幼く見える。

 

「君は…」

 

ガタ、と足を引っ掛けた椅子が少し大きな音を鳴らす。

 

「ッ…」

 

「んん…もう…ありゃ?」

 

顔を合わせ、見つめあう無言の数秒。

どう出るべきかと様子を伺う。

 

「あれ、あれれ?」

 

ぱっ、と目を見開き、この教室の空のような青の目を覗かせる。

 

「この空間に入ってきたってことは…先生!?」

 

「…既に知られている様で、なによりだ。」

 

「連邦生徒会長からのお達しで外部から来た。ラスティだ。君は?」

 

「あ、そ、そうですね…自己紹介から!私はARONA。」

 

「この『シッテムの箱』に常駐するシステム管理者でありメインOS。」

 

「『先生』のアシストをする秘書でもあります!」

 

「ARONA…アロナか、なるほど。」

 

人間にしか見えず、まったくの違和感でしかないが

彼女はこのタブレットの中に存在するAIだと言う。

自律的に駆動するAIと言えば、対アイスワームの際にRaDが火力支援によこしていたACを思い出す。

あの機体も、存外器用に話をしていた印象だ。

かつて所属していたヴェスパー部隊のスネイル相手に微妙な反応を返していたことを思い出す。

それと似たようなものだろうか。

しかしいくらRaDでも、AIに人間体のボディを着せるなどという噂は聞いたこともないが。

 

「やっと会うことが出来ましたね。先生のことをずーっと、待っていました!」

 

「あぁ。互いにいい休息を摂れていたようだしな」

 

「あぅ…モチロンたまに居眠りしたこともあったりしましたけれど…」

 

「冗談だ、心強い仲間が出来てつい舞い上がってしまってね。」

 

「これから互いに上手くやっていこう。よろしく頼む。」

 

「…!はい、よろしくお願いします!」

 

「まだ体のバージョンが低い状態でして、特に声帯周りの調整が――」

 

やはり。AIというには随分と感情的だ。

此方が軽く揺する程度の言葉で動揺する、外見相応な対応をとる様子がある。

そこまで作り上げる技術は、企業たちになかったはずだ。

...技術というよりかはここまで高度な知能にする必要性の話にもなってくるだろうが。

兎にも角にも、技術力として企業に負けるとも劣らない、光る何かがあるのは確かだろう。

これほどの技術力を以てして企業はおろか、RaDにすら属さず作り上げた誰か。

 

その人物は、一体何を想い。

 

私にこれを託したのだろう。

 

「では、形式上ではありますが生体認証を行います!」

 

ふと、声に正気に戻される。

 

「さあ。私の指に、先生の指をあててください。」

 

彼女に言われた通り、指先を宛がう。

 

「――まるで」

 

「――指切りして、約束するみたいでしょう?」

 

――先生?

 

無邪気に悪戯っぽく笑う彼女の顔に、『知らない誰か』を幻視した

 

「これで、生体認証は完了です。」

 

「…先生?」

 

「あぁ…少し、考え事をね。」

 

「そうでしたか。何かご用でもありましたか?」

 

「そう、それだ。」

 

「サンクトゥムタワーという建造物の制御が失われたそうだ」

 

「連邦生徒会が言うには、君がその鍵を握っていると。」

 

「そのことでしたかぁ、それならこちらからなんとかできますよ。」

 

「頼めるか?」

 

「勿論、少し時間をください」

 

そう言うと、彼女は瞳を閉じて数秒。

その場に立ち尽くす。

 

「ネットワーク接続、コードを変更。」

 

「完了、再構築後、再度起動。」

 

「admin権限取得、完了。」

 

「できました。今、ここキヴォトスは私達の制御下にあります!」

 

「終わったのか」

 

クラッキングに詳しい訳ではないが

キーボードすら使わずにたったの10秒ほどで完了と叫ばれれば

明らかに異常な速度なのは素人目にも判る。

これほどの技術力が先の生徒に気軽に奪われていたと考えると血の気が引く。

 

「勿論です。管理権限は先生にあります。どうするのも先生の自由です!」

 

「であれば、管理権限は連邦生徒会に返還してくれ。」

 

「わかりました。でも、大丈夫ですか?連邦生徒会に渡しちゃって。」

 

「どのみち、私には無用の長物さ。過ぎた権威は、却って足枷になる。」

 

「そうですか…そう言うことなら、連邦生徒会に返しちゃいます。」

 

「理解が早くて助かるよ。この恩は何らかな形で返すとしよう。」

 

「あ、なら甘いお菓子がいいです。先生のお墨付きの!」

 

「菓子類が?…意外だな。」

 

「お菓子はいつでも美味しいですから!」

 

「そうだな…特別なのを用意しておこう。」

 

では、と挨拶をひとつして接続信号を切断する。

 

意識がまた遠くなり、透き通る青空は消え去り

 

夢のような空間から、現実の薄暗い塔にまた帰還した。

 

 

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