「やぁ、戦友。」   作:rantia92

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砂に塗れた道路の上。

誰もいないゴーストタウンと化した

孤独を感じさせる街。

ただ、大きく響く単気筒エンジンの鼓動だけが鳴り響く。

聞き慣れないその音に騎乗していたロードバイクを音も無く立ち止め

砂狼シロコは頭の上にある耳をぴくりと唸らせた。

 

「…ヘルメット団のバギー、じゃない。」

 

聴き覚えのある音に彼女は敵を警戒するが

彼女はすぐに否定する。

普段アビドス高校を襲いにくるヘルメット団。

彼女らは基本的に複数人で動く。

バギーだったと仮定して搭乗人数はたった2人。

多くても3人が先の山だ。

襲撃だとすれば複数のエンジン音が聴こえてくる筈。

 

「…何?」

 

違和感を感じ、眉をひとつ曲げる。

はるか後方からサイドカーを着けたオートバイが

一台駆けつけるのを彼女は見た。

頭を見れば、どのヘルメット団にも見当たらない真っ黒の物。

真横のサイドカーには、山の様に盛られた弾丸類。

それにいつもの少女ではない、明らかなる等身の高さ。

 

「ん…新手。」

 

砂狼シロコは手が早い少女である。

彼女は躊躇いなく愛銃である「White fang 465」を装填し

即座にターゲットであるバイクに照準を定めた。

 

 

 

 

 

 

事の発端はアビドス廃校対策委員会、なる部活からの手紙だ。

アロナから不穏な手紙として差し出され、確認を迫られた。

そう、手紙である。

タブレットが存在し、教師と生徒間での授業ではなく

BDでの映像授業が発達している非常に現代的なこの都市に於いて

手紙というローテクな手法を取っての連絡。

秘密裏の重要な情報を扱う手法としては現代にも残っており

解放戦線でも重要拠点の襲撃の際や、用命を預かる時は紙の書類を多用した。

故に、きな臭い戦闘の依頼などを警戒したものだが――

実際の手紙はと言えば、有り体に言えば支援物資の要求だった。

連邦生徒会という組織から見れば、ただ物資を供給するヘリを送り届ければ

それで終わりの簡単な依頼だった。初めての依頼としては全くそれでいいだろう。

 

その手紙を読みながら、アロナは言う。

 

「昔は大きな自治区でしたけど、気候の変化で厳しい状況になっていると聞きます。」

 

「街のど真ん中で道に迷って遭難する人がいたくらいだとか!」

 

「そうか…」

 

 

 

 

――地域の暴力組織に狙われているようです。

 

――このままでは、暴力組織に学校を占拠されてしまいそうな状況です。

 

――先生、どうか私たちの力になっていただけませんか。

 

 

 

 

手紙に書かれた内容、その状況が。

 

 

 

 

「――それでも。」

 

「きっと、彼女らにとっては――愛すべき街、なのだろうな。」

 

 

――嫌に、ルビコン3(愛した故郷)と重なって見えた。

 

 

 

アビドス砂漠へ向かわないという選択肢は

どのみち最初から無かった物と言えるだろう。

 

 

 

元はヘリを用いた輸送、それに私も搭乗するつもりだったのだが

生徒会長の捜索、並びに輸送などで出ずっぱりの連邦生徒会は

ヘリや大型の貨物車は大概常に使用しているとのことだった。

どの道機体が空いていようと

この世界のヘリやトラックの操縦に関してはズブの素人もいい所だ。

このままでは、今にも占領されるアビドス高校へ向かうことができない。

助けを呼ぶアビドスの生徒の声を無視することは最早できる筈もない。

かつての私を、ルビコンを救った男の如く。

私もアビドスへ早く向かわなくてはならない。

待っていろ、我が戦友。

私も君と同じ武勲をこの胸に讃えようではないか。

諦めて徒歩すら考えたが、輸送物資を考えると得策は間違いなく車両だ。

頭を抱えるかというその手前。

連邦生徒会の車庫の隅で埃を被る一台のオートバイを見た。

 

「あれは…」

 

古いキャブレター方式。単気筒エンジン。

振動が大きい、音も大きい、その癖速度は出ない。

しかもサイドカーで物を積むものだから積み荷も少ない。

生徒会の貨物輸送部員から言われたい放題され整備もされていなかった

このまま朽ち果てるのを待つだけの悲しい一台。

それがこのバイクだった。

しかし、単気筒バイクには最高の良点がある。

 

構造が単純化され部品点数が少ない。

 

速度は出ないがその分壊れづらい。

 

そして何より――どの世界でも、バイクの乗り方は同じだ。

 

つまり、砂漠においての恐怖である乗り物の破損の危険。

そして操縦法の懸念がない。

 

正にこの場で最高の一台と言って差し支えなかった。

 

キックペダルを思い切り踏み下ろし、その鼓動にも感じられるエンジンの音を聞いた時

男は思わず感動し、涙を流すかという感情の波に打ち震えた。

「あのオンボロまだ動いたんだ。」という声が

鼓動に交じって聞こえたのも記憶に新しいが。

 

嗚呼、この寂しい一角に捨て置かれた悲しき機械よ。

整備もされずただ野晒しにされ続け

ただの1人でこのラスティを待ち続けた者よ。

永らく、永らく待たせたな。今日この日より、君も私の戦友だ。

共に戦う友なのだ。

 

ほろりと1人歓喜に身を置く男と

せっせかサイドカーに救援物資を積む貨物部員は

さぞ対照的に見えたことだろう。

 

その場を面白がった貨物部員がSNSに動画を載せ

「先生はバイク好き」という言葉がトレンド一位を獲得するのは

あと数日後の事だった。

 

閉話休憩。

 

そして現在。

連邦生徒会きっての切り札、連邦捜査部先生である男は――

銃を向けられていた。

バイクの操縦で塞がっている故に片手をあげ、あくまで抵抗の意思がないことを見せる。

現地の先住民の警戒と、その誤解を解くことは

ルビコン全域に広がる解放戦線の中でごまんと経験した事態である。

この程度で怯える男ではない。

そして何より――この機体に一つでも穴が開けば、帰還すら程遠くなる。

冷静に、たった一言で良い。

 

「此方に攻撃の意思はない。」

 

「…誰?」

 

「連邦捜査部、ラスティだ。先生、と言えば伝わるか。」

 

「ん、先生だったんだ。襲撃に来た新手かと思った。」

 

彼女は先生、と聞くなり即座に銃を下す。

評判とは存外恐ろしいもので、着任してたった一日しか経ていないというのに

既にこの信頼性だ。SNSにも載ったと聞いているので、それもあるのかもしれない。

 

「だろうな、その銃を見れば判る。」

 

「先生がここにいるってことは、届いたんだ。アヤネの手紙。」

 

その言葉を聞けば、すぐに分かる。アビドス高校から受けた手紙の差出人。

奥空アヤネ。アビドス高校在学の1年生。だったか。

 

「君は――アビドス高等学校の?」

 

「うん、アビドス2年、砂狼シロコ。よろしく。」

 

「砂狼…狼、か。」

 

狼。群れで狩りを行い秩序を重んじる肉食動物。

幼い頃に触れた動物の図鑑で、最も私に強く映ったのはその動物だった。

狼たちはアイビスの火の惨劇によりその数を絶滅手前まで大きく減らした。

かつて群れを組んだ狼は各々で狩りをする、所謂一匹狼の形をよくとったそうだ。

誰とも群れない、1人の狩り。

狼をACのエンブレムに用いたのはその在り方が、AC同士の戦いにひどく似ていると感じたからだった。

故に、己を表現する「顔」として狼を選んだ。

 

「狼に思い入れでもある?」

 

「少しね。そこらも含めて、アビドスで話すとしよう。道案内を頼めるか?」

 

「ん、私も丁度向かうところだったから。」

 

「それはよかった。そのバイクも一緒に積んでいこう。」

 

「じゃあ…私は徒歩?」

 

「丁度ここに、1人寂しく目的地に向かうのはとても心細い男がいる。」

 

「そしてバイクは二人乗りだ。」

 

「ん、それはすごい偶然。」

 

「そうだ、神様というのは存外すぐ近くにいるのかもしれない。」

 

「後ろと荷物に丁度空きがあるぞ、乗ってくれ。」

 

軽くシートを空けるように前へ寄れば

砂狼はその後ろに恐る恐るといった調子で乗り上げる。

 

「…」

 

「どうかしたか?」

 

振り向けば、腕をぶらぶらとさせる砂狼。

振り落とされる危険があるので、脇下から腕を寄せるなりして貰いたいものだが――

やはり、まだ敵である可能性は捨てきらないか。

私であってもそうするだろう。

なるほど、さすが暴力組織に抵抗を続けるアビドス高校だ。

警戒は怠らない、ということか。

 

「何、振り落とすような真似はしないさ。信じてくれ。」

 

「ん…いや、今その…」

 

…やはり通らないか。これは――

 

「…今、サイクリングで、その」

 

「汗が、すごいから…」

 

「…そういうことだったか。すまない、配慮が足りなかったな。」

 

「――なら私の肩に手を添えてくれ」

 

「ん」

 

「バイクは風が強いからね、汗もすぐに乾くさ。」

 

ギアを引き上げながらスロットルを強く回す。

足元でエンジンの鼓動が強く木霊し、砂嵐を噴き上げ力強く前進し始める。

 

――前言を撤回する。私が考えていたよりは、先生という肩書は強い効果を持つものなのかもしれない。

 




ブルアカ成分的にネタをやろうの回。
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